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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
最善の一振りと最高の一枚を求めて
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コンセ山への道

 再始動の翌日、今日もまだメンバーは揃わない。

 しかし、それならそれで都合が良いということでディンさんに教えてもらった鍛冶師を探しに行く予定だ。

 場所は『城郭都市スクートゥム』の北門、山越えが多いので馬は首都でそのままお留守番である。


「メンバー点呼ぉ! 1ぃ!」

「え?」

「何をしている、ハインド! 私に続け!」

「あ、ああ……2!」

「え、えと……3!」

「4です!」

「……5」


 今夜の面子はユーミル、俺、セレーネさん、リコリスちゃん、フィリアちゃんの五人。

 戦闘面から見ると前衛三、後衛二で中々にバランスがいい。


「あ、そうそうフィリアちゃん。俺たちにまで夜景写真を送ってくれてありがとうね」

「……うん。どうだった……?」

「とても綺麗だったぞ! フィリアは写真を撮るのが上手いな!」

「こいつなんて、落ち着きないからピンボケ写真量産でさあ……今は電子データで処理できるからいいけど、昔のフィルムカメラだったら絶対に持たせたくねえ」

「さっき見せてもらったユーミル先輩のスクショ、ブレブレでしたもんねぇ」

「まあ、でも時々奇跡の一枚! みたいなのがあって、味があるといえばあるか……無理に褒めるなら」

「ハインドに褒められた!」

「その前のやり取りは聞かなかったことにするんだ、ユーミルさん……とことんポジティブだね……」


 フィリアちゃんが俺たちのやり取りに表情を僅かに緩めたところで、そろそろ出発だ。

 ついでに、途中の山をなるべく経由して採取ツアーも兼ねることになっている。

 故に、今回は鍛冶全般のためのプレイと言い換えることが可能だ。


「私としては、今夜の行程は最高だよ。情報ありがとうね、二人とも」

「セッちゃんの鍛冶スキルが上がるということは、私たちの装備が強くなるということだ! 何も気にすることはない!」

「折角手に入れたツルハシも使いたいですしね。受け渡し不可だから、二人は普通のツルハシになっちゃうけど……」

「問題ありません! フィリアちゃんと二人で、一杯インベントリに持ちましたから! 今夜は頑張って採掘しますよ!」

「……私も、頑張って採掘する」

「うむ、五人で沢山の鉱石を持ち帰ろう! では、出発だ!」


 ユーミルの号令により、俺たちは北門から雪山へと登って行った。

 目指すはベリ連邦北東部、『コンセ山』の奥地である。




 そして今の俺は寒風吹き荒ぶ中、震える足で断崖絶壁を慎重に下りていた。

 ゲームの設計上アイスピッケルのような本格的な道具は必要とされないが、これは……。


こえぇ! 良くみんな平然と下りられたな!」

「落ちるなよ、ハインドー」


 採掘ポイントは奥まった地形や隠された場所にあることも多く、危険がつきまとう。

 こうして、足の半分しか面積のない取っかかりを使って崖を下りたりといった具合に。

 中々にハードで、人によっては最初から行くことを諦めざるを得ないような場所も多い。

 偶然にも比較的体力のあるメンバーが揃っているので、その点は安心だが。

 切り立った崖の下には、落ち着けるだけの出っ張りと小さな横穴がある。


「……はぁー、寿命が縮む……到着、と」

「しかし、ハインドの言う通りセッちゃんは凄いな! 本当にあちこちの採掘ポイント知っているじゃないか!」

「ガセ情報もいくつか掴んじゃっているけどね……ごめんね、所々無駄足になる箇所があって」

「セレーネ先輩、大丈夫です! 私はまだまだ元気です!」

「あ、うん……本当に元気だね、この寒さの中で……」


 リコリスちゃんに対してそんな感想を漏らすセレーネさんだったが、彼女も洞窟内では一変。

 ツルハシを一振りした直後――


「あっ、クラルテ鉱石! こっちはアクィルス鉱石!? 凄い凄い! みんな、採掘採掘! お願い!」

「セレーネも、元気……?」

「時間限定だがな! 採掘時のセッちゃんは、誰よりも元気だぞ!」

「動きも速いです!」

「サーラじゃ手に入らない鉱石が多いからな。逆も然りだが」


 そんな感じで、俺たちは採掘を行いながらゆっくりと進んで行く。


 そしてインベントリの中が鉱石で一杯になったころ、『コンセ山』に到着した訳だが……。

 フィールドが切り替わってすぐに、それまでとは違う状況に俺たちは気が付いた。


「なあ、ハインド……このフィールド、敵のレベルがやけに高くはないだろうか?」

「高いな……レベル50越えだな……」

「考えてみれば、レベル65のアイスドラゴンに紐づいた情報だもんね……こうなっていても何も不思議はないような……」


 セレーネさんの意見の通りなのだろうな、きっと。

 視線の先を闊歩するペンギン型のモンスターも、白い体毛の鬼のモンスターも、レベルが自分たちよりも高い。

 TBは死に戻ってもアイテムロストはしないので、もし全滅しても採った鉱石は無駄にならないが。


「どうする? ハインド」

「鍛冶師はこの山の中に住んでいる訳だから、もしかしたらフィールドボスを倒さずに隠れ家まで行けるかもしれないが……最悪の事態は想定しておいたほうがいいだろう」

「高レベルのフィールドボスかぁ……アイスドラゴンよりも強いってことはなさそうだけど」

「戦ってみて、駄目そうなら逃げるというのはどうでしょう?」

「飛行型やよっぽどスピードの速い敵じゃなければ、それで大丈夫だと思うけど。うーん……」

「ハインド……私が一人で偵察に……」

「漢気溢れてるな!? 合理的なんだろうけど、フィリアちゃん一人にそんなことはさせられないよ。そんなことをさせるくらいなら、全員で全滅したほうが精神衛生上マシだってば。これが現実の戦いなら、犠牲を減らすためにそういう選択も必要なんだろうけど……だってほら、ゲームだし」


 ユーミルが俺の意見に同意するように、しきりに頷いている。

 他のメンバーも納得してくれたので、全員で行くことに決定し……。

 山の様子を見回して、俺は休憩に適した場所がないかを探してみた。

 うーむ、遮蔽物少な目、傾斜もそれなりと微妙。


「とりあえず、事前に打てる手は打っておこう」

「そんなもの、あったか?」

「忘れたのか? あるだろう、料理バフが」

「おお! そうだったな!」

「という訳で、料理を食べられそうな場所を探そう。モンスターとの戦闘を避けながら」

「調理スペースは?」

「インベントリに調理済みのものが入っているから、最低限で問題なし。じゃあ、全員で進もうか」

「はい!」


 そうしてモンスターを迂回し、時には走って逃げ、山を少し登ったところで俺たちはそこを発見した。

 木々が丁度良く視界を塞ぎ、風雪もほとんどないポケットのような場所。

 座るのに適した岩もあって、入るとそこは戦闘不可の安全地帯となっていた。


「こりゃあいい。おあつらえ向きだな」

「ハインド君、焚き火を作っていいかな?」

「お願いします。みんな、岩に座る前にその辺の葉っぱを厚めに敷くといいぞ。体温の低下を防げる」

「そうか! 行くぞ、リコリス、フィリア!」

「はーい」

「うん……」


 辺りの林から三人が投げてくる枯れ木や葉っぱを受け取りつつ、セレーネさんとビバークの準備を整える。

 簡易な腰かけと焚き火の準備が完成したところで、俺はインベントリから密閉式の鍋を取り出した。

 折角なので火の着いた焚き火の上で再加熱し、白い息を吐きながら頬を赤くするメンバーに中身を配っていく。


「あったかー。これは何だ? 味噌汁? 随分と具沢山だな!」

「豚汁ベースのすいとん。うどんと迷ったけど、こっちにしてみた」

「美味しそうです! では……」


 いただきます、と手を合わせて冷えた体に流し込む。

 ふぅー、落ち着くね……みんなの表情も、雪山とは思えないくらいにほっこりしている。

 気持ち濃いめに味付けした豚汁が、すいとんと合わせると丁度よい。




 豚汁を完食したところで、防御関係のバフが発動したのだが……。

 俺たちは焚き火の前から動けずにいた。


「何だろう、リラックスし過ぎちゃって……少し眠くなってきたよ、ハインド君……」

「私もです……ふぁぁぁぁー……シーちゃんならとっくに寝ちゃってます……」

「ハインドー、膝枕ー」

「……私も……」

「どうしよう、この空気……そろそろ出発しないと、今夜中に城郭都市に戻れなくなるんだけど。おーい、みん――何だ、この音……?」


 俺が急に言葉を切ったことで、ぐでっとしていたメンバーが身を起こして同じように耳を澄ませる。

 これは人の足音と、戦闘音……か?

 その音が気になった俺たちは、そこでようやく安全地帯を出てフィールドに戻るのだった。

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