天空の塔・初挑戦
イベント開始演出が終わると、その場にいたプレイヤーの一部は即座に駆けだした。
向かう先は塔の入り口――
「順応、早っ!? 何なのだ、あいつらは!? ハインド!?」
「塔が降ってきた時も、反応薄かったみたいだしなぁ……」
考えられるのは、極端にドライであること。
昨今のVR慣れしたプレイヤーには珍しくないのだとか……と、これは半分冗談なので置いておいて。
単純な話、それよりも優先するものがあるのだろう。
「多分だけど、報酬が豪華だからスタートダッシュをかけようってことじゃないか? 内心は、俺たちと同じように驚いたりビビったりしている人もいるさ」
浮かんでいる表情は、主に焦りと期待。
その下に、先程までに受けた衝撃やら何やらを押し込んでいるといった感じだ。
……あーあー、入口で大渋滞になっているよ……あの中に混ざるのは嫌だな。
「あ、そういうことか! だったらハインド、私たちも!」
「慌てるな。俺は開始と同時に公開されるっていう、他の報酬も見たい」
残ったプレイヤーの多くは、未だ落下の衝撃に呆然としている者と未だに怒っている者を除くと、メニュー画面を開いて報酬を確認中のようだ。
やっぱり気になるよな……時折、嬉しさと驚きの混ざった声が聞こえてくるので、期待大だろう。
俺も、と思ったのだが――
「いいから、行くぞハインド! 時は金なり!」
『勇者のオーラ』が報酬として確定しているユーミルには、通じなかったようだ。
腕を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られる。
「お前は、急がば回れという言葉を知らんのか……」
そのままユーミルに力づくで連行されてしまう。
あ、メニューウィンドウも消えてしまった……もう少しでイベントページに辿り着けたのに。
引きずられながら塔を見上げると、頂上は確認できなかった。
うおっ、高過ぎてグラッと……ちょっと気持ち悪くなるな、果てが見えない。
一体、何階まであるのか見当もつかないぞ。
天空の塔とはよく言ったものだ。
天空の塔のルールとして、どうやら人数は通常のパーティ戦闘と同じ――五人まででの攻略となっているようだ。
五人に達するまでは、希望すれば他のプレイヤーを自動で募集してくれる便利な機能が付いている。
職指定、レベル指定、更には年齢指定に性別指定と、プレイ人口の多いゲームならではの条件付けまで存在している模様。
だが、ユーミルは入り口で一瞬も悩む様子がなく……
「いらん!」
募集なしで入場処理を完了。
俺が口を挟む暇は全くなかった。
「……まあ、いいけどよ。多分、上層に行くほど敵が強くなる仕様だろうし」
「うむ。最上階まで二人で行こう!」
「さすがに、そんなバランスにはなっていないだろ……」
ついでに言うなら、初見で簡単にクリアできるバランスでもないはずだ。
初回は偵察兼ユーミルへの仕様説明ということで、ここは割り切っていこう。
かなりの高さがある入口を、二人で通ると――景色が不自然に歪み、切り替わる。
そういえば、先に入口を通ったプレイヤーの姿はすぐに見えなくなっていたな……。
個々にマップが都度、ランダム生成される? それともスタート地点がランダムなだけか?
「おおー、神殿に造りが似ているな! 全体的に白っぽい!」
ユーミルの雑な感想を捕捉すると、内部に使われている石材や壁の紋様、装飾など……確かに類似する点が多々、見受けられた。
塔が神殿に似ているのではなく、おそらく塔に似せて神殿が造られているものと推測される。
きっと誰か、過去に現地人でこの塔を登ったものがいるのだろう。
「どこか厳かで神秘的だな……この勝手に背筋が伸びる感じは、お前の言う通り神殿と共通しているな」
「うむ。今からその神秘的な空間で、プレイヤーたちによる血みどろの競争と闘争が行われるわけだが!」
「何も間違っちゃいないから、返しに困るぞ? ……よく考えたら、試練を与える場所なんだし、もっと武骨な造りでもいい気はするが。信仰心を煽るためか?」
「つまり神々は見栄っ張り、ということだな!」
「見栄……なのか? まぁ、ここでごちゃごちゃ言ったところで真相は分からんが」
歩きながら塔の内部を見ているだけで、色々と想像できて楽しい。
……とはいえ、やはり報酬が気になるな。
ユーミルが周囲を見回している間に、俺はメニュー画面を再度――
「けぇーい!」
「ぬあっ!?」
ユーミルがメニューウィンドウを殴りつけると、壁際まで吹っ飛んで行って消えた。
あれ、こんな仕様あったっけ!? フレンド限定の仕様か!?
それとも俺のオプション設定ミス!?
「何するんだよ!」
「人と一緒にいる時に、自分の世界に入るんじゃあない!」
「え、ええ?」
「家族との会話を拒絶して、リビングで新聞を読みふけるお父さんか!? そんなんじゃ、奥さんは溜め息! 子どもだってスマホばかり弄るようになってしまうぞ!?」
「どういう例えだよ……」
「はぁー、全くハインドは! 全く!」
「居心地の悪い家庭のお茶の間」を例に出すユーミルに、俺は頭を掻いた。
溜め息を吐くなよ……何なの? お前が奥さん役なの?
「……了解。報酬の確認は後にする」
「分かればいいのだ、分かれば! 茶の間では楽しく! 小難しいことは自室で!」
「いや、もうその例えはいいって……」
確かに、その切り替えができている親は素晴らしいと思うが。
子どもの前では、常にほがらか……理想だよなぁ。
しかし、悩みを共有できる家族も、それはそれで――って、釣られて何を考えているんだ? 俺は。
「……それじゃ、先に進んでみっか?」
「うむ!」
一緒に何かしているはずの相手が、別のことに気を取られているのは嫌だものな。
話が一段落したところで、緊張感は程々に、周囲を警戒しつつ進む。
……と、入り組んだ通路を二つほど曲がったところで最初の敵に遭遇。
そいつの発見は、かなり容易だった。
何故なら――
「ハインド、出たぞ! えーと、あの……神獣イベの時の、天使っぽい光の塊の……えーと……」
「試練を与えし者か?」
「そう、それだ! それに似ている!」
遠くからでも分かるほど、そいつの姿が輝いていたからだ。物理的に。
光でできた人型の敵は、『塔の衛兵』という名前らしい。
確か、『試練を与えし者』は天界の神が使役するエネルギー体か何かという設定だったが……。
見た感じ、こいつも同じ種類のものに見える。
「ていっ!」
そいつが攻撃の意志を見せた瞬間、ユーミルがいきなり斬りかかる。
斬られた『塔の衛兵』はあっさりと、両断されて霧散した。
「――って、弱っ!? 一撃だぞ!?」
「そりゃ、レベル10だもん……」
どうやら塔の下層は、敵のレベルが10からのスタートらしい。
ユーミルは見落としていたようだが、普通に名前の横に表示されていた。
これならレベルがカンストしたプレイヤーなら、二人どころか一人でもクリアできるであろう難易度だ。
ドロップアイテムはなかったが、得られる経験値はレベル比では高め……カンスト済みの俺たちにとっては、無意味なことだが。
ベルルムが鍛錬に使えと言ったのは、こういう面も込みでの話か。
剣を鞘にしまったユーミルが、小さく首を傾げる。
「しかし、羽なし、武器なしだったようだが……」
「それも低レベルだから、じゃないか?」
レベルが上がっていけば、『試練を与えし者』に近い外見、戦い方、能力に近付いていくだろうことは容易に想像できる。
そんな考察をしている間にも、次の敵が現れ――。
「む、新手か!」
ユーミルがしまったばかりの剣を抜いて、構え直した。




