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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
集団戦と夏休みの開始

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新フィールドへ

「特に連れ歩きとかができる訳じゃないんだな……」


 ティオ殿下をギルドホームに残し、俺たちはフィールド狩りへと出ていた。

 今回の目的は純粋な経験値稼ぎということで、馬での移動となっている。

 メンバーはフルに揃って八人、戦い方は岩石砂漠の時と同じだ。

 俺の言葉を聞いたトビが馬を寄せてくる。


「連れ歩きって、ティオ殿下のことでござるか? そこはほら、TBではクエストを発注するのもNPCの大事な役目でござるし。今回は期間限定ということで、特殊ケースでござる故」

「そうだね。人気のある戦闘可能NPCは常に指名されるだろうし……もし連れ歩けたとしたら、誰かが独占していつまでも戻ってこないなんて事態も考えられるよ。時間制限とか連続での依頼不可とか、対策はいくつかあるだろうけど」

「二人の言う通りか。何にしても問題しか起きませんね、きっと」


 トビの言葉を引き取って補足してくれたのはセレーネさんだ。

 ゲームによってはキャラを分裂させて同時に存在させてしまったりもするのだろうが、TBのここまでのNPCの扱いを考えるとそれはないと思われる。


「そういえば、今回のイベントで応援NPC? の対象になった現地人さんって、どのくらいの人数がいるんですか?」


 そう手を挙げて質問したのはリコリスちゃんで、リィズが一瞬だけ記憶を探るような顔をする。


「国軍――サーラの戦士団で言いますと、各部隊の隊長、副隊長にエース格、一部の変わり種の部隊員で……精々20名といったところですね。私が調べた限りでは、他の国でも大体同じ数だそうです」

「へえ……ありがとうございます、リィズ先輩! 即答!」

「妹さん、相変わらずデータバンクみたいっすねー。すげー」

「……微妙な褒め言葉をどうも、シエスタさん」


 二人の間に挟まれたサイネリアちゃんが困り顔になってる……。

 そして今度は腕組みをしたユーミルが考え込むように唸った。

 ちゃんと手綱を握っていないと落ちるぞ。


「むぅ……となると、各国たったの20人を奪い合った訳か。そう聞くとかなりの競争率だな」

「だからこそ、掲示板があの様相なのでしょうね。サーラも戦闘系ギルドに関してはかなり増えましたから。古参はともかく、新参ギルドはかなりの僅差だった可能性が」

「本当、サイネリアちゃんの言う通りではあるんだけど。何でサーラは戦闘系ギルドばっかり集まるんだろうな……」


 過酷な環境が闘争心に火を点けるのか、周辺のギルドは戦闘系、戦闘系、戦闘系ばかりだ。

 カクタケアや女王様親衛隊のようなNPC目当てのギルドでさえも、不思議と戦闘系に偏っている。


「別に良いではないか、戦闘系国家でも! これならギルド戦もサーラの圧勝だな!」

「お前はポジティブだな。しかし、どうだろうな……確かに戦闘系ギルド単体でも、装備やら何やらは取引掲示板を利用すればそこそこまでは揃うんだが。一級品を狙うなら、掲示板に長時間張り付かないといけなくなるぞ」


 取引掲示板の商品は大陸共通。

 サーラにいても遠方のプレイヤーが作製した質の良い装備・アイテムを「運が良ければ」適正価格で買うことができる。


「ハインド君の言う通り、取引掲示板だとまず一級品は揃わないんだよね……上手いバランスになっていると思うよ」

「そういえば、セッちゃんは最近取引掲示板には――」

「うん。取引掲示板には出品していないかな。みんなの装備、カクタケアからの依頼、戦士団に提供する装備って感じで色々あるから……」

「納得しました。とても手が回りませんね……仕事が早いセッちゃんがそうならば、他の鍛冶プレイヤーも似たようなものでしょうから」


 戦闘員ばかりいても地域全体の強さのレベルは上がらないということだ。

 ちなみに大陸の反対側、土壌の豊かな『ルスト王国』では逆の状況に陥っていると聞く。

 故に、アルテミスのような質の高い戦闘系ギルドは貴重なのだとか。


「なるほど、だから私たちに生産関係の依頼ばかりくるのか! 知らなかった!」

「そうなんだが、俺たちは生産専門のギルドじゃないからな……心苦しいけど、頼まれても大概断る羽目になっちまう」

「断る時に必ずお土産を持たせているでござるよな、ハインド殿」

「だって、無駄足を踏ませただけだと気の毒じゃないか」


 渡しても問題ない情報を教えたり、ポーション類・料理など何かしら役に立つであろうものをなるべく持ち帰ってもらえるようにしている。

 そのおかげか分からないが、カクタケア以外にも繋がりのあるギルドがいくつかできた。


「先輩のおかげで、逆恨みされたりってこともありませんしねー。街を歩いていても快適快適」

「あ、私も本体さんによろしくって声をかけられたことがあります!」

「料理の感想を言ってくる人もいました。ハインド先輩のおかげで、他のギルドへの私たちの印象は悪くないかと」

「そりゃ良かった。みんなと一緒に作った生産品も渡しているから、俺だけの手柄って訳じゃないけど」


 実はお土産用のクッキーなどはギルドホームにストックしてあったりする。

 今のサーラはそんな感じなので、資金稼ぎを目的とするなら生産だけをやっていれば儲かるような状況だ。

 ただ、俺たちは戦闘もやりたいし、何より小規模ギルドである。


「仮に引き受けたとして、他のプレイヤーに喜んでもらえるのは嬉しいんだけどさ。でも、八人の生産力じゃどうしてもフォローできる範囲がな。現地人を雇えるのはショップの店番だけだし」

「何かしら生産系のプレイヤーを国内に呼び込む手段は欲しいでござるな。拙者たちも、時折ポーション不足に悩まされたりはするでござるし。買う側に回りたい時に、取引掲示板だけだと少々不安が」

「そうですね。今は余裕がありますが、ダンジョン遠征の時はかなりカツカツになりました」

「まぁ、生産に関しては色々とあるが……今はとりあえず、目の前の経験値稼ぎに集中しようか。着いたぞ、初見のフィールドに」

「おっ!」


 目の前に広がるのはオアシス……ではなく、もし一口でも飲んだら悶絶必至の「塩湖」である。

 薄く水が張った塩の湖が、静かに砂漠の中に存在していた。

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