反省会と次戦に向けて
「反省会開催ー」
「何だ何だ、ハインド! 折角初戦に勝ったというのに!」
「勝ちましたけど、内容は悪かったじゃないですか……」
「むっ!? リィズ、貴様もか! ……内容、そんなに悪かったか?」
「遠からず負けますよ、このままでは。具体的に言いますと、あの壊せる壁の存在が知れ渡った段階で」
「そう……なのか?」
ユーミルの問いかけに俺は頷いた。
初戦における収穫と改善すべき点は非常に多い。
だからこその反省会である。
俺たちは落ち着いて話をするため、一度ギルドホームの談話室まで戻ってきていた。
「とりあえず、初戦は勝ちを拾えたけれど……軽戦士隊の活躍がなかったら負けていた可能性が高い。相手のギルド、初戦にしては比較的完成された戦法を取っていたから」
「確かに! 手厚い回復付きとはいえ、前線で打ち合っていた時の手応えはかなりのものだった! アルベルトほどではないが!」
「ユーミル、評価基準がおかしい。アルベルトさんが三十人もいたら、どんなギルドでも即座に壊滅するからな?」
「やっぱり兄貴は最強でござるな!」
早速話が脱線していくのを感じる。
軌道修正しなければ。
「とにもかくにも、話し合いたいのは兵科バランスだ。まずは歩兵隊、どうだった? 難しいことを考えなくていいから、感じたままを言ってもらえるとありがたい」
歩兵隊はユーミルが部隊長、リコリスちゃんを部隊員として配置していた。
部隊数が一つで職業は混合、人数はおよそ二十人だったはず。
「そうだな……もっと人数がいた方がいいな! 弓と魔法の援護があった最初は不足がなかったが、混戦で押し負けたのは悔しい!」
「あ、あと砦内なんですけど。そっちでももうちょっと人が多いと動きやすいな、と思いました! 狭い場所だと、人数任せの突撃で遠距離攻撃を止められます! 盾を構えて突進、突進です!」
「うん、やっぱりそうか。二人の意見、俺が後ろから見ていて感じたことと大体同じだ」
歩兵が強みを発揮するのは混戦と砦内での戦闘。
野戦における初動こそ上手く嵌まった形だが、以降は歩兵の人数不足のせいで押し切れなかった。
「あ、私からも少しいいですか?」
「どうぞ、サイネリアちゃん」
「反対に、弓兵隊は相手砦内では少し苦しかったです。ある程度のスペースが存在する場所なら問題なかったのですが、間にある狭い通路ではかなり辛い戦いに……サブ武器のナイフで応戦、という形になってしまいました」
「そうだね。弓兵は接近されると弱いから……野戦エリア内、それから押し込まれた時には砦からの撃ち下ろしが最適な配置だと思う」
サイネリアちゃんとセレーネさんの言葉には、特に補足は必要ないだろう。
弓兵隊は砦内部での戦いをなるべく避けるべきだ。
「そういえば砦には、高い位置にあれがありますよね! なんて呼ぶのかは分かりませんが、弓を撃つ用の穴? 凹凸?」
「ああ、あれ狭間っていう名前なんだよ。例の壊れる壁と違ってしっかり魔法も弓も防いでくれるから、かなり有用だと思う」
基本的に防衛時はリコリスちゃんの言う砦の壁上――狭間に弓術士を配置し、そこから狙ってもらうのが一番有効だ。
上手く防壁を使って攻撃を避けつつ撃てれば、回復によるフォローも最小限で済む。
続いてリィズが小さく手を上げる。
「魔導士隊も弓兵隊と大体同じだと思っていただいて大丈夫です。ただ、撃つものは詠唱という名の溜めが必須の……大砲のようなものでしょうかね? 例えるならば。一つ一つの効果は弓矢よりも上、ですがご存知の通り瞬発力に欠けます。それから、近付かれると弓兵以上に無力です」
「確かに、魔法は当たるとでかいんだがなぁ……弓兵隊よりも更に扱いが難しいな。了解」
次はトビの軽戦士隊か。
そちらには歩兵隊とは別に、遊撃隊のような役目を割り振ってある。
「拙者としては、罠のスキルを持った兵を少し増やしていただければ。罠持ちを中心にそれを護衛する軽戦士、という編成でお頼み申す」
「ああ、あの破壊した壁へのトラップはかなり良い仕事だったぞ。罠は防衛にも使えるもんな……」
「野戦でも、敵の進路を先読みすれば使えるでござるよ? 難易度は高いでござるが。罠は回復魔法のように敵味方の識別が可能なので、気軽に設置できるでござるし」
「あまり詳しくないんだが、確か味方には光って見えるんだっけ? 罠を設置すると」
「その通り。ただ、敵側からでもよく観察すると発見可能でござるよ? 対策としてはそもそも踏まないか、消したい場合は遠距離攻撃で誘爆・誘発させるなり、長物武器の先端で小突くなりすれば処理できるかと。後者は効果範囲次第でござるが」
ただし焦っていると前試合のように引っかかると。
防衛戦に続いての晴れ舞台ということで、砦の構造が公開された時点で軽戦士のスレでは罠型のプレイヤーたちが盛り上がっていた。
さて、最後に神官部隊だが……。
「どう思った? シエスタちゃん」
「どうもこうも……先輩が軽く五人分は働くので、もっと減らしても大丈夫じゃありませんか? ティオ殿下もかなり優秀ですし、他のギルドよりも楽に人数を減らせますよ」
「砦突入時点で、脱落がたったの三人だったものね……」
「いやいや、みんなの行動が噛み合った結果ですって。では、とりあえず神官はもっと減らしますか」
前衛部隊がほとんど後逸せず、数人の突出した敵も弓兵隊と魔導士隊が残らず倒してくれたからだ。
だからこそ、こちらは落ち着いて回復を行うことができた。
そんな俺の働きはともかく、言われた通り少し神官部隊の人数は多かったように思う。
シエスタちゃんのように攻撃魔法も使える兵と入れ替える方向も視野に入れつつ……。
後は雑談気味で大丈夫だな。
「OK、兵科バランスに関しては今の意見を元に組み直してみる。混成にして小隊制もありだけど、それは追々。後は気になったことがあれば、今の内に共有しておこうか?」
「そういえば、さっきの戦いの相手の総指揮官は誰だったのだ?」
「砦に突入された時に後退指示を出していた、ギルマスではありませんか?」
「多分リィズの言う通りだと思う。ただ、よっぽどじゃない限り総指揮官を狙うのは難しいよな? 基本的に兵士に守られているし、もし無理矢理狙って外れだった場合……」
「こちらが大損害を被るでござるな……」
だからこそ、あの場面で指揮官ではなく旗を目標にした訳だが。
総指揮官撃破に関してはよほど相手の総指揮官が誰なのか絞り込めている場合か、殲滅戦に移った時に余裕があれば、という形になるだろう。
もしくは圧倒的劣勢の時に、一縷の望みをかけて突撃をかけるか。
「指揮といえば、俺はまさかの音声入力だったことに一番驚いているんだが……てっきり、操作パネルのようなもので指示を出せるものとばかり」
「まあ、そこはVRだからね……声を張るのが苦手だから、私はちょっと無理かな。ごめんね、サイネリアちゃん」
「あ、いえいえ! セレーネ先輩が傍で戦ってくださっているだけで、とても心強いです!」
「リコとユーミル先輩は、声量に関しては余裕っぽかったね。リコは指揮してないけど」
「じ、自分のことで手一杯です、はい……」
指揮は現地人の耳にしっかりと意味のある言葉を届けることで有効となる……つまりは現実と同じだ。
この仕様により、セレーネさんとシエスタちゃんは部隊長をやらないことに決まった。
「後はそうだな……蘇生受け付け時間が短い! べらぼうに短い! やってみたけど、蘇生に関してはかなりきついぞ」
「そういえば私たちプレイヤーの中で、蘇生できるのはハインドだけだったな。どのくらい短いのだ? その受け付け時間とやらは」
「倒れて直ぐに詠唱を開始して、一度でも詠唱を遮られると失敗になる。そんなもん」
「それはシビアですね……それこそ矢の一本、かすり傷でも大惨事です」
こんな具合に、俺たちはまず初戦の反省会を行った。
とはいえ、試合数をこなすことも大事だ。
話が落ち着いたところで、再び帝国魔導士の下へと向かうことに。




