野良パーティのはぐれ神官 その9
「……」
俺たちの少し先を、固定パーティが通り過ぎていく。
最終日というのもあってか、横目でこちらの姿を認めはしたものの……急いでいるのだろう。
特にリアクションをせず、足早に離れていく――かに思われた。
「……!?」
しかし野良パーティの証、ネームの先頭にあるマークを見て停止。
目を丸くして二度見した後、コソコソとパーティメンバー同士で話をしながら歩調を緩めて遠ざかっていった。
……いや、何もそんなに首を捻らんでも。
「あっはっは! 見たかよ、あいつらのあの顔! この階で野良は、そら珍しいだろうなぁ!」
「ロクったら、自分の手柄みたいに……ねぇねぇ、ハインド。大丈夫かなあ?」
「何がですか?」
みんなから預けられた沢山のアイテムを整理しながら、パンダさんの問いに視線を向ける。
珍しいといえば、こうやって多量の回復アイテムを融通し合うのも野良では珍しい。
預けられたアイテム係の持ち逃げ、所持数の誤魔化しなどで争いの種になりやすく……。
融通し合うにしても、野良においてはリスクの低い少量ずつが基本だ。
もちろんアイテム使用量にはパーティ内の役割・職ごとに差があるので、理想は今のように適宜分け合う形となるのだが。
「何がって、PKだよ。あいつら、野良を好んで狙うって話じゃない? 私たち、野良パで目立つから狙われるんじゃないかなあ?」
「ああ……」
最後にPKの襲撃を受けたのが大分前なので、もうすっかり頭の中になかったが……。
確かに、上層にも――いや、上層にこそ気合の入ったPKたちが生息しているのだとか。
例によって初心者救済のため、時間経過と共にセーフティゾーン……PK禁止エリアも徐々に上昇。
現在、PKが最も活発なのはPK可能となる中層の下の辺りとなっている。
PKKも大量に湧いているらしく、俺たちスコアアタック組とはまた違った戦いが繰り広げられているとかいないとか。
俺たちの固定パーティ、途中からは普通よりずっと攻略が早かったからな……会っても他のランカー込みの攻略組ばかりで、PKとはついぞ縁がなかった。
……と、考えを巡らせたところでパンダさんに視線と答えを返す。
「そうですね。並のPKたちなら、こんな上層にいる野良パーティ……気味悪がって近付かないかもしれませんが」
「え? が、って……続きがあるの?」
「まあ、はい。どの道、こんな上階までわざわざ出張ってくるPKたちも変と言えば変なので……かえって、面白がって寄ってくるかもしれませんね」
「結局結論は一緒なの!?」
寄ってくる理由こそ違えど、狙われることに変わりないと思う。
具体的には「野良パーティなら弱そうだから狙おう」ではなく、「珍しいからちょっかいかけてみよう」となるわけだが。
そんな話を聞いて、ロクさんが腕を組みつつ笑みを浮かべる。
「何か、あれだな! そうやって噂をしていると、今にもPKが湧いて出てきそうだな!」
「やめてよー、ロク。私、対人戦苦手なんだよね……なんか怖くて」
「ほら、そこの通路の角から――」
「やめてってば!」
手を振り上げるパンダさんと、逃げるロクさん。
仲いいな……と、俺が見ていると、フィリアちゃんがそっと手を握ってくる。
い、いや、別に寂しがっていないよ?
気遣ってくれる仕草が可愛いので、されるがままにしておくが。
「ハインド……この状態、俺だけ仲間外れだと思わないかい?」
不意に、手持ち無沙汰になったメディウスが肩を竦めながらそんなことを言い出す。
俺はつい出てしまった意外な面持ちでそれを見ると、口調を崩しつつ笑みを返した。
「じゃ、メディウスは俺と手を繋ごう。これで仲間外れはどこにもいないな!」
「よし来た!」
拒否される前提での提案なのだが、しっかり乗っかってくるメディウス。
手を伸ばしかけた体勢で、じっと見つめるフィリアちゃんの視線を受けて途中停止。
「ははっ、冗談。冗談だよ」
「……」
別に構わないのに、といった様子のフィリアちゃんだったが……。
メディウスはそう受け取らなかったらしい。
そりゃあ、会って少しではそうなるよな。
慣れてくると、この無表情の下にある感情豊かで愛らしい一面が見えてくるのだが。
それにしても……今のやり取りで、俺の中のメディウスに対する印象が変わった気がする。
「おい、お前ら! 笑っていないで助けてくれー!」
「待てー!」
まだ、あれだけ騒ぐ元気がある二人の印象は最初の通りだが。
若干バカップル化しつつあるロクさんとパンダさんに、フィリアちゃんは不思議そうな顔を。
俺とメディウスは揃って肩を竦めるのだった。
そんなやり取りを経てから、およそ……二十分ほど後だろうか?
事前に噂をしていたのがまずかったのか、はたまた人の多い最終日だからか。
背後からの奇襲という形で、そいつらはやってきた。
「はがぁっ!?」
――ただし、それを避けて繰り出したメディウスの裏拳。
それを顔面にめり込ませながら、という形ではあったが。
俺はPKの襲来とメディウスの反応の鋭さ、両方に驚きながら慌てて杖を持ち直した。
どこまでハイスペックなんだ、この男!?
「ぐ、お……なるほど、こんなとこまで野良で上れるわけだぜ……」
片手で鼻を抑えた男が、もう片方の手で後ろのPKたちを制止する。
こいつがリーダーか……。
逃げ出さないところを見ると、どうやら奇襲が失敗してもPK行為は続行するつもりらしい。
「今のカウンターを受けて怯まないか。ハインドの言う通り、並のPKとは違うようだ」
「……ハインド? そこの神官のお前、あのハインドなのか!? 勇者の本体の! ははは、そいつはいい!」
名を呼ばれ、視線が集まる俺の横から一歩前に出る小柄な少女。
フィリアもいますよ、という感じで斧を床に打ち付け無言のアピールをしていく。
「うお!? フィリア!? ってことはアルベルトは……さすがにいねえか」
「ちっ……どうせなら親父のほうと戦ってみたかったぜ!」
「ケケ、違いねえ」
どれだけ個人の評価が上がっても、やはりこういったことを言うプレイヤーは存在する。
むっとした様子のフィリアちゃんに、それとなく察したロクさんが大きな声を上げた。
「おうおう、何だこの野郎! お前らなんかフィリアちゃんが出るまでもねえ! 無名の俺で充分だ!」
「そうだそうだー! 無名の俺たちが相手になってやらあ!」
「そうだそうだー! ……って、ハインドは有名な側でしょ! 何しれっと混ざってんの!?」
「はい?」
そんなロクさんを始めとする声に、PKたちは野卑な笑い声と共に益々戦意を滾らせ……。
どうやら嫌がらせや略奪主体ではなく、血の気が多い性質のPKパーティのようだ。
――しかし、いざ戦闘になって俺が再度驚かされたのは……やはりメディウスの戦いぶりだった。
ユーミルと同じ騎士の攻撃型でも、戦闘スタイルがまるで違う。
「こ、こいつ……!」
「ふ、懐だ! 中に入り込めば、なんとかなる!」
得物が槍ということもあるのだが、相手を寄せ付けない間合いの取り方が抜群に上手い。
高い攻撃力をちらつかせながらの牽制も効果的で、職との相性も申し分なし。
重戦士ならば、この牽制の間にチャージスキルを見せることで、よりプレッシャーを与えることもできるのだが……メディウスの戦い方には合っていないか。
先程までのPvE時の立ち回りから分かる通り、メディウスは足を止めずにポジションチェンジを多用するタイプだ。
だからこそ、重戦士よりもスキルに瞬発力のある騎士を選択したのであろうことは想像に難くなく――
「なっ……!?」
「後ろからフィリアだとぉ!?」
隙を突いてメディウスの真後ろから出たフィリアちゃんが斧をぶん回し、注意が逸れた瞬間。
メディウスが素早く敵パーティの視界から消える。
そして側面に回り込むと――『スラッシュ』『ヘビースラッシュ』、そして『バーストエッジ』の三連撃で次々と敵を撃破。
どれも敵の残存HPを見切ってのスキル使用である。
残った二人はフィリアちゃんが片付け、駆け足で戻ってくると無言で俺に向かって手の平を掲げてくる。
「お疲れさま。強いなー……二人とも」
手の平を合わせてあげると、フィリアちゃんは満足そうに斧を下ろした。
あのPKたちは決して弱くなかったのだが……あまりにも相手が悪かったようだな。
「マジでなにもんなんだ、アイツ……!? っていうか、ほぼ俺が活躍する間もなく戦闘が終わったんだが!? 出番どこ!? 派手に啖呵まで切ったのに!」
「私、デバフ二個使っただけ……はー……」
後衛の俺とパンダさん、取り残されたロクさんはほとんど見ていただけだったが、事態は収束。
先頭に立ってPK連中を片付けたメディウスは、槍を片手に悠々と引き返してくるのだった。




