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前衛のアイテム使用と氷の行方

 その後の戦闘を終えて戻ってきたのは、大体夜の十時頃。

 フィールドはまだまだ盛況だが、既に三時間ほど休みなしでプレイした俺たちは一度ギルドホームへと戻ってきていた。

 談話室の扉を開き、思い思いに休憩に入る。


「アイテムがすっからかんだ。MPポーションがもうないぞ」

「私のほうは駄々余りだ!」

「……、…………。ああ。まあ、仕方ないよな」

「見える、見えるよ」

「何が? シーちゃん」


 真っ先に椅子に座って楽な体勢を取ったシエスタちゃんが、意味ありげな視線を俺に向けた。

 隣に座ったリコリスちゃんが首を傾げる。


「本当は攻撃の合間に使え! と言いたいけど、ユーミル先輩の場合は攻撃に集中させたほうが良いか……という先輩の葛藤だよ。リコには見えないの?」

「見えないよ!? 本当ですか、ハインド先輩!」

「んー……大体合ってる」

「合っているんですか……」


 アイテムボックスを開けながらの俺の言葉に、サイネリアちゃんが呆れとも感心ともつかない声を出した。

 おっ、今夜も止まり木がアイテムを納めてくれている。ありがたいな。

 俺がみんなの補充分のアイテムをテーブルに置いてから座ると、ユーミルが口を開く。


「私はそんなに器用な人間ではないのでな! アイテムを使った拍子に、クイーンの頭から落ちそうだ!」

「登ってる最中とか攻撃中じゃなく、落ちた時ついでに――とかでも良いんだけどな。アラーニャみたいにワイヤーを使いながら飲む、とかやる必要はないぞ。ありゃあ高等テクニックだ。それも特にやる必要のない、無駄なやつ」

「ハインドと同じようなポーションホルダーを使っていたな、あいつ!」

「上手な前衛さんたちみたいに、サッとアイテムを取り出して自分を回復、そのまま攻撃を継続……って、動きの中でスムーズにできると格好いいんですけどねー。私もついつい忘れちゃいます」


 言われてみれば、リコリスちゃんもそういう傾向があったな。

 ポーションの中でもMPポーションはWT毎に自分でも使ってくれるのが理想だが、前衛は敵モンスターの妨害を受けやすいので使用の判断が中々に難しい。

 スキルの回転率が命となる魔導士や前衛型フォワードタイプを除く弓術士には必須の行動だが、結局二人の場合は……。


「二人とも、MPが足りない! 次にやりたい行動が取れない! って時にはさすがに自分で使っているだろう? アイテムに気を取られてミスをするくらいなら、目の前の敵に集中で構わないよ」

「む、そうか? それなら安心だ!」

「お許しが出ました! わーい!」

「……あの、リコ? ハインド先輩は前衛としての動きの質を落とさずに改善できるならしてね、って意味で言ったんだと思うけど。決してそのままで良いよって意味ではないと……」


 サイネリアちゃんが俺に視線を送って確認してくる。

 俺が同意するように頷くと、両手を上げて喜んでいたリコリスちゃんは――


「!?」


 駄目なの!? と驚いて勢い良くこちらを見た。

 そして似たような顔でほとんど同時に同じ動きをするユーミル。

 その動きのシンクロに、シエスタちゃんが顔を背けて小さく噴き出す。


「……そりゃあ、できそうならね。最近になって特に、MP消費の多いスキルも増えてきたことだし……」

「トビさんが上手ですよね、その辺りは。自分に余裕がある時は、回避直後にこちらにポーションを投げてくれたり」

「あいつは自分の火力が低い分、他にダメージを取ってもらおうって意識があるからだと思う」

「他には……弦月もそうだったな。あいつは自分でもかなりのダメージを取るが」

「あの人は全部一人でできるからなぁ。あの視野の広さは鬼だよ、鬼。後ろに目が付いているみたいだ。それだけ前衛が後ろにまで気を遣う、ってのは難しいんだが……参考にするんなら、弦月さんよりも今回のイベントで見た他のカンストプレイヤーたちだろうな。さっきリコリスちゃんが言っていたやつだよ」

「はい?」


 リコリスちゃんが自分の発言を思い返すように視線を泳がせる。

 どれだか分からないだろうか? サイネリアちゃんは何かに思い当たったように頷いているが。


「ほら、あのサッとアイテムを取り出して“自分を回復して”ってやつ」

「ああ、アレですか!」

「ぷくくっ……はぁー、苦しい。つまり先輩、こういうことでしょう? 弦月さんレベルは無理でも、自分の回復くらいできれば、前衛としては十分だってことですよね? 合ってます?」

「そういうこと。前衛は後衛に比べて全体の状況を見るのが大変だから……って、笑いながらでよく話を聞いていたね。どれだけ上手くやっても、俺たち神官の回復が間に合わない時ってのは必ず来るから」

「なるほどぉ!」

「そういうことか……当たり前だが、そういうのもちゃんとやったほうがアタックスコアは伸びるな?」

「当然。通常攻撃とスキルを使った攻撃、どちらが上かは言うまでもないだろう?」


 足りないMPを通常攻撃で補っていたのは、運動神経に優れたユーミルならではだが。

 リコリスちゃんも、体格は不利だが良く動くんだよな……転びやすかったりと問題はあるが、動きの量でカバーしている。


「そうか。だったら次の戦いからでも、早速やってみるとしよう! リコリス!」

「はい、私もやってみます! サイちゃんとシーちゃん、ハインド先輩のMPが楽になるはずです!」

「うん。動きがチグハグになったら禁止令を出すから、安心してやってみなよ」

「そうだね。WTが終わっていないのに、アイテムポーチに手を入れてみたりとかね」

「使おうとしたポーションを手に持ったまま、敵に吹っ飛ばされたりとかな」

「信用がないな!?」

「信用がないです!?」


 二人が不器用なのは、もはや周知の事実だからなぁ……。

 改善を狙うことでイベントに悪影響が出るほど酷いようなら、残念だが次のイベントからということで後回しだ。

 そんな風に戦闘についての反省を終え、俺たちはノクスとマーネの世話をしながらパストラルさんを待っているのだが……。


「お待たせしました! ノクスが新しい魔法を習得したって、本当ですか!?」


 談話室のドアを開いて、慌てた様子のパストラルさんが現れた。

 目的は彼女自身が口にした通り、つい先程ノクスが習得した新魔法を見せるためだ。


「来てくださいましたか」

「この魔法だけは、パスティに見せるべきだとハインドが言ってな! という訳で……」

「いや、そのままお前が指示を――」


 こちらに水を向けたユーミルだけでなく、期待に満ちた目のパストラルさんまでもが俺を見ている。

 ……無言でノクスを手の平に乗せ、一呼吸。


「――ノクス、アイスニードル!」


 ノクスが「ホウ」と小さく鳴き、その場で羽を広げて魔法陣が現れる。

『ウィンドカッター』とは明らかに違う模様の魔法陣に、パストラルさんが息を呑み……。

 ――キンッ、キンッ、という涼やかな音と共に尖った氷がテーブルに当たった。

 破壊不能オブジェクトなので、表面に傷はない。

 そして……。


「……ーっ!! やりました! やりましたよノクス! 凄い凄い!」


 声にならない呻きの後に、パストラルさんはノクスを手に乗せて頬ずりをした。

 いやー、本当に間に合って良かった。氷もどうにか使えそうなサイズがあるし。

 パストラルさんと喜びを分かち合う三人を見ながら、シエスタちゃんがススッと寄ってくる。


「偉いですねー、ノクスは。私らのマーネはいつになったら戦闘参加できるんでしょうね?」

「補助系っぽいからなぁ、カナリアは。好戦的な性格でもないし……今のイベントが終わったら、色々と試してみようか」

「ですねぇ。あ、ルートだ」


 パストラルさんの後をついて、のっしのっしと神獣ウッドゴーレムの「ルート」がやってきた。

 そのままパストラルさんから離れたノクスと机から下りたマーネを両肩に乗せて、ルートが座り込む。

 そんな神獣たちの姿に、イベント休憩中の俺たちは暫し癒されるのだった。

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