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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
大型アップデートと新コンテスト
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同盟の解散と刀匠マサムネ

 魔王ちゃんの襲来、もといレイドイベントの終了演出から小一時間ほど。

 シリウスは今夜の内に移動を開始するとのことで、俺達渡り鳥は見送りに出ていた。

 ヒナ鳥達は遅い時間なのでログアウト、凜と匠のメンバーとはホームで別れを済ませてある。

 場所は凜のギルドホームがある、港町ノトスの出入口付近だ。


「ありがとうな、ヘルシャ。俺達と同盟を組んでくれて」

「ヘルシャ殿、お疲れ様でござった! ワルター殿もありがとう!」

「ありがとう、ドリル!」

「ドリ……最後までその呼び方なのですわね、貴女。こちらへの見返りも充分にありましたし、礼には及びませんことよ」

「ハインド様の神官としての立ち回り、非常に参考になりました。お嬢様共々、またの機会がありましたら宜しくお願い致します」

「師匠、またいつでも呼んでくださいね!」


 まずはヘルシャ、メイドのカームさん、執事のワルターらギルド幹部と挨拶を交わし……。

 その後はそれぞれの部隊でお世話になったメンバーと一言二言別れの挨拶を済ませると、ヘルシャが引き上げるよう号令をかける。

 と、そこで俺は渡す物があることを思い出し――


「ちょい待ち、ヘルシャ」

「はい?」

「これはイベントをやったセーピア水域の小島で採取したもんでな。シリウスは農地って使ってる?」


 俺の質問には、ワルターが一歩前に出て答える。


「農地はありません。一応、シリウスは戦闘ギルドということになっていまして」

「そか。まぁ、渡すからにはどう使うかは自由なんだが、可能なら栽培して増やすことをお勧めする」

「何ですの? 回りくどいですわね」


 少しイライラし始めたヘルシャの手に、俺は種を握らせた。

 不思議そうにそれを見るヘルシャに、アイテム名を確認するように促す。


「こ、これ……お茶の木の種、ですの!?」

「うん。カメリアシネンシス――という樹の種だな。こいつを栽培・葉を収穫して発酵させれば……」

「あ! 紅茶ですね、師匠!」

「そうだ。ずっとヘルシャが欲しがっていた、紅茶が手に入るはず」


 種からお茶の木へ、そして葉の収穫が安定するまでには通常5年掛かるそうだが、ゲーム内なので時間的な問題はスキップ可能だろう。

 それを聞いたヘルシャの顔に満面の笑みが浮かぶ。


嗚呼ああ……ハインド、ハインド! やはり貴方の目配り、気配りの能力は素晴らしいですわ! 今からでもシリウスに加入しませんこと!?」


 どれだけ紅茶が恋しかったのか、ヘルシャが俺の右手を両手で握ってくる。

 そういや、夜に紅茶をがぶ飲みしてもゲーム内なら目が冴えないのか。

 お酒もそうだけど、VRはそういった物を好きな人が気を紛らわせるには絶好の環境だな。


「待て待て待て! 闘技大会の時にも言ったが、現所属ギルドのマスターが居る場でよくもそんなに堂々と勧誘が出来るな! このドリル!」

「……」


 俺とヘルシャの手を強引に解き、ユーミルが間に割って入る。

 リィズも無言で俺の後ろに近付いてきて、圧力を掛けた。

 そのリィズの顔を見たヘルシャの顔が引きつる。

 が、引き下がらずにその場で踏み止まり、二人に対して胸を張った。


「あ、あーら! 隠れてコソコソ勧誘する方が、道理にもとると思いませんこと?」

「フン! 貴様がそんな卑怯な奴なら、とっくにハインドとフレンドでは無くなっているだろう! そもそも勧誘などするなと私は言っているのだ!」

「それこそわたくしの勝手ですわ。決めるのはあくまでハインド……そうでしょう? 最後に一言いいかしら? ハインド」

「何だ?」


 ヘルシャがサッと手を上げて、シリウスの他のメンバーに先に行くように促す。

 全員が無言でこちらに向かって一斉に頭を下げ、静かにお嬢様の言に従って去っていく。

 ゲームの一ギルドとは思えないくらいに足並みが揃っていて、多少の恐怖を覚える光景だが。


「シリウスは帝国に戻ったらサブギルドを作って、定員が100名になりますわ。ですが、どんなに人員が増えたとしても必ず一枠……貴方の為に空けておきます」

「え? いや、まだ俺は何も――」

「今のギルドに嫌気が差したら、いつでもいらっしゃいな。待っていますわ!」


 俺の返事を聞く気はないのか、ヘルシャは背を向けると高笑いを発しながら軽やかな足取りで去って行った。

 厩舎から馬を連れ、ぞろぞろと移動を始めるシリウスのメンバーが遠くに見える。


「行っちゃったね……」

「拙者、ワープ等で気軽に会えないTBのシステムが好きでござるよ。一緒に過ごす時間が貴重に思える故」

「……それにしても、まだあのメイドと執事の軍団は増えるのか。ハインド、行くなよ?」

「行かねえよ。ヘルシャの言葉は嬉しかったけどさ」

「ハインドさん……? 嬉しかったんですか……?」

「そうだけど、行かねえってば! 睨むなリィズ!」


 目を見開くのを止めてほしい。

 光が無くて怖いんだよ……ヘルシャの顔が引きつるわけだ。

 そのまま話をしながら、俺達は“凜”のギルドホームへ戻る。

 次にヒナ鳥を含めた全員が揃うのが四日後ということもあり、それまではマール共和国に滞在する予定だ。

 なので、今日は凜のギルドホームでログアウトさせてもらうつもりである。


「でも、ハインド君の執事姿はちょっと見たいかも……」


 その途上、セレーネさんがぽつりと呟いた一言にユーミルとリィズがぐりんと顔を向ける。

 セレーネさんの隣を歩いていたトビが二人の動きにギョッとした。


「「セッちゃん!」」

「ご、ごめんなさい」

「ナイスアイディアだ!」

「着て貰いましょう! あの金髪女のギルドとは関係なしに!」

「あ、そういう……」


 そして三人一緒に期待の籠った目でこちらを見る。

 執事服? なんでそんなもん……トビ、ニヤついてないで何か言え。


「着ないし、作らんぞ」


 俺の宣告に、女子三人は一斉に肩を落とした。




 翌日、バイトが終わった俺はTBにログイン。

 マール滞在中に何をするか? と言うと実は決まっており、トビの武器・防具に関することになる。

 折角和風職人ギルドとの縁が出来たのだから、武器を依頼しようと思ったのだが……。

 凜の隣にある匠のギルドホームを、トビと一緒に訪れた俺は困惑していた。


「神官の坊主に忍者の坊主。お前さん達、俺の弟子になる気はねえか?」


 このべらんめえ口調の初老の男性がギルド“匠”のギルマス、マサムネさんだ。

 頭には手拭いを巻き、顔には縦皺が多くどこか頑固そうな印象を受ける。

 職人っぽさという点で武器のイメージと印象が一致しており、美少女でなかったことにトビがガッカリしていたのは秘密だ。

 彼はミツヨシさんのリアルでの飲み友達らしい。

 それにしても、妙な話の流れになっているな。

 彼が弟子と言った直後、鍛冶場で作業中の匠のギルドメンバーがざわめきだした。


「弟子入りではなくて、こいつの武器の依頼に来たんですが」


 匠のギルドホームの鍛冶場は物凄い熱気だ。

 炉が複数設置され、数人のプレイヤーがそこかしこで槌を振るっている。

 やはり熱気が違うな、熱気が。

 ホームに常にこれだけの人が居るというのは、生産ギルドならではだと思う。


「まぁ、聞きなって。まず、俺への依頼料は高い。べらぼうに高い」

「そうなんでござるよなぁ。マサムネ殿の装備の最新版を、掲示板で買おうとするとエライことに……」

「そう言う坊主の装備は、俺が前に掲示板に流した奴だな? ありがとうよ」

「いえいえ。良い装備でござるよぉ、マサムネ殿の作る物は。ただ、そろそろ性能的に限界が……」


 トビが現在装備している武器・防具は闘技大会前に調達したものだ。

 こいつの言う通り、今となっては性能的にやや置いて行かれている面が強い。


「俺の装備が高いのは、凜の奴らの装備を優先して作っているからだ。掲示板のは、手が空いた時にだけ作ってるもんで最初から数が少ねえのよ」

「なるほど、得心致した。それで高値を付けても売れるのでござるから、やはり凄い」

「はっはっは、褒め過ぎ褒め過ぎ。背中がむず痒くなっちまう」


 年齢の割に綺麗な歯を剥きだして、トビの賛辞にマサムネさんがニッと笑う。


「そこで最初の提案だ。お前さん達のホームとこことじゃ距離が遠いだろう? このTBってゲームは、人の移動も物の移動も本当に不便だ。今後もお前さんらがイベントの先頭を走るにゃ、この距離の問題はどうしたってのしかかってくるぜ。番度ばんたび忍者坊主の装備をここに依頼にくるなんてのは、土台無理ってもんよ」


 一々ごもっともである。

 普通は構えた拠点ホームを中心に動くものだし、アルベルト親子ほどフットワークの軽いプレイヤーは少数派だ。

 彼の言う通り、技術を習得して俺やトビ自身が装備を作ることが出来れば面倒は少ないだろう。

 ただ、それには色々と問題と疑問がある。


「しかし、どうして俺達を弟子に? 大変ありがたいご提案なのですけど、そこまでして頂ける理由が無いような。それと、実戦に耐えうる刀なり和系武器をちゃんと短期間で作れるようになりますかね?」

「その二つに対する答えは、こいつにあらあな」


 そう言ってマサムネさんがインベントリから取り出したのは――俺とトビが作った苦無セットだった。

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