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感情ハッカーの僕が世界を変える理由  作者: 雨音トキ


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14「最終決戦」

地下研究所から政府施設まで、ユウトと美月は地下通路を通って移動していた。祖父が建設した秘密のルートは、都市の地下深くを縫うように張り巡らされており、地上の監視網を完全に回避できた。

「もうすぐ政府ビルの地下に着く」

美月が小型の端末を確認しながら言った。画面には施設の構造図が表示されており、母親が収容されている場所も赤い点で示されている。

「地下3階の収容区画。警備は厳重だけど、クラスメイトたちの陽動作戦で大部分の兵力は地上に向かっているはず」

ユウトは緊張で手が震えていた。ついに母親に再会できる。でも、その前に大きな戦いが待っている。

「美月、君は本当に大丈夫なのか? 父親を裏切ることになるけど」

美月は振り返ると、強い意志を込めた瞳でユウトを見つめた。

「父は間違ってる。人の心を管理することで平和を作るなんて、それは本当の平和じゃない」

彼女の感情が、ユウトの目に鮮やかなオレンジ色の光として見えた。決意と愛情が混じり合った、美しい色だった。

通路の先に光が見えてきた。政府ビルの地下施設への入り口だった。

「行くよ」

二人は最後の階段を駆け上がった。

政府ビル地下3階の収容区画に、静寂が広がっていた。普段なら20名の警備員が配置されているはずの廊下に、今は5名しかいない。

ユウトと美月は換気ダクトから内部を覗いていた。

「やっぱり人数が減ってる。田島たちの作戦が成功してるのね」

美月が囁いた。地上では、クラスメイトたちが政府の特殊部隊と交戦中だった。彼らは命がけで時間を稼いでくれている。

「でも5人でも厳しい。何か策は?」

ユウトが問いかけると、美月は微笑んだ。

「あなたの能力よ。でも今度は大規模な操作じゃない。繊細なコントロールが必要」

「繊細な?」

「警備員たちの感情を『眠気』に変える。攻撃的にするんじゃなくて、自然に眠くさせるの。そうすれば誰も傷つけずに済む」

ユウトは頷いた。確かに、相手を傷つけるのは本意ではない。

彼は深く集中した。目を閉じ、心を静める。そして、警備員たちの感情を読み取り始めた。

5人の感情が、それぞれ異なる色として見えた。仕事への集中を示す青、退屈を示す灰色、家族への思いを示すピンク。

ユウトは慎重に、彼らの感情を『安らかな緑色』に変化させていく。まるで春の陽だまりにいるような、心地よい眠気を誘う色に。

「うん……なんだか眠いな……」

一人目の警備員がつぶやいた。

「俺も……今日は長いシフトだからな……」

二人目も続いた。

やがて、5人全員が椅子にもたれかかり、うとうとし始めた。完全に眠りはしないが、警戒心は完全に失われている。

「成功よ」

美月が小さくガッツポーズをした。

二人は換気ダクトから静かに降り、収容区画の奥へと向かった。

収容室の前に立つユウトは、心臓が激しく鼓動しているのを感じていた。

扉の向こうに母親がいる。

美月が電子ロックを解除すると、重いドアがゆっくりと開いた。

「母さん!」

薄暗い部屋の中で、ユウトの母親が簡易ベッドに座っていた。疲れ切った様子だが、怪我はしていないようだった。

「ユウト……?」

母親が顔を上げた。息子の姿を見て、目に涙が浮かんだ。

「どうしてここに……! 危険よ、早く逃げて」

「大丈夫、母さん。今度は僕が母さんを守るから」

ユウトは母親に駆け寄り、しっかりと抱きしめた。母親の体は震えていたが、その感情は温かい黄色の光として見えた。安堵と愛情に満ちた色だった。

「ユウト……本当に来てくれたのね」

「ごめん、母さん。僕のせいで巻き込んでしまって」

母親はユウトの頬に手を当てた。

「あなたは何も悪くない。あなたは私の誇りよ」

美月が入口で見張りをしながら言った。

「時間がないの。もうすぐ警備員たちが目を覚ます」

ユウトは母親を支えて立ち上がらせた。しかし、その時だった。

突然、警報音が響き渡った。

「警備システム、復旧完了。侵入者を発見。全館封鎖を開始します」

機械的な音声が館内に響く。

美月の顔が青ざめた。

「まずい。私たちの侵入がバレた」

廊下の向こうから、重装備の足音が近づいてくる。大勢の警備員が押し寄せてきていた。

「こっち」

美月が非常階段の方向を指差した。しかし、そちらからも足音が聞こえる。

「囲まれたか……」

ユウトは母親を守るように前に立った。

その時、収容室の壁が突然爆発した。

煙の中から現れたのは、田島だった。

「お待たせ、ユウト!」

田島の後ろには小林と佐藤もいた。3人とも汚れて傷だらけだが、目は生き生きしている。

「田島! どうしてここに?」

「地上の陽動作戦は成功した。でも、お前が捕まったら意味がない。だから俺たちが迎えに来た」

小林が爆発で開いた穴から外を確認した。

「外に脱出用の車を用意してある。急ごう」

佐藤がユウトの母親を支えた。

「おばさん、大丈夫ですか?」

母親は驚いていたが、佐藤に感謝の気持ちを込めて頷いた。

「ありがとう……ユウトの友達なのね」

「はい。ユウトのために戦っています」

一行は穴を通って外へ脱出した。政府ビルの裏手に、小型のバンが待機していた。

しかし、彼らを追って50名以上の政府軍兵士が現れた。自動小銃を構え、包囲網を形成している。

「投降しろ! これ以上の抵抗は無意味だ!」

隊長らしき男が拡声器で叫んだ。

田島が舌打ちした。

「数が多すぎる。どうする?」

ユウトは前に出た。兵士たちの銃口が一斉に彼に向けられる。

「僕が何とかする」

美月が心配そうに声をかけた。

「でも50人以上よ。前に50人をコントロールした時、あなたは大変なことになったじゃない」

ユウトは振り返って微笑んだ。

「大丈夫。今度は一人じゃない。みんながいるから」

彼は深く息を吸い、集中を始めた。

兵士たちの感情が見えてくる。任務への忠誠を示す青、戦闘への緊張を示す赤、家族への思いを示すピンク。

でも今度は違った。ユウトは彼らの感情を強制的に変えるのではなく、心の奥底にある『平和への願い』を引き出そうとした。

誰だって、本当は戦いたくない。誰だって、本当は平和を望んでいる。

ユウトの目から、虹色の光がゆっくりと放射された。今度は激しい波動ではなく、優しい光だった。

兵士たちの感情が、徐々に変化していく。攻撃的な赤から、平和な緑へ。緊張の黄色から、安らぎの青へ。

「なんだ……なぜ俺たちは……」

一人の兵士が呟いた。

「子供たちに銃を向けている……これは正しいことなのか?」

別の兵士が銃を下ろした。

「隊長、これは間違っています。彼らは犯罪者じゃない」

やがて、50名すべての兵士が武器を下ろした。

ユウトは膝をついた。激しい頭痛が襲ってきたが、今度は鼻血は出なかった。以前より上手にコントロールできたのだ。

母親がユウトを支えた。

「ユウト、大丈夫?」

「平気だよ、母さん。今度は誰も傷つけずに済んだ」

田島が感動したように言った。

「すげぇな、ユウト。お前の能力って、本当に人を幸せにするんだな」

一行はバンに乗り込み、現場から脱出した。

第一段階、母親救出作戦は成功した。

しかし、これは始まりに過ぎなかった。本当の戦いは、これからだった。


地下研究所に戻ったユウトたちは、最後の準備を整えていた。母親は安全な場所に避難させ、今度は本当の敵——システム中枢との戦いが始まる。

「パンドラ・サーバーへのアクセス方法を説明するわね」

美月が巨大なモニターの前で、複雑な回路図を映し出していた。

「物理的なサーバーは政府ビルの最深部、地下10階にある。でも本当の戦場は仮想空間よ」

祖父が残したマインド・シンク・システムが起動音を響かせる。

「ユウト、あなたの意識を直接システム内に送り込む。私も一緒に入る。でも……」

美月の表情が曇った。

「一度入ったら、物理的に切断されない限り出られない。そして中でやられたら、現実の脳にも致命的ダメージを受ける」

ユウトは頷いた。もう迷いはなかった。

「分かってる。でも、これ以外に方法はないんでしょ?」

田島が心配そうに声をかけた。

「俺たちは何をすればいい?」

「現実世界でユウトたちを守って。政府軍が来たら、時間を稼いで」

小林が拳を握りしめた。

「任せろ。お前らが戻ってくるまで、絶対に守り抜く」

ユウトは特製のマインド・シンク装置に頭部を接続した。美月も隣の装置に身を横たえる。

「準備はいい?」

「ああ」

二人の意識が、現実世界から切り離されていく。

ユウトが目を開けると、そこは想像を絶する美しい世界だった。

無限に広がる電子空間。ネオンブルーの回路が宇宙のように光り、データの川が虹色に流れている。自分の体を見ると、現実より背が高く、筋肉質になっていた。仮想体特有の理想化された姿だった。

「すごい……」

美月も同様に変化していた。現実以上に美しく、そして強そうに見える。

「ここがシステムの中枢空間。でも気をつけて。AI警備システムが——」

その時、空間が震動した。

遠くから、巨大な影がこちらに向かってくる。数百体のAI兵士たちだった。人型だが、顔は機械的で、感情を表す色彩は一切見えない。

「来たわね」

美月が身構えた。彼女の手に、光の剣が現れる。

AI兵士たちが一斉に攻撃してきた。レーザー光線が空間を切り裂く。

ユウトは直感的に理解した。ここでは想像力が武器になる。

彼の手から虹色の盾が現れ、レーザーを跳ね返した。

「美月、僕の能力が効かない!」

感情操作を試みたが、AI兵士たちには全く効果がない。当然だった。彼らには感情がないのだから。

「物理的に戦うしかない!」

美月が光の剣を振るい、AI兵士を次々と斬り倒していく。ユウトも虹色のエネルギーを操り、敵を吹き飛ばしていく。

しかし敵は無限に湧いてくる。

「きりがない! どうすれば——」

その時、システムの奥深くから声が響いた。

「そこまでだ」

巨大な人影が現れた。冷川登だった。しかし現実の彼よりもはるかに巨大で、威圧的だった。

「美月……まさか本気で私に刃向かうつもりか」

美月の顔が苦痛に歪んだ。

「父さん……」

「帰ってこい。まだ間に合う。この少年を諦めれば、すべて元通りになる」

冷川の周りに、巨大な灰色のオーラが広がった。管理と支配の力だった。

「人類は管理されることで幸せになる。君たち子供にはまだ分からんだろうが」

ユウトが前に出た。

「それは違う!」

「ほう? どこが違う?」

冷川の眼差しが鋭くユウトを射抜く。

「人間は不完全だからこそ美しいんだ。苦しみがあるから、喜びが分かる。悲しみがあるから、愛情が尊いんだ」

「青臭い理想論だな」

冷川が手を振ると、重力のような力がユウトを押しつぶそうとする。

「では聞こう。君の母親が苦しんでいる時、その苦しみに意味があると言えるのか?」

ユウトの動きが止まった。

「君の友人たちがいじめられていた時、その痛みが美しいと言えるのか?」

言葉が出なかった。確かに、苦しみなんてない方がいい。痛みなんて感じない方がいい。

「そうだ。人間の感情は不合理で、争いしか生まない。だから私が——」

「それでも!」

ユウトが叫んだ。

「それでも僕は、本当の自分でいたい!」

彼の体から、今まで見たことのないほど鮮やかな虹色の光が放射された。

「母さんが苦しんでいるのを見るのは辛い。友達が傷つくのも悲しい。でもその気持ちがあるから、僕は誰かを守りたいと思えるんだ」

光がどんどん強くなっていく。

「美月を愛しているのも、みんなと友達でいたいのも、全部僕の本当の気持ちだ。それを管理されたくない!」

冷川の灰色のオーラと、ユウトの虹色の光が激突した。

仮想空間全体が震動する。

「美月!」

ユウトが叫んだ。美月は父親とユウトの間で、苦しそうに立ちすくんでいた。

「私……どうすれば……」

その時、美月の心の中で何かが決まった。

「私の答えは決まってる」

彼女がユウトの隣に立った。

「父さん、あなたは間違ってる。私は……私は自分の感情を信じる」

美月の体から、美しい桜色の光が立ち上った。愛情と決意の光だった。

「美月……」

冷川の表情に、一瞬の動揺が走った。

「娘よ……なぜこの少年を選ぶ」

「父さんも昔はそう言ってたじゃない。母が生きてた頃は」

美月の声が震えた。

「『感情があるから人間は美しい』って。母を愛してた父さんは、今の父さんより輝いてた」

冷川の灰色のオーラが一瞬揺らいだ。

「あれは……若気の至りだった……」

「嘘よ!」

美月が叫んだ。

「母の死で傷ついて、その痛みが怖くなっただけ! でも痛みから逃げるために、みんなの感情を奪うなんて間違ってる!」

ユウトと美月の光が合わさり、さらに強力な輝きとなった。

冷川の灰色のオーラとぶつかり合い、仮想空間全体が震動する。

「君たち……まだ若い……いずれ分かる……」

冷川の声に疲労が滲んでいた。

「分からない!」

ユウトが叫んだ。

「僕は一生分からない! 痛くても、悲しくても、それが僕の本当の気持ちだから!」

彼の虹色の光がさらに強くなる。

「人を愛することも、友達を大切に思うことも、母さんを守りたいと願うことも、全部僕の感情だ! それを管理されて、何が幸せなんですか!」

冷川の巨大な姿が、徐々に小さくなっていく。

「私は……私はただ……みんなを……」

美月が優しく言った。

「もう十分です。長い間、一人で背負いすぎたんです」

冷川の灰色のオーラが消えていく。代わりに、かすかな温かい光が見えた。

「美月……すまなかった……」

冷川の姿が透明になっていく。

「お前の選んだ道を……信じよう……」

完全に消える直前、冷川が小さく微笑んだ。それは久しぶりに見る、父親としての優しい顔だった。

仮想空間に静寂が戻った。

AI兵士たちも全て消えている。

ユウトと美月は手を取り合い、宙に浮かんでいた。

「終わった……」

美月が呟いた。

「ううん。これからが始まりだよ」

ユウトが答えた。

二人の周りで、仮想空間がゆっくりと変化していく。無機質だった回路が、温かい色合いを帯び始めた。

「システムが変わってる」

美月が驚いた。

「強制機能が停止してる。でも医療支援機能は残ってる」

「父さんが最後に……」

美月の目に涙が浮かんだ。

システム空間の出口が開いた。

「戻ろう」

二人の意識が、現実世界へと向かっていく。

第二段階、システム中枢戦は終了した。

冷川登との最後の対話が、次の段階への扉を開いたのだった。


冷川登の姿が完全に消えた後、仮想空間に深い静寂が訪れた。

ユウトと美月は宙に浮かんだまま、手を握り合っていた。周囲の電子回路は美しく輝いているが、どこか寂しげだった。

「これで終わり……なのかな」

美月が呟いた時だった。

「まだだよ、孫よ」

温かい声が響いた。

ユウトが振り返ると、そこに見慣れた顔があった。写真でしか見たことのない祖父の姿だった。

「おじいちゃん……」

祖父のAI人格は、現実の祖父より若々しく見えた。研究者らしい白衣を着て、優しい笑顔を浮かべている。

「よく来てくれたね、ユウト。そして美月ちゃんも」

美月が深く頭を下げた。

「おじいさま……父がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「謝る必要はないよ。登も、人類を救いたいという気持ちは本物だった。ただ、方法を間違えただけなんだ」

祖父が二人に近づいてきた。

「それより、君たちに最後の選択をしてもらわなければならない」

システム空間の中央に、巨大な制御装置が現れた。無数のスイッチとモニターが複雑に配置されている。

「これがマインド・シンク・システムの中枢制御装置だ」

祖父が装置を指差した。

「君たちには三つの選択肢がある」

三つのパネルが光った。

「一つ目:システムの完全破壊。全ての機能を停止させる。ただし、副作用として全人類の感情が一時的に麻痺状態になる。回復には数ヶ月かかるだろう」

最初のパネルが真っ赤に光る。

「二つ目:システムの完全な改良。ユウトが新しいシステムの管理者となり、人類の感情を理想的にコントロールする」

二つ目のパネルが青く光った。

「三つ目:部分的な改革。強制機能のみを除去し、医療支援機能は残す。人々に選択の自由を返すが、社会は大きな混乱を迎えるだろう」

三つ目のパネルが緑色に光る。

ユウトは迷わず言った。

「三つ目です」

「待って」

美月が手を上げた。

「三つ目を選んだ場合、どんな混乱が起きるの?」

祖父の表情が曇った。

「人々は突然、本当の自分の感情と向き合うことになる。今まで抑制されていた怒り、悲しみ、恐怖が一度に押し寄せる。交通事故、職場でのトラブル、家庭内の争い……様々な問題が発生するだろう」

「それでも僕は三つ目を選びます」

ユウトの声に迷いはなかった。

「人間は不完全でいいんです。完璧に管理された幸せなんて、本当の幸せじゃない」

祖父が微笑んだ。

「君らしい答えだ。でも、代償がある」

「代償?」

「君の感情読解能力は大幅に弱くなる。場合によっては、完全に失うかもしれない」

ユウトは美月の手を握った。

「構いません。本当の力は、能力じゃなく、心のつながりだから」

美月も頷いた。

「私も同じ気持ちです」

祖父が感慨深そうに言った。

「君たち二人を見ていると、私が本当に作りたかったものが分かる」

「作りたかったもの?」

「人工知能じゃない。人と人との本当の絆だ」

祖父の姿が少し透明になり始めた。

ユウトが尋ねた。

「おじいちゃん、最後に聞きたいことがあります」

「何でも聞いておくれ」

「僕の能力は、本当に偶然だったんですか?」 祖父が苦笑いした。

「偶然……とも言えるし、必然とも言える。君の父親にも同じ能力があった。我々の血族に代々眠っていた遺伝的な特性が、マインド・シンク技術の発達と共に覚醒したんだ。私がマインド・シンクを開発し始めた頃から、彼の能力も徐々に強くなっていった。まるで人類の進化が、この技術への対抗手段を自然に用意していたかのように」

ユウトの胸が締め付けられた。

「父さん……」

「君の父は立派だった。能力があることを知りながらも、それに頼らず人間らしく生きることを選んだ。そして若くして亡くなった。君もその高潔な血を受け継いでいる」

祖父がユウトの肩に手を置いた。

「能力を失っても、君は君だ。それを忘れてはいけない」

制御装置の三つ目のパネルが強く光っていた。

「さあ、決断の時だ」

ユウトと美月が手を重ね合わせた。

「一緒に押そう」

「ええ」

二人の手が、緑色のパネルに向かった。

その瞬間、システム全体が激しく震動した。

「始まったね」

祖父が静かに言った。

「世界中のマインド・シンクから、強制機能が除去されていく」

モニターに世界各地の映像が映し出された。人々が突然立ち止まり、困惑している様子が見える。

「パニックが始まってる……」

美月が心配そうに言った。

「でも見て」

ユウトが別のモニターを指差した。

そこには、初めて本当の感情を取り戻した人々が、涙を流しながら抱き合っている姿があった。

「みんな、本当の自分を思い出してる」

祖父の姿がさらに透明になっていく。

「私の時間も終わりのようだ」

「おじいちゃん……」

「大丈夫だよ、ユウト。君たちがいれば、新しい世界はきっと素晴らしいものになる」

祖父が最後に言った。

「感情は混乱の源ではない。愛の源なんだ。それを忘れずに」

完全に透明になる直前、祖父が温かく微笑んだ。

「ありがとう、孫よ。君は私の誇りだ」

祖父の姿が光となって消えていく。

同時に、仮想空間も崩壊を始めた。

「急いで戻ろう」

ユウトと美月の意識が、急速に現実世界へと引き戻されていく。

最後に見えたのは、世界中で輝く人々の本当の笑顔だった。

システムの強制機能は完全に除去された。

人類は再び、自分自身の感情と向き合うことになった。

そして、本当の自由を手に入れたのだった。

第三段階、祖父との対話は完了した。

今、新しい世界の始まりを告げる光が、仮想空間を包み込んでいる。


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