*21* おや? 少年の様子が……
「またやってしまった……流されてる、津波のごとくイケイケノアくんに押し流されてるぞ、リオさん……」
真っ昼間からやらしい雰囲気に飲み込まれて、帰ってこれなくなるところだった。危ねぇ。
あれからなんとか正気を取り戻したわたしは、逃げるように外出の準備に飛びかかった。
すかさず「ギルドに行くんでしょ? 俺も行く」と涼しい顔で寝間着を脱いで、着替え始めるノアくん。
そうだよね、そう言うと思った。平然と着替えるのやめてね? 一応わたしという異性がいるんだけどな……
「異議あり! ふたりっきりのときの距離感が近い、ほぼゼロ! キスがいちいちやらしいです! 干物女にゃきついので、勘弁してもらえませんでしょうか!」
──とは、本当なら昨日のランチのあと、ノアと腹を割って話し合い、カミングアウトする予定だった言葉だ。
ライブラリーでキスされた以降の記憶が曖昧なところをみると、腹を割って話す前に精気を吸い取られて、やらしい雰囲気に流されちゃったみたいなんですが。
(あと口移しで魔力供給とか、どこのエロゲーだよ!)
インキュバスだからなの? これもインキュバス・クオリティーのお話なの?
窓際の壁にもたれ、腕組みをしてうんうんうなっていたら、シャツを着たノアが視界を横切る。
動くものに反応してしまう小動物みたいに、つい目で追ってしまったわたしは、クローゼットから黒ローブを取り出すノアの背中を目にして、ハッとした。
「あれっ、ノア……? ちょっとまって……」
「うん? 俺がどうかした?」
「気のせいかな……こっち来てくれない?」
わたしをふり返ったサファイアの瞳が、ぱちぱちとまばたき。
首をかしげたままのノアが、言われたとおりに歩み寄ってくる。
「これは……うん、気のせいじゃなかった。ねぇノア!」
じーっと見上げて、確信したわたしは、満を持してノアを呼ぶんだけど。
「ふふっ」
ぎゅっ。
なぜか、はにかんだノアにハグされた。
「って、なんでやねーんっ!」
「だって、目の前にリオがいたから」
「たのむから話をきいておくれーっ!」
ご満悦なお顔でほおずりをしてくるノアを、なんとか引き剥がそうとして、引き剥がせなかった。
やっぱり、間違いない!
「ねぇノア、なんかいつもと違うって思うこととかない?」
「いつもと違うこと? たとえば?」
「そうだね、たとえば、なんか目線が高い気がするとか!」
ほぼ答えなんだけど、これ。
そう、わたしが気づいたノアの異変……それは。
「身長、高くなってる! 声もちょっと低くなってるの!」
美少年から、美男子へ。
おとなっぽく成長したその変化に、ノア本人が、きょとんと首をかしげていた。