秋はセンチメンタル ①
「あの、この本だけ寄贈者がわからないんですけど……」
そう言って、二年生の図書委員の伊藤が、一冊の本をオズオズと、図書カウンター横の机にいた私たち三人に差し出してきた。
今年の7月から図書室で起きていた積まれた本のメッセージ事件は、夏休み中に感動的な結末を迎えたわけだけど。
ひとつだけ、新たな謎を残した。
夏休み中に、みんなが図書室の棚に忍ばせた本の数々は、寄贈図書として図書室に追加されることになったんだけど。
未登録本の登録作業が終わると一冊だけ、『本と鍵の季節』という、二人の図書委員が活躍する米澤穂信先生の小説が、寄贈者がいない未登録本として、棚卸し後のチェックによって発見されたのであった。
その本はすでにたくさんの人に読まれた様子で少し古くなってて、図書室から過去に紛失した本だということが推測できた。
図書室のデータベースからはすでに本の登録が削除されてて、同じタイトルの文庫版が登録されていた。貸出履歴にも、本のデータは残ってなかった。
鶴谷城高校では、貸出履歴は生徒の卒業とともに削除されることになっている。ということは、本を借りて返し忘れた人か盗んだかした人は、卒業生か学校にもういない職員さんになるのかな。
今回の件は、私たち三人に対するサプライズがきっかけだったし、
「これは、俺たちが解き明かす最後の事件になるかもしれない!」
って田村がうるさいので。
放課後、三人だけで図書準備室に集まって、推理することになった。
「それで、誰が犯人かなんだけど……」
と私が言うと、なんとなく心当たりのありそうな二人。
まー、まずは状況を整理してみましょう!
「単純なミス、本が図書室のデータベースに登録されていなかったとか、そういうのはひとまず考えないとして。
この本が、数年前に図書室で借りられて、紛失したことになって、図書室のデータベースから削除された本だという前提で考えよう」
と、私。
「それなら、去年の棚卸しで本が見つからなかったはずだから、図書室に戻ってきたのはその後ということになるけど」
と田村。
「私、思うんですけど、数年前に借りて返していなかったのなら、返却・紛失キャンペーンのときに返すチャンスがあったと思うんです。
でも、そのときに返されていたんだとしたら、図書室に再登録されているはずなので、返却・紛失キャンペーンの後に返却されたんだと思います」
と深津さん。うん、私もそう思う。
「となると、返却したのは現役の生徒じゃなくない? 現役の生徒なら、返却・紛失キャンペーン中に返せばいいんだし」
と、田村。
そうそう。去年の棚卸しの前に返却してなかったとして、それなら去年の秋の返却・紛失キャンペーン中に返却BOXに入れて返せば済む話なんだ。
で、そうしてたなら、そのときに本も再登録されていたはず。
となると、たとえば借りた人に弟や妹とかがいて、代わりに返しにきたって可能性も考えにくい。
じゃあ、生徒や職員ではない外部の人が、なぜ返しにきたのかってことだけど?
「返却・紛失キャンペーンの件は、『図書だより』に掲載したし、文化祭のときにポスターにして図書室に貼ってたから、それを見た元・生徒や親御さんが返しにきたのかもしれない」
と田村。
「外部の人が校舎に入ってきて、図書室に本を置いていったんだとしたら、どこかで噂を聞いた人が文化祭のときに返しにきたのかな?」
と私。
「うーん、文化祭でキャンペーンのことを知ったとして、その日か次の日にこっそり本を返しに来るのは無理がない? それに内緒で返しにくる理由がわからないし」
と次々と考察する田村。
本の返却・紛失キャンペーンをきっかけに返しにきた外部の人ががいたとして、こっそり忍び込んで返したんだったら、不審者扱いされるんじゃない?
どうやって忍び込んだんだろう?
それに本が棚にあったんだったら、誰かが借りたら登録されていないことがわかるはずだけど、いつから図書館にあったんだろう?
うーん、いろいろ無理がある気がする。
「じゃあ、こっそりと本が図書室に戻ってきたんじゃなかったとしたら?
ちゃんと手続きを踏んで本が戻ってきたのだとしたら?」
と私。
『だとしたら、犯人はやっぱり……?」
とつぶやく田村と、それにうなずく深津さん。
二人の顔を見るかぎり、私と同じ考えのようだ。
でも、それなら、なんでこんなことをしたんだろう?
ということで、単刀直入にご本人に聞くことにしました。
「この本を図書室の棚に忍ばせたのは、山口先生ですか?」




