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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

複合型レイドイベント

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レイド報酬授与

 その夜、ギルド“凜”のホームで同盟の打ち上げが行われた。
 シリウスは翌日には帝国へと引き上げるそうで、今夜で同盟は解散ということになる。
 それと、前回と同様に報酬授与と同時にゲーム内で特殊演出が用意されているそうな。
 また魔王ちゃんを見られるのでは、ということでトビは目をギラギラさせてその時を待っている。
 一方の俺は、ホームの調理場を借りて魚介類と格闘中だ。

「このマグロの刺身誰か持って行って!」
「ハインドさん、マグロの唐揚げはこの位の量でいいですか?」
「ひぃっ! 今、皿の上のタコ足が動いた!」
「誰か! キツネの姐さんが酒が足りないって!」

 100人……否、ギルド匠も含めると150人前後の食事を用意しようとするとどうなるか。
 答えは目の前にある。
 ホームの調理場は、正しく戦場だった。

「師匠、お嬢様がマグロのカルパッチョをご所望なのですが……」
「そこにオリーブオイルで作ったソースがあるから、刺身にかけて持ってけ!」
「醤油の予備はどこだっけ!?」

 メインの食材はマグロとタコ(クラーケン)だが、他の食材もちらほら。
 寿司にして握ったりたこ焼きにしたりとバリエーションも様々。
 広間に料理を持っていくと、部屋の隅っこでセレーネさんがたこ焼きくるくると回している。
 本当に器用だな、この人。
 一通り焼き終わると、火鉢の上に載せた型に油を塗って生地を流し込んでいく。
 彼女はそこで顔を上げてこちらに気付いた。

「あ、ハインド君。そっちはどう?」
「ようやくもう少しで終わりそうです。目が回りそうな忙しさでしたよ」
「この人数だもんね……あ、たこ焼き一つどう? 焼き立てだよ?」

 竹串に刺し、セレーネさんが俺の口元にたこ焼きを差し出してくる。
 俺の両手は空いた食器で塞がっており、確かに今食べるならそうせざるを得ない状況だが……。

「――あっ」

 その行動の恥ずかしさに気が付いたのか、セレーネさんは手を引っ込めようとする。
 が、周囲をキョロキョロと見回してから再びたこ焼きを俺の口元へ。

「だ、誰も見てないから……熱いかな? ふー、ふー……は、はい、どうぞ!」
「う……い、いただきます……」

 どうして基本の性格は控えめなのに、こうも局所的に思い切りが良いのだろうか?
 たこ焼きを口に含むと、ギルド匠特性の鰹節と青海苔の風味が鼻腔をくすぐる。
 それらがソースの味・香りと混ざり、カリッとした表面に歯を立てると中から熱くトロッとした生地が溢れ……。
 クラーケンのプリプリとした身が中から顔を出し、次々と現れる異なる食感と複合的でありながらソースが纏め上げるこの――ええい、要は一言!

「美味い!」

 それに尽きる。
 セレーネさんは俺の感想に顔を綻ばせた。

「良かった」
「じゃあ俺は調理場に戻りますんで! たこ焼きありがとうございました! では!」
「あ……うん、また後でね。ふふっ」

 俺は照れ臭さから、逃げるように慌ててその場を後にした。
 どうもセレーネさんとの距離感が掴み辛いな……難しい。



 そんな打ち上げの食事会もようやく落ち着きを見せ、報酬授与の予定時間が到来。

『只今よりレイドイベント・南海の覇者の終了演出を行います。各ランキング5位までのプレイヤーの皆様は、安全エリアで静止してお待ちください』

 その字幕を見て、気持ちよく酔っているキツネさんが首を傾げる。

「あっれぇ? 前のと文言が違うれぇ?」
「魔王ちゃん定番の空中投影じゃないのか。一部のプレイヤーががっかりしそうだな――おいキツネ、もう飲むな。いくら疑似酔いでも、いい加減に呂律がやべえぞ」
「ユッキーのけちー」
「魔王ちゃぁぁぁぁん! 何故でござるかぁぁぁ!?」

 俺の隣に座る一部のプレイヤーがうるさい。
 刺身を醤油につけて一口食べる。
 マグロも美味いなぁ……現実では食べられないような貴重な部位もあって非常に嬉しい。
 新鮮なマグロの脳天なんて、そうそうお目にかかれるものではない。凄い脂の乗りだ。

「んまー! この前食べた回らない寿司よりも美味いぞ!」
「おい、やめろ比べんな。折角連れて行ってくれた章文おやじさんが泣くぞ?」
「この場合の終了演出って何をやるんでしょうね? ハインド先輩」

 未祐に負けじと調理を頬張るリコリスちゃんの隣で、俺に質問してきたのはサイネリアちゃんだ。
 シエスタちゃんはそれなりに食べた後なのか、既にサイネリアちゃんに寄り掛かって寝ている。

「前と一緒なら、魔王ちゃんが賞品を授与してイベント終了のはずだけど。投影無しってことだから、どうなるのか予想できないな……」
「大人しく待ちましょう。ハインドさん、お寿司も取り分けておきました」
「サンキュー、リィズ」

 調理組がやや遅れて本格的な食事を摂っていると、暫くして部屋の中に変化が訪れた。
 突如空間が歪み、稲妻を発しながら黒い玉が発生する。
 やがてそれが弾け、中から何かが現れた。

『――フハハハハハ! 我が直々に来てやったぞ!』

 やけに露出度の高い角の生えた少女……エコーのかかったような声と共に、魔王ちゃんがその場に現れた。
 皆、まさかの本人降臨という光景に唖然としている。
 フットワークの軽すぎる魔王である。
 ネームはシンプルに魔王、表示レベルは500……500!?
 皇帝様の五倍だと!?

『む、この場には報酬授与者が、ひい、ふう、みい……五人か! フフフ、まずは勇者ユーミルよ! こうして相見えるのは初めてであるな! 二度も我に勇者として認められるとは、実に見事っ! 今こそ貴様を、我の真の宿敵として認めよう……はぁっ!』

 魔王ちゃんがユーミルに向けて手の平を構え、気合を入れると……。

「おおっ!」

 ユーミルのオーラが輝きを増し、迸るエフェクトが更に派手になる。
 これで強化が完了したのか……? 後でステータスを確認させよう。

 そしてそこに至り、ようやく広間の中には状況を楽しむ余裕が生まれた。
 実物の魔王ちゃんに対してカワイイ、という声がそこかしこから聞こえる。
 魔王ちゃん自身はその声に眉を顰めているが……声に掛けたエコーも、地の底から響くような声を演出しているつもりなのだろう。本人的には。
 ベースが可愛らしいソプラノボイスなので、全く意味を成していないわけだが。

『次は……最も軽やかな動きを示せし者、トビ!』
「はい! はいはいはいはいはい! 魔王ちゃん、会えて光栄でござる! 光栄でござるぅ! ああああ、実物はマジで可愛いいいいいい! 拙者、今まさに幸せの絶頂!」
『ひっ!? な、何だお前は! く、来るな! 我に寄るな気色悪い!』
「冷たい言葉もまた一興よぉぉぉ!」

 どちらかと言うと冷たいのはこの場の空気なのだが。
 ゲラゲラと笑っているのはキツネさん一人だけだ。

「馬鹿野郎、これ以上恥を晒すんじゃない!」
「放せ! 放すでござるよ、ハインド殿ぉ!」

 俺が詰め寄るトビを抑え付けると、魔王ちゃんがサッと俺の背に素早く隠れる。
 そして、震える手で後ろから俺の顔の横に何かを差し出してきた。
 先端に青い宝玉の付いた、首飾りのようだ。

『ほ、報酬の憎しみの蒼玉だ……後でそいつに渡してくれ……』
「あ、はい。なんかごめんなさい……」

 つい謝罪の言葉が出てしまった。
 そして魔王ちゃんは、俺の顔をまじまじと見てから再び何かを取り出す。

『ふむ、お前がハインドか。勇者を支えし貴様の行動、我の側近サマエルが称賛していたぞ! あいつが人間を褒めるとは実に珍しい! お前には2位報酬、聖杯の複製品レプリカをやろう!』
「聖杯の複製品?」
『一日に一度、この盃に聖水が満たされるというアイちぇ――』
「魔王ちゃんの噛み噛みキター! ――ぐへぇ!?」

 あ、トビが顔を真っ赤にした魔王ちゃんに踏み潰された。
 まぁ本人は幸せそうな顔をして伸びているので、別にいいか。
 俺はトビを抑えていた手を放すと、魔王ちゃんの手から金色の盃を受け取った。

『ごほん! ――アイテムだ! これがあれば、安心して勇者が死ねるというものだろう? 上手く使うといい!』
「うむ、安心して死ぬ!」

 なんて会話だよ……同盟の皆も微妙な顔で笑うしかないといった状況だ。
 支援スコアの2位から5位の賞品は、この聖杯の複製品だそうだ。
 要は聖水を一日に一つ、無料で得ることが出来るアイテムだな。悪くない。

 その後の報酬授与はつつがなく進行し……。
 ミツヨシさんに同盟の報酬を渡した後で、頭を撫でられて目を細めている様は完全にただの少女である。
 そして最後の一人、セレーネさんにも砲撃スコアの「とある報酬」を渡したところで――

「居た! このような場所に……! 見つけましたよ、魔王様!」
「あっ、サマエル!?」

 目を閉じた美丈夫の青年魔族、サマエルが魔王ちゃんと同じように出現。
 驚いた拍子に魔王ちゃんの声にかかっていた謎エコーが消える。

「魔の総代たる御方が、そう易々と姿をお晒しになってはいけませんとあれほど……! 威厳はどうなさったのです、威厳は! 王としての格が落ちますぞ!」
「だ、だって、我は来訪者達に会ってみたくて……」
「ならばもう満足でしょう!? さあ、帰りますよ魔王さ――」
「う、うう……うるさいうるさい! さ、さらばだ来訪者どもよ!」
「あっ!?」

 魔王ちゃんは悪戯がバレた子供そのものの反応で逃げ出すと、サマエルが止める間もなく転移魔法であっという間に去って行った。

「お、お待ちを! 魔王様ぁ!」

 魔王ちゃんの後を追って、転移魔法でサマエルも消えていく。
 残された俺達は激しい状況の変化に付いていけず、広間は暫くの間ざわついたままとなった。
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