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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
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第228話

 お母さんの、というよりは先輩たちの要望に応える様に学園内を回る。


「これ、本当に学園祭って言っても良いの?」


 クオリティーがおかしい発表や出し物、そしてプロが提供している食事を見続けた茜先輩がついに真顔で呟く。


「良い訳ねぇだろ、こんなん。うちじゃ絶対無理。つか和の国じゃ無理だろ。

 規模もクオリティーも動いてる金もすべてがおかしい。

 これを三日とかバッカじゃねぇの。

 しかもOB、OGの手助けがあるっつってもこの規模の祭りを学生がメインで運営してるんだろ?

 俺はその事実が何より怖い」


 おふざけなしで真面目にそう吐き捨てた会長にパチリと目を瞬く。

 その気になりさえすれば会長もできそうだし、やりそうなのに。


「なーに、おちび」


 みょーんと頬を伸ばされる。顔に出ていたらしい。

 会長は大きな溜息を吐いて無理無理と首を振る。

 それまで黙ってお母さんをエスコートしていたお父さんが会長に声をかける。


「僕も君ならできると思うけど?」

「うぇええ。龍哉さんまで止めてくださいよ~。

 こんなクソ面倒そうなこと龍哉さんの命令(お願い)じゃなきゃぜってぇヤダ」

「僕が言えばやるって言ってしまうところが君だよね」


 おかしそうに笑うお父さんに会長が苦々しく顔をしかめる。

 珍しい。お父さん全肯定BOTなのに。


「そりゃ、龍哉さんにやれって言われたら、俺、頑張っちゃいますから。

 できなくてもやりますよ。だからあんま無茶ぶりしないでくださいね!」

「さぁね」


 さらりと会長をあしらったお父さんは、何事もなかったかのようにお母さんを気遣っていた。その姿にまた衝撃を受ける。

 あ・の! お父さんが! 他人を気遣っている!?

 段差だからってお母さんに声をかけて手を差し出してる。え、お父さん。これ、本当にお父さん?

 宇宙を背負って固まってしまった私にお母さんが不思議そうに首をかしげる。


「瑠璃ちゃん?」

「な、何でもない、です」


 それでも私の視線はお父さんに固定されていて、それに気づいたお父さんが眉間にしわを寄せる。


「なに」

「いや、おじさまたちが見たらとってもびっくりするだろうなって。

 無性におじさまたちに会いたいなって」


 この驚きと感動を共有出来る人が欲しい。

 フォンセとグレンは驚きすぎて使い物にならなくなりそうだからおじさまかアルセさん希望。


「君は僕をなんだと思ってるの?」

「僕様何様お父様」


 迷わず即答するとお父さんの眉間にのしわがまた深まった。

 くすりと零れた笑い声に視線を移すとお母さんが小さく肩を震わせていた。


「ふふ、ごめんなさい。可愛らしくて。

 知っていたつもりだけれど、二人は本当に仲良しなのね」


 お母さんがとっても優しく笑うから、胸がきゅうっとなった。


「お母さんも! 私、お母さんともっと仲良しになりたいです!」

「ありがとう。私も瑠璃ちゃんともっと仲良くなりたいわ」


 ふんわり笑うお母さんに釣られるようにへにゃりと笑う。

 えへへと笑いながらお母さんの隣に並んだ。

 お父さんと私でお母さんを挟んで続きを回る。途中で声をかけてくださる先輩や同級生、後輩にわたわたする私を見守る対照的なお父さんとお母さんが印象的だった。

 お母さんは優しく見守っていてくれるのに、お父さんの残念な子を見る目といったら!

 そう思っていられたのも最初だけで、剣舞の感想と共に貢がれ続けたお菓子がとうとう抱えきれなくなるとお父さんの視線を全肯定したくなった。そうです。私、残念な子です。

 どうしようこれ。

 呆然と腕の中から今にもこぼれ落ちそうなお菓子たちを見下ろす。


「瑠璃ちゃんは人気者なのね」

「マスコット的なやつかい?」

「もしくは愛玩動物?」

「ほら、瑠璃ちゃん、エコバッグあるからここにいれなさい」

「はい……」


 誠に遺憾である。特にお父さんと会長の言葉には思い当たる節がありすぎるだけに反論が出来ないのが余計に。これも全部フォンセとグレンのせいだ。

 茜先輩が出したエコバッグにお菓子をいれる。

 なんで皆、お父さんを見て一瞬ギョッとするのにお菓子を貢ぐのは諦めないの!?

 会話はすぐ切り上げるのに、お菓子だけはきっちり渡していくの?


「さて、そろそろ僕たちは帰るけど」

「私も一緒に帰る!」


 お父さんの言葉を遮るように答えて、フォンセにメッセージを送る。

 お父さんたちと回っているのはきっと知っているだろうけれど、何も言わずに帰ったら心配すると思うから。

 いつもと違う道を通る車に首を傾げていたら、お高そうなホテルに着きました。


「え! お母さんホテルに泊まるの?


 一緒に侯爵家に帰るんだと思っていた私にお母さんが微苦笑を零す。

 そんな私を先輩たちは心底呆れた顔で見ていた。訳が分からずきょとんとする私に会長は深い溜息を吐いた。


「今回は俺と茜もいるからホテルのほうが都合いーんだよ」

「先輩たちとお泊まり……。

 お母さん、本当に大丈夫?

 この人たちまともな人に擬態も出来るけど基本的にぶっ飛んでるよ?」

「オイ」

「海斗くんも茜ちゃんもとっても良い子よ? すごく頼りになるの」


 心からそう思っている様子のお母さんに先輩たちをキッと睨みつける。


「なんだよ」

「頼りになるのは認めますけど、私のお母さんを誑かさないでください!」

「はいはい。おちびよりオウカさんと仲良しでわるかったな」


 私の抗議をじゃれつく子猫をあしらうようにひらりと躱すと、先輩たちはお仕事モードに切り替わったらしい。会長はお父さんと打ち合わせっぽいことしてるし、茜先輩の手によっていつの間にか目の前にはティーセットが用意されていた。

 パチリと目を瞬いた私に茜先輩がくすりと笑う。


「心配しなくても私も海ちゃんも瑠璃ちゃんからオウカさんを取ったりしないわよ」

「別にそんなんじゃありません。

 ……ただ、私よりお母さんと仲良しなのがちょっと納得いかないというか」


 思ったより拗ねた声が出て慌てて顔をそらす。


「んふふ! 瑠璃ちゃんは本当に可愛いわねぇ。ぎゅーしてあげる!」


 むぎゅむぎゅ抱きついてきた茜先輩はもがもがと抵抗する私を丸っと無視してお母さんに声をかけた。


「オウカさん」


 まるで背中を押すような優しい声に茜先輩を見ると悪戯っぽい笑みが返ってくる。

 そのまま茜先輩からの拘束がするりと解かれたと思ったら、反対側から遠慮がちに細い腕が伸ばされる。

 私に触れる寸前でためらう指先をじっと見つめる。


「おかあさん」

「わたしも、瑠璃ちゃんをぎゅってしてもいいかしら」


 伸ばされた腕に自分から体を寄せて優しく体をつつむ体温に目を閉じる。

 トクリトクリと繰り返す命を刻む音に安心して、ちょっとだけ泣きたくなって、ぐずるように頭をお母さんの肩にすり寄せてからゆっくりと体を離す。


「あのね、たくさん、お話したいです。お母さんに聞いて欲しいお話がたくさんあるんです」

「ええ、たくさんお話しましょう。私も瑠璃ちゃんのお話が聞きたいわ」


 泣き出す寸前の下手くそな笑み。


「ま、君は僕と帰るんだけどね」


 空気を読まないお父さんの声が割り込んで、しんみりした空気が霧散する。

 会長あちゃーって顔するならちゃんと止めてください!


「疲れただろうし、ゆっくり休みなよ。何かあったら遠慮なくこの子たちに」

「はい。何から何までありがとうございます。龍哉殿」

「僕がしたくてしてることだ。礼を言われることじゃないよ」


 私の首根っこをひっつかんでお父さんはあっさり扉を閉めた。

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