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初戦と戦況分析

 初戦の相手はグラド帝国所属の「テンペスト」、名前からして戦闘系ギルドだろう。

 ざっと見たところプレイヤー三十人前後、現地人が四十人のバランス編成。

 先制攻撃はユーミル率いる歩兵部隊ではなく――


「弓兵隊、構え! ……放てーっ!」

「魔導士隊、続きなさい!」


 サイネリアちゃんとリィズの指示を受け、弓兵隊による斉射が。

 続けて属性が入り乱れた多様な魔法攻撃が飛ぶ。

 今回は野戦になることを見越して、この二つの兵科を多めに配置したが……。


「ぐはっ!?」

「隊長ーっ!」

「あっ……」


 多くの矢が山なりの軌道で飛んでいく中で、鋭く直線的に飛んだクロスボウの矢が先頭のプレイヤーを捉えた。

 いや、そこは隊長って叫んだら不味いだろう……もうちょっと隠す気を見せた方が。

 そして撃ったのは多分、セレーネさんだな。

 さすがに一撃では戦闘不能にならなかったものの、転倒した部隊長目がけてユーミルたち歩兵隊が殺到する。


「はっはっは! 進め進めぇーっ! 我らの優勢だぁーっ!」

「楽しそうでござるなぁ、ユーミル殿……ハインド殿、拙者たちは?」

「まだ待機でいいぞ。しかし、あちらさんの遠距離攻撃がないってことは……」


 俺たち神官部隊の傍には、トビが軽戦士数人と共に待機中だ。

 回復魔法を飛ばしながら話す俺の言葉に、シエスタちゃんが続く。


「特化編成ですねー。神官と歩兵のみっぽいですから、編成ボーナス狙い? 前衛部隊が職業クラスごとに動いているような」

「それもあるだろうけど、一番は混戦狙いだろう。敵味方が混み合うと、どうしても遠距離攻撃が難しくなるから。このまま押し切れなかった場合、おそらく……」


 通常の攻撃と違い、回復魔法には敵味方を自動で識別する能力が備わっている。

 混戦でも能力が落ちることはなく、更にこの相手は神官の数が多い編成だ。

 最初の遠距離攻撃、それからその後もなるべく後方を狙うようには言っておいたが……。


「どりゃっ! ――む? 今のプレイヤー、さっき倒したのと同じ顔だったような……?」

「ゆ、ユーミル先輩! 回復です、倒した人たちをどんどん回復されていますっ!」

「何っ!?」


 前線が押され始めたことが遠く離れた二人の声で分かる。

 敵がこちらまで来ないよう、踏ん張ってくれてはいるが……。

 相手の回復量と前衛部隊の数が多く、最初の劣勢状態から徐々に盛り返してきている。

 最初にセレーネさんに狙撃された部隊長は、あのままユーミルたちが撃破した。

 蘇生が間に合わず、リスポーンしていったのを確認済みだ。

 しかしそれほど極端に相手部隊が崩れなかったところを見ると、どうも総指揮官が近くにいるらしい。


「あの二人の声、でっかいですよねぇ。これだけ離れていて、しかも怒号やら剣戟やらで遮られているのに……」

「状況把握が簡単で結構だけどな。さて、このまま相手の狙い通りになるのは面白くない……」

「どうするの、ハインド? 初戦から負けなんて結果、私が許さないわよ!」

「あ、ティオ殿下。いたんですか」

「いたわよ、最初から!? 本当に失礼よね、シエスタは!」


 そのまま前線が膠着状態に変わったのを見て、俺は次の手を打つことに決めた。

 こんな時のために待機させておいた軽戦士隊である。

 初動で押し込みに成功して、敵の砦に近い今が好機だ。


「――トビ、行けるな?」

「もちろん! しかし、初戦から使ってしまってよいものでござるかな? あの仕掛け」

「どうせ時間が経つほど認知されていくだろう? 他にも気が付いている人は絶対にいるだろうから、むしろ早く発見したことを活かして序盤で使わんと。やってくれ!」

「なるほど……では、拙者たちにお任せあれ!」

「「「お任せあれ!!」」」


 軽戦士隊の部隊員たちが一斉に、片膝をついたトビと同じポーズで声を上げる。

 その動きに俺は必死にツッコミを入れるのを堪えると……即座に次の行動へ。

 短い詠唱を行い、『シャイニング』を信号弾のように味方魔導士隊の近くの空に向けて放った。

 中空で光のエフェクトがキラキラと舞う。


「――!」


 すると魔導士隊の動きに変化が現れる。

 どうやら部隊長であるリィズにきちんと伝わったようだ。

 事前の作戦通りに、魔導士隊が一斉に攻撃呪文の詠唱に入る。

 そしてその狙いは……。


「!?」

「何だ!? 何の音だ!?」


 砦の壁が音を立てて崩れる。

 魔導士隊が狙ったのは、砦の壁の中で意図的に脆くされている一画。

 敵が守りを固めていた正門から、遠く離れた場所である。

 視察の際に俺が発見し、破壊可能であることをトビのスクショ拡張機能で確認してもらったあの壁だ。

 事前の検証において物理攻撃よりも魔法攻撃で崩れ易い、という特徴も把握済みである。

 続いて軽戦士隊が目を見張るような速度で接近し、その壁穴から次々に砦内部へと侵入していく。


「「「ああーっ!?」」」

「ギルマスっ! 砦に忍者がっ!」

「忍者が!」

「凄い速さで忍者が!」

「忍者かどうかなんてどっちでもいいだろ!? と、とにかく防衛だ、防衛! 一時退却ーっ!!」


 砦への侵入を許したことで、相手陣営は面白いように混乱した。

 背を向けて最低限の防御をしながら後退行動に移る。

 一連の動きを見たティオ殿下が、嬉しそうにこちらの背を叩いて笑みを浮かべた。

 それに小さく笑みを返すと、俺は杖を掲げて大きく声を張る。


「よし……! 追撃しつつ砦に突入をかける! ユーミル、このまま先陣を頼む!」

「おう!」

「先輩、私たちの砦に敵が何人か向かっていますけど……そちらは事前の打ち合わせ通りに?」

「ああ。防衛はリスポーン組で! 既に何人かは戦闘不能になっているし、その足止めと初回リスポーンということを考えれば、それで十分間に合う! 全部隊突撃! 旗をもぎ取れぇぇぇ!」

「「「おおーっ!!」」」


 背を向けた敵を倒すのは非常に容易たやすい。

 全軍突撃の指示を出して、後は俺も戦いに集中する。

 相手チームの兵を次々とリスポーン送りにしながら、俺たちは砦正面へ。

 その途上、派手な爆発音が開いた壁穴付近で鳴り響く。


「ぐあっ!?」

「何じゃあ!?」

「トラップ! トラップだ!」


 トビたちを追って行ったテンペストのプレイヤー数人が、穴の入り口に設置された罠に引っかかったようだ。

 罠を設置できる軽戦士を連れていたからな……これはトビの考えによるものだろう。

 ナイス判断だ。


 軽戦士隊による攪乱は見事に成功し、敵砦内部へと戦場を移した俺たちは勢い良く前進。

 突入前に相手の数を減らせたこともあり、程なくして――


「取っ……たぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 という力強いユーミルの叫びが、砦内に響き渡った。

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