第19話 進む為の一歩
クリスティアナさんから登録の説明を受けるその横では別の受付係の女性が忙しなく冒険者達を相手に業務を熟している。
クリスティアナさんの説明によると冒険者にはSからFランクの七段階があり、私達は当然、Fランク。
禁止事項である盗難・強奪・略奪などの犯罪や他パーティーへの妨害を行わなければ、努力と功績次第で積み重ねによりランクは順調に上がって行くそう。
ただし、再犯や殺人にギルドへの危害を加えたり国への反逆などのした者に関しては、追跡の後に捕縛し国への引き渡しの後、ギルド追放などの処置が行われるらしい。
「ここまではご理解いただけましたね?」
「「はい」」
私達が返事を聞くと、クリスティアナさんは暫し私達の顔を目を見つめる。
しかし、そこからは何時も冷静な彼女から意外なほど熱が籠った口調で言葉が紡がれた。
「上位ランクに上がれば難易度に伴って高額の報酬が約束されます。それだけでは無くSやAランクともなると国から認められると戦力と見做され有事の際は召還される事もあります。そして、いずれは騎士団や魔法師団への入団と言う事も有り得ますよ」
早口気味に語る希薄に押されていると、クリスティアナさんは我に返ったようで、小さく咳払いをした。
これから冒険者として活躍していく私達に夢を持たせようとしてくれたのだと思う。
上昇志向が全く無いわけじゃないけれども、今はゆっくりと考えて行きたい気がする。
声に出しては言えないけれども、何よりも私には果たさなくてはならない使命がある。
「・・・ありがとうございます。とても参考になりました」
「まっ、やる事もあるし焦る必要はないんじゃね?」
「・・・やる事とは?」
クリスティアナさんはダリルの思わずこぼした言葉に目ざとく反応すると、訝しむ様な顔をする。
その反応から察するに、どうやらランドルフさんはクリスティアナさんに精霊王様達の件は伏せてくれているらしい。
ダリルには勿論、反省して貰う意味合いも込めて脇腹に肘鉄をお見舞し、静かにしてもらった。
「これから、訓練をして実力をつけて行きながら此れからの事を考えて行こうと思っているんです」
「・・・そうですか」
クリスティアナさんはそう言った後も私達の真意を探るような視線を向けてくる。
これは、理由が安直すぎたかな?
「・・・それでは、当ギルドではご自身で選んだ物を除き、紹介するクエストの指針はご本人様のご意向に参考にさせて頂く形になっております。それでは宜しいでしょうか?」
「はい、宜しくお願いします」
「俺も同じで」
「承知いたしました」
どうにか納得して貰えたらしい。私は心の中でそっと安堵した。
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「では、お二人には本登録の前に試験として初心者向けのクエストを受けて頂きます」
クリスティアナさんはカウンターの下から二枚の羊皮紙を出した。
「クエストですか・・・」
「お、いきなりか!」
「ギルドマスターが持ってこられたクエストで、依頼主は牧場主ですね。内容は軽いお使い程度の物なので安心して頂いて構いませんよ」
そう言うと私達の前に一枚ずつ、依頼の書かれた羊皮紙が配られる。
ランドルフさんは依頼を探しに行っていたのか・・・
どうりで先に出たはずなのに姿が見えない訳ね。
「“ヒッポグリフの卵探し”」
「本当にお使い程度だな・・・」
ダリルは少し残念そうな顔をしている。
初心者向けのクエストでしかもお使い程度なのに何を期待していたんだろ。
「お二人はヒポグリフをご覧になられた事はありますか?」
「はい、一度だけ」
ジェニーさんが呼び出して馬車に寄せて来た時は、その大きさには驚かされたなぁ・・
「それなら話が早いですね。ご存知の通り、ヒッポグリフは鷲の前半身と馬の下半身を持つ騎乗可能な生物です。しかし、交配が難しい為にその数は少なく貴重な存在です」
「難しい・・・?」
そうダリルが投げかけた疑問にクリスティアナさんは不敵な笑みを漏らす。
「ヒッポグリフがグリフォンと言う鷲の上半身と獅子の下半身を魔物と雌馬の交雑種である事に起因します。そこで何故かと言うと、父親となるグリフォンの好物が馬な為に失敗をすると卵どころの話ではなくなってしまうのです」
どうやら、クリスティアナさんは好きな分野になると話す熱量が増す人のようだ。
それにしても卵どころじゃないと言う事は・・・
「食べられてしまうと・・・」
「その通りです。ですから、今回は個人的に期待をして・・・・はっ、すみません」
クリスティアナさんは熱く語りかけたものの、私達の顔を見て顔を仄かに赤らめ目を逸らす。
「でっ、どこに向かってなにをすれば良いんだ?」
ダリルが私を押しのけ前のめりになって聞く。
「こほんっ・・・今回は数か月前にグリフォンの襲撃を受けた馬牧場です。不幸中の幸いと言って良いものか迷いますが・・・襲撃を受けた牧場の数頭の雌馬がヒッポグリフを身籠っている事が判明したのです。ですが、馬達が突如として姿を消してしまった為、放牧地から消えた母馬とヒッポグリフの卵を保護して欲しいとの事です」
そこまで言うと、目の前に地図と成功報酬について書かれた羊皮紙が差し出される。
牧場の名前はシドニー牧場、牧場主の名前はジョーセフ・カトラルと言う男性らしい。
しかし、報酬の欄を見て思わず首を捻ってしまった。
「報酬は結果次第ですか・・・」
「母馬や卵の状態によってその後の飼育や引き取り先との金銭のやり取りが関係するからだと思います。無事に依頼を達成すれば貴女方は冒険者と慣れる訳ですし、損はされないかと思いますよ」
「・・・解りました、そのクエスト受けます。良いよねダリル?」
「おう、勿論だ」
ダリルは私の呼びかけに腕を組みながら頷いた。
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「それでは、手続きを進めさせて頂きますね。最後に何か質問は御座いますか?」
「あの、関係ない質問でも良いですか?」
実を言うと、クリスティアナさんの話を聞いている間にも、彼女の周りを浮遊している筋肉質の妖精が気になっていたのだ。
「構いませんよ。どうぞ」
「そこのアーロンと言う妖精とはどう言う妖精なんですか?」
「ふむ・・・それはですね!」
再びクリスティアナさんの目が輝きだす。
あ、これは長くなる話だ・・・
ダリルには恨めしそうな視線が頬に突き刺さって来るのを感じた。
「アーロンは戒めの妖精で、出会ったのは城の処刑場の近くで出会いました。そこで命名契約により~」
クリスティアナさんの話は恐ろしい事に二時間ほど続いた。
話し終えたクリスティアナさんは私達を見て謝罪してきた。
妖精との命名契約などには興味はあるけど、如何せん妖精愛が重すぎるような・・・
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自分達の名前を契約書に書き、ギルドに帰って来たランドルさんから判を押して貰った。
「報酬は明かせないが楽しみにして良いぞ。しかし、お使い程度と高を括らないようにな。油断は禁物だ」
そのランドルフさんからの言葉に期待半分不安半分と言った心境だ。
ダリルも同様に思ったらしく、複雑そうな顔をしていた。
それでも、私はギルドへの本登録する為の試験を兼ねた初めてのクエストに胸をときめかさずには居られなかった。




