アニマリア捜索 その2
「アニマリアを捜せ! パート・ツー!!」
「おー」
『ホー』
ゲーム内、談話室で元気に宣言するユーミル。
そして俺は、肩に乗せたノクスと共にその宣言に応えて拳と羽を持ち上げた。
しかし、ユーミルは周囲を見回しつつ拳を段々と下ろしていく。
「――って、二人と一羽しかいないではないか!? 驚きの少人数!」
「そうだなぁ……」
広い談話室が、今夜は更に広く感じる。
騒がしいユーミルが一人いるだけで、寂しさとは全くの無縁だが。
「ハインド、リィズは!?」
「お勉強タイム」
「セッちゃんは!?」
「大学のレポート」
「忍者は!?」
「他ゲーで作ったフレとパーティ戦」
「おーい!? ここ最近では、特に集まりが悪いぞ!?」
確かにそうだが、みんなにも都合があるからなぁ……。
ちなみに俺とユーミルは約束していたログイン予定時間を前倒しにして来ているので、集まりが悪いのは当然だ。
この後、二時間も経てば全員集まってくれるのだから文句は言えないだろう。
今夜も、塔の攻略はいつものパーティでしっかりと行っていくつもりだ。
「緊急招集じゃ、やっぱり難しいって。かといって、塔の攻略時間は削りたくないだろう?」
「むう……しかし、みんなアニマリアを見つけるところがみたいかと……」
ユーミルにはユーミルなりに、みんなを無理にでも呼びたかった理由があったようだ。
もし見つけられたとしたら、会えるのは一度きりだものなぁ……。
「そりゃな。トビなんかは滅茶苦茶悩んでいたなぁ……それに、神獣を連れていく都合もある」
「む? ……ああ、そうか! どちらにしても、ノクスが枠を取るから――」
「そう、プレイヤーは四人までだ。だから、みんなには無理しないように言ったんだが」
俺は先程ユーミルがそうしたように、部屋の中を見回した。
何度確認しても、この場にいるのは二人と一羽だけだ。
「む、むぅ……だが、この人数ではまともに塔を進めないのではないか? ……邪魔者がいないのは、ちょっと嬉しくもあるが……」
「リィズ込みでギリギリもいいところだったからな……下層を捜す手もあるが、やっぱり俺は上層を調べたい。ということで、だ」
「?」
「手は打っておいたぞ」
「まさか……!」
俺の言葉を受けて、ユーミルは分かりやすく期待に満ちた顔になる。
しかし直接俺に質問をぶつけることなく、その場で状況が変化するのをじっと待った。
……。
…………。
………………。
「って、誰も来ないではないか!?」
「うん、俺の言い方が悪かった。誰か来るって思うよな、今のは……」
そして誰かを呼んだことに関しては、何も間違ってはいない。
扉の前でスタンバってもらっておけば、タイミングを合わせて入ってくるということもできただろうけれど。
生憎、そんな面倒なことはしていないし……頼んでも、やってくれそうもない相手である。
「でも、このタイミングで来ないってこと自体が誰を呼んだかのヒントではあるな。急なお願いとはいえ、約束の時間は過ぎているし」
「つまり、こうか? すぐに駆け付けてくれそうな面子の中で、時間に遅れてきそうなやつ……」
悩むユーミルの後ろで、談話室の扉がゆっっっ……くりと開かれる。
そして隙間から差し入れられる、柔らかそうな白い腕。
手の上には――といったところで、背後の気配を察知したユーミルが振り返った。
「ぬお!? 手の上に、黄色いモフモフ……マーネか!? ということは……」
「うぃー。遅れましたー」
のそのそと、緩慢な動きで部屋に入ってきたのは……。
俺が助っ人に呼んだ、マーネとシエスタちゃんのコンビだった。
談話室に入ってきたシエスタちゃんは、椅子に腰かけるとお茶を要求してきた。
すっかり寛いで、だらりと話をする気満々の体勢だ。
あまりのんびりしている時間はないが、呼んだのはこちらなので無碍にもできない。
ノクスをマーネの傍に置き、軽食とお茶を準備する。
「シエスタ、来てくれたのはありがたいが……自分たちのパーティはいいのか?」
マーネもありがとう! と指を近づけて礼を言いながら、ユーミルがシエスタちゃんに問いかける。
あいつ、マーネにも触れるようになったのか……。
ノクスのおかげで、ユーミルの動物に対する触れ合いスキルは成長しているようだ。
「あー。自分たちのパーティというと、アラウダもやしパーティですか?」
「も、もやし? 何だそれは?」
「残念ながら、我がパーティは音楽性の違いから解散しました。今後は各自――」
「どこのロックバンドだ!? 大丈夫なのか、本当に!?」
相変わらずだな、シエスタちゃんは……。
本気で心配そうになるユーミルを見て、シエスタちゃんは小さく舌を出す。
「というのは、冗談でして。ランキングを目指さないゆるゆるパーティなので、これくらいの自由は利くんですよ。特に問題なしです」
「そうなのか? 初心者のアラウダはともかく、あのサイドテールの――」
「ホリィちゃんですか?」
「うむ。装備と動きからして、かなりのやり込み勢と見たが……」
「彼女はPvPガチ勢なので、PvEは程々……一線級の装備を維持できる程度であれば、いいそうです。そっちの腕もいいんですけどねー」
ということは、ホリィちゃんは共通の階層到達報酬である『スキルポイントの書』を取れればそれで問題ないのだろう。
目玉であり、PvPにも影響がありそうな野良報酬の職別装備は……好みではなかったのか、それとも野良パーティは組まない主義なのか。
こればかりは、本人に理由を訊いてみなければ分からない。
俺がお茶を用意し終わったところで、二人の話はちょうど一区切りつきそうだ。
「そうか……ならば、頼りにさせてもらうぞ?」
「いやー、ユーミル先輩。私は頼りになりませんよ? ね、先輩」
ユーミルの言葉をさらりと躱し、脱力姿勢を深めるシエスタちゃん。
出された紅茶を一口含み、俺のほうへと向き直る。
「ま、そういう言い方をされてやる気を出すタイプじゃないのは知っているよ」
一つ前のイベントでそうであったように、平常心とマイペースこそが彼女の信条。
下手に激励するような言葉は、逆効果になることも多い。
「やっぱり先輩は分かっているなー。もうずっと横にいて、私の代わりに全部喋ってほしいくらい」
「それはさすがに、色々なものを捨てすぎじゃない……?」
もう、口を動かすのも面倒だと言っているようなものではないか。
せっかくよく回る舌と頭脳を持っているのだから、活かさないと勿体ない。
「ええー。今の、乙女の遠回しなアプローチなのにー……」
「ずっと横に、の部分にときめかないこともないけれど……総合すると、乙女というよりダメ人間の寄生発言にしか聞こえなかったよ? 俺の気のせいかな?」
「こう、扇子とかで口元を隠してですね? 横に立つ先輩にごにょごにょと……」
「そんなんよっぽどの貴人か、組織のボスくらいしかやっていないでしょ。側近とかに喋らせて、自分は一切話さないなんて……っていうか、それ俺とは喋っているよね? むしろ手間が増えているよね?」
「残念、先輩。これには、大きな声を出さなくて済むという利点が――」
ツッコミが追い付かない程のボケの濁流に、俺は置いていかれないようにするので精一杯だ。
何だかんだ言っているが、話すのは割と好きだよね? シエスタちゃん。
「あ、ちなみにここも乙女的アピールポイントですよ。先輩とだけは、どんな状態でも沢山話したいという……キュンと来ました?」
「……きゅ、キュンと? いや、あまりにも後付け感が盛り盛りで……別に?」
「えー……先輩のツボはどこにあるんです? 難しいなー……」
「そこはツボじゃなくて、鼻。鼻をつついてどうすんの」
「指を顔の前に出されても、全然避けないでいてくれるんですねー。むしろ私がキュンキュンします。ポイント高いですよ」
「――会話の大部分が回りくどぉぉぉい!? 本当に面倒だな、お前たちというやつは!? くどい! くどいぞぉぉぉ!! というか、微妙にイチャついているんじゃない!」
そこでシエスタちゃんと一括りにされるのは納得がいかないが……。
無駄の多いやり取りの数々に、横で聞いていたユーミルが爆発した。
「これでは、話に入り辛いではないか! 私も会話に混ぜろ! まーぜーろー!」
続けて、隠すことのない本心を投げつけてくる。
そのあんまりといえばあんまりな言葉に、シエスタちゃんは目を丸くし……。
小さく噴き出すと、ころころと笑いだした。
「やー、すみません。別に、ユーミル先輩を仲間外れにするつもりはないんですよ?」
「じゃあ、私も混ざれる内容にしろ! 二人で完結するな! 寂しい気持ちになる!」
「ユーミル先輩って、突き抜けていますよねー……改めて、凄いなー。リコが尊敬するのも分かるっていうか」
「む? よく分からんが、私は褒められているのか?」
「超褒めていますよ。びっくり大惨事……じゃない、大賛辞ですともー。ドヤっていいですよ?」
「そうか! ならば……どやぁ」
シエスタちゃんが笑みを残したまま、こちらに視線を流してくる。
それに俺は苦笑を返すと、まだ温かい紅茶入りのカップを口元へと運んだ。




