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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
大型アップデートと新コンテスト
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国境越えとサポートの成果

 『ペレグリーヌス・フングス』を入手した俺達は、『オリエンスの山』を馬と共に進んだ。

 山と言っても『アルヒ山脈』に比べれば平坦な地形で、ポルフォル兄妹が谷の町でレンタルした馬も充分な速度を出せている。

 フォルさんは無難に馬を乗りこなし、高い位置からの視界を存分に楽しんでいる様子。

 だが、一方でお兄ちゃんの方は大いに問題ありだ。


「どわーっ!」

「お、お兄ちゃん!? ハインドさん、またお兄ちゃんが!」

「何してんだ……」


 ポル君が本日五度目の落馬を達成。

 しかし、どうしてそんなに乗馬が下手なんだ? 現実での乗馬よりも遥かに簡単な設定なのに。

 彼は慌てて馬に乗り直し、速度を緩めて待っていた俺達を追いかけてくる。


「なんでだ!? 単車に乗り慣れてるから楽勝だと思ったのによぉ!」

「え!? バイクのつもりで馬に乗ってたの!?」

「……」


 腕の中のリィズが、呆れた様子でポル君の方を見ている。

 オリエンスの山を下り終えたら、確かその先は平地だったはず。

 平地ということは馬にとっては絶好の地形だが、それを発揮できないとなると……。

 このままの乗馬技術だと、今日中に国境まで辿り着けない可能性が高いぞ。

 ……ここは、少し時間を使ってでも何とかした方が結果的に近道か。


「……フォルさん、リィズ、一旦休憩しよう。ちょっとポル君に馬の練習をさせるから」

「は、はい。すみません、兄が……」

「い、いらねえよハインド! 次は落ちねえし!」

「そのセリフも今ので五回目だっての! 見過ごせるか、いい加減!」

「ぬっ、ぐぅぅ……」


 モンスターが少ないエリアを狙って、全員で一度馬を降りた。

 ポル君の馬をリィズに預け、グラドタークを連れてポル君の前へ。

 メニュー画面を操作し、ポル君のグラドタークに対する使用権限を一時的に許可する。


「ほら、ポル君。グラドタークの方が落ち着きがあって無理が効くから、まずはこっちで練習だ」

「お、おう! 何度見てもでっけえな、こいつ……よし、行くぜ!」


 悠然とした様子で待機するグラドタークに、ポル君が気合を入れて勢いよく乗り込む。

 鞍が沈み込み、僅かにグラドタークが首を左右に振る。


「――はい、ストップ」

「は!? なんで!? 普通に乗っただけだぞ!?」

「馬は繊細で臆病な生き物なんだから、乗る時はゆっくり。逃走時や戦闘中の乗り降りは仕方ないとしても、余裕がある時のそれは馬にとってただのストレスになるから」

「マジか!? 面倒くせえ!」

「面倒くさいから可愛いんじゃないか、こういう生き物は」

「そ、そういうもんか?」


 現実の生き物の反応を再現しているVRで、その言葉は御法度だ。

 その面倒さを楽しめるかどうかで、TBというゲームの評価も変わることになる。


「優しく乗ったら、まずは上体の力を抜いてリラックス……うん、左右均等に体重を掛けて。で、目線は真っ直ぐ、背筋を伸ばして。必要な時以外はなるべく手綱を引っ張らないように。それから、馬とリズムを合わせて脚を使って……上手い上手い!」


 段々とまともになってきた。

 これなら習熟までそれほど時間は必要なさそうだ。

 ちなみに、乗馬知識のほとんどはヘルシャからの受け売りである。


「速度は脚でお腹を圧迫する強さで調整を。馬によって敏感だったり鈍感だったり、反応に差があるから注意して。曲がりたいときは手綱に頼り切るんじゃなくて、ポル君がさっき言ってたバイクと同じ方法を使おう」

「あ? 体重移動か?」

「そうそう――って、傾き過ぎ、傾き過ぎ! もっと緩く! 脚も使って! ガニ股禁止!」

「お、お、お……おおっ! 曲がった曲がった!」

「生き物なんだから、当たり前だけどバイクほど急激には曲がれない。そこもちゃんと考えて移動してくれ」

「ああ!」


 そこから徐々に速度を上げ、駈歩かけあしまでこなしたところで簡易訓練が終了。

 グラドタークに乗ったままのポル君を連れ、休んで雑談しているフォルさんとリィズの元へ戻る。


「――あ、もう終わったのですか? ハインドさん」

「終わったよ。二人とも、何の話をしていたんだ?」


 目敏いリィズが一早く俺の姿に気付いて声を上げる。

 遠くから見た限りでは、時折笑顔を浮かべながら楽しそうに雑談していたが。


「お兄ちゃんのバイクのお話をしていました。時々、私を後ろに乗せて走ってくれるんですよ」

「へえ」

「な、何だよ?」

「早く馬の後ろにも乗せてあげられるようになろうね……」

「ぐっ!?」


 二人乗りってことは、小型限定よりも上……普通自動二輪かな? ポル君の性格を考えると。

 今の状態だと、乗馬に関してはフォルさんの方が上手いと断言できるほどだ。

 グラドタークからポル君が降りて、眉間に皺を寄せながら俺を見る。

 しばらく一緒に居たから多少は慣れたけど、やっぱりそういう系統の表情をされると普通に怖い。

 彼には悪いが、初見の人が思わず逃げ出すのも納得だ。


「しかし、やっぱこの馬すげえな。こう、馬の中の王! ってな感じの風格で最高にイカしてるぜ。俺も自分の馬が欲しくなってきた」

「そりゃあ最高等級の“名馬”だからね。それなら、二人で馬の入手を当面の目標にしたらどうかな? 行動範囲も広がるし、きっと今よりも楽しくなるよ」

「ああ、悪くねえ。な、フォル」

「はい! 私も、もっとゲーム内の色々な景色を見て回りたいです!」


 自発的にゲーム内でやりたいことを主張し始めた二人の様子に、俺はリィズと笑みを交わし合った。

 これならTBを長く続けてくれそうで、俺としても一安心だ。




 そして戦闘も安定、移動も安定した俺達はそこから一気に東へと進んだ。

 『オリエンスの山』を抜け、国境を越え、そして目的地『ウェストウッズの町』へと続くフィールドである『ウェントゥス草原』の出口へと到達。

 草原出口付近には、ボコボコと空いた巨大な巣穴がいくつも並んでいる。

 フィールドボスは『ウェルテクス・タルパ』という名のモグラのモンスターだ。

 巣穴から唐突に顔を出しては、風の魔法と回転しながらの体当たりの二択を押し付けてくる変わり種の相手である。

 サイズは一メートル超え、当然モグラのサイズとしては規格外だ。

 低い攻撃力ながらヘイトを無視してランダムに攻撃してくるので、捉えるのが中々に難しい。

 強いというよりは、攻略に時間が掛かってストレスが溜まるタイプのボスだ。


「ポル君、フォルさんの後ろ!」

「――この、モグラ野郎がぁっ!」


 俺の声を受け、鋭い動きでポル君が『ウェルテクス・タルパ』にカウンターのメイスを叩きつける。

 そして、バフの乗ったフォルさんがスキル『スラッシュ』で斬り付ける。

 続けて『ヘビースタブ』を使って逃げ出そうとするモグラを上から突き刺した。

 流れるような連撃である。

 ここまでの戦いで、リィズによるデバフも相手にはたっぷりと乗っている。


「お兄ちゃん!」

「おう!」


 兄妹が鮮やかに入れ替わる。

 俺はWTの開けた『アタックアップ』をポル君に、リィズは勝負を盤石にすべく『スロウ』をモグラに使用した。

 ポル君が前衛型神官の数少ない攻撃スキル『骨砕き』を発動。


「おおおおおおおおおおらぁっ!」


 大モグラが地にめり込み、草の根が絡んだ土が周囲に飛び散った。

 ダメージはそれほどでもないが、敵モンスターに対して2秒間のスタン効果が発生。

 あれだけ素早く巣と巣の間を飛んで移動していたモグラの動きが、ここに来て連携によってその場に縫い留めることに成功している。

 ポル君が敵の前で不意に屈みこんだ。

 そしてその背を蹴りつけてフォルさんが天高く跳び……


「たぁあああああっ!」


 落下の勢いを利用して『ヘビースラッシュ』で一閃!

 よろけて勢いのままにハルバードの斧が地面を抉ったが、HPの無くなった『ウェルテクス・タルパ』はそのまま光となって消えていった。

 巣穴も連動するように、音を立てて急速に塞がっていく。


「よっしゃああああああ!」


 ポル君の雄叫びが草原に響き渡る。

 それはまさに、数時間前までとは「別人」と呼んで差し支えない会心の戦いぶりだった。

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