イベント終盤 強者たちとの共闘
クイーンの巨躯を考えると、頭の上で攻撃するユーミルとの距離は自然と離れる。
下からしっかりと目を凝らして、状態を見極める必要が……
「んぎゃああああっ!」
「おわっ!?」
あると思っていたら、ユーミルが落下してきた。
登ってから結構な時間が経過しているので、落ち時といえば落ち時か。
「リコリスちゃん、ユーミルのカバー頼む!」
「はいっ!」
『ヒーリングプラス』を飛ばしながら、リコリスちゃんにユーミルの下へ走ってもらう。
かなりダメージを稼いだので、クイーンのユーミルに対するヘイトは高めになっている。
それに、そろそろあの範囲攻撃が来そうだ。
クイーンの腹部が眩く発光し始め、口元にエネルギーの塊である球体が形成される。
「リコ、来るよ!」
「お任せあれー!」
サイネリアちゃんの警告の声を最後に、俺たちは回避行動に移る。
クイーンが最初に攻撃する範囲は地面に光のマーカーで表示され、クイーンから見て右方向に薙ぎ払われる。
自分たちのいる位置によって薙ぎ払いの開始地点の奥に進むか、首を振り切っても当たらない範囲まで逃げるかが変わってくる。
俺たちの場合は……やはり、開始地点のマーカーが足元表示される。
範囲攻撃はプレイヤーが多く固まっている地点が狙われることが多いのだが、一パーティや一プレイヤーだけ極端に討伐貢献度が高い時はそこが始点にされることもある。
マーカーの奥……クイーンの左側へ後衛三人で駆け抜けた直後、熱線が発射された。
「ユーミル先輩は私がお守りしますっ!」
「すまん、リコリス! 恩に着る!」
「おー……やっぱりリコが熱線を真っ二つにしているように見えますね。盾、溶けそう」
ユーミルの前で熱線を防ぐリコリスちゃんを見て、シエスタちゃんがぽつりとそんな感想を漏らす。
もちろん、MPチャージはしながらだが。
「セレーネ先輩が用意した、火属性の盾……効果抜群ですね」
こちらも矢を射かけながら、サイネリアちゃんが大盾についての感想を述べる。
「ユーミルの落ちるタイミングが悪くて、何度かこんがりしていたからな……これで今みたいなタイミングで落ちても、リコリスちゃんがいれば戦闘不能になることはないだろう」
「リコ、最初は滅茶苦茶ビビってましたけどねー。本当に大丈夫ですか!? 溶けませんか!? 焼きリコリスになりませんか!? って」
「言ってたねぇ、そんなことも。あんなえげつない光線を盾で防げ、なんて言われたら仕方ないと思うけど」
現に俺の視線の先、リコリスちゃんを見て真似をしようとした他のパーティの騎士があっさりと光に飲まれて戦闘不能になった。
無茶だろう、その装備とレベルでは……。
光線を防ぎ切り、十分の一程度になってしまったリコリスちゃんのHPを『ヒーリング』と『中級HPポーション』で回復しておく。
「セレーネ先輩が作って、リィズ先輩がダメージ計算したものですから心配要らない――とはいえ、怖いものは怖いですよね」
「リコリスちゃんの勇気に敬礼……ってことで、ここからは二人も積極的にダメージを稼いでくれ。このままだと時間がかかり過ぎる」
「はいはい。ユーミル先輩が頭付近にいない時は、魔法で狙ってみますよ」
「乗っている時は腹部、ですね?」
俺が頷いたのと同時、体勢を立て直したユーミルとリコリスちゃんがクイーンに向かって走って行く。
中級者の多いエリアを選んで召喚していても、結局どんなプレイヤーが参加してくれるのかは運だ。
周囲が弱めな時はダメージを稼ぎやすいようにも思えるが、弱すぎるとターゲットも取ってくれないのでクイーンの攻撃がこちらに集中して苦しい。
それでもどうにか、俺たちが戦力の中核となってクイーンを倒し切ると……。
次戦、今度の戦いは先程とは真逆の状況に陥っていた。
開始二分程度で、クイーンが早くも脚部のダメージ超過により体を砂上に落とす。
「早っ! 特殊ダウン早っ! ユーミル先輩、ダウンの衝撃で落っこちちゃいましたよハインド先輩!」
リコリスちゃんが動揺するのも無理はない。
この状況を作っている原因は、スキル名を叫びながら豪快な戦いを見せる男性プレイヤーを中心とした一団と、的確な押し引きで脚部を折りに行っている女性プレイヤーを中心とした一団。
「ソールのギルマス・ソラールさんPTに、ルーナのギルマス・アノさんPT……グラドとベリのトップギルドの中核じゃないか。こりゃあ酷い」
「さっきの戦いとのギャップが激しいですねぇ……」
「あ、ユーミル先輩のアタックスコアがソラールさんに抜かれそうです」
「――聞こえたか!? ユーミル!」
体に付いた砂を吹っ飛ばしながら、比較的俺たちの近くに落ちていたユーミルが起き上がった。
果たしてサイネリアちゃんの声が聞こえていたか、その目にはギラギラとした戦意が宿っている。
「応! いくら強かろうと、討伐数がメイン目標のやつらに負けていては先はない! 行くぞっ!」
俺が余計なことを言わなくても、全て分かっているようだ。
オーラをスパークさせながら走るユーミルに、次々とバフをかけ直していく。
特殊ダウン中のクイーンの頭部で一際大きな爆発が発生し、再びユーミルがこの戦いのアタックスコア首位に浮上。
その後は隙をついて頭部に登り、二度目の特殊ダウン直前に落ちたものの……。
「弾けろぉぉぉっ!」
ラストアタックをユーミルが取り、スコアもそのまま首位でフィニッシュ。
これだけやって2位以下との差が思ったほどない、という恐ろしい結果ではあったが。
若干息の上がったユーミルがこちらに戻ってくると、ソラールさんとアノさんのパーティが俺たちに称賛の声をかけてくれた。
次のギルド戦なり対戦型のイベントで是非戦いたい、と言っていたが……どちらも底が知れない感じで怖いな。
そんな両パーティが離れ、後は通常フィールドに戻るのみである。
「先輩先輩。これ、最速タイムは間違いなく更新していますよね?」
「討伐時間が短くても、何か報酬をもらえる訳ではないけどね。更新していると思うよ」
シエスタちゃんが感心したように「ほえー」と口を開ける。
そして続いて出た言葉は、いかにも彼女らしいものだった。
「討伐数稼ぎが目当てなら、理想の展開ですよね。楽でしょう?」
「まあ、ソールとルーナのパーティが揃うなんてそうそうないだろうからね。レベルが近いプレイヤー同士のパーティは、バトル後フィールド内のかなり遠くに配置されるらしいから……次も一緒ってことはまずないだろうし。っていうか、制限がかかるんだっけ?」
「示し合わせて稼げないように、でしたっけ? フレンド同士の二パーティはそもそも一緒に入れなかったりで、色々と制限がありますよねー」
シエスタちゃんとそんな話をしていると、景色が歪んで元の通常フィールドに戻された。
そしてリザルトが表示され、確認したサイネリアちゃんがやや渋い顔になる。
「確かにタイムは非常に早かったみたいですが、アタックスコア的には微妙ですよね……ユーミル先輩のスコア、一戦平均から見るとかなり低いようですし」
「集まってくれる他のプレイヤーのみんなは、程々の方が良い! って先輩たちが言っていた意味がやっと分かりました!」
疑問が解消したことで笑顔のリコリスちゃんの横で、先程から黙っていたユーミルがようやく顔を上げる。
「ぜえ、はあ、ぜえ……よ、よし! 次に行くぞ、次に!」
「大丈夫か? とりあえず呼吸を整えて、水を飲めよ」
大人しく従うユーミルに水筒を手渡したところで、俺は辺りを見回した。
次の戦いは、バランスの良い集まり方をしてくれるとありがたいんだが……。