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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
北の大地にて

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文化祭準備

 それから少し時間は経ち、放課後の学校。

 早いクラスは文化祭に向けて既に動き出し、校内に作りかけの看板や小道具などが増え始めた頃。


「――やっぱり、前日までに作っておけるものがいいと思うんですよ。みんな、クラスの出し物もあるんですから」

「でもわたるちゃん、料理部の晴れ舞台なのよ? こういう時に目立たないと。私はその場で調理できるものの方がいいと思うなあ」

「気持ちは分かりますが……まぁ当日忙しくなかったり、体が自由なメンバーをメインに回せなくもないか。ただ井山部長がよくても、みんなのやる気が噛み合っていないと辛いことになりますよ?」

「まっかせなさーい! ちゃんと説得してみせますから!」


 俺は料理部部長である井山先輩に呼び出され、調理室へと来ていた。

 内容は文化祭の料理部の企画に関してである。

 そこまで言うのなら、何か本格的に考えてみるか……。

 井山先輩は、眉を逆八の字にしてやる気満々である。

 これだけ性格がぽやっと緩くても人望はあるので、きっと何とかなるのだろう。

 その場で調理なら、香りが良い物や温かい物が鉄板かなぁ……。


 企画書の作成を終えると、俺と井山先輩はその足で生徒会室へと向かった。

 メニューはみんなで相談して後から決めるとして、今の主目的は教室の使用許可だ。

 未祐が既に振り分けたクラス別の使用状況を見る限り、調理室は幸いにもまだ空いているようだった。

 全体から見るとかなり遅めの始動ではあるが、クラス側の活動優先の我が校において部活動系はこんなものである。

 生徒会室の扉を開いて、適当に挨拶。


「ちわー……あれ?」

「あらあら……」


 室内に入ると、そこにいたのはウンウン唸りながら書類仕事を行う未祐と緒方さんの二人だけだった。

 緒方さんが書類の束をめくって指示を出し、未祐が何かを書き込んでいく。

 他の生徒会メンバーは……?

 こちらに気付いた緒方さんが顔を上げ、書類を置いて椅子から立った。


「亘君に……実乃梨みのり先輩。ということは、料理部の企画書ですか?」

「ピンポーン。それにしても由香利ゆかりちゃん、どうして二人でお仕事してるの? 田沼さんと鈴木さんは?」

「会長も副会長も風邪で……昨日から学校を欠席していまして」

「そうなのだ! あの虚弱コンビめ! お陰でしわ寄せが全て私たちにぃぃぃ!」

「そ、そうか……ドンマイ」

「二人でやれる作業量ではないだろうがぁぁぁ! ――あ、みのりん先輩こんにちは」

「こ、こんにちは未祐ちゃん。大変ねぇ……」


 未祐の鬱憤はかなり溜まっているようだった。

 そんな生徒会室の中は片付いており、置かれている道具はどことなくカラフルだ。

 代によって違うそうだが、今の生徒会は女子しかいないからな……備品などに性格が滲み出ている。

 関係あるのかどうか分からないが、学校全体の空気もどことなく女子が元気で男子はおとなしめだ。

 井山先輩が企画書を緒方さんに手渡す。


「はい、これ企画書」

「ありがとうございます……当日に調理室で、ですか。問題ありません。そういえば、他の部活動やクラスから調理器具使用の申請が来ているのですが……」

「要は料理部の備品を貸し出せってことだよね?」

「そういうこと。電動ミキサーとか、焼き物類の鉄板、ホットプレート……」

「分かった。備品の数と状態をチェックして、リストにして持ってくるよ」

「ありがとう、亘君」


 早速戻って確認を――と考えて部屋を去ろうとすると、何故か未祐が俺の方をじっと、じーっと見てくる。

 急に静かになったと思ったら……。

 俺は眉をひそめつつ目を合わせてから、一言返す。


「なんだよ?」

「亘……書類を……」

「?」

「書類を手伝ってくれぇぇぇ!」

「は!? お前――よせ、ズボンを掴むな!」

「もう嫌だぁぁぁ! このままじゃ今日も日没コース直行だ! 私はお腹が空いてきたぞ!? 亘の料理が食べたい、食べたい、食べたいぃぃぃ! 早く帰りたいぃぃぃ!」

「ちょっと未祐!? さすがにそれはみっともないわよ! 恥ずかしいからやめなさい!」

「黙れゆかりん! みっともなかろうが何だろうが、このまま二人だけでは終わらんだろうが! 頼む亘! ヘルプ!  ヘーーールプッ!」


 度重なる書類仕事により、未祐が爆発した。

 溜め息を吐く緒方さんによると、昨日から放課後はずっと生徒会室で缶詰めだったようだ。

 昨日はバイトだったので、未祐の帰りが遅かったのを知らなかった。

 仕事を途中で放り出すようなやつではないのだが、どうもガス抜きが足りていないらしい。

 手伝ってあげたら? という井山先輩の後押しを受け、俺は頬を掻いて頷いた。

 今日はバイトもないので、時間的には大丈夫だ。

 部外者だけどいいのか? という俺の問いには、別に隠すようなことはない、むしろありがたいと緒方さんが答える。


「じゃ、亘ちゃん。私は先に帰るねー」

「うっす、お疲れ様です。今日は帰りに井山ベーカリーに寄りますね」

「あら嬉しい。出る時にメールくれたら、焼き立てを用意しておくけど……」

「じゃあ食パン二斤で、お願いします」

「うん、分かった。また後でねー」


 先輩の両親が経営する井山ベーカリーのパンは酵母の香りに癖がなく、パンにほのかに甘味があって美味しいのだ。

 家の手伝いがある先輩は先に帰宅。

 俺は先に備品のチェックをしに調理室に戻ると、やることを済ませて鍵を閉めた。

 職員室に鍵を返し、帰り支度を行ってから再び生徒会室に。


「あ、亘君。悪いけどよろしくね。未祐がもう限界みたい」

「わ゛だる゛ぅぅぅー! ありがどぉぉぉ!」

「はいはい。じゃあ、やりますか」


 夕陽が差し込む室内で、俺たちは作業を始めた。

 上がってきた企画の内容を一覧化するために表に書き込んでいくだけなのだが、これが結構手間だ。

 特に、こういう読めない字で書かれた企画書は解読に時間がかかる。

 学校によっては生徒一人一人に端末を配ったりで、色々と電子化されているのに……古いよなあ、体質が。


「私はこの紙をめくる感触が好きだぞ!」

「おい、エスパーやめろ。まだ何も言っていないだろうが」

「む? 字が読めねえんだよ、電子化しろよっていう顔をしていただろう?」

「大体合ってる。電子じゃない紙の本とかは俺も好きだぞ……ただし、自分の趣味に関するものなら。でも、教科書とかの実用品が紙ってのは嬉しくねえなあ。持ち運ぶと重いし」

「……二人の会話って、時々ついていけなくなるのだけど。スタートが唐突っていうか……そのまま話が繋がるのが不思議」


 それが普通の感覚だから、何も問題ないと思う。

 とりあえず話しながらも手を止めず、どんどん表に文字を書き込んでいく。

 それが終わったら、使用を希望する場所が被っているものをピックアップして書き出し。

 それも終わると今度は未祐の作業の補助に回る。

 ついでに文化祭のしおりの原型を作ったところ、緒方さんにとても喜ばれた。

 緒方さんは会計なので、予算関係の処理をしている。


「やっぱり手際いいわね。亘君、是非次の――」

「お断りします」

「最後まで言わせてすらもらえないの!? ま、まぁいいわ。まだ選挙まで時間はあるし……と、とりあえず、今は目の前の仕事を終わらせましょう」

「はいよー」

「帰る……帰る……日が沈む前には帰る……絶対帰る……」

「「……」」

 

 ブツブツ呟きながら書類を進める未祐が怖い。

 ともあれ、未祐の希望通りに作業は夕陽が沈み切る前に終わるのだった。




 上機嫌で礼を言う緒方さんと別れた俺と未祐は、バッティングセンターへと足を運んだ。

 井山先輩からのメールによると、パンの焼き上がりまではもう少し時間がかかるらしい。

 そんな訳で、体を動かしたいという未祐の要請を受けて通り道にあるこの場所に来たという感じだ。

 未祐が130Kmの高速球レーンに入り、俺は隣のカーブ(90Km)のレーンへと入った。

 他の客はソフトボールレーンに一人だけで、重い打撃音を響かせて前へと球を弾き返している。


「亘ー! そういえば、今日はTBのアップデート日ではなかったか!? ――ぬんっ!」


 速球を平然と打ち返しながら、未祐が周囲の喧騒に負けない声で問いかけてくる。

 このマシーン、球が結構バラつくな……。


「そうだけど、まだ内容を確認してないな。秀平が戦闘系とは言っていたけども――よっと」

「夕飯を食べたらログインしよう! 私は戦いに飢えているぞー! ――てい!」


 まぁまぁ当たるけど、打球が上に飛ばない。

 一応ホームラン、狙っているんだけどな……無理せずスローボールにすれば良かった。

 それと隣の未祐の打撃フォームが大きくて、制服のスカートが捲れないかハラハラする。


「これまでの傾向からして、戦いの前に移動が必要な可能性が高いけどな。さっさと現地に入るのは賛成だ――あ、空振った」

「うむ、それがいい! ――はっ!」


 未祐の手元から快音が響き、ホームランと書かれたプレートに打球が直撃した。

 電飾が光って効果音が鳴り響き、おめでとうございます! という音声が流れる。

 おおー……。

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