第3話
『グオーッグルルルッ』
『ガオオオオッ』
バサッバサッバサッバサッ
ババッ
『ガウッ!』
「ふんっ」ガッ
ズカガガガーンッ
『ギャインッ?!』
『ギャギャンッ』
「は、相変わらずにすげぇ。今日も俺の出る幕はねーな」
「ゼンクトはいつも通りですね」
「ほえーっ!?」
開いた口が収まらないとはこの事か。
新ダンジョンを進んで僅か数分後、正面から現れたのはダンジョン上層定番なエアウルフの群れ。
魔物レベルはFで初心者冒険者でも何とか対処できる空飛ぶ狼である。
特長は今言った通り背中に生えたコウモリのような翼で空を飛び回りあらゆる死角から攻撃してくる事。
とはいえ油断すれば命に関わる魔物であり本来はチームで迎え撃つのが定石だ。
そしてその群れとなれば魔物ランクが一つも二つも上がる。
そんなエアウルフの群れ相手に一人躊躇せず前に出るゼンクト。
十数頭のエアウルフの群れに一人で対処するつもりの様だがいくら何でも無謀だろう!?
ガブは前に出ないのか。
と見れば奴は鼻くそをほじっていた。
おいぃ?!
曲がりなりにもパーティリーダーが前に出てるのに同じ前衛が鼻くそ掘ってるってそれでいいんかこのパーティは。
とはいえ新参のボクに意見を言える立場もなく実力も無い。
ただただ成り行きを見守るのがボクの現状だ。
そう思考してるうちにエアウルフ達はゼンクトを包囲していた。
奴らお得意の連携だ。
元々単独で弱いエアウルフも群れをなせば2ランク上の厄介な存在になる。
対するゼンクトはB級冒険者でドワーフだから重量級の防御とパワーを兼ね備えていて近接戦闘では強大と言っていいだろう。
そしてエアウルフ達も初回接敵で仲間が容易く打ち減らされた事を理解しているからゼンクトに単独の近接戦闘を仕掛けてこない。
しかしエアウルフの俊敏に対してどうしてもゼンクトの初動に遅れが目立つ気がする。
重量級のドワーフ故だろうが彼の唯一の弱点というわけだ。
それでも一人前に出るのは弱い魔物と侮っているのだろうか。
よくある初心者パーティが陥るパターンで低ランク魔獣と侮り全員が大怪我する事故がたまに起きると聞いた事がある。
さすがにこれは不味いだろう。
「フレイン、ゼンクトの冒険者ランクがいくら高いといっても慢心して侮っていれば万が一があるかも知れない。ここはガブに加勢してもらい万全を期した方が良くない?」
「大丈夫ですよ、ほら」
「?!」
十数頭のエアウルフが全方位から一斉に飛び掛かる。
ほら、いわんこっちゃない!
ボクがそう思った時なんとゼンクトは振り上げた鉄斧をエアウルフではなく自身の足元に振り下ろす。
え、どういう事??!
「ギガクラッシュラウンド!」カッ
ドゴンッズカガガガーン
『『『ギャワッ?!』』』
『『『『『『ギャンッ』』』』』』
『『『『『『『ギャギャン!』』』』』』』
丁度自身とエアウルフの距離が最も近づいた瞬間鉄斧を一振り!
大地が爆発し飛び散る岩石の物量がマシンガンのようにエアウルフを襲う。
圧倒的破壊力は二次被害の一瞬でエアウルフを討伐してしまった。
レベルF魔物ではオーバーキルか。
ゼンクトのB級冒険者は伊達じゃない。それともドワーフの剛腕が凄いという事なのか。
「はは、ゼンクトの旦那は流石だぜ。向かうところ敵無しってところじゃねーか」
「ふん、こんな雑魚など敵ですらない。お喋りは時間の無駄だ、先に進むぞ」
「へいへい期待してますぜ。おい何もしてねー青二才とガキ、直ぐに出発だ。特に荷物持ちのガキ!遅れんじゃねーぞ」
「分かってますよ」
「は、はい」
ピクッ
「………ふん」ガシャンッ
ゼンクトはガブのやりように眉を顰めるも興味無いとばかりに馬鹿でかい鉄斧を肩に担ぎ直すとスグに前に歩き出した。
彼は基本寡黙な為それを忖度してボク達をドヤすのがガブの日課になっている。
まあその忖度がゼンクトの意向に沿うものか定かでは無いが彼の寡黙さ故に答え合わせは不可能であると云える。
それにしても仕事をしてないのはガブも同じなのに先輩風だけで偉そうなのは納得いかない。
ゼンクトの実力は間違いなく本物だがガブの実力は未だ見た事も無いし彼のやりようは虎の威を借る狐みたいで情けなく映る。
歯ブラシ頭禿げればいいのに。
「メリアドール行きましょう。この様子なら2階層踏破は直ぐに済みます。今日はダンジョン内に泊まらずに済みそうですよ」キラリッ
「そ、そう願いたい、ですね」
あーこのイケメン特有のキラリ技がボクに降り注いだ。
うん、バックグラウンドにお花畑が見える。
これがフレインの《閃光の歯がうぇー》技か。
女の子達の心をたちどころに掴み取りその彼氏を奈落のどん底まで突き落とす情け容赦ないうぇーな技だ。
しかも本人に自覚が無いから天然記念物並みに始末が悪い。
ふ、だがフレインよ残念だったな。
ボクにその《閃光の歯がうぇー》は効かないのだ。
何故ならボクの前世は男。
つまり心は乙女では無いのである。
そしてその因縁のイケメンスマイル。
断じて引っ掛かる訳にはいかない。
なので引っ掛かるわけは無いのだが何故か急にモヤモヤする?
んん??
胸がドキマキって何これ???
き、気のせい………だよ、ね……。
❇❇❇
その後もゼンクトの活躍で順調に進みギルドからの依頼であるダンジョン調査(新ダンジョン2階層踏破)は呆気なく終わった。
そして数時間後にはダンジョン出口に戻る事が出き日が沈む前に町に戻る事が出来た。
結局ボクの荷物持ちも食料消費分だけ軽くなり↑エアウルフやスケルトンなど低層魔物の魔石で重くなって↓終了である。
不毛だ。
結果としてパーティ同行は楽勝だったけど行も帰りも荷物の重量は重くボクの疲労感ハンパない。
物理的精神的にもクタクタで今日の分け前貰ったらすぐに宿に帰りたい。
と、いう事でボクはギルドを出た先でフレインの所に報酬を貰いにきたわけだけど……。
「あ?なんだその手は??いっちょ前に分け前が欲しいのか?新人のお荷物持ちのクセにフザケてんのか」
「う、その、仕事はしました。だから今日の正当な報酬を貰わないと」
「ああっ?」
「ひっ!」
最終的にギルドのパーティ報酬は50万ラルになった。
新ダンジョン調査依頼が20万ラル。
魔石やモンスター討伐報酬が30万ラルだ。
貨幣価値は純粋に前世と等価だから1日の稼ぎが50万円とかはトンデモない稼ぎになる。
冒険者は日雇い労働者と同じだ。
つまり稼ぎが不安定なのである。
しかも肉体労働が殆どで労働対価が安いか高いかは現場次第のところもある。
事前に知れるのはクエスト内容と難易度ぐらい。
ギルドからのアドバイスはあるが今日のような調査依頼だと難易度情報はほぼ皆無。
だからこそのランクB以上冒険者がいる《剛腕の鉄斧》への依頼だし長年のゼンクトの実績に対するギルド評価があればこその依頼でもあった。
因みに冒険者以外の一般的給与水準ははっきりしないが聞いた情報から推測するに町中の職人や人足相場は日割りにして5千ラルにも届かない。
つまり冒険者稼業は一獲千金を狙えるフリーランスというわけなのだ。
そしてパーティ内での報酬分配は働き差で評価されるものだが一番の功労者(毎回らしい)であるゼンクトが金よりダンジョンから産出される希少金属、レア魔物の素材しか興味を示さない事もありパーティ運営をフレインに丸投げしていて彼が事実上のボクの雇い主兼会計係である。
そしてその手配は全報酬の均等割とか他では有り得ないホワイト分配高待遇だったりする?!
イケメンで誠実でオマケに性格良いとかマジ天使なフレイン様。
女子にモテまくる条件を全て備えるスーパー僧侶には感謝感激雨あられである。
と同時に一種畏れのようなものすら感じてしまい故に彼がイケメンなのがとても残念でならないのである。
あくまでボク個人の感じ方だけど。
なのに帰りの道中ボクに絡みたくてずっと嫌な視線を送っていたガブ。
フレインに報酬をお願いをしてたらその間に割って入ってきた。
またガブの嫌がらせだ。
だけどこれだけは引くわけにはいかない。
何故なら今のボクは無一文。
報酬を貰わないと野宿になってしまうのだ。
モヒカンは禿げろ。




