試練を与えし者とマーネの能力
敵の能力は全体的にハイレベルで、弱点が少ない。
行動パターンは浮遊・高速移動を使い光の剣で直接攻撃、翼から光の針を飛ばす、回復行動、そして……。
「な、何だ!? 天使もどきの輝きが増している!?」
「ユーミル、離脱!」
「ま、間に合わ――!!」
「ユーミル先輩!」
一体目の『試練を与えし者』のHPを『バーストエッジ』にて大きく減らした直後、強烈な光を発しながらユーミルに急接近。
盾を持って走るリコリスちゃんもフォローに入れず、『試練を与えし者』は――
「ぽっぷぁ!?」
ユーミルを巻き込んで破裂した。
衝撃波と砂塵が辺りに撒き散らされ、ユーミルは戦闘不能に。
力を出し切り動きを止めた『試練を与えし者』には、シエスタちゃんがとどめをさした。
「あー、いるいる。こういう嫌がらせ系の敵」
「一定以下のHPがトリガー?」
「でしょうねえ。ミリ残りになっちゃったのがまずかったのかと」
「イベントの一般エネミーでトリガー行動って……低レベルフィールドのやつには存在しないパターンだろうなぁ。スキルの少ない初心者には対処が難しい」
「確かに。レベルいくつ以上からー、みたいな特殊行動かもですね」
倒れたユーミルの傍では、リコリスちゃんがアイテムポーチに手をかけてオロオロとしている。
俺は杖を光らせながら近付き、リコリスちゃんに「任せて」と声をかけた。
「あっ、話しながらもしっかりとリヴァイブを唱えてくれていたんですね、ハインド先輩……すみません。私のせいでユーミル先輩が」
「リコリスちゃんのせいではないよ。気にしないで」
半ば自業自得ではあるが、リコリスちゃんが三体に連続攻撃されて動けなかったからな……。
二体は倒し切ったのだし、あまり強く責めるのも酷か。
完成した『リヴァイブ』をユーミルに向かって放ち、杖で脇腹をつつく。
「ほら、起きた起きた」
「――ぬあーっ! 勝ったと思ったのに!」
「あっ、ユーミル先輩! 助けてくれて、ありがとうございました!」
「なーに、気にするな! 後輩を助けるのは、先輩として当然のことだろう?」
「格好いいですねぇ……」
「これで戦闘不能になっていなければ、文句のつけようがないんだけどね……」
リコリスちゃんが嬉しそうだからよしとしておくか。
起き上がったユーミルは、先程の戦闘を思い出してか首を捻る。
「しかし、一体あれは何なのだ?」
「バーストエッジに似た何かじゃねえの? 魔力解放系に見えたし」
「躱し切ることができれば、スタンするみたいなんで楽勝ですけどね」
「でも、飛べることもあってかなり速かったですよ?」
リコリスちゃんとシエスタちゃんが、前衛後衛で見ていた感想をそう述べる。
うん、どちらも正しい意見だと思う。
「リコリスちゃんも微妙にダメージを負ったことから、範囲も広いっぽかったな」
「回復と同じで、倒し切れれば問題ないのだろう?」
「その通りだけど、倒し切れなかった時のフォローは大事だよな。俺も、咄嗟に投擲武器を構えられなかったし……」
「私は攻撃魔法を撃ち終わったところでしたねー。魔法は瞬発力が……」
「あ、でもそもそも私が囲まれなければ……」
「いやいや、私が返す刀で一撃入れれば済んでいた話だ!」
「って、反省点があとからあとからボロボロ出てくんな。みんな分かっているみたいだし、この辺にして次に行ってみようぜ」
「うむ。ところで、今の戦闘でマーネは何かしてくれたのか?」
ユーミルの言葉に、俺とシエスタちゃんは顔を見合わせた。
何かしたかと問われれば……うん。
「「特に何も」」
「何故だ!?」
「何故って……主に戦闘時間が短かったせいかな」
「戦闘時間……?」
「そういえば、ユーミル先輩はマーネと一緒に戦うのは初めてでしたね。マーネは、えーと、補助系なんですけど、スキル発動までが普通よりも……ちょっと長いんです」
リコリスちゃんがややたどたどしく、ユーミルに一生懸命マーネの特徴を解説する。
普段はサイネリアちゃんがやってくれる役だが、あいにくと今日は不在だ。
やろうと思えばスムーズに解説できるであろうシエスタちゃんは、眠そうな顔で頷いているだけだし。
「なるほど……では、若干長期戦のほうが真価を発揮できるのか?」
「そうだと思います。あ、でもフィールドなら効果が持続するものもありますから。フィールド狩りにいてくれても役に立ちますよ! 立てますよ!」
「まあ、主に俺たち神官が楽できる能力だよね」
「先輩の仰る通り。スキルが判明した時は私、心底この子を選んでよかったと思いましたもん」
育て親に楽をさせることができるマーネはできた神獣なのだ……本来なら。
その効果を見たいとユーミルが言うので、俺たちは早速次の戦闘に移ることにした。
『バーストエッジ』のWT消化のついでに、若干ゆっくり目に戦いを進めつつ、マーネのスキル発動を待つ。
戦闘の最中、マーネの涼やかな高音の鳴き声が響き……。
「むっ? ――おおっ! HPがじわじわと……」
「ヒーリングソングだ。効果時間中、HPを徐々に回復してくれる」
「湿布と同じ効果か! つまりこれは湿布ソングだな!」
何て名前で呼んでいるんだ……。
前で攻撃を防ぐリコリスちゃんが「えっ」という顔で隣のユーミルを見る。
「こんなに綺麗な声で鳴いているのに、何だか臭いそうです……」
「心なしかマーネの声も悲し気に……」
「お前は全く……はぁ……」
「非難の嵐!? わ、悪かった! 私にだって、鳥の声を美しいと思う心はある! 本当だ!」
そんな湿布――もとい、『ヒーリングソング』は非常に便利で、総回復量もまずまず。
他にもカナリア種の神獣は神官と別枠のバフを覚えるそうだが、マーネはまだ未習得である。
そちらも掲示板の情報が正しければ、長期戦向きの特殊なバフとなっているそうだ。
そして今度の『試練を与えし者』戦は、バフを整えた上で『バーストエッジ』抜きの総火力を叩き込む。
「アサルトステップからの……ヘビスラッ!」
「リベンジエッジで合わせます!」
「はいはい、射線開けてねー。撃ちますよー」
「焙烙玉しか投げるもんがないな。よっと」
HP五割程度からの挑戦は、無事に成功。
削れ具合的にギリギリだったので、このパーティでは四割程度まで調整した方が安全かもしれない。
もちろん、『バーストエッジ』を使用可能な際はその限りではないが。
空に還って行く『試練を与えし者』を見て、ユーミルが満足気に剣をしまう。
「よし、この調子で行くぞ! どんどん経験値アイテムを稼ごう! 私はマーネのバフを見てみたい!」
「そうだな。二人とも、時間は大丈夫?」
「はい、私は大丈夫です!」
「私も行けますよ。マーネもまだ大丈夫そうです」
「うん。ノクスもいるから、疲れていそうならすぐに言ってね。そんじゃ、ユーミル。連戦行っとくか」
「うむ、行こう!」