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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
最善の一振りと最高の一枚を求めて
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ファレン大瀑布

「おおお、滝だ! 幅広っ! 水多っ! そして何よりも――」

「高い……怖いなこれは」

「落ちたらまず助からんでござるな。ゲーム的に、蘇生も不可能な距離でござるし……」


 近場に立って得た感想は、その景色の雄大さよりも恐怖である。

 轟音を放ちながら崖を滑り落ちていく大量の水流。

 もし落下したらまず助からないだろうこの高さ。

 俺たちは一つ前のフィールドのボスを蹴散らして『ファレン大瀑布』に到着していた。


「下ばかり見るから怖いのですわよ、二人とも。もっと上をご覧なさいな」

「上?」


 水温で互いの声が聞こえにくいことを考慮してか、顔を寄せながらヘルシャが俺の背に触れる。

 ヘルシャが示した上……というよりも、ほとんど目線の高さから何かが浮かんでいた。

 フィールドの天候は快晴、昼時間、そしてこの水飛沫と来ればそれが何なのかは明白だ。


「おー、虹かぁ」

「凄いな! ここまで大きな虹を見たのは初めてかもしれん!」

「大迫力でござるなぁ……そして美しい。どれ、一枚。パシャリと」


 トビが珍しく風景をスクリーンショットに収めた。

 七色の光が、滝の落下地点のやや先から天に向かって伸びている。

 この景色を見ると、やはりTBの大規模フィールドに外れなしと言ってもいいかもしれない。


「極短い時間ですけど、夕刻などはまた違った情緒が楽しめますよ。オレンジ色に染まった空と、それを反射する水がとても綺麗なんです。夜も夜で綺麗ですけど、ボクのおすすめは夕刻です」


 ワルターは柔らかな髪を揺らしながら、笑顔で滝についての解説を入れてくれた。

 話しぶりからして、このフィールドのことを気に入っているのが伝わってくる。


「そっか。見たいけど、TBの夕方って本当に一瞬だからなぁ……この前、俺たちも夜のフィールドは楽しめたんだけど」

「うむ、そうだな。今回ばかりは、さすがにタイミングよく目にするのは難しいかもしれん」

「あ、じゃあボクが前に撮ったものをお見せしますよ」

「本当でござるか? それはありがたい!」


 今回は地形の問題もあって徒歩なので、馬は『商業都市アウルム』に預けてきた。

 山のフィールドを一つ越えて、このフィールドを歩き始めたのはおよそ五分前。

 歩きながらワルターの写真を見せてもらってもいいのだが……。

 そこそこ移動したし、そろそろあれがあるんじゃないか?


「ヘルシャ、この近くに安全エリアってあるか?」

「あら。勘が良いですわね、ハインド。ありますわよ」

「OK。じゃあみんな、そこで少し休憩していこう」


 反対意見は特になく、やがてヘルシャの言葉通りに休憩所が姿を現した。

 やや開けた場所に、座るって休むのに都合の良いベンチとテーブルのセットが存在している。

 もしかして、この場所は帝国にきちんと管理されている設定なのだろうか?

 何にしてもありがたい。


「ではワルター殿。早速!」

「あ、はい。今メニュー画面を呼び出しますね」


 ワルターのスクショも気になるが、俺は俺でやることがある。

 それが落ち着いてから見せてもらうことにして、先にこちらを済ませてしまおう。


「む、ハインドは何をする気なのだ?」

「次の休憩で食べる料理、今の内に作っておこうと思ってな。みんな、完成品を入れておくのにインベントリを一枠使うけど……大丈夫だよな?」

「もちろんですわ。ハインドの料理があるからこそ、クースにお弁当を用意させなかったのですから」


 そうまで俺の料理を食べたいと言ってもらえるのは嬉しいが、若干のプレッシャーも感じる。

 折角だから、何かヘルシャのリクエストに沿ったものを用意するか。

 一応、俺の腹案もあるにはあるのだが。


「さて、ヘルシャ。何が食べた――」

「和食を! ……失礼、お話を遮ってしまいました」

「あ、ああ、別にいいけど……そんなに和食、食べたかったのか? クースさんだって作れるだろう?」

「クースの話では、米が手に入り難いと」

「なるほど……」


 TBにおける米の立場なのだが、発見そのものは割と早期だった。

 ただ、TBというゲームが国外の文化を基本にしているためか、生産品としては小麦のほうが人気がある。

 雰囲気に合わせて何となく、というプレイヤーが多いのだろう。

 そんな都合もあって取引掲示板では現在、米のほうが希少性も値段も高い。

 俺たちの場合は和風ギルド……特に“匠”と時折生産品の交換をしているので、米は潤沢にある。


「でも、ドリルたちだって和風ギルドとは付き合いがあるだろう? 私たち抜きでも、偶に連絡を取っているらしいではないか。そうキツネの姐さんが言っていたと――ハインドが言っていたぞ!」

「ややこしい言い方をしないでくださいます? 確かにそうなのですけれど……私たちのギルドの基本食は、あくまで小麦ですから」

「ああ、そうか。必要な量が少ないから、あえて頼むのもどうかってことか」


 ヘルシャが浅く頷く。

 そういう機微にも気を使えるから、シリウスはあれだけ大きくなったのだと思う。

 和風ギルドとシリウスは距離感的にも、元は俺たちを介した知り合いだから微妙なところだしな。

 そういうことなら、予定通りのメニューに米を加えたものを一旦提案してみるか。


「分かった、じゃあ……天丼とかどうよ?」

「それは素敵ですわね! 天ぷら、わたくしも好きですわよ!」


 外国人のヘルシャに生ものはどうかと思ったので、天ぷらをと考えていた。

 この反応を見る限り、それは正解だったようだ。


「クースさんと魚の話をしてたら魚介系食べたくなってさ。商業都市で材料も揃えてきたし、結構しっかりしたやつを作れるぞ。同意も得られたことだし、取りかかるとするか」

「しかしハインド。天丼では海老くらいじゃないのか? 入る魚介系は。それとも、きすでも揚げるのか?」

「鱚はちょっと手に入らなかったなぁ。だからちくわでも作ろうぜ。自家製で」

「ちくわを? 作る?」

「ピンと来ていないみたいだけど……ユーミル、すり潰すのを手伝ってくれよ。タラのすり身で作るから。炭火も用意できるから、きっと美味しくできるはず」

「分かった!」

「何やら本格的な香りがいたしますわ。楽しみです!」


 次々と食材を取り出す俺の姿に、目を丸くしつつも笑顔のヘルシャ。

 特に『高級携帯調理セット』を出した時はびっくりしていた。

 でかいんだもんな、これ……ある程度の空間があるところでインベントリの『取り出し』ボタンを押すと、その場に出現する仕様である。

 どうしてマールで使った『小舟』は、この仕様じゃなかったんだろう……。

 作業を始めて直ぐに、スクショを見ていた二人も近付いてきた。


「ハインド殿。ワルター殿の写真、誠に綺麗でござるよ! ハインド殿もユーミル殿も、見ないと勿体ないない!」

「あ、折角だからこの辺に拡大して、順番に見せてくれよ。作業しながら――って、それだと片手間っぽくて何だな……」

「いえいえ、大丈夫ですよ師匠。そんな風に思いませんから。拡大して……はい、どうぞ!」

「おおっ!」


 ユーミルが持っていたすり鉢を降ろして、写真に感嘆の声を上げた。

 このフィールドの夕刻を写した写真の数々は、ワルターが熱心に薦めるだけあって……非常に美しい。

 料理をしながらワルターのスクショについての感想を言い合い、俺たちの休憩時間は過ぎていった。

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