フィールドボス 魔力結晶体・封石
「……右、斬撃だ! 誰か行けるか!?」
「拙者が!」
周囲を旋回しつつ回転するキューブが、平べったい板状に変形して浮かぶ。
これには「斬撃」を当てるのが正解だ。
結構なスピードで飛び回る板を、トビが『縮地』で捉えて斬り捨てる。
「ハインドさん、こちらも……」
「問題ないよ! 任せて!」
紫色に変化したキューブをリィズが闇魔法で、的のような模様を出したキューブをセレーネさんが矢で射抜く。
よしよし、順調!
「ハインド殿、クリスタルは!?」
「まだだ! 多分、もうちょい!」
この飛び回って形状や色を変えるキューブを、対応する攻撃で消していくことでクリスタルが出現。
そいつにダメージを一定量与えることができれば、晴れてフィールド『トーアの森』突破ということになる。
ボスの名前は『魔力結晶体・封石』だそうだ。
モンスターというよりは、遺跡などにある不思議な力が込められたパズル系の無機物で……名前からして、何かを封じているのだろうが――
「ハインド君、目の前!」
「うおっ!?」
表面にひび割れが浮かんだキューブが、こちらに向かって接近してくる。
この場合に必要なのは打撃で……ダメージは問われないので、俺の杖で殴れば問題ない。
「せいっ!」
あっさりキューブが砕ける。
序盤はこのように、キューブの動きはかなり遅い。
俺でも呼びかけられてから、反応して消すことが可能な程度の速度だ。
ただしその後、キューブを消して出現したクリスタルのHPを削っていくと――
「むう。半分は切ったが、まだ結構残っているな……だが!」
「待て、ユーミル!」
ユーミルが剣を振り降ろす先で、板状に変形していたキューブがその姿を変えた。
ひび割れの入った立方体になったそれに、ユーミルの剣が深々と突き刺さる。
「……は?」
瞬間、キューブが光を放ち――爆散。
残存HPの数倍のダメージを受けて、ユーミルが戦闘エリアの端にある見えない壁まで吹っ飛ぶ。
「だいなまいっ!?」
奇妙な叫びを発したのを最後に、ユーミルが落下・沈黙。
……クリスタルのHPが減ると、キューブは速度を上げつつ形状や色を頻繁に変化させるようになる。
上がった速度に即応できたのはさすがだが、あれでは全く意味がない。
「……ハインド殿。ユーミル殿に事前説明は……?」
「ちゃんとしたよ……っていうか、お前もその場に一緒にいたじゃん」
「そういや、そうでござったな……」
単にあいつが忘れていただけである。
トビがキューブを一つ破壊してから、状況を見つつこちらの傍にフォローに来てくれる。
うん、今なら……。
「とりゃっ!」
『聖水』を遠投して、ユーミルを蘇生させる。
状況的にもちろん魔法の準備などできていなかったので、この場合はどちらで蘇生させるか迷う必要はない。
アイテムの効果を受けて跳ね起きたユーミルが、物凄い勢いでこちらに向かって走ってくる。
「ぬおおおおっ!!」
「えっ? えっ?」
「――だああっ!」
「うわっ!?」
そしてスライディング気味に、上半身を後ろに傾けながら目の前で急制動。
こちらに向かってきたということは、何か言いたいことがあるのだろうが……。
「な、何だよ?」
「どうしてだ、ハインド!? 行動変化を忘れていたのはともかく、ホーリーウォールはどこに行った!? フィールド移動中に使ってくれたやつが、まだ残っていたはず!」
「こいつらの爆発は、バリア系統の補助を貫通するからな……もちろん空蝉の術も貫通するし、今の俺たちのレベルなら即死だ」
「そうなのか!?」
ユーミルが忘れっぽいのもあるが、それ以上に今回のフィールド・フィールドボスは憶えることが多く攻略が大変だ。
記憶に多少の抜けがあっても、それは仕方のないことだろう。
しかし、しかしだ。
「……お前、これは憶えているか? 今みたいなミス、所謂お手つきは――」
「二回まで、だろう!? 処理が遅くても駄目で、三回目の失敗でキューブが大量に出現! 一斉に大爆発! レベル不足のパーティは全滅する!」
「よし、それを憶えているなら大丈夫だ……もう俺の反応速度じゃ捉えきれない速度のキューブが出てきたし、頼りにしているぞ」
「うむ、これ以上のミスはないと約束しよう! 私はここからの女だ、ここからの! 失地回復っ!!」
……と、このように少々のハプニングはあったが。
手順さえ失敗しなければ、ノーダメージで突破できるフィールドボスである。
攻略情報を提供してくれたベールさんと、過去にこのエリアに何度も挑戦して突破してくれたプレイヤーに感謝だ。
「せいやぁぁぁっ!」
ユーミルが通算四発目となる『バーストエッジ』を決めたところで、クリスタルはキラキラと粒子になって消えていく。
……やはり適正レベルに達していないフィールドのためか、撃破までにかなりの時間を要してしまった。
「よしっ! どうだ、ハインド! 見たか!?」
「お疲れさん。ちゃんと見ていたよ」
「ええ。無様に爆死するところもしっかり見ていました」
得意気な顔になっていたユーミルの表情が、横合いからの声によって一瞬で歪む。
気が付くと、リィズが空中から落ちてくる魔導書をキャッチしながら近くまで戻ってきていた。
「う、うるさいぞリィズ! そこは忘れていい部分だ! 忘れろ!」
「ま、まあ、終盤は宣言通り大活躍だったしな……それでチャラということで」
相対的に、俺は指示出しと補助以外は徐々に役に立たない状態に陥ったが……。
「許された!」
「ちっ……ハインドさんのご厚情に感謝しなさい」
「どうしてお前が偉そうなのだ!?」
それはそれとして。
渡り鳥パーティが突破した後は、ヒナ鳥たちの番だ。
シエスタちゃんを中心に、今の俺たちの戦いを参考にしつつ、いくつか確認してくる。
「先輩ー。足りない属性魔法は、巻物で補う感じなんですよね? 威力はどうでもいいんで、下級のやつでOKと」
「そう、ホームを出る時に大量に渡したやつね。闇魔法だけは巻物の数が揃わなかったから、リィズに補佐に入ってもらうよ。リィズ!」
「はい」
「それと、トビ。遊撃役として、機動力の高いお前が適任だと思う。二人とも、頼むな」
「承知っ!」
これでこっちも五人パーティだ。
トビは先程の甲虫の時のミスがあるためか、連戦でもやる気満々だ。
「物理攻撃は手持ちの武器で直接行っても、各種対応する投擲アイテムで行っても可……でしたね?」
「うん。投げナイフ系統は斬撃扱いになるし、投げた石とか鉄球は打撃、それから矢の形をしたものを当てると射撃扱いになるから」
これはサイネリアちゃんからの質問だ。
射撃についてはそのまま投げるタイプのダーツに使う矢でもいいし、もちろん弓術士の矢はそのまま射撃扱いだ。
「はい! ハインド先輩! 盾で叩いても、打撃扱いになりますか!?」
「なるよ。素手や足で殴ったり蹴ったりでも大丈夫。一応、一人でもクリアできるようにはなっているみたいだから、職によらずキューブは全て破壊可能だよ。アイテムは必要だけど」
「へー」
「挑戦人数によって、ある程度は難易度調整もされるらしい。キューブの生成間隔が伸びたりとか。投擲アイテムとか巻物のWTがあるから、絶対的にパーティのほうが楽ではあるけどね」
ソロでここをクリアするには、かなりの練度が必要になるらしい。
ただ、それが情報として「ある」ということは、誰か達成した人がいる可能性が高いということになる。
いるところにはいるものだなぁ……ランカーだ何だと言っても、俺たちもまだまだということなのだろう。
――そんなこんなで、ヒナ鳥+αのパーティがフィールドボスとの対峙に至る。
「緑、緑……風かぁ。ほいっと」
結論から言うと、そちらの攻略は非常にスムーズだった。
最低限の動作で、魔法関連のキューブはシエスタちゃんがほとんど一人で処理。
風の巻物から出た下級魔法のそよ風が、キューブをあっという間に消し飛ばす。
「また緑……妹さーん」
「もうやっています」
「さっすがー」
WT上、無理なところはリィズが。
物理面はトビが斬撃と投擲二種、リコリスちゃんがサーベルによる斬撃と盾による打撃、サイネリアちゃんが矢での射撃に集中と盤石な構え。
渡り鳥五人の戦いから改善点のヒントを得て、最適化されているとはいえこれは……。
俺、ユーミル、セレーネさんの三人は驚きをもってそれを見守る。
「……というか、さっきからシエスタちゃん一歩も動いていなくないか? そのくせ、戦果はきちんと挙げているし。すげーな」
「うむ。不動明王のような、絶対に動かんという固い意志を感じるな?」
「あんなに気怠そうな不動明王像は見たことないがなぁ……」
「本気で楽をしようとしている時のシエスタちゃんって、普通じゃないよね……」
「「本気で楽……?」」
「あ、えと……私、変なことを言っている……よね?」
「い、いえ……改めて考えると、しっくりくるような……な? ユーミル」
「う、うむ……謎のフィット感だぞ、セッちゃん」
本気で楽……何やら矛盾しているようにも聞こえるが、シエスタちゃんの姿勢を形容する際はそれで正しいような気もしてしまう。
ともあれ、シエスタちゃんを中心に安定感抜群のまま、ヒナ鳥と補佐二人のパーティも無事フィールドボスを突破。
キューブの処理ミスに関しては、なんとゼロ。
先に戦った俺たちが勝っていたのは、クリスタルへの集中攻撃――その火力差による、短い所要時間くらいだろうか?
「先輩、おかげさまで無事に終わりましたー。御指南感謝、感謝ー」
「うん、お疲れさま」
結局、ほとんど動かずに勝利を収めたシエスタちゃんはどこか満足そうだ。
アラウダちゃん、ベールさんに乱されたペースが急速に戻りつつあるような……そんな印象。
「ということでー……」
「……?」
「帰りますかー」
「!? いやいやいや、待って!? しっかり省エネしながら戦ったでしょ!?」
一瞬、きょとんとした表情をしてから笑って「冗談ですよー」と返すシエスタちゃん。
今の、ちょっとだけ素というか本気だったよね? 本番はこれからなのだが。
くだらないやり取りではあるのだが、こう見るとやはり調子が戻ってきていることが分かる。
シエスタちゃんの場合は体を動かさない分だけ、代わりに回転の良い頭を使うようになる。
だから決して悪いことではない。
「――ハインド、シエスタ! お前たちも早くこっちに来い! 驚くぞ!」
ユーミルの呼び声に、シエスタちゃんと一緒に森を進む。
戦っている最中も見えてはいたのだが、いざ『極彩色の大森林』に近付くと……。
「あー、これは目が痛いくらいだな……」
「何か、カラフルな……花? 苔? ちょっと、見たことのない景色ですねー……」
俺たちの目の前には、色彩の暴力とでもいうかのような光景。
それが視界一杯に、どこまでもどこまでも広がっていた。




