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止まり木のホームと宴会

 完成した止まり木のギルドホームで、俺たちは記念の宴会を開くことにした。

 砂漠の建築方式にどことなく和風テイストが混ざった建物は、とても居心地が良い。

 料理の準備で忙しく動き回っていると、何やら止まり木の一部のメンバーが箱のようなものを集会所入口に設置している。


「何です、それ? バウアーさん」

「おお、ハインドさん。これは……言うなれば、目安箱ですかな?」

「目安……?」


 俺が困惑していると、パストラルさんが補足してくれた。


「そうそうないとは思うのですが、止まり木のメンバーが不在の際はこちらに必要なアイテムとその数量を記載していただければ……後日、ご対応いたします」

「それって、メ―……」


 俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。

 メールでメッセージを残しておけば良いのでは? と思ったが、これはこれで風情がある。

 メールほど圧迫感がないし、気が付いた人がやってくれればいいという感じが何とも素敵だ。

 ガチガチの攻略ギルドなら許されないだろうが、きっと俺たちには合っている。


「いいですね、目安箱。何か必要なものがある時は、紙に書いてここに入れるようみんなにも伝えておきます」

「はいっ。もちろん、緊急の案件は私のほうにバシバシとメールをくださって大丈夫ですから!」

「ありがとうございます。心強いです、とても」


 このギルドホームの完成をもって、止まり木の生産ギルドとしての体裁は整う。

 前イベントの競馬から早速コース作りで活躍してくれたし、次のイベントも楽しみだ。


「ところでハインドさん。炊事場の方が騒がしいような……」

「あっ、しまった!? 戻ります!」


 パストラルさんの言葉に、慌てて炊事場の方へと戻ると……。


 そこは戦場だった。

 和風ギルドで行った打ち上げ以来の空気である。

 ただし、今回は年季の入ったおばちゃんやらおばあちゃんが多いのでまた違った光景が展開されている。


「なぁに、あんたまともに包丁も使えないの!?」

「ふ、普段はハインドが……」

「そんなんじゃお嫁に行けないわよ!」

「そうなのか!? しかし、具材がどんどん小さく……」

「力み過ぎよ! ほら、おばちゃんがお手本見せるから!」

「あら、火加減上手……どうも家の調理器具とは勝手が違ってねえ」

「材料の加熱時間も、大抵短縮されていて違いますものね。調理器具の火加減に関してはセッちゃんが……セッちゃん?」

「め、目が回りそう……あ、はい! 今調整します!」

「この状況に順応できてるの、ハインド殿とリィズ殿だけでござるよ……あっ、ハインド殿! 何してたの!? ハインド殿が抜けるとガタガタなんだから、油売ってちゃ駄目でござるよ!」

「悪い、トビは盛り付けに回ってくれ」


 渡り鳥の面々は完全にパワー負けしている。

 俺もそこに参戦し、滞っていた調理場の作業を回すべく奮闘を開始した。


「最近の男の子はお料理上手ねえ……ハインド君のお菓子、ウチの子も大好きでね?」

「いやいや、ハインド殿が特殊なだけでござるよ! 現に拙者なんて、単純作業しか手伝えない始末!」

「そこで決めポーズを取る意味が分からん。ほれ、さっさと煮物を盛る」

「うぇーい……」


 トビに鍋を渡した直後、スパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。

 これはこちらの戦場とは無縁の、子供たちとヒナ鳥三人が作るカレーの香りだ。


「わ、私もあっちに混ざりたい……」

「いい機会だから、みっちり教えてもらって包丁を使えるようになったら――って、ちょっと切れてるじゃないか。ほら、手を出せよ」

「うぅむ……そこは治癒魔法でなく、その……な、舐めて治してくれても良いのだぞ!?」

「へ?」


 ユーミルが赤い顔で少し赤みの残る指を俺の前に差し出した瞬間――。

 高速移動したリィズが、襟首を掴んでユーミルを引き寄せる。


「馬鹿なことを言っていないで、作業に戻りますよ」

「ぬああああ! 邪魔をするなぁぁぁ!」

「何といういつも通りな光景……拙者はあと何回、似たようなこの光景を見る羽目になるのでござろう?」

「あはは……でも、頑張った甲斐あってどうにか終わりが見えてきたね」

「四十人分近い人数の料理は、結構大変ですよね」


 止まり木のメンバーは今現在で大体三十人にまで増え、サーラの生産系ギルドとしては非常に順調な成長度合いだ。

 俺たちも含めて約四十名分の料理を、大鍋等を使って豪快に調理、調理、調理である。

 そして最後の皿の盛り付けが終わり……。


「それでは、ギルドホームの完成を祝しまして……乾杯!」

「「「乾杯!!」」」


 バウアーさんの音頭により、みんなが一斉に飲み物の入った杯を掲げる。

 もちろん未成年はノンアルコールであるが、成人は大体アルコール入りとのこと。

 いずれは酒造りにも手を出していく予定だそうだ。


「おおっ、見たことのない料理が沢山!」

「郷土料理みたいな……なんか、渋いのが多いですよね。あ、美味しい」


 ユーミルが感嘆の声を上げる中、シエスタちゃんが真っ先に箸をつける。

 完成した集会所、大木の木目調を活かした大テーブルに乗せられた料理の数々は確かに渋い魅力を放っている。


「これ、さんが焼きでしたっけ? 美味いなぁ」

「どて焼き!」

「おび天!」

「いか人参!」

「じぶ煮……地域色豊かですね」


 かなり和食寄りのメニューだったが、子供たちにも好評だった。

 もちろん、酒を飲んでいる大人たちは言うまでもなく……。

 宴会の時間は和やかに賑やかに過ぎていった。

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