第4話 風の思し召し
商人のライラさんから情報を仕入れた後、宿を見つけた私達は少し遅めの昼食をとっていた。
「うっ・・うっ・・・」
「えっ?何なにどうした?お兄さん、泣かせていないよね?」
「あー・・・大方、ソレが原因だろ」
混乱するフェリクスさんを余所にダリルは私の目の前の皿の中身を指さす。
「このパイ料理、ミートパイと書いてあるのにお肉じゃなくて豆の加工品だったわ・・・」
「馬鹿くせぇ・・・ここは菜食主義が多いいんだから仕方ないだろ」
「そうなんだけどさぁ」
外国に来てまで我儘だと思うけれど、無いとなると無性に食べたくなる。
「・・・チッ」
ダリルは面倒くさそうに舌打ちをすると、荷物袋の中を探り出す。
「えっ?」
「・・・・これやるよ」
ダリルはそう小声で言うと小さな包みをそっと私の前に差し出す。
こっそり膝の上で中身を確認すると、それは干し肉だった。
「ありがとう・・!」
「・・・何時までも店ん中で泣かれたら他の奴に迷惑だからな」
ダリルは頬杖を突き、私から目を逸らす。
「はぁ、アメリアちゃんに甘いなお前。港でアメリアちゃんに聞いた通りだ」
フェリクスさんはニヤニヤと面白いものを見つけたように薄ら笑いを浮かべる。
「あ゛っ?それはどう言う・・・」
「そっ、それより此れからどうする?結晶獣の事を調べる?ケレブリエルの事も気になるけれど」
流石にダリルを過保護呼ばわりしていた事はばれるのは不味い。
「うーん、お兄さんの目的としては前者かな・・・?そもそもお前達、観光目的じゃないのか?」
「実は後学の為に他国の知識を学んでその・・・勉強しようと思ってですねっ」
言い訳としてこれは苦しいかな?
「・・・ふぅん」
何か引っかかる様な感じだけれども一応、納得してくれた様に見える。
「まっ、そう言う事だ。旅の商人から仕入れた情報だけじゃ物足りねぇし、行くなら日が暮れる前に行こうぜ」
そう言うとダリルはチラチラと視線を投げかけてくる。どうやら自分で決める様に促してるらしい。
「うーん、ライラさんの情報だと唯の懐古主義者の様に聞こえるけれど、私は何で彼女が結晶獣について反感を持つのかもう少し詳しく知りたいのよね」
彼女は風の精霊王の事を知っているみたいだし。
「・・・だとよ。此処でやっとお別れだな」
ダリルはフェリクスさんを見ながら嬉しそうにニヤリと笑う。
「よし、それじゃあオレもアメリアちゃんに付き合うよ」
「良いんですか?お仕事は?」
「つれないなぁ・・・お兄さんは何時でもアメリアちゃんの味方なのに・・・」
そう言うとフェリクスさんは私の頬に手を伸ばす。
しかし、その手は無情にもダリルに掴まれ、フェリクスさんの悲鳴と骨が軋む様な音が店に響くのだった。
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街でケレブリエルの情報を聞いて回ると、如何にか王都の外れに住んでいると言う噂が耳に入った。
しかし幾ら情報を集めていると良い噂はほぼ無く、漸く見つけた馬車も近くまでと言う条件で了承し乗せて貰った。
馬車を降り歩き出した所でフェリクスさんの許に風の妖精がやってきた。
「悪い、少し待っていて貰えるかな?」
そう言うとフェリクスさんは私達から離れ、エアリアルに何やら呟き懐から飴の様なものを取り出し渡すと、エアリアルを見送りいそいそと此方に戻って来た。
「お仕事ですか?」
「まっ、そんなとこ。でも、詮索は駄目だからね」
そう話すフェリクスさんの肩にはライラさんから買った鳥型の結晶獣が乗っている。
元々、その結晶獣はコーリングと言う鳥型の魔物で、その声で大量の仲間を呼び一斉に突き敵を退散させると言う雑魚でありながらやっかいなやつだ。用途は恐らく道に迷った時などの対策だと思われる。
「なあ、どうにか情報収集でケレブリエルの居何処は解ったけどよ、そのケレブなんとかって奴って結晶獣を毛嫌いしていなかったか?」
「ケレブリエルだ。レディの名前ぐらい覚えろよデコ助」
「うっせぇな・・・。お前こそ人の名前をきちんと呼べるように親に躾けて貰えよ」
「お前さぁ・・・」
またもや私の目の前で何時もの小競り合いが始まりそうなのを察して、二人の間に入って引き剥がす。
「二人とも大声出して騒がないで!」
「・・・チッ」
「ごめんっ!ついつい・・・」
如何にか沈静化させる事に安堵し私は胸を撫で下ろす。
フェリクスさんはコーリングの魔結晶が納められていた木箱から小さな紙を取り出し読むと、額の魔結晶に手を置き呪文を唱える。
「【プレスタンネス】」
呪文を唱えると結晶獣の体が発光し姿が不定形になる。それは徐々に木の根が這う様な形で魔結晶を包み込み、見る間に手のひらに収まる程の大きさになった。呪文の意味はエルフ語で変化や変身と言う意味だそうだ。
この魔結晶を包む根の様な部分が素体なのかな?
王都の外れまで歩いて行くと、街中の喧騒が嘘のように静かで小さな森が広がっていた。
「うっし!行くか!」
意気揚々と森に入っていったダリルだったが、何故か私達の後ろから出てきた。
「・・・え?」
「どう言う事だ??」
二人で混乱していると最中、フェリクスさんが森に入ると、ダリルと同様の事象が起きた。
「うーん、これはどうやら結界が張られていたみたいだね」
「それじゃあ、騒ぎを起こしてケレブリエルさんをおびき寄せるとかどう?」
私がふざけて森の入り口で腕を振り回すと一陣の風が私の体を包む。それと同時に頭の中に陽気な少年の様な声が響く。
『彼女に会いたいのかい?オイラが連れてってあげるよ』
しかし、その声には聞き覚えがある気がする。そう、これは複数の声が飛び交う精霊界で確かに聞いた。
「風の・・・精霊王様?!」
しかし応えは返って来る事は無く、風が渦巻き私の声を掻き消しただけだった。
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甘い香りが鼻腔に広がる、気が付くとふわふわと何か柔らかな物の上に寝ている事に気が付いた。
「お目覚めかしら?」
涼やかな女性の声が耳に入る。
恐々、瞳を開けると目に映るのは長い銀の髪と、その合間から見える翡翠の瞳。その面立ちには何故か既視感を感じる。辺りを見回すけれと二人が居ない、自分の周りを眺めると花壇に座っている事が判った。
「あの・・・ここは・・?」
「物を尋ねる前に自分の名前を名乗るべきよ。不法侵入者さん」
彼女は不信感むき出しの冷やかな視線を私に向ける。
「突然に訪問をしてごめんなさいっ。私の名前はアメリア・クロックウェルと申します」
「・・・私はケレブリエル・ゴルウェン。此処は私達一族のみが入る事の許される庭園の筈よ。どうやって此処に入ったのかしら?」
「それは私にも判らないんです。森に入ろうとしたら風に巻き込まれて、気が付いたら此処に」
「俄かに信じ難いわね。しかし、あの結界を抜ける事が出来るとはね・・・。試させて貰おうかしら・・?」
彼女の手に握られた精霊をモチーフにした杖の先に風が沸き起こり私に突きつけられる。
私は素早く剣の柄に手を伸ばす。
「貴女・・・剣士なの?」
杖は相も変わらず此方に向けられているが、彼女の瞳から先程の戦意が褪せて行くのが感じる。
「はい・・・」
「・・・結界を壊さずに侵入するなんて・・・これはどう言う事かしら?」
問いに答えるとケレブリエルさんは首を捻りつつ訝しげな顔をする。その杖は微動だにしない。
近くにまで来ると、杖ではなくケレブリエルさんの手の平が私の頭上にかざされる。
「これは・・・まさか・・」
冷たい目線が徐々に驚きの色へと変わる。
「どうされたのですか?」
あまりの表情の変化の早さに私は思わず困惑をする。
「貴女から風の精霊王様の魔力の残滓を発見したわ。これは一体どう言う事かしら?」
ケレブリエルさんは杖を降ろし、腕を組み私に静かに問いかけた。




