第49話 神聖歴770年4
「食べないか」
「今はお腹いっぱいだから大丈夫」
「欲しい物ないか」
「な、ないよ」
「……ちょっと待ってろ」
「クロさん!?」
そう言って部屋から出ていくクロさん。
困った。
クロさんが貢ぐ君になっとる。
ボクの前には果物の山。
前に一度甘い果実が食べたいと言った時からずっとこの調子だ。
これからは慎重に言葉を選ばないとだめだと思う。
「クロさん、ずっとメリ姉に欲しい物聞いてくるしメリ姉の近いところに居る。なんでなの?」
「ああ、そういうお年頃なんだよ」
「おとしごろって?」
「んーなんて言ったらいいか、あー世話焼きな気分なんじゃないかな」
「……メリ姉のお世話ならぼくがするから」
「え、カズキ?」
どうしたんだろう?
カズキがほっぺを膨らましてボクを見上げてくる。
なんか可愛いじゃないか。
「どうしたカズキ?ほっぺ膨らまして」
「メリ姉、メリ姉はぼくから離れちゃ駄目だからね。ずっと一緒だよ」
「当たり前じゃないか。カズキはボクの弟なんだ。絶対に離れないよ」
「メリ姉、だったらぼくと結婚して」
「うん?」
「約束!メリ姉はぼくのお嫁さんになる。だから何処にも行っちゃヤダ」
うわ、よくあるちっちゃい子からのお嫁さん発言がカズキから出るとは思わなかったなあ。
最近はとっても聡く感じるカズキ。
子供の成長ってホントに早い。
「だけどカズキ、カズキはボクの弟なんだ。姉弟は結婚出来ないんだよ」
「出来るもん!メリ姉とぼくは血の繋がりはないってハンナままが言ってた。だから結婚出来るって!!」
「あちゃーハンナさんそんな話をしたんだ」
「そんなの、ハンナままに聞かなくとも分かる。だってメリ姉とぼくは耳が違うから」
「はは、そうだね。カズキはボクと姉弟のままじゃ嫌なのかな?姉弟のままでも一緒には居られるはずだけど」
「他のおとこに取られるのだけは絶対に嫌だ!」
わーお、カズキがいつの間にかマセガキになっとる。
んーこの場合なんて答えるのが正解かなあ。
まあ、相手は五歳児。
どうせすぐに忘れるだろうしここは適当に納得させればいいか。
「じゃあカズキがもっと大きくなったらお嫁さんになったげる。だからほっぺ膨らましは止めな」
「大きくってどのくらい!」
「あーカズキが成人、大人になってまだ気持ちが変わらなかったらだよ」
「約束、約束だよ。ぼくはお姉ちゃんを必ずお嫁さんにして幸せにするから」
「はは、約束ね。じゃあ指切りだ」
「ゆびきり?」
「ほら、こう小指どうしをからませてね、指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます、指切った!はいお終い。これで約束に嘘ついてない事になるんだよ」
「もう一回!指切りげんまん嘘ついたらはりせんぼんのーます、指切った!」
「はい指切った。これで約束は成立したよ」
「うん、絶対絶対絶対に約束だよ」
「カズキには参ったな。はい絶対絶対絶対ぜーたいに約束したよ」
相手は子供。
そしてヒトの心は移ろい易い。
成人なんてずっと遥か先の話だしまず覚えてなんかいられない。
きっとカズキは良いお嫁さんを見つけてボクはそれを招待席から祝福するんだろうな。
その時きっとお姉ちゃんの気持ちは複雑なんだと思うよ。
それでもカズキの幸せの為に涙ながらにハンカチを振るからね。
ぶんっ「へっ?」
「メリ姉、額に何か出てるよ?」
いやいやカズキの額にも何か出てんだけど気づいてないか。
え、何なのコレ?!
いや見覚えあるな。
コレって多分あれなヤツ。
ってボクの額にあるのもそうなのか??
手鏡取ってみたらカズキと同じに花の紋章だったりする。
そう、これは
「ペンダントにあった皇家の紋章だ」
「もんしょう?」
紋様でなく紋章。
あの花みたいな形のヤツ。
ペンダントの画像の事は出さずにハンナさんに花の形の事を聞いたらアモロス帝国皇家の紋章だと断言してた。
その変に詳しいハンナさんも気になったがそもそも紋章って家門の印みたいにその家を表すものなんだけど、それが今ボクとカズキの額にあるのはどういう事なんだろうか。
いやカズキは分かるよ。
だって映像の中で王様父さんがペンダント近づけて紋章をカズキになすり付けてたから。
付けて実際にペンダントを翳すと現れるようにしたんだもの。
だけどボクは関係ないよね?
まったくその一連の流れに居なかったはずだからボクの額にアモロス帝国皇家の紋章が現れる事はあり得ないんだよ。
とはいえ現実逃避しても始まらない。
誰かに助言を求めてみるしかないよなぁ。




