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名うてのソロプレイヤー

「うおー……前イベントの結果で薄々察してはいたけど、馬の差がここまであるとは」


 道中、一般等級の馬に乗るスピーナさんは移動が遅れ気味だった。

 そんなスピーナさんのギルド、カクタケアのメンバーの乗る馬は掲示板で買ったものが主だそうな。


「新しい馬が欲しくなってくんなぁ」

「それなら、ウチの馬を買います?」

「おっ、いいねぇ。駿馬? 買う買う。値段はどんなもん?」

「駿馬の数も揃ってきたので、駿馬でいけますよ。値段に関しては……スピーナさんですし、掲示板の相場よりはグッとお安くご提供させていただきますが」

「そりゃありがてぇ。仮にだけど、他のギルメンの分も纏めて買ったらもっと安くなったり?」

「ええ、もちろん――」

「ストップ! ストップだ、ハインド! セールストークも大事だが、もうイベントフィールドだぞ!」


 ユーミルの声にスピーナさんと共に顔を向けると、三人は既に武器を構えていた。

 どうやら『ソル・アント』が現れる兆候があったらしい。

 その証拠に、砂中から複数のアリが熱気を伴って飛び出してくる。

 ――戦闘が始まった。

 気を付けるべき攻撃は強靭な顎による噛みつきと火炎放射で、体当たりや小火球は無視できるダメージといったところ。

 俺たちは断続的に出現する『ソル・アント』を、しばらくの間は倒し続けていたのだが……。


「何か、あれよな? 大量に来られると対処できてないよなぁ?」

「スピーナ殿の仰る通りでござるな。他のパーティに何体か持って行かれたでござるし」

「……癪に障るが、リィズのダークネスボールがないせいではないか?」

「そうだろうな。敵を集めてバーストエッジ、もしくはブラストアローってコンボができないせいか」

「アタッカーが三人とも、単体の敵に強い職だものね……」


 スピーナさんとの連携は特に問題なし。

 むしろユーミルの取りこぼしを倒したり、トビが危険な時に壁になったりと最高の遊撃役を務めてくれている。

 しかし、今話したように『ソル・アント』に集団で来られると少々苦しい。

 俺たちが考え込んだのは数秒程度で……。


「では、ここは切り替えて行きますか」


 俺の端的な言葉を正確に受け取ったらしい面々が、即座に頷く。


「それじゃ、レイドボス中心にやっかぁ。召喚アイテムは十分なんだろ? 渡り鳥のみんなは」

「今から解散時間一杯まで、召喚し続けても大丈夫な程度には十分だ! な、ハインド!」

「ああ。普通のソル・アント討伐はリィズがいる時にまとめてやろう」

「ここはフィールド中心部だから……もう少し外縁部に移動しようね」


 セレーネさんの言葉に従い、中級者の多いエリアまで馬を引いて徒歩で移動。

 インベントリから『太陽の欠片』を取り出していると、トビが手を上げる。


「あ、拙者が召喚してみてもいいでござるか? 一度やってみたかったのでござるよ」

「いいけど、揃えてウィンドウの決定ボタンを押すだけだぞ?」

「いいからいいから。決定を押してから、転移まで少し間があるでござろう? という訳で、決定!」


 屈み込んで決定ボタンを押したトビが、両手を天に掲げた仰々しいポーズで静止する。

 何が始まるのかと俺たちが注目していると……。


でよ、クイーン・ソル・アント! 太陽の欠片の呼びかけに応えよぉ!」

「阿呆か」

「アホだなぁ」

「恥ずかしいやつだな! 私でもやらんぞ、そんなこと!」

「の、ノーコメントで……」

「はっはっはっはっは!」


 満足そうなトビの高笑いが響く中、俺たちは太陽の欠片から膨れ上がった光に飲まれた。


 気が付くと先程まで立っていた場所と、大差ないように思える砂漠の上。

 違いは周囲のプレイヤーの姿がないことと、この地面から伝わってくる振動。

『ソル・アント』とは比べ物にならない巨大な蟻が、爆発でもしたかのような砂塵を巻き上げながら目の前に登場した。


「来たか!」

「ハインド、セオリー通り足狙いでいいんだよな!?」


 スピーナさんが拳を打ち合わせて気合を入れる。

『クイーン・ソル・アント』戦のセオリーというのは、脚部を狙ってダメージを蓄積させ、特殊ダウン。

 そこから弱点である頭部または腹部を狙うというもの。


「はい、お願いします! 各員、散開! 他のパーティが来るまでは安定行動で!」

「承知!」

「分かった!」

「スパイクブーツが完成すれば、素の状態でも頭を狙える……かな?」

「クイーンの体勢次第ですかね。まだないものは仕方ないんで、セレーネさん。上手いことユーミルのサポートをしてやってください」

「うん」


 セレーネさんとの会話を終えると、俺もバフ魔法の詠唱を始めた。

 彼女のように射撃系の職なら、クイーンの状態を問わず弱点を狙いやすいのだが。

 とはいえ、それを覆すのが俺の役割でもある。

 クイーンの特殊ダウンのタイミングで、ユーミルが最大火力を発揮できるように持って行かなければ。

 そこから数分、もうじき最初の特殊ダウンを奪えそうという頃。


「――あっ、すごい! 全員フルに近いHPで戦ってる!」

「これなら全滅はないかな? 私たちも行こう!」


 他のパーティが到着し始めた。

 そのほとんどがレベル40台、注文通りの中級プレイヤーたちだ。

 そして最初の特殊ダウンが起き、クイーンが巨躯を砂の上に横たえる。


「ユーミル、Go!」

「よしっ! 稼いで稼いで稼ぎまくるぞ! ぬおおおおーっ!」


 ユーミルのバフを確認、余裕があることを確認して自分も近くまで駆け寄る。

『エントラスト』を使った後は直接MPポーションをユーミルに投げなければならない。

 他のパーティのプレイヤーたちも、特殊ダウンを見て一斉にクイーンに群がって行く。

 しかしそんな中で、レベル60のカンストプレイヤーが走っているのを確認できた。


「!? 誰だ、酔狂な……一人か?」


 リストを確認すると、ソロプレイヤーのようだった。

 そのプレイヤーは、やや短めの剣を持って軽やかにクイーンに連撃を入れて行く。

 ユーミルが起こす魔力の爆発よりもずっと地味だが、物凄い手数とクリティカル率だ。

 更に珍しいことに、ゲーム全体で人数の少ない攻撃型の軽戦士だ。

 彼――華奢だが、おそらくあれは男性だろう――彼はそのままクイーンの頭の上に乗っていたのだが、特殊ダウンが終わってクイーンが身を起こし始める。

 落下は免れないかと思いきや……。


「うおっ、アンカーフックにワイヤー!? 片手でバランス取って、そのまま攻撃継続してやがる……」

「凄いね……私たちとは違うアプローチで、先を越されちゃったね」

「あれ、不味くないでござるか? あの調子で攻撃を続けられたら、ユーミル殿が稼いだダメージを超えそうでござるよ?」


 余りの事態に、警戒態勢を保ちながらパーティメンバーが集まってくる。

 ユーミルは既に足への攻撃に移行しているが……トビの言う通り、このままでは今の特殊ダウンで稼いだ一戦内攻撃トップの座が危うい。

 成績表を一瞬だけ呼び出して確認すると、どんどん差が縮まっている。


「あー、あいつ知ってるわ」

「誠でござるか? スピーナ殿」

「ああ、有名人。ちょい待ち、戦闘が終わったら詳しく話す。で、いいだろ? ハインド」

「ですね。とりあえず、こいつを片付けましょう」


 俺がスピーナさんに『アタックアップ』をかけ直したのを契機に、再びパーティメンバーが各々のポジションへと散って行った。

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