まさか自分が?
洗濯物が!
人の騒めき声がする。
気が付いて起き上がると広く薄暗い部屋に居て、何人か遠巻きにしている。その人達の服装が違う。現代日本においてこの服装はコスプレと言うが、この状況下ではアウェー感たっぷり。
これ、このパターンは異世界召喚か?
40年近く(それ以上だが、大体それぐらいだ)平々凡々の人生を送り、普通に結婚して子供は男の子が1人。一般の中ではオタクよりで漫画とアニメとライトノベルを愛する、パートに従事しているごくごく普通の主婦でしか無い。
大体異世界に召喚されるのは特別な力を持つ聖女や勇者資質の若者だ。たまに一般人が巻き込まれる。
あ、それか。そっち枠でこれか。
ここは腹を据えるしかないのか?
ざわざわ言う声の言っている事はわかる。言葉は通じそうだ。この状況で言葉通じなかったら、状況把握がより難しい。
「え? ここは?」
女子高生は呆然としている。どうやら異世界召喚とか異世界転生とかの基礎知識がないらしい。
「大丈夫? 怪我とか無い?」
声を掛けると、縋るような表情を浮かべた。基礎知識なしでこの状況は不安だろう。基礎知識があっても正直、不安しかない。
「はい。あの、ここは?」
「あのね、落ち着いて聞いてね。多分だけど、ここは異世界で、周りの言っている事から察すると聖女召喚であなたが呼ばれたみたいなの」
「え? じゃあ、おばさんは?」
「どうも、巻き込まれちゃったみたい」
「そんなんで、一緒に来ちゃうの?」
「来ちゃったみたいよ」
「そんなのアリ?」
異世界召喚物ではアリなんだよね。
「よろしいですかな」
年齢、装飾等から推測すると宰相かそれ同等と思われる。手入れの行き届いた豊かな髭は、身分が高い事を表している。
その後ろに兵士がいる。
思わず女子高生を自分の後ろにした。親として、子供を守るのは本能だ。ましてや他所様のお嬢さんに、何かあってはならない。
「聖女様とお話しさせていただきたいのだが」
「こちらではどうなのか知らないけど、この子はまだ子供とされる年齢。対応は私がします」
「お呼びしたのは聖女様だけなのですが」
「なのに私も呼ばれたのはそちらの落ち度でしょう。混乱している子供を言いくるめるのは容易いなのでは?」
そう言うと、口元が少し動く。満更的外れでも無いようだ。
「どんな理由があろうと、一方的になされた行為と巻き込まれた私に対して最大限の説明と配慮がなされるべきでしょう」
と、私の腕を掴んだ女子高生が背中に顔を埋めた。正直いろいろ不安や思う事はあるが、今はこの子を守る。
となれば、ハッタリも武器。
「こちらではどうなのか知りませんが、成人前の子供には女性の保護者が付き、その権限は重視されます。まずは私を通して貰います」
周囲がざわつく。どうやら男性よりも女性の発言が重視されている世界から来たと思わせる事には成功したようだ。PTAで苦労された経験がここで役に立つとは。女ってだけで行政の手続き留まりがちになる。翌年はお父さんを(名前だけ)会長においたらスイスイだもんね。
「あの、聖女様と」
「だから、まず状況説明と言っているでしょ! 話聞いています?」
無茶苦茶周囲の空気が固まる。
「話をするならまずこの人を通してください。じゃなきゃ聞きません」
聖女の言葉は絶対なのだろう。その証拠にこの言葉以後誰も何も言わない。
「今更だけど、名前を聞いてもいいかな?」
「はい、小早川舞です」
「舞ちゃんね、私は渡辺佳代、よろしくね」
「佳代さん。ありがとうございます」
すぐにお礼が言えるのは、親御さんはしっかりした方なのだろう。
「舞ちゃん、いい子ね。おばさん頑張るわ」
「お願いします」
振り返るとローブを纏った人達が何やら相談している。
どうにかして帰らないといけない。でも、足元の魔法陣はもう光らない。
その中から、若い男性がこちらに来た。どうやら交渉相手に任命されたのだろう。金髪、碧眼の美丈夫で長い髪は一つに束ねている。
こんな状況でなければ黄色い声の一つ上げただろうが、そんな余裕はない。
「一つご提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんでしょう」
「場所をご用意いたします。ここは冷えますし、話し合う場としても相応しくありませんので」
舞ちゃんに目で問うと頷いた。確かにここは少し寒い。
「応じましょう」
女の子に冷えは厳禁。私は多少ではない皮下脂肪で守られているが、まいちゃんはちょっと細すぎに見える。心配なだけで羨ましいわけじゃない。
洗濯物は?




