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サイン会と図書選びの内緒話

 サイン会から数日後、放課後にまたいつもの三人で、新刊本の登録作業を図書準備室で行いつつ、図書委員会のことや雑談などをしていた。

 すると、文芸部三年生の江藤が「ぐみさばおり」先生の最新刊を手にもって図書室にやって来た。


 最新刊を私に差し出しつつ、

「はい。この本を図書室に寄贈したいんだけど、できる?

 なんと! サイン本だよ!」

「えー、いいの? サイン本なんて寄贈してもらって?」

「いいの、いいの。図書室に寄贈したら、みんなに読んでもらえるし」

なんてうれしいことを言ってくれる。


 すると田村が、

「そういえば、江藤さんもこの前の書店でのサイン会を手伝ってたね」

と、話しかける。

「う、うん。ミナミ書店の店長さんとは昔から顔見知りで。

 私もお手伝いを頼まれたの」

「そうなんだーー。人手が足りないって言ってたもんね。

 ……でも、まさか、ぐみさばおり先生があんなおばさんだとはねー」

「私も驚いたけど(笑)。

 意外と小説投稿サイトの投稿者の年齢って高いらしいよ。

 サイン会の参加者の年齢も幅広かったし」

と、もっともらしいことを江藤が言ったところで、田村が、叫んだ。


「そんなわけないだろ!!」

 えっえっ、なに、田村!?

「江藤さん、君がぐみさばおり先生なんでしょ!

 サイン会の雰囲気がおかしすぎて流石に気づいたよ!

 誰だよ、あのおばさん!」


 そう言われて、爆笑する私と江藤。

 なにも知らなくて、ポカーンとした表情の深津さん。

 それで、田村と深津さんに、ぐみさばおりの正体についての裏事情も含めて、この前のサイン会でわかったことを教えてあげた。


「えー、江藤さんがぐみさばおり先生なんですか!

 私、作品を読ませていただいています!」

と、感動する深津さん。


「え、あれ江藤さんのお母さんなんだ。

 それだったら、だいぶ若く見えるね」

とあわててフォローし出す田村。


「内緒にしててね!」

と急に恥ずかしそうにする江藤。

 それから、ご両親の離婚のことや作家になった経緯などを、改めて詳しく聞いたりしたんだけど。


 色々話をしていると机の上に散らばっている新刊本を見た江藤が、「これってなにをしているの?」と、聞いてきた。

 なので、図書室用として新しく購入した本に、図書ラベルと貸出・返却の管理用バーコードと図書フィルムを貼る作業を行い、図書室のデータベースに登録することを、やさしく説明してあげた。


【図書ラベル】

図書に分類に使われる番号が記入されたラベルで「請求記号ラベル」ともいわれる。日本の図書館が主に使っている分類は、日本十進分類法にもとづいていたもので、三桁の分類数字(分類番号)と著者名の頭文字をカタカナで表す(著者記号)。


【図書フィルム・ブックコートフィルム】

本の表紙やカバーを保護するために貼る、透明な粘着フィルムのこと。主に図書館や書店、学校の図書室などで使用され、本を長くきれいに保つために使われている。


「えー、面白そう!

 持ってきた自分の本でやってみたい!」

と興味津々の江藤。

 そこで、江藤が持ってきた本に、分類番号「913・ク」と書いたラベルを背表紙に貼り、貸出・返却の管理用バーコードと、本のサイズにカットした図書フィルムを、私たちのサポートの元、慎重に貼っていく。

 スマホの保護フィルムと同じ感じで、フィルムに空気が入らないように気をつけて貼ってね!

 空気が入ったら、表面がボコボコになるから、針で出して空気を抜くのよ!

 よし完成!


「わー、こんな風になるんだ。

 図書室の本なんて何冊読んだかわからないのに、いろいろ貼ってるの気づかなかったよ」

と喜ぶ江藤。


 そして、そのまま雑談しながら作業を続けていると、今度は今年の購入図書選定リストに江藤が興味を持つ。


「なに、この本のリスト?」

「これが今年分の図書室で購入図書として選ばれた本よ」

「なんかまじめな本が多いんだね……」

「まー、ほとんど図書選定基準っていうのに沿った、図書室に並べるのにふさわしい本を選ぶから。

 でも、こっちは図書委員が推薦した本なのよ」

と、図書委員が選んだ本のリストを渡す。


「今回は、深津さんが推薦した本ばっかり選ばれたんだ」

と、また愚痴る田村。しつこいなー。

 すると、リストを眺めていた江藤が、「あれ、これって……」とつぶやいた。

 その様子を見た田村が、

「江藤さん、どうかしたの?」

と聞くと、なぜかビクっとなる深津さん。


「うーううん。別になんでもない。

 ……これって深津さんが選んだ本なんだ。意外だね」

「そう?

 確かにアニメ関連の本がやや多いんだけど。

 一般の小説とか高校生が興味を持ちそうなテーマの本をバランスよく選んでいる気がするけど?」

と私。


「ふーん、そうなんだ。

 じゃあ私、そろそろ行くね」

「そう? 新刊本の寄贈を、どうもありがとう」

「じゃあ、また部活で」

といって、江藤が図書準備室を出て行った。


 すると、深津さんが「私、ちょっと席を外しますね」とだけ言って出て行った。



「江藤さん!」

「あれ深津さん、どうしたの?」


「……あの、図書購入リストの件なんですが……」

 と、困惑した顔をした私に、江藤さんがニコっと笑ってきて、

「二人とも気づいていないの?

 最近は図書委員会が名探偵になっているらしいなんて言う人もいるけど、ダメダメじゃん(笑)」

と答えてくれました。


「すみません、あれはちょっとしたイタズラと言いますか。

 思い出作りのつもりだったんです……」


「あー、別に文句を言うつもりは全然ないのよ!

 面白いことをしてるなーって思っただけだったから」


「私が選んだ本は、お二人の名字の分だけだったんですけど。

 それに気づいた山口先生が、私の名字の分も本を選んでくださって……。

 すみません」


「謝る必要なんてないって!

 最近、いっしょにいろいろやって分かったけど、図書委員って大変じゃん!

 ノーギャラで生徒を働かせるなんて学校の怠慢よ!

 少しは息抜き、思い出作りもやらないと(笑)」


 ……図書ラベルには、数字と著者名の頭文字がカタカナで記載されている(図書館によってはルールが異なる)。

 私が選んだ本の著者記号のカタカナを並べると、朝日さんと田村君、二人の名字になる。


 新規購入図書の著者名の頭文字に、「ア・サ・ヒ」と「タ・ム・ラ」をしのばせるためには、かなりの量の候補を探さなければいけなかった。

 幸いなことに、私が選んでほしかった本は、すべて選んでいただけた。

 ただそれは、山口先生が私の意図に気づいてくれたからでした。

 山口先生の計らいで、他の候補の本で「フ・カ・ツ」も並べられるように、新規購入図書が選ばれていました。


 最初は、子供の頃に見ていたアニメ、自分がアニメを好きになるきっかけになる作品のアクリルスタンドが欲しかったし、アニメーション部の生徒が手に入れて転売されたら大変なことになるかもしれないと思って始めた図書選定リスト作りだったのだけど。

 たまたま「ア」と「サ」が頭にくる作家の本を候補に入れたことから、「ヒ」と「タ」「ム」「ラ」が頭に付く作家の本も候補に入れることにしたんだった。


 公正に選ぶべき図書購入リストに、個人的な想いを込めたことに心を痛めていたたけど、それに気づいた江藤さんのほうは、まったく気にしていないようだ。

「あの、この件、お二人には内緒にしていただいても……」

「えー! 言っちゃえばいいじゃん!

 二人とも喜ぶと思うよ!

 ……まあ別にいいけどさ」


「それよりさー ! 私、パパの将来が心配で!

 ママはいま付き合っている人がいて、私が高校か大学を卒業したら再婚するつもりらしいんだけど。

 問題はパパよ。いつまでも一人だと心配!

 ねー、パパと山口先生が仲がいいみたいだし。二人がくっつかないかなーって思ってるんだけど。

 深津さん、内緒にしてあげる代わりに、二人をくっつけるの、協力してくれない?」


 えーと、そうですね……。



「作業終わっちゃったけど、深津さん、戻ってこないなー」

「江藤さんと話しているんじゃない?」

「えーなんで、深津さんが江藤と話をするの?」

「いやー、なんとなくさー」

「変な田村! 作業も終わったし、帰ろうよ」


 はやく帰りたいなーと思いながら、戻ってこない深津さんの帰りを待ち続けている、私と田村だった。

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