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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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極彩色の大森林 その2

 あの赤い髪と、緑の髪……そしてあの騎士と神官の装備には、見覚えがある。

 更に視線を動かすと、鮮やかな水色の髪と――ちょっとおしゃまな、毛先だけをウェーブさせたセミロングの茶髪が見える。

 その二人も装備からして、騎士のようだ。

 シルエットだけで判断するなら、男性一人の女性三人。

 大森林に負けないカラフルな髪色の、四つの後ろ姿をじっくりと観察してから確信に至る。


「またあいつらか……」


 ガーデンの四人、ローゼ、エルデさん、リヒト、そしてアラウダちゃんで間違いない。

 しかしよく会うな、プレイしている時間帯が近いとはいえ。

 思うに、エルデさんと俺の作戦方針がやや被っているのだろうな……。

 この状況にどんな顔をしているかと、ちらりとシエスタちゃんに目をやる。


「おー、またですかー……」


 すると、俺とほとんど同じ発言をした後――


「……先輩。折角なんで、こちらから声をかけませんか?」


 意外な発言が飛び出した。

 みんなも驚いたのか、シエスタちゃんに視線が集まる。

 あっちの連中は……まだこちらに気付いていない。


「……いいの? 君の嫌う面倒な展開になりかねないけど」


 もっとも、声をかけるのを先延ばしにしても結果は変わらないだろう。

 俺たちとあの四人双方が無事に毒花地帯を抜けられれば、広場で顔を合わせることになる。

 しかしここは念のため、シエスタちゃんに確認を取っておく。

 すると、シエスタちゃんは軽く首を横に振った。


「いえ。むしろアラウダに私の頑張りを見せて、納得させるチャンスかなーって。上手くいけば、面倒ごとをいっぺんに片付けられます」

「なるほど……」

「なるほど! 実にお前らしい理由だな!」

「何か今日になって絶好調だね、シエスタちゃんは」

「そりゃー、今夜で色々と解放されますしー。これが終われば、お待ちかねのお布団作製が待っていますしー? 気持ちも上向くってもんですよー」


 聞いて納得な理由だった。

 さて、だったら声をかけるか……と思ったら。

 ユーミルの大きな声に反応したのか、四人は既にこちらを見ていた。


「あ、あんたたち!? どうしてここに!」


 一早く俺たちを認識したローゼが、驚きつつもこちらに小走りで駆けてくる。

 それに慌てた様子で、エルデさんが引き留めようと手を前に出す。


「だめっ、ローゼちゃん!」

「――へ?」


 一直線に向かってきたローゼの姿が、不意に掻き消えた。

 呆気に取られる俺たちの前で、エルデさんが迂回しながら横合いの林を向いて呼びかける。


「ローゼちゃん!」


 俺たちも慎重に、罠を踏まないようにしながらエルデさんと合流。

 林の中を見ると……。


「何だ、ありゃあ……!?」

「――! ――――! ――!」


 ローゼが巨大な花に喰いつかれていた。

 ダメージを受けながらも、脚をじたばたさせて脱出しようともがいている。

 そういえば、避けて歩いていた林の中には、いくつかああいった巨大な花が見えていたが……まさか、こんな花だったとは。


「人食い花か!? ローゼ!」


 ユーミルが踏み込み、巨大花の茎を両断。

 モンスター扱いではないためか、それによって花ごとローゼは簡単に地面に落ちた。

 だが、中で消化液でも浴びているのか、HPの減少が止まらない。

 エルデさんと共に、俺たちも花を外すべくローゼに駆け寄る。

 ……なかなか取れないな!? 歯のような突起でがっちり噛みついている!

 もっと力が必要だ!


「――リヒト、何してる!? お前の相棒だろうが! 早く来い!」

「――はっ!? そ、そうだね!」


 反応が遅いリヒトに、リィズが不愉快そうな目を向ける。

 口には出さないが、嫌いなタイプなのだろう。

 それからリィズは、手間取る俺たちに少し離れるように言うと……。

 妙に堂に入った動きで、斬り落とされた花弁の根元辺りをかかとで思い切り踏んづけた。


「――ぷはぁっ!?」

「うわ、ローゼ!? だ、大丈夫かい!?」

「ローゼちゃん!」

「ローゼさん!」


 すると、あれほどぎっちり噛んでいた花があっさりと開く。

 ガーデンの仲間三人がローゼの無事な姿に、喜びの声を上げた。

 よほど苦しかったのか、中から出てきたローゼは荒い呼吸を繰り返している。

 それを見て安心した様子を見せつつも、トビは首を傾げた。


「リィズ殿、今のはどうやって……?」

「ああいった花弁には、閉じる際の支点になっている部位があるのです。TB内の他の場所で、小さいながらも似た花を見たことがあります。これだけ大きなものは初見なので、自信はありませんでしたが……」

「弱点、のようなものでござるか……いやはや、感服いたした」

「ええ。上手くいって良かったです」

「お手柄だったな、リィズ。ありがとう」

「あ、ありがとう、リィズ……助かったわ……」


 俺たちの声が聞こえていたのか、ローゼが弱々しく礼の言葉を投げて寄越す。

 それにリィズがはにかんだような笑みを一瞬見せてから、小さく顔を背ける。

 素直な笑みを見せているときのリィズは、本当にかわいいな……照れなくてもいいのに。

 ――と、ローゼのHPを回復しないと。

 あの花から受けていたダメージは、かなり大きなものだった。

 正直、救出がもう少し遅れていたら危なかっただろう。

 俺もエルデさんを手伝ったほうが、ローゼを早く復帰させることができるはず。




 やがて、ローゼのHPが全回復。

 汚れについては、例によって洗浄ボタンで一発だ。

 状況は落ち着いたが……。

 ガーデンの四人の中で最も活発に話しかけてくるローゼが、先程の自分の迂闊な行動にしょげてしまっている。

 仕方がないので、ここは俺から話を振ることにした。


「で、だ。互いに目的は一緒なのだろうけど……」


 話しつつ、改めてガーデンの四人の様子を見る。

 ……そう、四人なのだ。

 大きなギルドのリーダーとその仲間だというのに、四人しかいない。


「……ガーデンの他のメンバーはどうした? 別部隊のアリスたちに限らず、ごっそりいないけど」

「それが、そのぅ……」


 エルデさんが恥じ入るように、下を向いて口ごもる。

 その様子に、ようやくローゼが復活してかばうような発言をする。


「え、エルデは悪くないでしょ! あいつらが勝手に――」

「む、どういうことだローゼ。分かりやすく百文字以内で話せ!」

「ひゃ、百!? え、ええと……って、馬鹿言ってんじゃないわよ!? 何で無意味な制限を設けるのよ!」

「マジで無意味だな……イベント時間が勿体ないし、ローゼ。歩きながらで頼む」

「え、ええ。分かったわ」


 引き続き、移動の指示出しはリィズと……ガーデン側で指示を出していた、エルデさんが共同で担当。

 先頭はユーミルのまま。

 列は一列のような、ガーデンと俺たちとで二列のような、やや微妙な状態。

 一人しか通れないような幅のところは、確実に一列になるが。

 中途半端な協力体制である。

 そしてエルデさん、リィズの豊富な植生知識に驚いているな。

 前にリィズは、現実の植物図鑑までプレイの参考にしようと調べていたことがある。

 本人によると、それがゲーム・現実双方で結構役に立っているそうだし……ゲームのおかげで知識が増えるとは思いもしなかった、という言葉が印象的だった。

 シエスタちゃんも……よしよし、本人の目論見通りにアラウダちゃんと何か話しているな。


「それで……何で私たちが、四人しかいないのかって話だったわね?」

「ああ。さっきの言葉からして、最初から四人だったわけじゃないんだろう?」


 しかし、こうして一列になって歩いていると昔のRPGみたいだな……。

 俺がそんな取り留めのないことを考えていると、ローゼは渋面を作った。


「私たち、一番ここに来るのが楽なトーアの森を通ってきたんだけど」

「それ、私たちもだぞ! 仲間だな!」

「ユーミルさん、足元。後ろのお喋りに気を取られない」

「むっ!? わ、分かっている!」

「……話を続けるわね? あんたたちもそうだったんなら、話は早いわ。あそこを通る時にね――」


 そこからのローゼの話は、ちょっと俺たちの理解を超えるものだった。

 何でも、リヒトを守るため、ガーデンのメンバーが次々と犠牲になり……。


「え? 犠牲を払いながら、高レベルフィールドをゴリ押しで進んで来たのか!? ありえねえ……」

「私がそうしたかったわけじゃないわよ! ちゃんとエルデの作戦もあったし! ただ、あの子たち、リヒトの前でいい格好をしたがるから……」


 そこから先は好きに想像して頂戴、とローゼは疲れたような溜め息を。

 エルデさんは眉を八の字にして苦笑を浮かべた。


「もちろん全員が全員、コレに惚れているってわけじゃないんだけどね?」

「こ、コレ? ろ、ローゼ? 近頃、段々と僕の扱いが酷くなっていないかい?」

「そういう子たちも、変なアピールだとか、ええかっこしいに巻き込まれちゃって……はー、私の統率力もまだまだだわ……」

「あの、ローゼ? 僕の声、聞こえているかなぁ……?」


 まだまだ、ということはローゼはガーデンを離れる気がない、これからもリヒトの傍で頑張ると言っているに等しいのだが……。

 そこに気が付いているのかね? この情けない声を出している男は。

 しかし、どんどん大きくなるローゼの器に対して、リヒトでは勿体ないというか……。

 こう、釣り合わなくなってきているような気がするのは、はたして俺の気のせいだろうか?

 ――っていうか、好きとか嫌いとか関係なしに、そこは気付けよ! 喜べよ!


「と、いうことで四人になったわけよ。分かった、ハインド? ……ハインド?」

「あ、お、おう。そうだったのか……ま、そっちの事情はともかく、ここで会ったのも何かの縁だ。広場に出るまでは、協力してフィールドを進んでいこう」

「そうね……ところで、ハインド。あんたが美味しいアップルパイを焼いたって話を、風の噂で聞いたんだけど?」


 ビーフジャーキーと交換せい、とばかりにローゼが乾燥肉が入った袋を差し出してくる。

 しかし、それよりも俺には気がかりなことが。


「……その噂とやらは、どこから?」

「掲示板で噂になっていたわよ。あんたたちの国の、えっと……何だっけ? 不死身の何たらって有名プレイヤーがギルマスの、戦闘ギルドの――」

「カクタケアのことか?」

「そうそう。そこの人らが、あちこちで言い触らしていたみたいよ? 多分、そこが発信源ね」

「そ、そうか……」


 ま、まぁ、別に隠すような情報ではないので、構わないといえば構わないが。

 特に重要な『黄金の林檎のアップルパイ』に関しては、ローゼは知らないようだし。

 きっとカクタケアの面々も、そちらについては、おいそれと漏らしてはいまい。

 その辺り「分かっている」人たちしかあの場にはいなかった……はずだ。

 だからこそ、ベールさんがどうやってそれを知ったのか、今でも不気味で仕方がないのだが。

 ――と、それはそれとして、別にノーマルのアップルパイくらいなら。


「アップルパイくらい、交換せんでも普通にやるよ。でも、普通の場所ならいざ知らず、こんな危険なところで歩きながらだとちょっとな。後でいいか?」

「あれ、結構大きいの? 細長い、簡単に食べきれるやつをイメージしていたんだけど」

「そこそこ大きめの長方形にカットしてあるよ。そうじゃないと――」

「食べ応えがなかろうが! 口一杯に頬張ってこそ、本当の感動と幸せが――」

「ユーミルさん、集中! 後ろを向くなと何度言わせるのですか!」

「わ、分かっていると言っているだろう!? くどくど言うな!」

「……と、こう言うやつがいるんで」

「あはっ、そっかそっか。そういうことねー」


 ローゼが包み込むような笑みを見せる。

 おおっ、ちょっと前までのローゼにはなかったタイプの笑顔だ……やっぱり変わったなぁ、ローゼ。


「……」

「……? どうしましたかぁ、リヒトさん?」

「あ、いや、エルデ……何でもない。何でもないんだ」


 そんな会話が後方から聞こえてきて、セレーネさんが俺の背をツンツンと突く。

 気付いていますよ……あいつ、もしかしてちょっと嫉妬している?

 俺たちとローゼが、楽しそうに話しているから?

 だとしたらローゼの恋路にとっては大きな前進だが、聞いた話だとリヒトは鈍いらしいからな。

 自分の感情の正体に、きちんと気が付いているだろうか?

 ……無理だろうなぁ、さっきの二人のやり取りを思い返す限り。

 ……よし。


「リヒト!」

「あ、は、はい! な、何だいハインド?」

「この際だから、はっきり言っておくが。お前、さっきの体たらくはなんだよ!? あれじゃ、ローゼが可哀想だろうが!」

「は、ハインド? 一体、何を……」


 急に振り返ってリヒトを叱りつける俺に、ローゼが困惑したような声を出す。

 だが正直、俺はリヒトに対して多少の怒りを持っている。


「さっきは俺たちが偶々(たまたま)いたからいいけど、ローゼの傍にいつもいるのはお前なんだからな!? ちゃんと助けてやれよ、幼馴染だろう!」

「……!」


 俺たちにローゼを取る気はないんだ、とも取れる言葉に、リヒトが驚きつつもホッとしたような表情になる。

 リヒトにしては、珍しく意図がきちんと伝わったな。

 これで無駄に敵愾心(てきがいしん)を抱かれずに済むが……しかし、そこで終わってもらっては困るのだ。

 ローゼの友人としては。


「もうちょっと周囲を注意深く見ろよな、普段から! 特に人、人! 身近なものほど見えにくいって言うし、大事なものほど気付かないとも言うだろ!? 例えば――」

「は、ハインド!」


 分かっているよ、ローゼ。

 これ以上は言うなってことだろう? 自分で気付かせたい、振り向かせたいんだものな。

 そもそも恋愛云々に関して、俺は他人にどうこう言う資格はない。

 でも、どうせこいつはこれだけ言っても伝わらないぞ……ほら、今のも額面通りにしか受け取っていない。


「つ、つまり灯台下暗し、ってことかい? ハインド」

「……まあ、そうだ。リヒトは俺と同年代だし、そんなやつからこんなことを言われても、お前に何が分かるんだって思うかもしれない。でも、ついつい口が出るほどリヒトが隙だらけってことだからな? 俺のことをどう思おうと勝手だけど、さっきの言葉だけは素直に受け取ってくれると嬉しい」


 そうでなければ、ローゼがあまりに報われない。

 力が入って、ついつい説教臭くなってしまったが……リヒトは、そんな俺の言葉に――


「そうか……ありがとう、ハインド! 君は心底いいやつだな……嫌われるのを覚悟で、僕にそんな忠告をしてくれるなんて……」

「……え?」


 至極意外な反応を示した。

 まず、先程まであった嫉妬心からの悪感情が、嘘のように綺麗さっぱり消えている。

 代わりに、リヒトの無駄に澄んだ目には、俺に対する熱い友情のようなものが浮かんでいた。

 更には、イベントが終わった後でフレンド登録してくれないか? などという言葉がリヒトの口から駄目押しのように追加される。

 あ、あれ? お、おかしいな。

 こんなはずでは……で、でも、今、俺がリヒトに向かって発した言葉はきっと、後々ローゼのためになるはず。

 想定外の流れに狼狽うろたえる俺に、ローゼが視線を向けてくる。


「ハインド」

「す、すまん、ローゼ……その、何と言うか……」

「お節介」

「うぐ!」


 盛大に空回ったあとなので、その言葉は非常に効く……。

 やめろ、みんなで俺を生暖かい目で見るな! 見ないでくれ!


「でも……ありがと」


 だが、続くローゼの言葉に救われた心地になった。

 リヒトは先程までと違い、ニコニコと黙って俺たちの様子を見守っている。

 う、うーん……ま、まぁ、いいか。これはこれで。


「むっ……後ろから不穏な気配っ!? ローゼ、ハインドは渡さんぞ! 無論、ここにはいないドリルにも!」

「ど、ドリ……? いやいや、ないわよ。私の居場所はガーデンだって、ハインドもさっき言ったでしょ? 私もそのつもりだし、ハインドの居場所だって渡り鳥じゃない。それは今後も変わらないわよ」

「そうか! だったら構わん、ローゼは嘘が得意なタイプには見えないからな!」

「お互いにね。っていうか、ユーミル。リィズの背中から、凄い殺気を感じるのだけど……?」

「……」


 もう何度目か分からない振り返っての停止に、小さな肩が震えている。

 続いての怒気を内包したリィズのにこやかな笑顔を受け、皆一斉に口を閉じ……。

 その後は、黙って静かに行進を再開するのだった。


「――ハインド、ハインド!」


 ……やがて、罠の回避にも慣れ始めた頃。

 先頭のユーミルが、久方ぶりに声を上げる。


「何だ? ユーミル。何かあったのか?」

「うむ、開けた場所に出そうだぞ! あとちょっとだ!」


 おっ……どうやら、目的の広場はすぐそこのようだ。

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