第30話 世界へと追い風が吹く
※すいません、今回はかなりの長文になっております。
出発まで後わずか。私は修行に出たダリルに代わり、ヒッポグリフ達の世話をしている。
初めは子犬程度だった二頭も今では私の腰の高さ程の体高になるまで成長した。しかし、まだまだ甘えたいらしく私から離れようとしない。
「アルだけじゃなくスレイまで確り懐いちゃったなぁ。ダリルが帰ったら嫉妬を焼かれるわね~」
などと呟いていると、すっかり仲良くなった門番のアーロンさんが宿舎から出てくるのを見かけた。
「こんにちは、アーロンさん。交代ですか?」
「こんにちは、お嬢。随分、アルもスレイもなつきやしたね」
「でも、離れてくれなくって困っているんですよ~」
「ハハハッ、羨ましい悩みですねー」
「ねっ、悪戯妖精の粉はどうやったら手に入るのかしら?」
「あの粉ですか・・・」
アーロンさんは困ったような申し訳なさそうな表情を浮かべながら、頬を人差し指でかじる。
「あ、難しいなら構いませんよ?」
「いや、手に入らない事は無いんですが・・・。入手方法が特殊なもんで市場にあまり出回らないんですよ。その条件が悪戯妖精に百回以上騙されることなもんで」
「百回以上!?」
私はそんな間抜けな人が居るのかと思うのと同時に貴重な物を使わせてしまった事に血の気が引く。
「まあ、この間のは貴重種を守る為の必要経費ってヤツでさぁ。お嬢達はなんも悪くありゃしませんよ。そもそも妖精の力を自由に借りるなんか、奴等のお頭にでも気に入られる他ないですよ」
「そうですか・・・。でも、何か悪い気がしますね」
「・・・お嬢は真面目ですね。こいつらも育ってきたし、もともと知能が高い生き物の筈です、主が命令すれば大丈夫だと思いやすよ」
言われた通りにしてみようとアル達をみると、不思議そうに小首をかしげながら此方を見つめてくる。
「アル・・・アルスヴィズ、スレイプニル。私が戻るまで厩舎で待っていなさい」
瞳を逸らさずに見つめあい、姿勢を崩さずにいるとアルスヴィズは軽く頭を垂れ、厩舎へと踵を返すと戸惑っているスレイプニルを突き厩舎へ帰って行った。
「凄い!本当だわ・・・!」
「なぁに、知り合いの調教師の受け売りでさぁ」
アーロンさんは愛用の戦斧の柄を肩にかけ、後ろ手にひらひらと手を振り立ち去って行った。
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私とて一人になったからと言って何もせずに唯、気を抜いて過ごしていたわけじゃない。
最初こそ長々と詠唱を唱え、魔法を発動していたけれども、ルミア先生の集中指導で短縮詠唱の段階までこぎつけていた。
勿論、魔導士を目指している訳じゃないので、魔法と剣を活かした魔力の活用法に焦点を当てている。
「アメリアは片手武器を主にしているから、肉体強化の魔法なんてどうかしら?聖職者ほどは無理でも、身に着ければ強力よ」
アカデミーの昼休みを活用してベアトリクスに剣の稽古をつけて貰っている。何度か話している内に彼女の父親は王国騎士団の所属でしかも団長を務めているらしい。
ちなみにレックスはと言うと「親の仕事には関心が無い」と言い、教えてはくれなかった。
「なるほど・・ねっ!」
ベアトリクスの話を聞きながら彼女の振り下ろした剣を薙ぎ払う。
「魔法はマナを魔核で魔力に変換し精霊の力を借りる精霊魔法だけじゃなく、変換した魔力を体の一部に集束させ活性化する強化魔法があるんだったな」
それを聞いていたレックスは分厚い参考書を一瞥しそう呟く。
「意外ね・・・妖精以外にも関心があったのね」
「・・・失敬な。当たり前だ・・・ろ?」
レックスは怒りの勢いで椅子から立ち上がろうとした所で動きを止める。
すると怒りの色は彼の顔から失せ、その目は輝き出す。
「見てくれ二人とも。、植物妖精の一種のピリウィギンだ。どうやら蜂に乗って花の育成をしに来たらしい」
「レックス・・・・わたし、傍に居るのが辛くなっちゃうよ」
ベアトリクスは興奮気味に語るレックスに憐れむような目線を送っている。
「なんだと・・僕を可哀想なものを見る目で見るなっ」
癇癪を起こすレックスと其れを軽くあしらうベアトリクスを眺めていると、職員の女性が現れ、中央ホールへと来るように告げられた。
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正式な生徒でもない私に何の用なのだろうか?
言われるがままに向かうと、ルミア先生の隣に懐かしい人物の姿があった。
「アメリアー!!!!会いたかったぞー!!!!!」
「ぶはっ、爺ちゃん?!!!」
周囲からの視線が突き刺さる中、猪突猛進よろしく駆け寄る祖父に力強く抱きしめられる。
「どうやら貴方からの連絡の後、たまらず村から飛び出して来たようです」
流石のルミア先生も頭を抱えている。ごめんなさい、先生そして弟子の皆さんっ!
「あ・・・あの・・・!」
突如、背後から驚き震える様な妙な声が響く。
振り向くとそこに居たのは指導教室で何時も混血のクロエと争っているエルフのセドリックだった。
「ん?何だ?」
「お尋ねしたいのですが・・・宜しいでしょうか?」
「うむ、なんだ?」
「へっ?」
困惑する私を余所にセドリックの声に更に熱が籠って行く。それを聞いた周囲の視線が私達に集まって来た。
「失礼しました、私はセドリック・ガーランドと申します。お会いできて光栄です、種族戦争の英雄・・・剣聖エドガー・クロックウェル様ですよね?」
「は?」
余りの突然の事に困惑をする私は事態が飲み込めずにセドリックと祖父との間で視線を泳がせた。
祖父は懐かしむ様な照れ臭い様な複雑な表情を浮かべて人差し指で頬をかいている。
「種族戦争って・・・えっと、たしか学校で・・」
村での授業を思いだし頭を巡らせる。たしか現在の様に多種族共存が叶ったのは・・・
「まったく、其れはもう45年以上前の話だぞ?俺はど田舎のぼろ道場の師範のジジイだ。英雄だなんて立派な呼び方は今の俺には不要だぜ」
「ええっ?!」
どうやら私とセドリックの想像通りだったらしい。種族間の和解と其れに伴う世界の平和条約の締結、その一翼を担っているのなら、弟子入り志願者の数も納得だわ。
「いえいえ、貴方がどれだけご謙遜されようと貴方は私達の英雄です。こうやって種族関係なく差別無く過ごせるのも・・・」
セドリックの熱弁する声を半ば呆れ気味に祖父と聞いていたが、それを遮る様に冷たい声が響いた。
「差別無くですか・・・。それが現実の事ならこの国に貧民街などと称して、混血や先祖返りした者を押し込む区画など存在する筈が無いわ」
その声に振り向くと、沸き立つ中央ホールの片隅に黒い羊の角と腰の辺りまで伸びた紫の髪の少女が皮肉交じりの笑顔を浮かべ、椅子に座り佇んでいた。
「クロエ、言葉を慎め!お前が闇の祭殿を祭る一族とはいえ、先祖の大罪は擁護できるもんじゃない」
「あら、セドリック。あたしは事実を述べたまでよ」
周りはセドリックを押す者が多く、クロエへの批判の声が飛ぶ。魔法指導教室でも衝突していたけれども、本当にこの二人は仲が悪いらしい。
「確かに差別を完全に拭い去れなかったのは此方に非だ。しかし、ここで二人が争うより友好関係を気づく方が大切じゃないかな?」
「しかし・・・」
祖父の言葉に戸惑うセドリックを背にクロエが黙して立ち去る事で事態は収束するのだった。
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ルミア先生に加えて祖父も加わった放課後の特別授業を受けながら近々、積み荷の警備の仕事のついでに向かうエルフの治める友好国、エリン・ラスガレンについて調べた。
想像通りの魔法大国で、大きな世界樹を中心に円を描くように形成された風と緑の美しき大国だ。
女王アグラレスが治める風の守護を受けたこの国は風により運ばれた花々が舞い種が地を彩る。日常的に使用される魔法への研究に余念のない。
まさに、魔法と風が織りなす緑と知識の大国らしい。
祖父達からの激励を受けながらの訓練の日々は地獄の様だった。
呪文の習得と詠唱の練習に加えて武器への魔法付与などなど、やや強引に詰め込まれた知識を頭に体にと詰め込む事の繰り返しだ。
出発が二日後へ迫った今、おかげ様で短縮詠唱を取得する域に達する事に成功した。
「いよいよね・・」
出発当日、ランドルさん達の背後に並び私は目の前の大きな帆船を仰ぎ見ている。
「ぼーっとしてんな男女」
突然背後から掛けられた声に驚き肩が跳ねた。
「なっ、ダリル?!どうやって・・・?」
振り向くと突如、すっかり旅支度を整えたダリルが私の背後に現れた。
「油断しすぎだバーカ。俺も苦労したんだ、そんなに簡単に教えるかよ」
ビシッと軽く手刀が頭に降ろされる。
「いたた・・・何よもう。アルもスレイもアンタが居ないうちに私にベッタリになったんだから」
「なっ、それはどう言う事だ!」
「おーい!そろそろ乗船するぞー」
列に並びながら騒ぐ私達にランドルさんからの号令が掛った。
「急ぎましょっ!」
「おう!」
見送る人々の中を進む列を追いかけ慌てて乗船すると、ランドルさんから出向するまでの合間に自由時間を貰えたので甲板に出る。
観光客や船員の行き交う中、手摺に体を半分預けて陸を眺めていると、白いフードを目深に被った人物に声をかけられた。
「お久しぶりですね、アメリアさん」
そっと持ち上げられたフードから覗いたのは白銀の髪に翡翠の瞳。
「ウィル・・・」
名前を言った所でウィルこと光の精霊王様は驚く私の前で指を一本、口に当てて騒がない様に伝えながら微笑む。
「漸く一歩踏み出す事が出来ましたね。貴方達が向かう地は風の精霊王の地。ただ、彼は比較的友好的ですが気まぐれな処が有るので用心してください」
そう言うとウィルは私の手の平に光で不思議な文様を描いた。描き終えた文様は徐々に手に浸透して行くかのようにスッと消えて行く。
「あの・・これは」
「ぼくからの祝福の御守です。きっとあなたの助けになると思います」
「ありがとうございます・・!!」
喜ぶ私の姿を見るとウィルは誰に姿を認識される事無く、徐々に姿が光に溶けて行った。
飲み物を買いに出ていたダリルが帰って来た。その時、船内外に出航を知らせる合図が鳴り響く。
目で陸を凝視すると、手を振るルミア先生とその横で号泣する祖父の姿が・・・
思わず目を羞恥のあまりに逸らしてしまっていた。
「爺さんは相変わらずだなぁ。近くの国への旅行なのによぉ」
「ははっ、そうね・・・。エリン・ラスガレンかぁ楽しみね。」
「いいね、オレもアメリアちゃんと旅を楽しみにしてるよ」
「え?」
いつの間にか、フェリクスさんが横に立って私の肩に腕を回していた。
「何時の間にお前と旅に出る事になってんだぁ?どーせ大方、女から逃げてんだろ」
「・・・・・・・・・それは無いよ」
「なんなんだその間は・・・」
「白状するとね仕事だよ。割と自由が利くらしいから一緒にどうかなって思ってさ。どうかな?」
「断る・・・!!」
「人数が多いい方が頼もしいのでご一緒できる範囲でなら・・・」
「お、アメリアちゃんから許可貰ったぞ」
フェリクスさんはニヤニヤとダリルを見ながら笑っていた。
「てめっ・・・!」
何時もの大騒ぎが始まろうとした所で船が動き出す。
その時だった。
「おねーちゃーん!頑張れーー!!」
上空からジェニーさんのヒッポグリフに乗せてもらっているケイティーが声を張り上げて私を呼ぶ。
すると、頭上から無数の花と花弁が降り注ぐ。
幻想的な雰囲気の中、私達の世界への一歩が踏み出される。
これからも多くの出会いに冒険そして使命を果たす為の試練が繰り広げるだろう。
「ありがとーー!」
それでも私達は走り出す・・・・・・・・・・世界へと!
皆さん、ここまで読んで頂きありがとうございました。
二章も問題が無ければ何時も通りの更新となると思いますので読んで頂けたら幸いです。




