第29話 追憶の啓示
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「大丈・・・夫です」
見せられた映像は余りにも衝撃的であり、小さくなった自分の目が映す光景は生々しく恐怖と共に私の頭に焼き付いていた。
「誰か!誰か彼女を休ませる場所を貸してくれないか?!」
慌てる様なフェリクスさんの声が響く。
「ふむ・・・では休める場所を用意させよう」
それに答えるかの様にゴトフリー司祭がシスターに支持を出す声がする。
意識がはっきりとして落ち着いた私の目に映ったのは、見知らぬ部屋。
「なんか前にもこんなことがあった気がするなぁ・・・」
少し頭を巡らせると思いだす。こうやって寝かされる事になったのは儀式以来だ・・・
ふと、フェリクスさんに心配をかけてしまった事を謝ろうと姿を探すが見当たらない。
「帰っちゃったかな?」
「彼ならシスターに水を貰いに行っているわ」
独り言のつもりで言った言葉に返事が返ってきた事に驚き、声の方向へと身を起こし振り向く。
窓から降り注ぐ光を反射し輝く白髪に琥珀色の瞳に美しくしなやかな体躯を持つ美しい女性が立っていた。その背には三対の白い翼がたたまれていた。
私はその姿に覚えがある、祝福の儀の時、そして意識を失った私を引き戻してくれた存在。
「ウァ・・・ウァル様!」
「こうやって顔を合わせるのは久しいわね精霊の剣。わたくしの啓示・・・受け取ってもらえたようね」
「啓示・・・アレはやはりウァル様が。アレは何なんですか?失せ物とはいったい?」
幻か現実か解らない不安を掻き立てる夢と以前から疑問に思っていた言葉を投げかける。
「あれは貴方自身の失われた記憶と心の欠片、わたくしからの貴方を導く初め道しるべ。これは貴女の過去であり紛れもない事実、それを基に何を信じ許し共に歩むのか考えなさい。答えは其処にあるわ」
返事を聞いて困惑する私を眺めながらウァル様は不敵な笑みを浮かべる。
「・・・・そう簡単にはお答え頂ける事ではないと言う事ですね」
女性と二人の少年と襲撃される馬車で繰り広げられた光景、漠然とした疑問が私の胸に残る。
初めの道しるべと言う事は恐らく、これが最後の啓示じゃないと思う。
「・・・承知しました」
現状で理解している範囲では記憶と過去が関係していると言う事だけ。
「あら、物分かりが良いのね・・・」
「じっくり考えてみようかと思いまして」
「そう、そんな物分かりの良い貴女に情報をあげるわ。妖精の盾は貴女の存在に気が付いているわ」
「えっ・・・?!」
予想外の言葉に私は思わず驚愕する。
そこに突然、鼻歌に交じりの足音が廊下から聞こえてくる。
「さて、ここまでかしらね。まあ、こうやって会うのも当分ないと思うわ。世界を維持しながら、化身を送る為に魔力を割くのも難しいもの」
よく見るとウァル様の爪先が僅かに透けている。
「貴女は既に光に認められているわ。証を集めなさい・・・そこからが本当の貴女の役目よ」
ウァル様はそう言うと、壁に立てかけた私の剣を一瞥する。
光に剣・・・
「まさか・・・!」
証ってクラウ・ソラスの事?!
確かめようと再び口を開くが、扉をノックする音に遮られてしまう。
「アメリアちゃん、入って良いかな?水を貰って来たよ」
フェリクスさんの呑気な声を聞いて、ウァル様の方を向くといつの間にか姿は無く、まるで女神の姿など最初から存在しなかったかのようにカーテンが静かに風に揺れていた。
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扉を開けて招き入れたフェリクスさんを見て驚いた。
「水を貰いに行っただけじゃないんですか?」
「いやー、そうだったんだけどね」
フェリクスさんの顔には真っ赤な手形とひっかき傷。
本当に懲りないな・・・この人。
受け取った水を一口飲むと道具袋から一粒つまみ出す。
「回復キューブをどうぞ。助けてくれたお礼です」
「お、優しいねアメリアちゃん。捨てる神あれば拾う神ありってやつかな?」
フェリクスさんの握ろうとした手を片手で払いのけ、空いている手に回復キューブを握らせる。
「それじゃあ、気分も良くなりましたし。ゴトフリー司祭にお礼に行きましょう」
私はベッドから立ち上がると扉の前に立ちフェリクスさんと向き合った。
「残念、口に入れてくれると思ったのにな」
フェリクスさんは如何にも残念そうにしながら立ち上がると、回復キューブを口に放り込む。
「・・・・倒れた後、幼い姿の私が乗った馬車が襲われる夢を見たんです」
その一瞬、私が見たフェリクスさんの表情に影が差したような気がした。
「・・・怖い夢を見たんだね。よし!それを払拭する為に今夜、お兄さんがアメリアちゃんの夢に遊びに行ってあげようっ」
勘違いだった。何時ものフェリクスさんだわ。
「お断りしますっ!」
「はははっ、照屋さんめっ!」
「違います!」
如何にかこうにかその後は留守をしていたゴトフリー司祭へとシスターに言伝を頼み、私達は教会を後にした。
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ふと、見上げると空は茜色に濃紺が差していた。
何か忘れている気がするような・・・。
何だか背中を冷たい汗が流れるのを感じる。
「授業をさぼって散策たぁ・・良い身分だな」
「あはは、なんか前にも同じようなこと言われた気が・・・」
振り向くと路上で腕を組み仁王立ちをするダリルの姿があった。
「よお、デコ助久しぶりだな。ごめんな、アメリアちゃんはオレとデートだったんだ」
フェリクスさんはダリルを見ながらニヤニヤと悪い顔をしながら私の肩を抱き寄せてきた。
「なっ!」
「・・・・・そーかよ。べっ、別に俺はアメリアが誰とデ・・デートしてたって気にしてなんか・・・いないからな。ただ、欠席するなら連絡しろと言いたいだけだ勘違いすんな」
「ぷぷっ、動揺してる」
フェリクスさんは面白い玩具をみつけて愉快でしょうがないと言う様な表情をする。
私はダリルの方へ気が逸れている隙を利用してフェリクスさんの腕をすり抜けた。
「誤解よ、デートなんてしていないわ。ごめんね、確かに事前に妖精に頼んでおくべきだったわ」
「なら、いい・・・。ともかくルミア先生に連絡しろよ。後、これから俺はどっちの授業もでねぇから」
「えっ、何で?」
「この前、故郷に連絡入れただろ?俺は師匠に連絡して王都で修業をする事にしたからな」
「へー、ウォルフガングさんが来るんだ」
「まっ、そー言う事だ。三週間後の出発日の前には戻る予定だから頼むな」
「へぇ、お前ら王都を出るのか。何処に行く予定なんだ?」
「お前に教える義務はない」
ちゃっかり会話に入ってきたフェリクスさんにダリルの拳が振り上げられる。
「やめてっ!お前の拳は凶器だから!」
「・・・教えてあげたっていいじゃない」
「アメリアちゃん優しいっ!どっかの凶暴デコ野郎とは大違いだわっ」
「んだと、こらぁッ!!」
再びいがみ合う二人に私の堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしなさい!街中で喧嘩なんて危険だわっ」
二人の間に剣を振り下ろし制止する。
「「お前(君)が一番危険だ!!」」
二人に尤もな事を言われてしまった。でも、声が被るなんて意外とこの二人は相性が良いんじゃないかしら?
フェリクスさんにランドルさんの手伝いで北西の国へ行く事と簡単に話す。
するとフェリクスさんも近々、仕事で国外へ渡航するとの話があると教えてくれた。
その後、ルミア先生に連絡をとると、凄まじい量のお説教を受ける事になってしまった。
明日からの事を考えると頭が痛いけれど魔法も剣も出発に向けて更に磨く必要がある。
二人と別れ、一人で歩き見上げる夜空に一筋の流れ星が降り注いだ。
次回(30話)で第一章の最終話です。物語は第二章へと向かう予定が有ります。




