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予選期間終盤に向けて

 翌日、俺はみんなよりやや早くログインしたリィズとセレーネさんと共に、談話室で昨日までの戦いを振り返っていた。


「セッちゃんの狙撃の射程って、大体どのくらいなのですか?」

「野戦ゾーンって、そこまで広い訳じゃないからね。スナイピングアローならスキルの効果で真っ直ぐ飛んでくれるから、よっぽど離れていない限りは届くよ」

「つまり、見えている範囲なら問題ないと?」

「そう……なるかな? 外さなければね」


 有効射程っていう意味ではもっと狭いよ、とリィズに向かってセレーネさんは謙遜しているが……。

 相手からすると非常におっかない話だ。常に射線を意識して動かなければならない。

 単発型シングルタイプよりも連射型ラピッドタイプの弓術士の方が主流なので、相手にあまり警戒されていないというのも大きい。

 昨夜の「北方の一番星」との戦いなどは特に、セレーネさんの狙撃で戦況がひっくり返った象徴的な試合だった。


「それにしても、やっぱり現地人の兵は混戦になると弱いですよね……」

「ちょっと思ったんだけど……現地の兵士さんってそういう時には、ゲーム的にもステータスが下がっているんじゃないのかな? きちんと指揮内容に沿った動きができている時は、同レベルのプレイヤー……来訪者の七・八割は動けている印象だよ」

「私もセッちゃんと同じ印象ですね。記憶に残っているダメージの変化を探ってみると、一致する状況が多々あります。孤立した兵は動きだけでなく被ダメージは上がり、与ダメージは下がっていたかと」


 数で押せるかと思いきや、そうはならないという状況が非常に多い。

 二人もそれを裏付けるような意見をくれたし、これは少し戦法を変える必要があるか。

 リィズの言葉通りに、実数値でそれが現れているというのであれば尚更。


「そしたら、混戦防止にリコリスちゃんにファランクスでも組んでもらうかな……」

「――お前たち、何を話しているのだ?」


 ユーミルが談話室の扉を開けて部屋に入ってくる。

 そのまま俺の隣まで来ると、自分も会話に入れるようちょっかいをかけてきた。


「昨日までの戦いを振り返って――こら、やめろ! 大人しく座れ!」

「――着陸っ! そういえば、現実的に私たちはどの程度の位置にいるのだ? 今のところ」


 ユーミルの問いかけに、俺はイベントページのランキング画面を表示させた。

 折角なので、みんなで一緒に確認するとしようじゃないか。


「えーと、最初は国家別か! ……1位がベリ、2位がグラド、3位がマールで……むう、サーラはブービーか。中々に辛い!」

「まあ、これに関しては一ギルドにできることは限られるからな。ありのままを受け入れるしかない訳だが……」


 国家別の予選ポイントは加点方式なので、国が抱えている戦闘系ギルドの数と質が重要だ。

 ギルドとプレイヤーの数だけならトップなのはグラドだが、あの国はスタート地点という都合で初心者が多く存在する国でもある。

 ある程度慣れたプレイヤーと多くの鍛冶プレイヤーが向かう地域であるベリ連邦には、内包するギルドの質で負けてしまう。

 そういえば、ここまでの戦いで印象に残っているギルドもベリ連邦所属が多いな。


「やはり問題は国内順位ですね」

「だな。他の国も気になるけど、まずは自国から」


 そして表示されたランキングのギルド名に……セレーネさんがこんな言葉を漏らした。


「何だろうね? この既視感というか……下位には見たことのないギルドが沢山あるけど」

「上位には知っているギルドしかいないな!」

「そこで嬉しそうな顔をするなよ。ここはサーラの層の薄さを嘆くところだろう? セレーネさんの言う通り、下位に見覚えのない成長中のギルドもあるにはあるみたいだが……どうも今回のイベント中に仕上がるってほどではなさそうだな。最低でも次の戦闘系イベントまでは待たないと」

「一方で他の国のランキングにはきっちり新興ギルドや、今までのイベントで上位に入らなかったギルドがありますからね……最下位のルスト王国くらいです、お仲間は」


 他国からタブを戻して、肝心の俺たちの順位は国内で5位という結果になっている。

 数戦で順位が入れ替わる僅差なので焦る必要はないが――


「しかし昨夜の敗戦は痛かった。勝っていればレートがグッと上がって、俺たちはもっと上位だったはず」

「昨日というと、あのラプソディか。雪辱を果たすためにも、予選は何としても突破しなければ……!」


 ラプソディはベリ連邦で少し前に結成されたギルドで、料理コンテストの素材部門から防衛イベントにかけて一気に頭角を現してきたギルドである。

 チームはプレイヤー五十人……昨夜は二名の欠員がいたが、四十八人と四人の現地人による静かな軍勢が他とは明らかに違うプレッシャーを放っていた。

 ギルドマスター・レーヴによる完璧な統率、そして一人として弱い者がいないという徹底ぶり。

 そんな一切弱点が見当たらない部隊と相対した俺たちは、繰り出す手のことごとくを封じられ、野戦でじわじわと押し負けた。

 タイムアップした時点で俺たちがいた地点は、自陣砦の入り口付近である。


「狙撃も軽戦士隊の奇襲も、全部防がれちゃったもんね……正統派の強さっていう印象だよ」

「あの方、わざわざ転移直前にハインドさんにあんなことを――許せません」

「期待外れだった、だっけ? どうしてあんなに攻撃的なんだろうな」

「何にせよ、横柄おうへいな口の利き方には違いない! 次に当たったらボコボコにへこませてやる!」


 あの時も今も、二人がこうしてヒートアップしてくれているおかげで俺は冷静だ。

 初めて会った時からそうだが、彼からは俺への対抗心のようなものを感じる。

 そんなラプソディは現在レート1位……ベリ内だけでなく、全ギルド通じての1位だ。

 全勝に近い勝率もさることながら、その試合数もとんでもないことになっている。


「もちろん次に当たったら、昨日のようには行かねえよ。プレイヤーによる精鋭部隊だけがこの戦いの正解じゃないんだ。現地人の大部隊にだって、それとは違った強みがあるってところを見せてやるさ」

「おお、言うなハインド! 私も燃えてきた! そのためにも、ここから先は気合を入れてのぞまねば!」


 ユーミルがバリバリとオーラを弾けさせながら力強く宣言した直後、他のメンバーが続々とログインしてきた。

 さて、今日からは予選の終盤戦だ。

 予選の内にもう一度ラプソディと当たる可能性もあるが、再戦のチャンスを広げるためにもまずは目の前の壁を突破する必要がある。

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