第3話 過る騒めきと風の乙女
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「貴方達は魔結晶に頼り過ぎて風の精霊王様への感謝を忘れてるわっ!」
私達の目の前で叫ぶ少女の声が穏やかで美しい街の空気を壊し、周囲から騒めく声と彼女に憐れみとも呆れとも取れる視線が注がれた。
銀の髪を風になびかせる彼女の翡翠の瞳が向く先には金の髪を後ろへと撫でつけ眼鏡をかけた、気難しそうな淡い水色の瞳のエルフと、その傍らには真面目そうな焦げ茶の髪のエルフが立っていた。
「頼り過ぎる・・・?何故そう言う考えに至ったかは不明ですが、我々はこの国の中心である世界樹に宿るかの精霊王様の事を思わない日などありませんよ」
そう言うと金髪のエルフは眼鏡に指を掛けながら怪訝そうな表情を浮かべつつも、穏やかな口調で少女を諭すように喋りかけている。
「何故、風の精霊王様の依代である世界樹が弱っている事に気づかないのですか?精霊祭を再開してください!」
「それこそ愚の骨頂だ、根拠は?君のそれは妄想に過ぎない。よく見るが良い、感謝の祈りは満ちている。その証拠に葉は青々と茂り生命に満ち溢れているじゃないか。君のくだらない戯言で国民を不安に陥れるのはよしたまえ」
金髪のエルフは心底あきれると言った表情を浮かべると溜息をつく。
「証拠なら・・・!」
「黙りなさい、これ以上はイズレンディア様の足を引き留める事は許されませんよ!」
青年は少女を睨みつけるとイズレンディアと呼ばれたエルフの間に割って入った。
「・・・・クルニア行くぞ国賓が御待ちだ」
イズレンディアは少女を背に踵を返すとクルニアが慌てて後を追いかけ、二人はその場を何もないように去って行った。
その後には悔しそうに唇をかみしめる少女の姿があった。
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「なんだったの・・・?」
あまりの騒ぎに呆然とその場に立っていると、私の近くに立っていたドワーフの男性が小声で声を掛けて来た。
「あんた、旅人だろ?こっちに来ていきなり変な物を見せて済まないな、あの女はケレブリエルって言う風の精霊王の祭殿に仕えて来た一族の末裔で変わり者さ。結晶獣が注目されてばかりいるもんだからイチャモンを付けたいんだろ。風の精霊王への感謝が足りねぇだなんだって、魔法省の連中を見つけては毎度絡んでるんだ」
ドワーフの男性は豊かな赤毛の髭を片手で撫でながらやれやれと言った表情で銀髪の少女、ケレブリエルを見ている。
「なるほど・・・複雑なのね」
「結晶獣と風の精霊王か・・・」
隣で聞き耳を立てていたらしい。フェリクスさんは何時になく真面目な表情をして考え込んでいる。
「ふん、お前にしては珍しいな。てっきり、女の味方をすると思ったのによ」
「あのな、お前はオレの事を勘違いしていないか?オレは全女性の味方だが、年上は対象外なのっ。それにエルフは長命の種族だぞ!見た目は可愛かったり綺麗でも百歳超え・・・」
「わーった!恥ずかしいから路上で騒ぐなよ」
ダリルは熱弁するフェリクスさんを見て心底嫌な顔をしながら耳を塞ぎ吐き捨てる様に喋る。
私が先程まで人々の視線を集めていた場所に目をやるが、ケレブリエルの姿は無く、街は再び賑わいを取り戻していた。
「あ・・れ?」
「ふむ、御三方は結晶獣には興味はおありかな?あるなら儂の店に案内するよ」
先程、ケレブリエルの事を教えてくれたドワーフの男性が自分の店を指さす。
「それはありがたいですね」
「待ってください、そんな祖が蛆の男より魔法に詳しいエルフに聞いた方が賢明ですよ」
ドワーフの男性の店の向かい側の店のエルフの男性が間に割りいって来た。
「ってめ!よくもデマを基にそんな汚ねぇ言葉使いやがって!!」
エルフの店主の蔑視の言葉に堪忍ならなんと言わんばかりにドワーフの男は詰め寄り、二人は罵り合いを始めてしまった。
そんな二人を見てどうしたものかと考えていると、スカートの裾を引っ張るような感覚がして足元を見ると身に覚えのある顔が。
「あの~、お困りのようですね。如何なされました?」
スカートを引っ張ったのは茶色の髪に緑の瞳の小人族の商人、門の前で会ったライラ・ヴォルナネンだった。
「見ての通りだよ」
ダリルが目の前の惨状を指さす。
「あ~、ドワーフとエルフは友好条約のおかげで関係が良くなったけれどね・・・。元が犬猿の仲って言うのが原因かもしてませんね~。そうだ!あたしの露店を見に来てくださぁい」
ライラは此方の返事を待たずにぐいぐいと私の手を引き、広場の隅へと案内をする。
するとライラはあれよあれよと布を広げ、商品を並べると私達と商品を交互に見ている。
「すまないね、レディ。それじゃ、コレでどうかな?」
そう言うとフェリクスさんは小さな装飾のついた魔結晶を手に取り、代金をライラに手渡す。
「こうやって皆さんと話す機会ができたのも、エルフとドワーフのおかげですね~。まさに漁夫の利・・・じゃなく幸運です~」
「おい、何か変な事を言ったぞ・・・」
ダリルが眉間に皺をよせ、怪訝そうな顔で首をひねる。
「それじゃ、質問をして良いですか?」
「どうぞどうぞ!と言いたい所なんだけどね~」
ライラは再びこちらをチラチラ。
「それじゃあ、これを貰おうかな」
一本のリボンを手に取り、代金の銅貨を八枚をライラに握らせる。
それを見てダリルには足元を見らてるなと小声で呟いていたが、情報はなるだけ多く仕入れておいて損は無いと思う。後で情報を整理してから考えてみよう。
「妖精のリボンとはお目が高いですね~。これで幾らでも洗いざらい喋っりますよ!」
ライラはリボンをくるりと自分の指先に巻く、すると結び目から上が消えた。
「おおっ!これは使えるね」
フェリクスさんは目を輝かせながら興味津々と言った様子で其の可愛らしいリボンを見ている。
何に使えると言ってるのかは顔を見れば明白ね。
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「それでは、解る範囲で構いませんので結晶獣の事とケレブリエルの事を教えてくださいますか?」
「うーん、先ずは話しやすい方からかな。えーと?」
「あっ、すいません。名前を名乗って居ませんでしたね。私はアメリア、不機嫌そうなのがダリルで軽薄そうなのがフェリクスさんです」
「え、アメリアちゃん。オレの事そう言う風に見てたの?!」
フェリクスさんは軽薄と言われたのがショックなのか落ち込んだような顔をした。
むしろどう思われてると思っていたのかと言いたい。
ライラは其れを見てクスリと笑うと、思案顔をしながらゆっくりと口を開いた。
「先ずはケレブリエルですが。ご両親思いで信心深く懐古主義なところがあり何かと反発しているようですが魔法の扱いは可成りの物だとか。確か、他国で教師をしている叔母の影響で魔法使いになったと言うぐらいですね」
ライラはヤレヤレと言った様子で肩を竦めながら両手の平を上にしてあげる。
「なるほど、だから公の場であんな事を・・・」
「あ、それと彼女が絡んでいたのは魔法省の魔道具管理部のイズレンディア・ラエブ部長と彼を崇拝していると言っても過言じゃない腰巾着の技術屋のクルニア・プレスタですねっ」
「っと言う事は結晶獣の開発の関係者か・・・」
ダリルも新しい技術の結晶獣には興味があるようで、ライラの言葉に幾度となく頷いていた。
「でっ、その結晶獣については?商人の君は何処までご存じなのかな?」
フェリクスさんは屈みこみながら、ライラの顔を微笑みながら覗き込んだ。
「結晶獣は魔結晶から出来ているのはご存知ですね?あれは今まで魔力の結晶化したものと思われていましたが、真実は生命の核である事が判明したのです」
「核・・・?」
「なんと言うか・・・。所謂、その魔物の中の生命の情報・・・つまりは遺伝子が含まれた物質が体に蓄積し結晶化した物らしいです」
「つまりは、オレ達はその核から魔力を注ぐことによって情報を引き出していたわけか・・・」
予想外の事実に驚きつつも、フェリクスさんの意見に私達二人は頷いた。
「まあそこから世界中の魔技術師を呼び寄せ、魔結晶と魔力により形状が変化する素体を組み合わせてで完成したものが結晶獣らしいです。すみません、これ以上は多方面に顔が利くあたし達でも・・・」
「そりゃあそうね、そんな大事な物じゃ国家機密あつかいでも可笑しくないわ」
「なあ、それって人型や強力な魔物の物とかないのか?」
ダリルのその言葉にライラの顔が凍り付く。
「それは、他国との戦争の道具として利用される危険が拭えないので禁止されている筈です。今回も其れに関する法整備を話し合い中だとか・・・こんなところですね~」
「ライラさん、貴重な情報をありがとうございました」
「いえいえ~。それではどうか今後もご贔屓に!」
我が国の錚々たる人々がラスガレンに集まっている事に合点はいったけれども、法整備が定まっていない不安定な現状に、一抹の不安が私の胸を過った。




