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魔法の特訓

 慎とリムリックが剣術の特訓に励むのと時を同じくして、ディアーナはレイシュと共に協会(ギルド)裏にある魔法の訓練場に来ていた。


「ディアーナは~魔法についてどのくらい知ってるのかな~?」


 レイシュは小首をかしげディアーナに尋ねる。時折、フードの下でピコピコと耳が動き、ふわりと揺れる尻尾が外套をゆるやかにはためかせる。


「どのくらいっていってもね。ほとんど知らないわよ。てか私の場合、魔法なんていう人類の技術なんか必要なかったもの。神々の権能があればね」


「でもその権能って今は使えないんでしょう~?」


 ディアーナは得意げに胸を張って答えるが、間髪入れずにレイシュから突っ込みが入った。痛いところを突かれたディアーナは引きつった笑みを浮かべることしかできない。


「ていうかその設定まだ引っ張るのね~」


「設定じゃないわよ! 私は神なの!!」


「はいはい~神様ね~」


「ちょっ!? 聞いてるの!?」


 ムキになって反論するディアーナだが、レイシュは手をひらひらと降って適当にあしらう。相変わらずディアーナは神を自称するちょっと頭のアレな人扱いだった。


「それじゃ~時間ももったいないし話を先に進めようかな~」


 ひととおりディアーナをからかって満足したのか、レイシュは適当に落ちていた木の枝で地面にがりがりと何かを描き始めた。


「私の話はまだ…って、何よそれ?」


 ぷりぷりするディアーナだったが、レイシュが地面に何やら描き始めたのを見ると、途端に興味が惹かれたのか覗き込むようにそれを眺める。


「ん~これはね~魔法陣~」


 鼻歌交じりにレイシュは慣れた手つきで地面に魔法陣を描く。六芒星が二重丸で囲まれ、空白部分にはなにやら見慣れない文字が刻まれている。


「戦闘中にそんなのいちいち描いてる暇なんてないでしょ?」


 ディアーナの疑問ももっともである。魔物にしろ人間にしろ、襲い来る敵を前に悠長に魔法陣など描いていたら、瞬く間に命を刈り取られてしまうだろう。


「実戦では~こんなのいちいち描かないわよ~。大規模殲滅魔法とかなら別だけど~こんなの描いてるうちに死んじゃうし~」


「ならどうして?」


「魔法は~自然や体内にある魔力を操って発動するんだけど~最初は大地にある魔力を感じ取るのが一番わかりやすいのよね~。慣れてくれば魔力を瞬時に魔法に変換して放つことができるようになるの~」


「へー、魔法ってそうやって発動してんのねぇ」


 そうこうしているうちに魔法陣が完成し、その中心部にレイシュが杖を突き立てる。


「はい、完成~!ディアーナ、この杖に触れてみて?」


「杖に?いいけど…」


 ディアーナはレイシュに言われるまま、杖を手にする。ざらつく表面のように見えて、しっかり手入れされているようで手触りはいい、などとディアーナは思う。


「それで?どうするの?」


「目をつぶって~」


「こう?」


 言われるがままにディアーナは杖を両手で握り、目を瞑る。


「そのまま~集中して周りのあるがままを感じ取るの~」


 訓練場に居るほかの訓練生が放つ魔法の轟音、風の吹く音、自身の心臓の鼓動、土の匂い、鳥のさえずり。ありとあらゆる事象に、ディアーナは意識を傾ける。

 

「足もとになんかあったかいのを感じない~?」


「足元?」


 ディアーナはさらに意識を集中させる。わずかにだが、確かにじんわりと足元に何かを感じなくもない、とディアーナは思う。


「あー、なんとなく?あったかい?ような?」


「よしよし~魔力を感じるのは大丈夫みたいだね~」


「それで、こっからどうすんのよ?」


 杖を握ったままディアーナは問う。レイシュは耳をピコピコさせながら答える。


「まずは~、そのまま~足元のそのあったかいのを全身に流す感じかな~」


「全身に、流す?」


 ディアーナは再度足元に意識を集中させる。足元からは変わらず魔力のあたたかさを感じるものの、それが動く気配は微塵も感じられない。

 目を閉じ、必死で魔力を動かそうとするも、うんともすんとも言わない。


「ちょっと、これほんとに動くの!?なんも反応しないんだけど!?」


「動くよ~、ま、そこが一番難しいんだけどね~。魔力操作できるまでひどいと年単位でかかる人もいるからね~」


 わめくディアーナに対して、レイシュはさらっと答えた。すべての魔法の基本となる魔力操作。魔力を操作できてこそ魔法が発動できるわけだが、その魔力操作が一番手間取るところだった。かつて、レイシュ自身、魔力操作ができるようになるまで半年近くかかったのだ。それを、魔法を習い始めたばかりのディアーナが一朝一夕に会得できるはずもない。


「は!?そんな時間かけてらんないわよ!?」


「じゃあ~頑張るしかないね~。ここで本でも読みながら観察してるから頑張ってね~」


 言うが早いか、レイシュは訓練場の備え付けの椅子を引っ張り出し、杖を握るディアーナの横に置くと、ドカッと腰かけて本を読み始めるのだった。


「いいご身分ね!!」


「怒ってる暇があったら集中集中~」


「----っ!!わかったわよ!!」


 これが指南になるのか、といまいち納得できないまま、ディアーナは再び杖に意識を集中させるのだった。

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