臨時パーティの戦闘
『大砂漠デゼール』に到着した俺たち混成パーティは、中央部で10体に迫る数の『ソル・アント』と対峙していた。
まずは連携確認ということで、神獣二体――センリとノクスは馬と一緒にお留守番。
渡り鳥三人にアルテミスの弦月さん、フクダンチョーさんを加えたプレイヤーのみのパーティでの戦闘となっている。
「ハインド、勇者ちゃんの攻バフ残り5! 見えているかい!?」
「はい、見えていますよ! 準備しています!」
「フフ、余計なお世話だったかな? ――リィズ、少しディレイをかけて右翼にダークネスボールをお願いしたい!」
「了解です」
「勇者ちゃん、ハインドのバフを待って――」
「む?」
「私が集めた敵に向かって、突撃だ!」
「うむっ! いいだろう!」
「あれ、弦ちゃん私は? ねえ、私は?」
大弓を持って右往左往するフクダンチョーさんだが、彼女に対する弦月さんの指示は……。
「フクダンチョーは適当に射撃、ただしくれぐれもフレンドリーファイアには気を付けるように!」
「りょーかーい!」
このように彼女らしくない具体性にかけるもの。
しかし、俺がフクダンチョーさんに指示を出す場合でも同じようにすると思う。
理由は、その大弓から放たれる矢の行方を見ていれば分かることだ。
「あれ? 今日は当ったんないなぁ……」
一瞬弦月さんが振り返り、「それは今日“も”ではないかい?」という視線をフクダンチョーさんに向ける。
そんな行動をしつつも即座に敵に向き直ると、リィズが発生させた『ダークネスボール』によるブラックホールに敵を誘導していく。
範囲に収まらなかった敵に対しては、蹴り技によるノックバックで攻撃範囲に巻き込んでいく。
「上手いな……ユーミル!」
「お膳立てはバッチリだな! 行くぞっ!」
『アタックアップ』のバフを再度受けたユーミルが、固まった敵に向かって突撃をかける。
使用スキルは当然、
「砕けろぉぉぉ!」
『バーストエッジ』である。
綺麗に複数体の『ソル・アント』を巻き込み、炎を纏った働きアリたちが爆散。
「どうだ!」
「――ユーミル、右! 一体残ってる!」
「ぬお!?」
当たりが浅かったのか、一体だけ残った『ソル・アント』が強靭な顎を開いてユーミルに襲いかかる。
しかし、突如その『ソル・アント』の体が後ろへと吹き飛んだ。
「あっ、当たりましたよ! どうです? 見ました? 見ました?」
「これが噂に聞くラッキーショットですか……」
「綺麗にクリティカルを出しながら弱点部位を貫いていったな……」
俺たちとのギルド戦では不発だったので、実際に目にするのは初めてだ。
使ったスキルは、どうやら敵の吹き飛び方からして単発型の『ブラストアロー』のようだ。
しかし、狙いを定めにくい『ブラストアロー』を急所にぶち当てるとは……。
「セッちゃんでさえ、精密に狙うのは不可能なスキルだと言っていた気がしたが?」
「お、ユーミル。大丈夫だったか?」
「うむ……ありがとう、フクダンチョー。今のを狙ってできれば、恐ろしい存在になれると思うのだが」
「無理だろうね。今の戦い、何本の矢を当てたんだい? フクダンチョー」
ユーミルの言葉に得意気だったフクダンチョーさんの顔が、弦月さんの言葉で固まった。
俺の記憶している限り、最後の一発以外は……。
「そ、そんなことよりどうでした? 私たちと組んでみて!」
誤魔化すようなフクダンチョーさんの言葉に、俺は今の戦いを振り返る。
「初めて弦月さんとパーティ組んだ時にも思ったんですけど、指示を出さなくていいから楽ですね。支援に専念できます」
「敵の誘導がお上手なので、範囲魔法の撃ち甲斐がありますね。状況把握も、とても的確で……」
「トビがタンクの場合は分担作業といった風情なのだが、弦月の場合は共闘という感じだ。距離が近くても、いい意味で圧迫感がなかったぞ! 視野が広いし、死角をカバーしてくれる!」
「あれ、私についての感想は?」
「いいのかい、フクダンチョー? その流れだと、また君の命中率についての話に戻ってしまうが」
「――あ、何でもないです。弦ちゃんはどう思いました? 渡り鳥の御三方と組んでみて」
弦月さんが顎に手を添えて数瞬考え、一つ頷く。
周囲のモンスターのリスポーンは一段落したのか、静かなものだ。
中央部付近ということで、他のプレイヤーとの距離も遠く雑談するにも余裕がある。
「トビ君の代わりに私、セレーネの代わりにフクダンチョーが入っている訳だから……パーティバランスという観点では問題ないね。ただ、パーティ全体の火力は少し落ちているかな?」
「む、どうしてだ? 回避力は負けるが、弦月はトビよりも攻撃力があるだろう?」
「あ、私ですか!? 私が問題だって言いたいんですか弦ちゃんは!?」
「フクダンチョーの意外性には、個人的に期待しているよ。しかし、セレーネの代わりをできる弓術士は今のTB内に存在しないのではないかな?」
「「「あー」」」
それはそうだろう。
位置取り最高、狙いも正確、その上目も良く頭も良いと……これだけ揃った弓術士はちょっといない。
弦月さんは前衛型なので、そもそも土俵が違う。
「そして本職である鍛冶もトップレベルと。改めて考えると、超人的なゲームスキルですよね」
「どのギルドでも欲しがるだろう逸材だよ。彼女には、もっと色々な話を聞きたいものだけど……」
「難しいと思いますよ? 緩和されてきたとはいえ、セッちゃんはとても人見知りな性格ですから」
「無駄にキラキラしているからな、弦月は!」
「いますいます、アルテミスにも。弦ちゃんと向き合うと背筋が伸びるって子」
俺たちの会話内容に、弦月さんが若干しょんぼりした顔をしている。
これは決して弦月さんが親しみ難いという意味ではなく、それだけ凛とした雰囲気を彼女が纏っているという話だと思う。
セレーネさんに関しては……確か、本人が美形が相手だと緊張すると言っていたしな。
事前に何度かメールでやり取りをしておけば緊張が解れるかもしれない。
弦月さんとはダンジョン遠征でアルテミスのギルドに招かれた際に、フレンド登録をしていたはずだから。
それを弦月さんに伝えると……。
「ありがとう、ハインド。じゃあ、そうさせてもらおうかな。後衛と前衛で差は有るだろうけれど、是非ともエイミングに関する話をしたいね」
その後も数戦したが連携には問題なし、これならレイドボス戦も大丈夫だろうということで……。
次からはいよいよ、神獣を混ぜての『ソル・アント』との戦いになる。




