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ラストスパートに向けて

「お帰りなさい、みなさん。どうでした? 今日の成果は」

「パスティ! ただいま!」


 夜、アイテムの消費数の報告も兼ねて俺たちは止まり木のギルドホームへ。

 バウアーさん夫妻を含め、ほとんどのメンバーは農業区にいるようだったが、パストラルさんが出迎えてくれた。


「ただいま帰りました。パストラルさんさえ宜しければ、ランキングを見ながら話しませんか? 時間、あります?」

「あっ、もちろん大丈夫です。ユーミルさんのランキングも凄く気になるんですけど……ノクス、どうでした?」


 ユーミルに視線をやると、先に話してやれと大きく頷いた。

 ノクスの情報に関しては、パストラルさんからもたらされたものだとみんなにも伝えてある。

 それだけに、当人としては気になるのだろう。

 和洋折衷な止まり木の集会所で、板間を選んで全員で座り込む。


「魔法は無事に習得できました。ただ……」

「ただ? あの、もしかして私ってば、誤情報を――」

「いえいえ、そうではなくて。魔法やスキルの習得順にはランダム性があるらしいじゃないですか? ……そうだよな? トビ」

「人気のあるトカゲ種のスキル習得パターンがバラバラらしいでござるし。おそらく間違いないでござろう」

「ってな訳で、ノクスが習得したのはこれです」


 話をしながら立ち上がった俺は、窓の傍でノクスに指示を出す。

 優秀な言語理解能力を備える神獣は、スキル名を声に出すだけでスキルを発動してくれる。

 公式によると、成長すれば簡単なサインや名前を呼ぶだけで理解できたりもするそうだが……それはまた別の話として。

 俺の後に続いて窓の傍にパストラルさんが寄ってくるのを確認してから、口を開く。


「あー……ごほん。ノクス、ウィンドカッター」


 ノクスは返事をするように鳴くと、ホバリングしながら小さな羽をバサバサと激しく動かす。 

 すると体が光って魔法陣が浮かび、窓から空に向かって風の刃が三つ飛ぶ。

 やがて射程限界に達したそれは、空に溶けるように消えていった。


「わあ……ノクス、格好いいですね! ――って、ウィンドカッターが先だったんですね……」

「残念ながら」


 ノクスをパーティに参加させてかなりみっちりと戦わせた結果、ウィンドカッターを習得した。

 これにより予備戦力としては更に活躍できるようになったが、これを初めて見た時は驚きと共にみんなで叫んだものだ。

「そっちじゃない」と。

 肩に止まったノクスが落ちないように気を付けつつ窓を閉めて戻ると、ユーミルがからかうような目を向けてくる。


「ハインド、また指示出しの時に照れていなかったか? ん?」

「うるさいな。世の中、お前みたいにノリノリで技名を叫ぶ人間ばかりじゃないんだよ」

「しかし、私たちへの指示出しの時は普通にスキル名を読み上げているではないか」

「それとはまた違うんだよ。神獣の名前を呼んで、しっかり技名を叫ばないといけないみたいでさ……分かるだろう?」

「ええ、分かります」

「うん、分かるよ」

「ちっとも分からん! 同じことではないのか?」

「魔法の詠唱関連で、前に同じような話をした記憶があるのでござるが」


 確かみんなで初めて国軍の軍事教練を行った時だったか。

 座ってノクスの餌をやる用意をしながら、みんなで膝を突き合わせる。

 トビの言葉に応じたのはセレーネさんだ。


「そうだったね。かといって、ユーミルさんに戦いながら指示を出す余裕はないよね?」

「余裕というか、私は同時に二つのことをするのが苦手だぞ!」

「不器用ですからね、この人。ハインドさんが不在の時以外は、自然とハインドさんの役目になりますかね? ノクスに指示を出すのは」

「早く名前を呼ぶだけで反応するように育てたい……」

「もしくは、自己判断でスキルを撃ってもらうかでござるな」

「そうだな」


 先程頭の中で脇によけた話題が早速必要になった。

 しかし「成長すれば」という記述は非常に曖昧で、どの段階までノクスが育てばそうなるのかは不明だ。

 指示を出すプレイヤーに神獣がどれだけ懐いているかも重要だそうだし。

 トビが言ったようにスキルはノクスが自身で判断して使うこともあり、余裕がない時は指示を出さずに任せておいてもOKだ。

 当然、発動が適切なタイミングではなかったりするが。


「まあ、ノクスにはソル・アント戦でもうちょい頑張ってもらうとして……ユーミルの今日の成果でしたね」

「あ、ではランキングを開いてみますね。ええと……」


 パストラルさんが素早くメニュー画面を操作し、慣れた様子でランキングのページを呼び出した。

 ……この一連の動きを見るに、俺たちの成績を普段から気にかけてくれているのが分かる。


「出ました! ……あ、あの、みなさん? どうしました?」


 他のメンバーも似たような思いを抱いていたのか、ついついみんな笑顔でパストラルさんを見てしまっていた。

 いい人だよなぁ……見た目はこんなにパンクな雰囲気なのに。


「いえ、何でも。見ての通り、ユーミルは順位を6位まで上げることができました」

「これは凄いですね……今日の朝は、まだ10位くらいでしたよね?」

「明日には深夜組に多少抜かれているでござろうが、とりあえず見えてきたでござるな。天辺が」

「ああ。そんな感じで、このまま順調に行けばどうにか最終日には1位が射程に入りそうです」

「うぉぉぉぉぉぉ! 絶対に勝つぞぉぉぉ!」

「ユーちゃん、うるさい! 何時だと思ってるの!」

「――あ、はい。すみません……」


 通りがかった止まり木の小学生メンバー、ステラちゃんに叱られるユーミル。

 今は現実時間では九時なので、ゲーム内はともかく世間的には夜である。

 反省した様子のユーミルを見て「気をつけてね!」との言葉と共に許してくれた様子のステラちゃんは、「おやすみなさい」と近場のメンバーと俺たちに挨拶を交わしログアウトしていった。

 話が途切れ、微妙な空気が俺たちの間で流れる。


「……え、えーっと……そ、そういえば今回は、ランキング毎に有名プレイヤーがかなり分散していますよね?」

「……そうですね。だからこそ、イベント序盤のロスをカバーできているという面はあるかと思います」

「パーティ単位とはいえ、結局大手ギルドは組織力を活かして討伐数ランキングに群がっていますからね。報酬の太陽の腕輪とかいうアクセも、効果が高くて人気みたいなんで」

「お、おい? そこはいつものように馬鹿にしてくれないと辛いのだが? 小学生に叱られて恥ずかしくないのか、とか……ハインド? リィズ?」


 そのまま放置しようかとも一瞬考えたが……。

 ユーミルがあまりにも不憫だったので、口にキャラメルを放り込んでおいた。


「あまーい!」


 キャラメル一つで気を取り直し、パストラルさんとランキングについて話し出すユーミル。

 そんな一連の流れに、俺と目が合ったセレーネさんは苦笑していた。

 その後、パストラルさんにはこれまで通りMPポーションを最優先で生産してくれるようお願いして解散となった。

 少し早いが、今日は日中に多めに時間を取ることができたのでペースとしては問題ない。

 ラストスパートに向けて、体力温存のため早めに休むことも大事だろう。

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