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真の聖女への道

「――こんなもんかな、時間的に。ギルマス、そろそろ引き上げの号令かけてくれよ」

「うむ……やはり一時間とちょっとでは、できることが限られるな。みんな、引き上げるぞーっ!」


 ゲーム内でも夜時間だが、現実でもそろそろいい時間である。

 結局レベルは上がらなかったが、経験値バーを大きく伸ばした俺たちはフィールドを回ってスタート地点付近まで戻ってきていた。

 ユーミルの遠くまで良く聞こえる号令に応じて、ヒナ鳥パーティも合流。

 リコリスちゃんが先頭切って駆け寄り、元気の残る声で話しかけてくる。


「お疲れさまでした! ふいー、ついつい熱中しちゃいましたね!」

「止め時が難しいよね……自力で逃げ切る鳥も多いんだけど、ついつい危ないのが見えちゃうとさ」

「「「あー」」」


 セレーネさんの言葉に、各々が声を上げるなり仕草で示すなりして肯定の意を返す。

 それについてはみんな同じ気持ちだ。

 次から次へと窮地に陥る古代鳥に、俺たちは忙しく対応に追われていた。


「とりあえず、終わると決めたからには振り返らずにフィールドを出ましょう。キリがない」

「もう暗くてねむ――よく見えませんしね。帰りましょー」

「どの道、ここにはまた来ることになるでしょうから。経験値的には非常に美味しいです、このフィールド」


 俺の言葉にシエスタちゃんとリィズが答え、全員で馬に乗り込む。

 満点の星空の下、俺たちは王都への帰路についた。




 ギルドホームに帰るとふくれっ面のティオ殿下が玄関で待ち構えていた。

 ……一体何事だ? わざわざ部屋から出てくるなんて。


「ハインド、暇よ! 何とかしなさい!」

「あ、いえ、あの……えーと?」


 確かにギルドホームにいるだけなのだから、暇だろうけど。

 それを見たトビが何かを思い出したように慌てて声を上げた。


「しまった! 言い忘れていたでござる……で、殿下! ハインド殿が後で殿下のお部屋にお伺いします故、戻ってお待ちいただければ!」

「ふーん……トビには何か考えがあるのね? 分かったわ」

「ありがたき幸せ! ついでに拙者の名前を憶えていていただけて、光栄の至り! さっ、皆の衆! ひとまず談話室に! さあさあ!」

「お、おい、トビ……」


 俺の背中を押してくるトビと一緒に、状況に置いていかれ気味のメンバーも含めて談話室へ。

 ティオ殿下は大人しく部屋に戻ったようだが、トビが言い忘れたことって何だ?

 全員が椅子に座ったところで、トビだけが立って説明を開始する。


「実は、育成関連で伝え忘れていたことが。本当は各自、公式サイトを見てもらえれば早いのでござるが――」

「あの、トビ先輩。もしかしたら、そろそろゲーム内のお知らせページが更新されているのでは?」

「あっ、それもそうでござるな。ちょっと確認を……」


 サイネリアちゃんの提言により、全員が一斉にメニュー画面を開いてお知らせページを確認する。

 そこには彼女の言葉通り、数時間前のアップデート内容が新たに記載されていた。


「おお、サイネリア殿ナイス! では、これを見ながら説明をば。ホームに滞在しているティオ殿下でござるが、プレイヤーたちがいない間にやっておいてほしいことをある程度指定できるのでござるよ。それこそ、戦闘系NPCとしての成長に関することで……例として、戦闘訓練のような」

「ああ、そういうことか。俺たちはそれが無指定だったから、ああいった反応をされた訳だな?」

しかり然り。提案の一例はこのページに記載されている通りでござるよ」

「なるほど! どれ……」


 ユーミルが勢い込んでリストを読み込み始め、シエスタちゃんは談話室に設置されたアイテムボックスから黙ってお菓子を取り出し――そこにお菓子があると教えた憶えはないんだがな。

 どうやって知ったのだろう……まあ、いいけど。

 俺はお菓子を自分だけでなくみんなに渡すようにシエスタちゃんに一声かけると、立ち上がってお茶の用意を始めた。


「もぐもぐ……あー、訓練、教養、休養、外出と比較的受けてもらいやすい? とされる基本事項が色々記載されていますねー。本当に育成系のゲームみたいな」

「あくまで一例であり、AIの性向次第では柔軟な成長が可能です……これって、どういう意味です?」

「最終的には各NPCに合わせて、自分で考えて提案しなさい――って意味じゃない? リコ」

「おー、サイちゃん賢い。もしかしてこのリスト、参考にはなっても頼り切るのは微妙……なの?」

「そういうこと……ですよね? ハインド先輩」


 サイネリアちゃんの問いかけに、俺は「多分ね」と口にしつつ頷いた。

 淹れ終わったお茶を配り、元の席に座って考える。

 そうなると、ティオ殿下に合わせた提案が必要か……。


「そういえばハインドさん。現地人の時間感覚は私たちとは違いますよね? それを考えて、ある程度密度の高いスケジュールを提案しておかないと――」

「そうだな。日付進行こそ現実と一緒だけど、大体四時間周期で朝昼晩と一巡する訳だから……そりゃ違うだろうな。暇にさせるともったいないし、今回みたいにへそを曲げるかもしれない」

「それと、なるべく食事を提供するといいかもしれないでござるな。放っておいても勝手に食事は摂るそうでござるが、先程のおやつは喜んでいたようでござるし」

「フィールドは無理でも、王都内の街には一緒に行けるのですよね? 市民の暮らしに興味があるようですし、もっとそちらのものを見せるのもいいかもしれません」


 そこまでふんふんと頷きながら話を聞いていたユーミルが、急にカッと目を見開く。


「何とも面倒なことだな! 手間のかかる奴だ!」


 ユーミルのざっくりとした言葉に、メンバーが揃って嘆息する。

 折角の応援NPCだし、そう思いたくはなかったのだが……確かにかなりの手間がかかるな。

 手間の分の成果というか、結果が返ってくるといいのだが。


「ま、まぁ、とにかくやるだけやって、ギルド戦での活躍を期待しようよ」

「おっ、セッちゃんが今良いこと言った! 今良いことを言ったぞ! どうせなら、私たちの手でティオを真の聖女へと成長させてやろうではないか!」

「真の聖女ね……しかし、お前の言う通りだな。どうせやるなら徹底的にやるか」

「うむ、半端はなしだ! みんな、今みたいにどんどんアイディアを挙げるのだ! そこから絞り込むぞ!」

「「「はーい」」」


 ヒナ鳥たちの返事が談話室に響いた。

 そんな形で、全員で相談しながらティオ殿下に対する提案を次々と挙げていき……。

 これはと思うものを残しつつ、バランスを整えて完成。

 ちゃんと短期間で伸びそうな能力を中心に考えたので、上手く行けば成果に結び付くだろう。


「ところで、ティオさんの装備は作ってみるの? ハインド君」

「あー、そうですね……作ったものを突っぱねられると悲しいので、もうちょっと好みとかを探ってからですかね。とりあえずは自分たちの装備を優先で」

「そうだね。私もそれが良いと思う」


 気に入れば交換の可能性がある、とされていた装備に関してはそんな感じで。

 最後にまとまった提案をトビと共にティオ殿下に伝えると、その日はそこでログアウトとなった。

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