お孫さんと祖父母さん
「ええと、まずは自己紹介を。俺たちは――」
座って話せる場所を確保した後は、自己紹介から始めることにした。
場所はやや街外れの場所にある、花壇の傍のベンチ。
最初のイベントで、俺がリスポーンした後にみんなで話をした辺りになるだろうか。懐かしい。
全員で順番に名前を名乗り、最後は俺が適当にまとめる。
「――で、サーラ王国の王都ワーハを拠点に活動しています」
「これはこれはご丁寧に。孫はもう名乗りましたかな?」
「あ、いえ、まだ――」
「あ、あの、ごめんなさい!」
祖父だという老人と俺とのやり取りに、髪を振り乱して少女が頭を下げる。
しかし凄い髪色だ。茶髪に青色でメッシュが入っている。
「お気になさらず。あ、ええと、本当は頭の上にプレイヤーネームが表示されているので、名乗る必要はないのですけれど」
「それでも礼儀だから、ということですかな? 今時ご立派な心がけだと思います。なぁ、ばあさんや」
「ええ、素晴らしいことですねぇ」
独特のペースというか、会話がかなりスローだな……。
話を進めたいのを少し我慢して待っていると、まずは少女がプレイヤーネームを名乗る。
「私はパストラルといいます。魔導士です」
「あ、もしかして水・土型かな?」
「……! ど、どうしてですか?」
「どうしてって、髪色から連想したんだけど……」
ゲームなどの色分けでは水は青、土は茶といったような分類をされることが多い。
そこから単純に推測しただけなのだが、パストラルさんは俺の想定以上に動揺を見せた。
「わ、我が魔力の波動を容易く読み解くとは……砂漠の大神官、侮り難し……」
「はい?」
「あ、な、何でもありません! 噂に違わぬ洞察力といいますか、凄いですね」
何だろう、とても反応に困るな……とりあえず愛想笑いで誤魔化しつつ。
俺ばかり話すのも何なので、リコリスちゃんに続きを促してもらうことに。
「おじいさんとおばあさんのお名前は何ですか? あ、プレイヤーネームの方ですよ! 本名は名乗っちゃ駄目ですからね!」
おお、リコリスちゃんがゲームに不慣れであろうお二人に的確な助言を――
「……先輩。今、リコにしては的確な助言だと思いませんでしたか?」
「だから、読心やめてくれるかな? 今のは分かり易い表情をしていたと自分でも思うけど!」
「実は他のオンラインゲームで初心者のころ、リコはうっかり本名を言いそうになりまして」
「未遂だったんですけどね。その時にサイがこっぴどく絞ったので、さすがのリコもあの通りですよ」
「なるほどね……」
そんな話を二人と小声でしたところで、パストラルさんの祖父母が頷く。
まずはおじいさんの方が前に一歩出た。
見たところ足腰はしゃんとしているので、農作業も問題なさそうだ。
「わしはバウアーと申します。こちらが妻のエルンテ」
「エルンテです。何だか不思議な気分だわ、こんなお洒落な名前」
「わしらのゲームの中の名前は、孫が一生懸命考えてくれました」
その言葉を受けてパストラルさんが顔を赤くした。
「あ、あのですね、実はVRギアを買ってくれたのはおじいちゃんとおばあちゃんで……そ、それで最初は三人でできるのんびりとしたゲームをやっていたんですけど、二人が私のやりたいゲームをやっていいんだよ、と言ってくれまして、それで――」
「あ、ああ……落ち着いて、パストラルさん。事情は分かったから、落ち着いて」
「は、ははいっ!」
ははい?
しかし、それでTBで生産プレイヤーか……。
どうやらパストラルさんは魔法を使えるようなゲームをやりたかったらしい。
三人で楽しむにはどうしたらいいかを考えた結果、生産メインにしようという形になったそうだ。
「TBの農業系はMMORPGの中ではしっかりしている方だと調べて分かったので、三人で始めたのですが……思ったよりも初期環境を整えるのが大変そうで。ハインドさんたちが今日、生産プレイヤー希望の人を手助けしにこの町に来るというお知らせを見て、慌ててログインしたという感じでして……」
「なるほど……」
ちなみにそのお知らせを書き込んだのは公式サイトの掲示板である。
そこまで聞いた俺は、後ろを振り返ってヒナ鳥たちの顔を見た。
孫と祖父母、互いに対する思い遣りを感じる何とも微笑ましい話である。
ヒナ鳥たちも頷いたので、今日はこの三人をサーラまで護衛することに決定した。
何故だか放っておけない感じもするしな……。
「でも、本当に砂漠で大丈夫ですか? 仮想現実とはいえ、かなり暑いですよ」
「問題ありませんとも。昔は海外勤務が長く――砂漠に近い地域にも数年、住んでおりましたから」
「懐かしいですねえ。暑さには慣れておりますし、砂漠の緑化というのも素晴らしいじゃないですか。ねえ、おじいさん」
「ああ。お願いします、みなさん」
「はい。そういうことでしたら、承知しました」
生産に関する詳しい話は現地に着いてからとなり……。
「よろしくお願いしますっ!」
「いえいえ、こちらこそ。ちなみにですけど、御三方は戦闘に関しては?」
「あ、私は並程度にはできると思います。おじいちゃんもおばあちゃんも、歳の割には動ける方かと。ちゃんと戦えます!」
「おー、それは頼もしい。では、職業は?」
話を聞くとおじいさんのバウアーさんが騎士の均等型、おばあさんのエルンテさんが神官の支援型だそうだ。
「まあ、わしはばあさんの専属騎士みたいなもんですからの」
「あらやだ、おじいさんたら。うふふ」
「あ、あはは……」
本当に老夫婦か? というレベルで仲睦まじい様子を見せ付けてくる二人。
それに対する俺たちの反応は二つに割れた。
「何だかとっても素敵です!」
「理想的な夫婦像ですね……いいな……」
「先輩、見ていて何だかくすぐったくなりません?」
「確かに、背中がむず痒いな……」
孫のパストラルさんは祖父母のそんな様子にニコニコと笑顔だ。
さて、頭を切り替えて……。
全部で七人か。
パストラルさんたちは必ずパーティインさせて経験値を稼いでもらいつつ……。
俺たちは交替で二人ずつ入ってそれをフォローすればいいか。
馬のレンタル代に関しては、今は初心者パックがあるので不足するということはないだろう。
もし足りなければゴールドラッシュイベントで発生している採取地点を軽く回れば問題なし。
肩代わり――は良くないな、おそらく。
これ以上パストラルさんを恐縮させるのも悪いしな。
なるべく金銭面については自分たちで何とかしてもらう方が良いだろう。
「では、回復アイテムなどを準備したら出発しましょう」
俺は全員が頷いたのを確認すると、まずはショップを目指して動き出した。