幼生神獣による戦闘
「まずはセンリを入れて、神獣が加わった戦いがどんなものかを体験してほしい。フクダンチョー、いいかい?」
「あいあい」
弦月さんの指示により、フクダンチョーさんがパーティを離脱。
続いて馬の神獣センリがパーティに入った。
砂地を踏みしめ、センリが前へと進み出る。
しかし、その頭の上に表示されたHPバーが、やけに……。
「短っ!」
「リストの数値を見ても……ああ、50しかない」
「低いですね……確か戦闘不能になると自動で回復状態に入り、一定時間を経て復帰する――という仕様でしたか? ハインドさん」
リィズが記憶を探りながら俺に質問する。
俺もノクスの実戦投入はもっと先だと思っていたので、基本を抑えた程度であまり詳しくはないが……。
「プレイヤーの戦闘不能とは違って、リヴァイブや聖水による即時復帰は不可、撤退前ならHPの回復は可能……って仕様だったと思う。合っていますか? 弦月さん」
「うん。それに加え神獣は一戦中に戦闘不能になる毎に、その戦いに勝利した後に得られる経験値が減少していくという仕様もある。神獣の戦闘不能に気を遣う必要がある、と言ったのはそのためさ」
「そう考えますと、ある程度は戦闘不能になること前提の設定ということでしょうか?」
「少なくとも幼生の内はそうらしい、としか言えないね。高レベル帯のモンスターの攻撃には、一撃だって耐えられない。しかし今後神獣として成長していけば、そうならないかもしれない」
弦月さんによると、戦闘不能とはいっても転んでは立ち上がり――といった感じで悲壮感はないとのこと。
その辺りは戦闘になれば分かるそうだ。
「ところで、戦闘不能にさせ過ぎると神獣がそっぽを向いたりはしないのか? 怒らないか?」
と、そこで今度はユーミルが弦月さんに質問した。
俺は周囲にモンスターが寄ってきていないことを確認してから、それに割って入る。
「あ、それは掲示板の情報で良ければ俺が知ってるぞ。確か、神獣は性格によって好戦的・非好戦的と別れるんだそうだ。ある程度の傾向は神獣の種類――種族にもよるんだけど、個体差もあるんだとか。好戦的な性格なら、戦闘に関係することでペナルティはないそうだ。その辺の見極めが大事」
「その通り。そこでセンリはというと、普段は穏やかながら主人や仲間を守る勇敢さも持ち合わせている。だから今のところ、戦闘参加については問題ないさ」
そう説明する弦月さんにすり寄るセンリを見ていると、その通りなのだろう。
撫でられて小さく鼻を鳴らしている。
「では、ノクスも問題ないな!」
「何だよ、藪から棒に。それは何を根拠にして言っているんだ?」
「私たちの神獣だぞ!? 大丈夫に決まっている!」
「無根拠かよ!? ……まあ、俺も何となく大丈夫な気はしているが」
「ノクスはハインドさんに似ていますから、問題ないと思いますよ」
「一番懐かれている自覚はあるが、似ているかどうかは分からんな……」
思わずグラドタークの背中で待機しているノクスを見ると、いつも通り首をくりくりと動かした。
フクロウの首はよく回る。
「ねえ、まだ戦わないんですかー? 退屈ー」
「っと、とりあえずやってみますか。弦月さん、ご説明ありがとうございました」
「うん。では行こうか」
そうして始まった、センリ入りによる『ソル・アント』戦。
センリは隙を見ては体当たりを入れるヒットアンドアウェイを繰り返し敵を翻弄していた。
「体が小さいし、攻撃力はそんなにないけど……敵がちゃんと怯むな」
「そうですね。弦月さんの仰る話では、体当たり以外にレア行動があると――出ましたね」
後衛二人で魔法を詠唱しながら話していると、センリが後ろ蹴りを繰り出した。
ダメージは一桁だが、強烈なノックバック効果により敵が吹っ飛ぶ。
「おおっ! これはチャンス!」
上手いこと纏まった二体の敵に対し、ユーミルが『ヘビースラッシュ』を入れる。
仕上げに弦月さんが『精霊の加護』を纏った蹴りを華麗に決め、二体の『ソル・アント』が光になって消える。
センリを加えての戦闘は続き……。
「あっ、センリが……」
声を上げたリィズの視線の先、センリが『ソル・アント』の火炎放射を浴びて後退する。
「センリ!」
「大丈夫だよ、勇者ちゃん。それよりも今は、目の前の敵に集中を」
「う、うむ……!」
心配そうなユーミルとは対照的に、初めての経験ではない弦月さんには余裕がある。
敵に向き直る前衛二人をよそに、そのままHP1の状態で下がったセンリの体は球形の光に包まれた。
後衛の俺たち二人からはその姿がよく見える。
「これが自動再生ってやつか……神獣らしさが出ているな。神々(こうごう)しい光だ」
「……三十秒ほどでしょうか? HPバーの回復ペースから計算しますと」
果たしてその三十秒後、リィズの予想通りにセンリは何事もなかったかのように戦闘に復帰した。
なるほど、確かにこれは弦月さんの言う通りあまり悲壮感はないな。
そしてフィールドのモンスターは切れ目なく登場する場合もあるが、戦闘不能時に減る経験値は戦闘不能時に戦闘状態に入っていたモンスターのものに限るそうだ。
そのまま数戦を終え、そろそろパーティを組み替えようかという段に。
当然、このタイミングでセンリの戦いについて感想を言い合うことに。
「いいな! ちゃんと役に立っているではないか!」
「ノックバックとヒットストップが良い感じだったな。賢いですね、センリ」
「総じてプレイヤーの邪魔にならない位置にいましたね。魔法もセンリが間に入って撃ち難いということはありませんでした」
「ありがとう、三人とも。攻撃力、機動性とまだまだこれからの部分は多いけれど、戦闘に参加させることで確実にセンリの動きは良くなってきているんだ。最初の内なんて……」
「あー、敵のターゲットを引っ張ってきて味方に被せちゃったり、体当たりを空振りしたりしてましたね。という訳で、ノクス――でしたっけ? ノクスも参加させて、戦いに慣れさせましょう!」
フクダンチョーさんが次は私も戦うぜ! といった様子で持った弓を上下させている。
否やはないので、今度は弦月さんがセンリと共に休憩に入ってフクダンチョーがパーティに入った。
「……本当に大丈夫か? ユーミル。前衛一人で」
「騎士の名乗りを忘れずに使えば良いのだろう? 余裕だ! 任せろ!」
若干パーティバランスが悪いが、バフ・デバフ担当の俺たちは抜けない方がいいという判断だ。
『ソル・アント』は高防御なので、デバフは割と必須である。
「……フクダンチョー、しっかり私の代わりに戦力になるように」
「弦ちゃんは心配性だなー。余裕余裕!」
「似たような会話が二ヶ所から聞こえてきますね……」
リィズがそんなことを呟いている内に、一匹の『ソル・アント』が砂中から現れた。
心の準備をする間もなく、ノクスの初陣が始まる。
俺の肩を軽く蹴って羽ばたいたノクスのHPバーはやはり短く、表示HPはセンリよりも低い40ほど。
ユーミルが『騎士の名乗り』を使い、『ソル・アント』が顎を開いて噛みこうと迫ってくる。
俺が『マジックアップ』を、リィズが『レジストダウン』の詠唱を開始したところで……。
不意に高度を上げたノクスが『ソル・アント』に向かい急降下した。
「――ぬお!?」
剣を構えるユーミルの前で、ノクスの足に頭部を抑え付けられた『ソル・アント』が身じろぎする。
さすがに幼生の小さな体では体重が軽すぎるのか、簡単に振り払われてしまったが……。
「十分だ、ノクス! くらえぇぇぇ!」
バフの白い光と共にユーミルが剣を振り上げ、デバフの黒い光が纏わりつく『ソル・アント』に魔力を叩きつけた。
砕け散る『ソル・アント』の上を旋回し、俺の肩へと戻ってくるノクス。
それに続くように、後続の敵がいないことを見計らってみんなも一度集まってきた。
「まさか初撃から当てていくとは……偉いぞ、ノクス!」
「うむ! だから言っただろう、大丈夫だと!」
「攻撃力はセンリと同じく低いようですが……短時間の拘束効果があったように見えました。これは有効ですね」
「凄いじゃないか、君たちの神獣――ノクスは。猛禽類だから、目が良いのだね」
「ですね、弦ちゃん! ……あれ、私の出番は?」
奇襲に出遅れたフクダンチョーさんの手には、放たれることのなかった矢が握られている。
それを見た弦月さんは、嘆息しつつ申し訳なさそうに額に手を当てるのだった。