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野良パーティのはぐれ神官 その10

 段々と、このパーティで過ごす時間が楽しくなってきた。

 もちろん強いから、サクサク進んでいるからというのもあるが……。


「おおおおお……300階が見えてきたぜ! マジか!」

「夢みたい……ちょっと自分の貢献度低いのが気になるけど」


 心地いい空気を作り出してくれているのは、このロクさんとパンダさんの二人だ。

 パーティへの貢献という意味なら、これ以上に必要なものは何もないだろう。

 現在地は289階。

 階層毎にランダムなスタート位置――次の階段までの距離に恵まれたことで、アイテム残量には余裕がある。

 総戦闘数が抑えられたことで、渡り鳥でチャレンジしたときより時間もかかっていない。


「ハインド。この先は造りが特殊になると聞いているが……?」


 疲れを一切見せないメディウスが、この先の階層について気にかけ始める。

 野良パーティで、あまり他のプレイヤーに情報を開示するのはよしとされないが……。

 今のように目前まで来てしまえば、話は別だ。

 この中に途中離脱する気配があるメンバーはいないことだし。


「掲示板にも出ていない情報なのに、よく知っているなぁ……メディウスは」

「え、何々? 何のこと?」

「へ? 同じ構造の繰り返しじゃなくなるのか!?」


 ということで、俺は情報を開示しながら進むことにした。

 フィリアちゃんも熱心に聞いている辺り、鏡の回廊については知らなかったらしい。

 しかし考えようによっては利敵行為だよな、これ……。

 敵に塩を送っているに等しい。

 特に、ユーミルと攻撃スコアで競っているメディウスに対しては。


「……ハインド? どうした?」

「あ、いや。何でもない」


 きっと、ユーミルなら許してくれるだろう。

 今のメディウスは俺にとって味方なのだし、本人にユーミルと競っている意識があるのかどうかも不明だ。

 ……このパーティでの挑戦が終わってログアウトしたら、未祐には速攻で声をかけに行く必要があるが。


「要衝になるのは、やっぱりボスフロアである300階。291階からの分裂ボスは……最初は戸惑うだろうけど、慣れれば大丈夫。で、このメンバーでのボスフロア攻略となると――」




 それから時間が過ぎて、山場の300階層。

 コピーされる対象が変われば、強さも戦い方も変わってくる。

 非常に申し訳ないのだが、平均以上の強さを持つロクさんでもフィリアちゃん・メディウスに比べるとやはり戦力的に穴だ。

 故に、そこを突破口に、回復役である俺のコピーを――


「やっべえ、また復活した! ハインドのコピーまで辿り着けねえ!」

「早い、蘇生が早いよぉ! どうなってるのー!」


 コピーを……駄目そうだな。

 野良パーティということで、大まかな攻略法の提示に留めて細かな指示などはしていない。細かく口を出して鬱陶しく思われるのも嫌だったので。

 戦闘中にミスがあっても少しずつ削って倒せばいい普通の敵とは違い、回復という要素があると途端に難易度が上がる。

 一度のミスで敵パーティがフル回復、などということがここまでに数度起きてしまっている。


「うおおおおお! メディウスのコピー(つえ)え! フィリアのコピーは地面すれすれで来るから見えねえ!」

「私のデバフ、すぐにハインドのコピーにディスペルされちゃうんだけどー! 何したらいいのこれ!?」


 やいのやいのと、もうセットと呼んで差し支えない二人が騒ぎ立てる。

 そしてフィリアちゃんとメディウスがそれを黙々とフォローという形だ。

 こうパーティ内で実力差があると、腕の上下問わず文句を言う人が出てくるものだが……。


「悪い、メディウス! 助かった!」

「ああ。立て直していこう」

「フィリアちゃん、ありがとう! 今のうちに下がるね!」

「うん」


 フォローされている側は感謝を。

 フォローしている側は寛容な心を。

 いいなぁ、このパーティ……フォローされている側なのに更なる要求を、フォローしている側が嫌な顔して文句を言う、なんてギスギスパーティとは訳が違う。

 一部の固定パーティならありふれた光景でも、滅多にこうはならない野良パーティで行き当たることができると、まるで――まるで、掬い上げた砂の中から砂金を見つけたような幸せな気分になる。


「……ンド! ハインド!」

「はっ!?」


 メディウスの呼びかけに、沈み込んでいた意識が急速に浮上する。

 いかんいかん、苦戦中に考えることじゃなかったな。


「もー、どうしたの!? しっかりしてよ!」

「でも、ボーっとしながらちゃんと支援していたぞ、ハインドのやつ!?」

「ハインドだから……」


 久方ぶりにまともに喋ったフィリアちゃんも含めて、総ツッコミを受けてしまった。

 しかしながら、これはボーっとできる位に前衛三人がしっかり敵を止めてくれているという証拠でもある。

 まだまだ勝機は充分にあるだろう。


「ハインド、どうする?」


 と、これはメディウスによる問いかけだ。

 どうする、と問うメディウスの目には気のせいか……「一人で片付けることも可能だが?」と言外に含んでいるように思える。

 同時に遠慮のような、スタンドプレーよりも全員でどうにかしたいという複雑な意志のようなものも――うぅむ。

 全て俺の勘違いということも有り得るが、何だろうか?

 何かメディウスの様子、妙な感じだ。

 そんな俺を見てどう思ったのかは不明だが、メディウスがこちらの思考を遮るように言葉を続ける。


「何かあるなら、指示に従うが。言ってみてくれ」


 従うったってな……野良パーティで指示出しを?

 そう思い周囲に目をやると、まるで何度も組んだ固定パーティのように――ほとんど同時に頷きが返ってきた。

 俺は驚き、目を(みは)る。


「メディウスの言う通りだぜ! お前にだったらあれこれ言われても苛立たねえ! 何か打開策があるなら遠慮せず言ってくれよ!」

「っていうか、指揮能力高いのに何でやらないのかなーって……あ、野良だからか。私もハインドの指示だったら、全然いいよ!」

「……」


 これ以上、何か言う必要が? とばかりに敵コピーを吹っ飛ばしてから胸を張るフィリアちゃんが面白くて、俺は少々噴き出しそうになる。

 まぁ、何だ……全員がそう言ってくれるのなら、構わないか。

 固定パーティとは勝手が違う気恥ずかしさから、少々ぎこちなくみんなに呼びかける。


「そっか……で、では、コホン。失礼しまして」

「おっ!」


 来た来た、というロクさんの声と表情がこそばゆい。

 戦いながらであり急造パーティでもあるので、指示は素早くシンプルに。

 難しいことはなしだ。


「ここからは、前衛三人のヘイトを動かしてマンツーマン気味で行きましょう。ロクさん、しばらくヘイトを下げつつ敵をブロックで」

「おう!」

「ヘイトがある程度まで下がったら、フィリアちゃんのコピーの足止めをお願いします」

「おう! ……おう? マジか!?」


 そう言いたくなる気持ちは分かるが……。

 確かにフィリアちゃんのコピーは強い。非常に強い。

 だがロクさんは「やらない」とも「無理」とも言わなかったので、俺はそのまま次の指示に移ることに。

 パンダさんは――


「パンダさんはとにかくデバフを撒き散らしてください。対象は分散させて、なるべくコピーハインドのディスペルがWTで使用不能になるように」

「わかった!」

「ただし、ガードダウンだけは温存しておいてください」

「わかっ……意図はわかってないけど、指示内容はわかった!」


 いい笑顔で親指を立ててくれた。

 ヘイトを稼ぎ過ぎて狙われないようにだけ念を押し、次は――


「メディウス」

「ああ」

「自分のコピーの相手をしつつ、後衛の妨害頼めるか?」


 正直、一番負担が大きい指示――というか、お願いだ。

 自分と同じ能力の相手を抑え、且つ敵後衛の抑え込みまでやってくれというのである。

 しかし、メディウスは俺に対して笑みを浮かべたのみで、事もなげに答えた。


「任せてくれ」


 即答か……何て頼もしいやつなんだろうか、全く。

 もしかしたらメディウスが温存している本気が見られるかもしれない、という期待が少しあるのは否定できないのだが。

 ――さて、最後はフィリアちゃんだな。

 ロクさんへの支援魔法の詠唱を並行してやりつつ、なるべく分かりやすい指示を頭の中で練ってから口を開く。


「フィリアちゃんは……まず、ロクさんコピーを倒して――」

「……」


 うんうんと素直な頷きが返ってくる。

 ロクさんがヘイトコントロールを上手くやったのか、寄ってきたロクコピーをフィリアちゃんが適当な動作で吹っ飛ばす。

 ……うん。


「しかる後、フリーになった俺のコピーを倒すのがフィリアちゃんの役目になる。お願いできるかな?」

「………………」


 今度は頷きが中々返ってこない。

 というか、ちょっと嫌そうにしてくれているのは……何だか嬉しくもあり、微笑ましくもあり。

 反面、みんなが動き出したこのタイミングでは非常に困る。


「ま、まぁ、あれだよ。元々俺たちって、闘技大会でどつき合った仲じゃない? それに、俺は自分のコピーが粉砕される姿はもう見ているしさ。気にしないでよ」

「………………嫌いにならない?」

「き、嫌わない! それが原因で嫌ったりしないから! 本当に大丈夫だから!」

「………………分かった。やる」


 言葉を尽くし、どうにか寡黙な少女の承諾を引き出すことができた。

 フィリアちゃんは俺の目を数秒見てから斧を持ち直し、髪を揺らして敵に向き直る。

 そのまま駆けだすフィリアちゃんに続いてロクさんへの支援魔法を解き放つと、俺はメンバー全員の状態を見渡せる位置に向けて移動を始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素直クールロリはさいつよ [気になる点] 一人でなんとかできると言っているように感じた(言ってない) メディウスの強キャラ感でそんな感じがしてしまうんだろうが、この高レベル帯のボスを一人で…
[一言] 嫌いにならない?って聞いてくるフィリアに萌えるのは 正常だよね?
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] おお〜…フィリアちゃんエエ子やぁ。 何処かの腐れ忍者とはエラい違いやぁ(笑)
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