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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
北の大地にて

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233/1117

文化祭当日

 防衛戦イベントから数日……。

 今日は、以前から準備を続けていた文化祭の当日である。

 校庭ではその開会式が行われ、壇上には未祐の姿があった。

 一切緊張した様子はなく、俺が修正した原稿の文面を張りのある声で読み上げていく。

 何だろう、初めての経験じゃないけど凄く恥ずかしい……緒方さんの添削も入っているはずなのに、ほとんど俺が手を入れた文章そのまんまじゃないか……。

 形式的な内容のものを一通り読み終え、未祐は紙を折り畳んで最後にこう叫んだ。


「では、我々の文化祭の成功を祈って――文化祭、ファイアー!」

「「「ファイアァァァァァッ!!」」」


 拳を突き上げる未祐に続いて、ノリノリで生徒の大多数がそう叫ぶ。

 ボンバーと大差ないような気がしたが……ちなみに「文化祭ボンバー」という言葉を見た時点での緒方さんの反応はこうだった。


「ボンバーって和製英語なのよね。正確に読み上げるならボマーが近いし、爆発っていう意味はないから変じゃない? 岸上君らしくない間違いだけど、どうしたの?」

「そういう問題? 知ってたけど、どうせ却下されるだろうと思ってさ」

「間違っているけれど、勢いは認めるわ。では、少し変えて“文化祭、ファイアー”にしましょう。未祐、書き直して」

「うむ!」

「えええええ……」


 どっちみち派手に燃えてて、爆発と大差ないんですけど……前々から思っていたが、緒方さんも少し変な人だ。

 結局未祐もファイアーを気に入ってしまい、これがそのまま採用される運びとなった。

 しかしまあ、景気付けの一言としてはこれで良かったような気がしないこともない。


「わっち、わっち、どうしたの? 周囲の盛り上がりから取り残されたような顔して」

「お前が言ったそのまんまの状態なんだが……これ以上の説明って、何かいるか?」

「下手に裏側を知っていると楽しめなくなる心理だね!」

「お前ね……」


 そこまで理解しているのなら、放っておいてほしいものである。

 開会式はそれで終了なので、俺は秀平と話しながら教室へと戻った。




 俺たちのクラスの出し物は輪投げであり、その景品はぬいぐるみが主だ。

 大変なのは主に準備のほうで、当日に関しては数人が接客・運営するだけで事足りるので割と自由が利く。

 そして今、飾り付けが終わってぬいぐるみが置かれたクラスの教室内は……とても爽やかないい香りがしていた。


「なんか、アレだな……こういう香りの雑貨屋さんってあるよな」

「え? 加地、あんたその顔で雑貨屋とか行くの!?」

「うるせえよ!? 顔は関係ねえだろ!」


 ゴツイ顔と体型を持つ加地君が女子に食ってかかる。

 確かに雑貨屋ってアロマとかが置いてあったり焚いてあったりで、お洒落な店ほど良い香りがしているものだが。

 俺はぬいぐるみの位置を調整している学級委員の佐藤さんに声をかけた。


「ちょっと柔軟剤が多かったかね?」

「うーん、大丈夫じゃない? 鼻につくってほどじゃないし、これだけ綺麗なら余ったやつを持って帰りたいって子もいるくらいだから」

「中古品のリサイクルだってのは周知してあるから、そうそう文句を言う人はいないと思うけど」


 中には袋を被せておいた新品に近い物や、ゲームセンターで取ったばかりのものなどもあるが。

 クリーニングに関しては俺たちに出来る範囲で最善は尽くしたので、それで勘弁してほしいところ。

 佐藤さんがぬいぐるみから手を放し、俺のほうに向き直って腕組みをする。


「そうね。それに、岸上君も頼んだ物を作ってきてくれたんでしょ?」

「一応、佐藤さんがほしいって言ってた数には到達したよ。こいつを添えてやれば、賑やかしにはくらいにはなると思うけど」


 そう言って俺は、自分の席から紙袋を持ってきて中身を佐藤さんに見せた。

 彼女は作製期間に対する数の多さに驚いていたが、一つ一つが小さい上に慣れれば時間は短縮できる。


「さすがね、ありがとう! これで景品が足りないってこともなくなりそう」

「たった二十個だけどね。俺は最初の担当だし、こいつは後で並べておくよ」

「本当にありがとうね。今度、喫茶ひなたに友達連れて行くから」

「まいどー」


 あとは三々五々、内装を整えていき……。

 教室の中央に輪投げを設置したところで、全ての準備は終わった。

 佐藤さんが手をはたきながらみんなに声をかける。


「はい、終了! 2-Bの文化祭、終了! 解散!」

「いやいや、委員長! まだ店番は必要だから!」

「後片付けもあるでしょー」

「嫌なことを思い出させないでよ……あー、諸君。自分が担当の時間を間違えないように、しっかり戻ってくること。それさえ守ればあとは自由だ、私らは自由だ! んじゃ、今度こそ一時解散ってことで。お疲れー」

「「「うーい」」」

「「「はーい」」」

「じゃあ、わっち。また後で」

「おう」


 俺と同じように部活動の出し物だったりがあるクラスメイトもいるので、秀平を含め教室からは早々に人がいなくなった。

 店番は大体四人前後で行われ、料理部の準備は健治や部長たちに任せて俺は最初の店番担当だ。

 面子は俺、テニス部の斎藤さん、柔道部の加地君、バスケ部の白鳥さんの四人。

 体育会系に囲まれてしまった……いや、だからどうだということもないのだが。

 早速、例の物を景品の隅っこに加えることにしますか。

 小さいので、点数が低かった人用の場所でいいだろう。


「岸上君、何して……うわ、カワイイー!」

「ホントだ! きっしー、何コレ何コレ!?」

「何って、あみぐるみだけど。見たことない? 毛糸と手芸用の綿で――」

「ふおおおおおおおおっ!!」


 急に加地君が吠えたので、俺たち三人はびくりとして振り返った。

 彼はミニあみぐるみを見つめたまましばらく固まった後、咳払いをして居住まいを正した。

 それで今の叫びが、なかったことにはならないと思うんだけどなぁ……。


「……種類も豊富で凄いねー! クマさん、ブタさん、あっ、ウサギさん! それにペンギンさんまで!」

「今のスルーなんだ斎藤さん……気遣いか? 気遣いと呼んでいいのか?」

「あたしらもそうしようよ、きっしー……ところで、これってやっぱり手作りなの?」

「佐藤さんの頼みでチマチマとね。二十個増やすと切りのいい数になるって言われたから、家で作って持ってきたんだよ」

「はー……不器用なあたしからすると、考えられない話だ」

「全体的に大きなぬいぐるみが多いから、こういう小さい手乗りサイズもあったほうが良いだろうってことで――お? 二十一個あるな。一個多い……どこで間違えたんだ?」


 念のために数えながら棚――というか机を並べた簡易景品台の上に置いていくと、そこで数が合わないことに気付く。

 別に一個多いくらい問題ないだろうと思い、そのまま最後の一つを設置しようと思ったのだが……。


「「……」」


 何やら物欲しそうな顔で、白鳥さんと加地君が俺のほうをじっと見てくる。

 女子の白鳥さんはいいとしても、やっぱり加地君こういう小物が好きなのか……。

 僅かに悩んだ末に、俺はこんな提案をした。


「……じゃあ一個だけ、ジャンケンで勝ったほうに好きなのをあげるよ」

「いいのか岸上!?」

「こんなに可愛いんだもん、遠慮せずにもらっちゃうよ?」

「斎藤さんは参加しなくても――斎藤さん?」


 彼女は俺たちの話に耳を貸さず、目を輝かせてあみぐるみを見ていた。

 特にウサギがお気に入りのようで、触れはしないものの悩まし気な溜め息と共に手が何度もそちらに伸びかけている。

 加地君と白鳥さんは顔を見合わせ、そんな斎藤さんの肩を叩いた。


「そういやアンタ、鞄とか筆記用具にもウサギグッズが付いてるわよね……どんだけ好きなのよ。ずるい子だなぁ」

「負けたよ、斎藤。お前の熱意には」

「えっ? えっ? 白鳥さんも加地君も、何の話? この子、家で飼ってるウサギにそっくりで――」

「あー……うん、二人が納得したんならいいけどさ。斎藤さん、佐藤さんの依頼よりも一個多く作っちゃったみたいなんだけど、一ついらない? そのウサギ、どうかな?」

「へっ?」


 斎藤さんはまず俺に、それから白鳥さん、加地君、そしてあみぐるみへと視線を彷徨わせ……。

 そしておずおずと、白の毛糸を基調に編まれたウサギのあみぐるみを手にもう一度俺を見た。


「あの、これ……本当にいいの?」

「いいよ。余り物だからね」

「ありがとう、岸上君! 大事にするね!」


 彼女はそのままあみぐるみを胸に抱いて、少し赤い顔ではにかむ。

 教室内に生温い空気が広がり、俺は頭を掻いて斎藤さんから背を向けた。

 白鳥さんよりも加地君が物凄く悔しそうな顔で斎藤さんを見ていたが……もし終わった後に残っていたら、あみぐるみは彼にあげることにしよう。

 手が空いたので窓から外を見ると、少しずつ制服ではない姿の人影が増え始めている。

 ここにもそろそろ、お客さんがやってくるだろう。

 料理部のほうは最初だけ部長や健治たちに任せっきりになってしまう訳だが、上手くやっているだろうか?

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