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臨時パーティ・パターンその2

「……という感じで、ノクスは大活躍だったぞ。戦闘不能は片手で足りる程度、やっぱり飛んでる鳥は回避能力が優れているな」


 翌日、TBにログインした俺はトビと談話室でメンバーが揃うのを待っていた。

 話しているのは、昨日のイベント戦闘についてのことだ。


「相変わらず弦月さんは凄かった。タンクやって、必要な時はダメージも取って、広い視野で指示も出すとか信じられんね。ほとんど被弾しないし、プレイヤースキルが半端じゃない」

「はー、なるほど。拙者が姉ちゃ――姉上の買い物のお供に駆り出されている間に、そんなことが」

「何だ、帰ってきてたのか。響子きょうこさん」

「亘君の料理食べたい! って言っていたでござる故、何か持って来てやると喜ぶでござるよ……っていうか、マジで来てよ。そしたらしばらくの間、機嫌が良くなるから……」

「……何か用意して持って行くよ……」


 響子さんというのは津金家の四女であり、秀平の姉だ。大学生。

 秀平は五人姉弟の末っ子で長男なのだが、沢山の気の強い姉たちに囲まれて育ったためかこんな性格である。

 ……案外、こいつが魔王ちゃんを好きな理由もその辺にあるのかもしれない。

 他のお姉さんたちは既に独立しているので、夏休みに里帰りしてくるのは四女の響子さんということになる。


「話を戻すけど、昨日は弦月さんのおかげでハイペースで攻略できたぞ。前半もたついたけど、初日の遅れくらいは取り戻せた可能性があるな」

「誠でござるか! 拙者も負けてはいられぬ……今日で参戦が二度目でござるし、そろそろ回避パターンを固めて――」

「よし、今日も張り切って行くぞ! 大砂漠に!」

「投擲によるダメージ貢献を……って、ユーミル殿ぉ!」

「む?」


 トビの締めの言葉に被るように、勢いよく扉を開けてユーミルが現れた。

 リィズは夏期講習、ヒナ鳥たちも不在なので後はセレーネさんだけか。


「今日はパーティメンバーが定員に一人足りないんだが、どうしようかね?」

「ノクスは……お疲れのようだな!」


 ユーミルの言葉通りに、ノクスは鳥籠の中で眠り込んでいる。

 昨日ホームに戻ってからは、いつもより多めの餌を食べてこの通りだ。

 無理矢理起こして連れて行くのは可哀想だろう。


「そういやセレーネさんと少し話していたんだが、ユーミルは何か装備の要望あるか? 武器でも防具でも、イベントに合わせて作製できるが」

「装備の要望か………………………………」

「――長っ! 何か言いそうな空気だけ出すの、やめてほしいでござるよ! ユーミル殿!」


 一瞬だけ口を開きかけては閉ざすユーミルの様子に、トビがテーブルに向かってつんのめる。

 駄目だこりゃ。


「実は何も思いつかないって顔だな……」

「うむ!」

「だったらそう言えや。あーっと、そしたらあれだ……クラーケンの時みたいなスパイクブーツはどうだ? クイーン・ソル・アントに登るのは、クラーケンよりも難しそうだが」

「おお! それ――」

「それは良いね、ハインド君」

「リィズだけでなく、セッちゃんにまで台詞を取られた!?」

「さっきユーミル殿も拙者の言葉を遮ったでござろうが……」


 気が付けばセレーネさんが静かに扉を開けて入室していた。

 こんにちは、と挨拶をしながら俺たちの傍まで寄ってくる。


「登り難いとは思うけど、スパイク部分を強化すればクイーンの甲殻にも刺さるんじゃないかな。どう? ユーミルさん」

「うむ、お願いしておこう!」

「うん。じゃあ、時間を見つけてハインド君と一緒に作っておくね」

「スパイクにはセレーネさんの合金素材を使うとして……結構尖っていても、普段の動きにも支障は出ませんよね? 下は砂地なんだし」

「そうだね。登る時だけ履き替える、なんて手間は必要ないはずだよ」

「御二方、装備品のお話は道中でなさらんか? イベント、イベント」


 トビの呼びかけにハッとした俺とセレーネさんは話を止める。

 ついつい長く話し込みそうになった、危ない。

 四人でサッと装備を整えると、継続して回復アイテムうぃ供給し続けてくれている止まり木のみんなに挨拶をしてから農業区の厩舎へ。


「あ、そうでござった。もう一人のパーティメンバーの話がまだでござったな?」


 自分の馬の馬具を装備しながら、トビが俺に向かって呼びかける。

 ああ、そういえばその話が途中だったな。


「実は、今日になって弦月さん以外にも臨時でパーティを組まないかってお誘いが何件かあってな。返信がまだの人もいるんだが」

「おお、それは重畳!」

「っていうか、何でみんな俺にメールを寄越すんだろうな? 普通はギルマスのユーミルに出すんじゃ……」

「そこは、ほら。ユーミル殿だとメールに気付かなかったりとか、見ても返すのを忘れたりとか」

「うむ、あり得るな!」


 会話が聞こえたらしいユーミルが、装備を済ませたグラドタークを引いて近くまで寄ってくる。

 そう自信満々に答えられても、反応に困るんだが。


「そもそも、私に用がある時はハインドに! と、フレンドのみんなには言ってあるぞ!」

「お前のせいじゃねえか!? 何かおかしいと思ったんだよ、みんなが複数送信すらしてない時点で!」

「あ、でもハインド君って本当にすぐ返信くれるよね? 文章も丁寧だし、私でも気軽に出せる感じだよ」

「お褒めに預かり光栄ですがね――って、俺のせいで話が脱線しちゃったな。ええと……そうそう、パーティメンバーの話だったか。臨時の」

「誰かすぐに来られそうな御方に、心当たりが?」

「いるいる。そもそも、組みたい日の指定が今日だからおあつらえ向き」


 フレンドリストでログイン中であることを確認し、メールで呼びかけると……。

 時間は進み、馬を引いて西門で待つ俺たちの下に、その人は即座に駆け付けてくれた。


「ってな訳で、不死身のスピーナさんに来ていただいた!」

「おおー! よく来てくれた、不死身の!」

「不死身のスピーナ殿であれば、何ら不足はないでござるな!」

「ええと……」

「またこのパターンかよ!? 普通にスピーナって呼べよ! 帰っちゃうよ、俺!? セレーネだけじゃん、悪ふざけしてないのぉ!」

「すまんすまん」

「失礼しました、スピーナさん」

「しかし拙者は謝らない」

「謝れよ!? まったく……」


 武闘家の気功型チーゴンタイプである、カクタケアのスピーナさんがパーティに加入。

 前衛三、後衛二でパーティバランスも上々だ。

 気功型チーゴンタイプは防御貫通型のスキルも多いので、リィズのデバフがない今回は特に活躍が期待できる。


「んじゃあ、よろしくぅ!」

「うむ、頼んだぞ! スピーナ!」


 無事にパーティ人数が定員に達したところで、今日も俺たちは『大砂漠デゼール』に向けて馬を走らせた。

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