第5話 嫌疑と布石
「貴女から風の精霊王様の魔力の残滓を発見したわ。これは一体どう言う事かしら?」
静かに張り詰めた雰囲気が流れる私達の間を静かに吹き抜ける。
ケレブリエルさんの長い銀の髪は風に揺れ、警戒心が剥き出しになったその表情は硬く、逸れる事無い翡翠の眼は私を捉えている。そしてその手に握られた杖は淡い光を湛えながら狙いを定めた。
「残滓・・・?」
つまりは魔力の痕跡かな?
確かに強力な結界を通り抜け、人一人をこんな場所に転移させる程の魔力なら残っていても可笑しくないのかも知れない。
しかし、軽率に自分が何者なのか告げるのは得策じゃない気がする。
「え?そんなもの何処に?」
「そう・・・あくまで話さないつもりなのね」
その言葉に困惑する私の目の前でケレブリエルさんの杖を中心に風が渦巻く。
命の危機を感じ、私は咄嗟に口を開き素早く詠唱する。まだ、自信が無いけれど・・・
「仇なす者より光を奪うが為に放たれよ!【ホワイトダジネス】」
眩い光が放たれ、辺りが一瞬で真っ白になる。
「・・・っ?!」
自国に居た頃、ルミア先生の勧めで教会の図書室から一冊の本を借りた。
これはその本から学んだ物の一つで、相手の動きを封じる目眩ましの呪文だ。
動きを封じた瞬間を狙い、緊張で縺れそうな足で素早く近くの森へと駆け出す。
うっそうとした森は限られた者のみが許された土地の為か、周辺の妖精の姿が多い。
「アメリアと言ったかしら?素直に出てくれば手荒な真似はしないわ」
どうやら此方が近くに居るのは感じ取っているようだが、位置までは把握していないようね。
しかし、先程から妖精たちのクスクスと笑う声が耳につく。
「どうしたのかしら?早くダリル達の許に戻らないと・・・」
しかし、行の様に私の呟きに答える声は無い。風の気まぐれと言うものなのか・・・
お互いに声を殺す事により静寂の時間が続くものの、時間がただ悪戯に流れて行く事に焦りを感じていた。
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「はぁ・・・埒が明かないわね。【ナスティーウィンド】」
ケレブリエルさんが詠唱をする事無く呪文を唱えるのが離れた場所から聞こえる。
無詠唱?!
何が起こるのかは不明だが、動き出そうと腰を上げるが、何故か妖精が目の前に立ち塞がる。
「どいて貰える?見付かっちゃうわ」
「ニガサナイ ダメ」
「え?!」
風が私の周りを旋回する。
「そこに居たのね」
しかしそれは、涼やかな声と共に治まる。
一瞬、何故か現れたケレブリエルさんに驚きつつも私は何が起きたか思案する。まさか索敵魔法・・・!
「勝手に庭に入ってしまった事は謝罪します。私は貴女にどうしてもお聞きしたい事があって来たんです」
「言い訳は良いわ・・・・貴方はどこの者なの?誰の差し金なのか吐きなさい」
もしかして、結晶獣の事でもめている国の間者だと疑われている?
「え?ええ?何の事ですか?私はただの旅行者ですよ」
「とぼけるのは止めて貰えるかしら?白状しないなら捕らえさせて貰うわ・・・【ウィンドオブ・・・】」
「やられっぱな訳にはいかない」と思い呪文を唱える隙をついて、剣を抜き振り上げ杖を薙ぎ払う。
そして動きを止める事無く剣の切っ先をケレブリエルさんに向ける。
「私はこの国の間者じゃありません。どうか落ち着いて下さい」
「・・・・それは人にものを頼む態度じゃないわね。お馬鹿さん」
ケレブリエルさんは怯える事無く淡々と語ると、余裕の笑みを浮かべ此方に手を掲げる。
何か覚えのある言葉が混じった様な気がして驚くと、彼女の手に風が集まり始める。
「【ウィンドショット】」
渦巻く風が彼女の手の平で球状になり腹部に直撃し、私の体は後方へと吹き飛ぶ。
「ぐっ・・・!杖が無いのに・・」
「油断したわね・・・杖や剣等は制御や付与する為の媒体に過ぎないわ。さあ、言いなさい。貴女は何者なの?」
「・・・カーライル王国から来た旅行者です」
国も休みを貰って旅行をしているのも強ち嘘ではないから問題は無い筈だ。
「貴女も頑固ね・・・・。まあ、間者じゃないのなら話を聞いてあげるわ。私に着いて来て」
そう言うとケレブリエルさんは手招きの後、踵を返して歩き出す。
先程まで緊迫した戦闘を繰り広げたにも関わらず急変した態度に困惑や躊躇をする。
しかし、ここはついて行くしかない。
「そうそう、この森の妖精達は私の味方だから、隙を見て危害を加えようなんて気を起こさない事ね」
念を押されて辺りを見回すと妖精達は周囲を飛び回り、まるで私を見張って居るような様子だった。
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そして今、森の中のお屋敷に呼ばれてお茶を勧められている。
しかし、どうにも腑に落ちずに勧められたお茶を見つめながら私は首を捻った。
もやもやするのは吹き飛ばされた時にできた怪我の痛みのせいではない、ケレブリエルさんの態度の急変だ。
「安心なさい毒なんて入っていやしないわ」
「なんで・・・なんで間者じゃないと判断したんですか?」
思い切って疑問に思った事を声に出す。大人しく着いて来てなんだけれど、正直言ってまだ何か有るんじゃないかと警戒している気持ちがある。
「・・・あー、そんなこと。私の言っていたのは、魔法省の間者よ。そんな所に所属できる者が魔法の基礎に対する知識の一部が欠如しているなんて有り得ないわ」
そう言うとケレブリエルさんは口元を隠しながらあざけ笑うと、手の平に小さな旋風を起こす。
それを見て納得したが、それと同時に恥ずかしさが込み上げてきた。
「・・・・なるほど。それはお恥ずかしい所を見せてしまいましたね」
理由が判明し、腑に落ちた所でお茶をすする。ふわりと鼻を抜けるハーブの香りのお蔭か、気持ちがゆっくりと静まって行く。
「・・・・気分を害してしまったかしら?」
「いえ、嫌疑がはれたので安心しました。ここで、改めて質問しても良いですか?」
話す機会もできた訳だし、本来の目的も果たさなくては此処に来た意味が無い。
「そうね、笑ってしまったお詫びもあるし構わないわ」
「ありがとうございます。失礼ですが仲間と一緒に貴女が魔法省の方と揉めている所を見かけてしまって・・・その魔結晶に頼り過ぎるとはどういう事なんですか?」
私のその問いかけにケレブリエルさんの表情が険しくなる。
「結晶獣は魔物を模造させる為にある物を素体として使用しているの。その素体の正体は世界樹の根よ」
「・・・・それが頼り過ぎる事にどうやって繋がるんです?」
「まあ、話は最後までよ。他国との競争の為、世界樹の恩恵より強力な物をと結晶獣の研究が活発になった。それによって世界樹の存在意義が摩り替り、根が大量に伐られた影響によって徐々に世界樹が枯れていってしまっているの」
ケレブリエルさんは目の前の机の上で拳を握り苦悶の表情を浮かべる。
「それは・・・」
「事実なんですか?」と聞こうと口を開きかけた所で外からコーリングの鳴き声が響く。
「フェリクスさん・・・?」
ケレブリエルさんは私が森に潜伏していた時と同じ呪文を唱える。杖を肩より高く持ち立ちあげると彼女を中心に風の渦が波紋のように広がっていった。
「結界の外が騒がしくなってるわね・・・。どうやら、貴女にお迎えが来ているようよ。さて、質問には答えたのだし用は済んだかしら?」
そう言うと彼女は私の返事を待たずに扉を開く。騒がしいってまさか、ダリルが・・・
案内を受けて辿り着いた先では見えない壁に向かって暴言を吐きながら蹴りや拳で結界を攻撃をする
幼馴染の姿が。
「なんか・・・うちの仲間がすいません」
「ふふふっ・・・大丈夫よ。この結界は魔法以外では壊れやしないから」
ケレブリエルさんは愉快そうに笑う。
「あの・・・もう一度ここに来ても良いですか?」
予想外だったのか、私の言葉にケレブリエルさんは一瞬だけ目を丸くした。
「ふ・・・ふふっ・・貴方がもっとこの国を知り真実が見えたのなら構わないわよ」
その言葉を聞いた後、風が草や葉を巻き込み吹き荒れ視界が塞がれる。次に目を開けた時にはダリルとフェリクスさんの驚愕の声に迎えられ、森の入り口に立っていた




