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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
彼が「本体」と呼ばれる理由

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勝利への方策

 トビを除く四人で、ギルドホームの談話室で昨日の戦闘のリプレイを見る。

 リプレイはゲーム内のメニュー画面で再生でき、空中投影も可。

 画面のサイズも伸縮可能であり、まずは勝った戦闘で狙い通りの型に嵌ったものを幾つか再生。


 テーブルで紅いお茶――残念ながら紅茶ではない、ハーブティーを飲みながら昨日の戦いぶりを眺めた。

 このお茶は市場で買ったハイビスカスティーで、試しに飲んでみたら酸味が強い。すっぱい。

 そのまま飲むよりは他の何かとブレンドしたい感じのお茶だ。


「うん……ここのエリアヒールの範囲指定、上手いね。相手からしたら無限にHPがあるように感じるかも。ユーミルさんも、相手の前衛を完璧に抑え込んでる」

「あれだけダメージを恐れずに来られると怖いですね。恐怖と絶望が顔に張り付いて……ふふ。――あ、降参してしまいましたか。ちっ……」

「貴様の今の顔の方がよっぽど恐ろしいぞ。自覚はないのか?」

「ま、まあこれが良かった方の戦いだな。理想としては毎試合これが出来ることなんだけど」


 全員、話しながらカップを傾けた後に「うっ」という顔をした。

 俺がインベントリから蜂蜜を取り出してテーブルに置くと、女性陣は先を争うようにしてカップに注いだ。

 美容には良いらしいんだけどな……って、ゲームだから関係ないか。

 酸っぱいから疲労回復にも効きそう。HPも回復するかな?


 リプレイに関してだが、ユーミルが俺を狙う敵を遮断しつつ、回復を活かして大胆に斬り込む。

 俺はWT毎に『シャイニング』で敵の後衛なり前衛の片側なりを妨害しつつ補助と回復。

 この形に持ち込むことができれば大体は勝ちに繋がる。

 シャイニングは低威力だが、相応にWTも短い。


 相手が両前衛だと必然的に逃げ回る時間が増えるが、俺が回避を重視すれば何とかなる。

 詠唱は移動しながらでも可能なので、相打ちでもユーミルが片方を倒した時点で勝利が確定。

 ただし、両前衛は俺達が二番目に苦手とするパターンだ。

 勝利にはかなりの忍耐を強いられるし、基本的に俺が捕まったら負ける。


 次に、主な負け試合を再生。

 試合を流しながら、今度は敗因について話し合う。


「……この試合もだけど、大体は負けパターンが一緒だね。ユーミルさんは最後まで諦めずに粘っているけど」

「ええ。ユーミルよりも先に俺が戦闘不能にされるっていう、ただそれだけなんですよね」

「特にこの、連射型の弓術士を相手にした時が良くない気がします」

「あいつら嫌いだ! 攻めがチマチマネチネチしてて! 狙うなら私を狙え!」

「ハインド君は相手の前衛なりユーミルさんを挟むなりして、上手く射線を切ってるんだけど……」

「ハインドさんを狙う曲射系のスキルが問題ですね。アローレインに代表される系統の」


 二人の分析通りだと思う。

 避けきれないんだよなぁ……数百本の矢が一度に広範囲に降り注ぐ訳だから。

 一本でも受けるとヒットストップで動けなくなり、追撃で更にダメージが加速する。

 掲示板の重戦士のように、俺の場合は魔法ではなく前衛の後ろに弓術士が居ると悲しみに包まれることになる。

 これが一番苦手な相手だ。

 物理遠距離職である弓術士は、神官にとって非常に相性が悪い。

 神官は魔法抵抗は全職中トップだが、前衛神官以外の2タイプの物理耐久は魔導士と並んでワーストタイだ。


「それで、今のレートはいくつなの? ハインド君」

「1628ですね。あまり良い状態とは言えない感じで」

「勝率7割をキープ可能なら、期限までに2000に達すると思いますが」

「しかし、後半10戦だけ見れば4割だからな……このままだとランキング入りは夢のまた夢だ。このまま戦い続けても、今のレートの少し下あたりで停滞してしまう気がする。1600前後か?」

「むう……」


 レート1700に乗っているようなプレイヤーには全て負けているので、その辺りが俺達の現在の壁となっている。

 昨日の戦いを踏まえ、期間の前半は自分達の戦力強化に集中した方が良いという結論になった。

 そこからは具体的な改善案の検討に入ることに。


「考えられる方策は幾つかある。といっても、前回のイベントと大体は一緒だ。まずは――」

「武器と防具の強化だね? 私に任せて」

「ありがとうございます!」

「ありがとう、セッちゃん!」

「ただ、作る前にちょっと素材の採取を手伝って欲しいの。人数は多い方が助かるんだけど……お願いできるかな?」

「勿論ですよ。こちらが装備をお願いしているんですから、どこでも行きますよ」

「うん、行くぞ!」


 今後の決闘に挑むにあたり、武器と防具の強化は急務である。

 掲示板でも書き込みがあったように、レート1600後半から先のプレイヤーは既にタートル装備を使っていなかった。

 ユーミルが互角以上に敵前衛と打ち合っていてもあっさり負けることがあり、現在の装備では些か無理のある状態だと言える。

 セレーネさんにはしっかりとした強化プランがあるようなので、ここはお任せすることにしよう。

 続けてリィズが控えめに手を挙げる。


「私がお手伝い出来そうなのは……レベル上げでしょうか。この周辺で、経験値効率が良さそうなモンスターを探しておきます」

「ありがとう、リィズ。レベルが上がればスキルも増やせる」

「まだまだ取りたいスキルも沢山あるしな。貴様にしては気が利くではないか!」

「……貴様にしては、というのは一言余計だとは思いませんかぁ? ねえ? ユーミルさん……」

「いだだだだだ! 今のは私が悪かった! 謝るから足を踏むなぁ!」


 昨日の時点でレベル40のカンストプレイヤーはゴロゴロしていたからな。

 リィズの申し出は非常にありがたい。

 後は、そうだな……真っ当な手段ばかりだが、最後に一つ。


「残る手段はスキル構成を良く練ること。それと立ち回りに関してか」

「そこは我々の領分だな!」

「うん。レベルを上げでも、装備を整えても、そこを詰めていかないと全て台無しになるからな。二人で練習あるのみだ」

「分かった! やるぞぉ!」

「……ユーミルさん、いつになく楽しそうだなぁ……いいなぁ」


 確かにセレーネさんの言う通り、ユーミルはいつになく浮かれてるな。

 TBのサービス開始初日に近いはしゃぎようである。

 セレーネさんが何を羨ましがっているのかは謎だが。


「ところで、トビ君はどうしてるの? 今夜は姿を見せないけど……」

「あいつはまだ組む相手が捕まらないそうで。本人が言った通り、スタートで出遅れたのが痛かったのかと」

「嫌われているのではないか?」

「嫌われているのではないですか?」


 ユーミルとリィズの暴言に何故かセレーネさんがプルプルと震えた。

 眼鏡の向こうの目が死んでいる……。


「やめて! 二人組を作れって言われるだけで、胸が苦しくなる人だって居るんだよ!?」

「せ、セレーネさん……?」

「――ハッ!? な、何でもないよ! 大丈夫だよ!?」


 大丈夫そうには見えなかったが……まあ、触れない方が良さそうなので。


 予選への出場にはパーティを組む必要があり、パーティは互いに遠隔地に居る場合は当然ながら組むことが出来ない。

 なので砂漠まで来れるプレイヤーを探すか、トビ自身が相手の居る場所まで行く必要がある。

 その点が特に組むのを難しくしていると、あいつは学校で愚痴っていた。


 途中まで乗り気だったのに、砂漠に居ると聞いた瞬間に「それは無理」と返事が来るそうな。

 TBは移動に結構な時間が掛かる。

 トビのフレンド達の中には、砂漠に来ている者がほとんどおらず……結果、今のところ誰からも色良い返事を貰えていないとのこと。

 と、そこで談話室のドアが勢いよく開かれた。

 全員がそちらに視線を送ると――


「皆の衆、こんばんは! で、ござる!」

「噂をすれば。組む相手は見つかったか? トビ」


 トビが、今日は普通に扉から入ってきた。

 元気な様子からして、パートナーが決まったのかと思ったのだが……。

 トビの次の言葉は予想外のものだった。


「突然でござるが。拙者、イベントの間だけ旅に出るでござるよ!」

「ぬ?」

「何を言っているんです、あなたは?」

「ええと……? どういうこと?」


 あ、そうか。

 俺以外のメンバーはトビが相手選びに苦労している経緯を詳しく知らないんだった。

 簡単に補足しておくとしよう。


「つまり、お前がパートナー候補のプレイヤーの近くまで行けば組んでくれる――そういう相手なら居るってことだろう? だから、砂漠を一時的に離れると。そう言いたいんだよな?」

「イエース! その通りでござるよ。本当は砂漠から移動するのは面倒でござるが……これ以上相手選びに時間を掛けると、レート上げが間に合わんでござるよ!」


 その会話でようやくメンバーに理解の色が広がる。

 それをよそにトビはハイビスカスティーを空いていたカップに注いで一気に煽ると、梅干しを食べた時のような物凄い顔になった。

 止める暇もねえ。


「なるほど、そういうことでしたか」

「それじゃあ仕方ないね」

「イベントが終わったら、直ぐに戻ってくるのだぞ?」

「了解でござる、ギルド長!」


 そういう訳で、トビは一時的にパーティから離脱。

 ラクダに乗って街からいずこかへと旅立って行った。行き先は秘密だそうな。

 それを見送った俺達は、最初に装備品の更新から手をつけることにした。

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