過去のレイドとの違い
件のソロプレイヤーは、クイーンを倒して通常フィールドに戻される間際、俺たちに向かって手を振っていた。
見ての通り愛想は良いようだが、特にこちらと話をする気はないらしい。
と、いうことで……。
「スピーナさん、あの人はどういう人なんですか?」
「ああ、有名なソロプレイヤーで名前は……」
「うむ、名前は?」
「名前は………………何だっけな?」
「ちょ、スピーナ殿! それはないでござろう!」
「っていうか、リストを見ればプレイヤー名は書いてあるじゃないですか。フィールドに戻されてからなら、MVPでも表示されるでしょうし」
「ハインド君、ユーミルさんが地面に手を付いて震えているんだけど……」
「――あっ」
そうだった。
最終的にユーミルは攻撃スコアであのプレイヤーに抜かれ、後塵を拝すことになった。
そのままプルプルと震えていたかと思うと、転移が始まり……。
改めて表示された結果を見ても、やはりユーミルは2位だった。
討伐時間はまあまあ短かったが、この結果には俺も思うところがある。
「んがぁぁぁぁ! ハインド、ぐやじぃぃぃ!」
「戦闘イベントの度に一回は、お前のその姿を見ている気がするよ……こらこら、砂の上を転がるな。熱いだろ? それ」
「基本的に尻上がりに調子を伸ばすタイプだしなぁ、お前らってさぁ」
「ところでスピーナ殿、あのプレイヤーについては思い出したでござるか?」
「名前はアラーニャさん、だったね」
「あ、そうそうアラーニャだ、アラーニャ。あれよ、明日から頑張る、とかに出入りしてるソロプレイヤーの一人。そもそも今回、あの手のプレイヤーが多くランクインしているんだけど、知ってる?」
俺たちは首を横に振った。
そもそもユーミルがまだランクインには遠いので、それが叶った後であれば知っていた可能性があるが。
イベントの参加ペースを高めるのに必死で、そこまで気が回っていなかった。
しかしスピーナさんの話通りなら、今回の最大単位がパーティという仕様はプレイヤーたちの要望通りの結果になったのだろう。
ギルドなどの組織で強いプレイヤーではなく、個で強いプレイヤーがランクインしやすい環境へ。
「で、アラーニャはあの通り軽戦士の攻撃型、サブウェポンのワイヤーアンカーを使って戦うスタイルで有名だ。トビみたいに投擲アイテムも大量に使うんだったっけな?」
「これはライバル登場の予感でござるか?」
「あっちは純粋なアタッカーだから、トビのライバルになるかどうかは知らねえなぁ」
確かトビと同じく爆発物は使っていたかな……。
クイーンの頭の上で、何かが爆ぜるのを見たような気がする。
しかしそれもスピーナさんの言うように、攻撃力の低さを補うための投擲であるトビとは違うものだろう。
あの人からはどこか「攻撃以外する気はない」という鋼の意志のようなものを感じた。
完全な攻撃特化型だ。
となると、やはり意識するべき当人はこっちだろう。
「むしろ私のライバルだろうが! どう考えても!」
体にまとわりついた砂を飛ばしながら、ユーミルが立ち上がって叫ぶ。
「お前のライバルはアルベルトさんに弦月さんと、既に二人もいる訳だが……」
「まあ、弦月さんは今回アタックランキング狙いじゃないらしいからいいとして……」
「あ、入ってる入ってる。もちろん入ってるぞぉ、アルベルトは。当然のように1位だ!」
「うおー! さすが兄貴!」
スピーナさんの言葉に、トビ以外の俺たち三人は「やっぱりな」という顔で微妙な気分になる。
味方ならともかく、敵に回してあれほど恐ろしい人もいないだろう。
ようやく落ち着いてきたのか、砂を払いながらユーミルが思案顔で口を開いた。
「しかし、そうなると闘技大会以来の競り合いになるのか? アルベルトとは」
「ベリの防衛イベントも危なかっただろうが……ナチュラルに。あの人、討伐数なんて意識していなかったのに」
「私たちも気合を入れないとね。改良型のスパイクブーツも早く作らないと」
「アルベルト以下も競ってるから、まだどうなるか分かんないけどなぁ。ちなみにアラーニャは8位だったりする」
「あれだけの動きのプレイヤーの上に、まだ六人もいるんですか……アルベルトさんを抜いたとしても」
てっきりもっと上位だと思っていた。
それだけ彼の動きは洗練されていて、凄みを感じさせるものだったので。
「で、どうすんのお前さんたち? このまま戦う? 一旦そのブーツとやらを作りに帰る?」
スピーナさんの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
まだクイーンと一戦しかしておらず、このまま戻るのはとても微妙である。
ユーミルのブーツは確かに必要な装備だろうが……。
「継続して戦いましょう」
「ユーミルさんをクイーンの上部に送り届ける以外にも、まだ詰められる部分はあるものね。私もハインド君に賛成だよ」
「拙者もまだまだ回避が甘いでござるしな……ということで、拙者も継戦に一票」
「では、私はバーストエッジ後の通常攻撃の高速化を!」
「お? 珍しいことを言うな、ユーミル」
「うむ……あそこが上手く行けば、スラッシュ程度までは回復なしで繋がるはずなのだ」
バーストエッジ後の攻撃か……どうしてもダメージ的に寂しくなる辺りだな。
ユーミルなりに、それを補うべく色々と試行錯誤しているらしい。
特にクイーンの動きが止まる特殊ダウン時などは、ラッシュが途切れるとそれだけアタッカーにとっては損だもんな。
俺たちの意見が一致を見たところで、スピーナさんが頷く。
「おっけ、了解。そんじゃあ、キリキリ戦いますかぁ!」
給水を済ませると、俺たちは再び『太陽の欠片』を持ち寄った。
今日明日の内に、ランキング圏内の後ろ姿くらいは見えるようにしておきたい。