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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
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ノトス海岸と水着と褌

 『港町ノトス』の少し先にある、安全エリアの『ノトス海岸』。

 プレイヤーの姿はというと、釣りをしているのが数人だけ。

 キツネさんの話によると、安全エリアの端っこの方にプレイヤーがほとんど居ない一画があるのだそうだ。

 八人で来るはずが、男女合わせて数十人に膨れ上がった面子と共に俺達はビーチに向かった。

 女子はゲームの『水着』に万が一の不備がないか確かめてから来るということで、先に男達だけでの到着となっている。


「色々あったようでござるが、結果的に女子が増えて拙者は幸せ! 代わりに野郎も増えたでござるけど」

「お前って奴は……あんまり素直過ぎるのも人としてどうかと思うぞ?」


 キツネさんが急遽声を掛けたにしては、“凜”と“匠”のメンバーの集まりは良かった。

 さすがに若いメンバーが中心で、ある程度落ち着いた年齢の人は数人しか居ないが。


「それよりも、俺は後ろの人達の格好が気になって仕方ないんだが」

「釣りをしていたプレイヤーに二度見されたでござるからな……拙者、忍者も和装も好きでござるけど、あれはちょっと」

「何を言う! 和装で海と言ったらこれだろう! だっはっはっは!」


 ユキモリさんが呵々と笑う。

 そんな彼を含め、彼ら和風ギルドの水着(?)は『ふんどし』だった。

 それらを引き連れて歩くのは、実に恥ずかしい上に絵面的にも暑苦しい。

 誰もおかしいと思わなかったのだろうか? みんなでやれば大丈夫、という集団心理は時に恐ろしい。

 緑の透き通る海に、輝く白い砂浜……トビじゃないが、そんな場所に居るのが男だけという今の状況は味気ないな。


「渡り鳥の! あんたら最高だぜ! 夏を先取りして女性陣の水着姿が拝めるとは……!」

「しかもあの勇者ちゃんのだぞ!? 他のメンバーも可愛い子が沢山居たしな!」


 ユキモリさんを中心に、彼が率いる前衛組は比率的若い男性が多い。

 ゲームもやるけど現実ではスポーツをやってるぜ! という感じのガタイのいい人が多く、それがまた暑苦しさに拍車をかけている。

 口々に目当ての子の水着姿が楽しみだと囃し立てているのを聞いて、発起人であるトビが偉そうに「うむ」と頷く。


「いやいや、“凜”の女性陣もレベルが高いでござろう? こうなれば我らの意志は一つ! 今日は節度を弁えつつ、存分に目の保養を楽しもうぞ!」

「「「おおー!」」」


 この年代の男が集まると、どこだろうと似たような雰囲気になるな。

 高校の体育祭の時の男子連中がこんな感じだったはず。

 女子の誰それの体操服姿がどうとかで。


「本体さん、渡り鳥の女子の水着はどういうのにしたんです? 本体さんが作ってたってキツネ姉さんから聞きました!」

「あ、いや、何も今ここで説明を求めなくても。そういうのは見てのお楽しみで良いんじゃないかな?」


 そばかすがチャームポイントの短髪の少年がワクワクしたような目で俺に話しかけてくる。

 俺は急遽木の骨組みと明るい色の布とで自作したパラソルを立てつつ、今の内に飲み物も用意した方が良いか? などと考えながら適当に答えた。

 すると彼は「それだけ凄いんすね!? 楽しみっす!」と勝手に納得して仲間達の元へ戻っていった。

 みんな浮ついてんなぁ……あ、どうせなら砂浜でビーチバレーとかどうだろう?

 確か前にエルフ耳と一緒に作ったゴムボールがインベントリに入れっぱなしだった気がする。

 ごそごそと持ち込んだパラソルの下でポーチを漁っていると――


「やっほー、待ったぁ? ――って、うわっ! アハハハハハ! ウチの男連中、本当にふんどし着けてる! バッカじゃないの!?」

「んだとキツネこらぁ!」


 キツネさんの賑やかな声の少し後に、男性陣から「おおっ!」という声が上がった。

 それの視線を向けると、白い砂浜に負けない光を反射する肌色が目に飛び込んでくる。

 キツネさんを先頭に、全員普通の水着を身に着けた女性陣がぞろぞろと砂浜に到着。

 そのまま互いの格好を見てやいのやいの言い出したので、何となく乗り遅れてしまった俺はパラソルの下で腰を下ろした。

 すると、キツネさんが雑談の輪の間を縫うようにしてこちらに近付いてくる。


「おっ、本体君さっすがぁ。パラソルなんか用意してくれたんだ? こういうのあると雰囲気出るよねぇ」

「別に日焼けはしませんけどね。しかし、やっぱ面は外さないんですか。ビキニの上下に狐の面ってすげえシュールですよね」

「現実でこんなの居たら引くよねー。ま、ゲーム内なんだし気にしないでよ」


 彼女のスタイルは非常に女性的で綺麗だった。

 ユーミルほど凹凸が派手ではないが、均整が取れていて過不足が無い感じ。

 もしかしたらモデルとかなのかもしれないが……顔も隠しているし、余計な詮索は止めておこうか。


「なんか、面をしてるとはいえ私に対して全然無反応だねぇ、本体君。自信無くしちゃう。やっぱりアレを見慣れているからなの?」

「アレ?」


 無反応ではなく、表情に出さないように努めているだけなんだけど……。

 キツネさんが指差した先では、手を振りながらこちらに走って来る褐色銀髪の女の姿が。

 あ、暴れている……何がとは言わないけど、走るのに合わせて上下左右に暴れている!


「ハインドー! どうだ、似合うか!?」

「あ、ああ。似合ってる……ぞ?」

「そうか! お前が言うなら安心だ!」


 想像以上に破壊力抜群だ。

 直視が辛く、俺は置いてあったボールを手渡して照れているのを誤魔化した。


「ほら、ボールやるからみんなでビーチバレーでもやってこい」

「おっ、それは良いな! なら先に行くが、ハインドも必ず来るのだぞ!」


 そう言い残すと、ユーミルは待っていたリコリスちゃんとサイネリアちゃんに合流して走って行った。

 どうやらリコリスちゃんがタンキニ、サイネリアちゃんが競泳水着になったようだ。

 遠目だが、どちらもよく似合っている。

 ふんどしの男達の集団はその後ろを一定距離を保って付いていく。

 正直、その動きは傍から見ていてとても気持ち悪い。


「すっごいよねぇ……っすら筋肉質で引き締まってるのに、女性的な柔らかさがちゃーんと同居してる。卑怯だね、卑怯。ボンキュッボンってやつ? ズルいっ!」

「全くです。そういうキツネさんも、私から見れば敵でしかありませんが」

「ほえ? おっ! 誰かと思えば魔女っ娘ちゃんじゃない! 水着もカワイイー!」


 白に近いフリルワンピースの水着を身に着けたリィズが、ぼやきながら俺の隣に座る。

 ユーミルほどじゃないけど、リィズと一緒にいくつかの視線が飛んできているのを感じるが……あっ、目を逸らした。

 リィズに続き、セレーネさんとシエスタちゃんも騒がしさを避けるようにパラソルの下にやってくる。


「よお、インドア組」

「先輩も人の事を言えないと思いますけど。遠くからだと、荷物番してるお父さんみたいですよ?」


 俺の言葉にこう返したシエスタちゃんの格好はスクール水着だ。

 こちらも一部分の膨らみがエライことになっているが。

 リィズがちらりと見て、即座に苦虫を噛み潰したような顔になる。


「そうは言うけどね。君は積極的に砂浜を駆けまわる俺の姿を見たらどう思う?」

「熱でもあるのかなって思います」

「だろう? ってか、デフォルトで俺に対して失礼だよね。シエスタちゃんは」

「お、またカワイイ子が増えた! よろしく、ねむ子ちゃん!」

「うぃっすー、ねむ子です。眠いんで膝貸してください、お面のお姉さん」

「おお? 物怖じしない子だねー。こりゃ大物だ!」


 本当に適応力高いな……。

 キツネさんの変な呼び方を気にも留めず、シエスタちゃんはそのまま膝を借りて眠り始めた。

 俺はインベントリから事前に用意しておいたグラスとオレンジジュースが入った容器を取り出し、注いでその場のメンバーに配っていく。

 氷はベリ連邦産、取引掲示板で買ったものだ。

 入れた瞬間に時間が止まるインベントリは、こういう時に本当に便利である。

 現実にあったら是非とも欲しい道具の一つだ。


「ありがと、本体君。気が利くなぁー。ウチの男共とは大違い!」

「ありがとう、ハインド君。水着もありがとうね。リィズちゃんにはさっきお礼を言ったんだけど、これなら私でも恥ずかしくないよ。麦わら帽子も良い感じ」


 セレーネさんはスカート型のワンピース水着で、帽子も相まって清楚なお嬢様っぽい仕上がりになっている。

 思った通りに良く似合い、且つ彼女の魅力を引き出している。


「むむ……そんなあなたは年齢的に私に近い感じがするわ、眼鏡ちゃん!」

「え? えと、あの」

「ああ、良い良い答えなくて! 勝手にそう思っただけだから! それよりも、その水着素敵ね。どこで――って、本体君と魔女っ娘ちゃんに決まってるか! あっはっはっは! 作るところ見てたのにねー。あ、そうそうところでさ! 折角の美人なんだから、水着に合わせて眼鏡を変えてみない? そしたらもっと――」


 そして俺が礼に応える前に、即座にセレーネさんに絡んでいくキツネさん。

 質問の嵐にリィズがフォローに入ってキツネさんを引き剥がし、砂浜に放り投げてお説教を始めた。

 一応正座して聞いているけれど、面のせいで反省しているんだかどうなんだか分からねえな……。

 解放されたセレーネさんがほっと息を吐き、俺に小さな声で囁いてくる。


「きょ、強烈な人だね……」

「ですね。ああまで相手によって態度を変えない姿勢は、ある意味尊敬しますけど」


 そしてキツネさんが立ち上がった際に膝から落っこちたシエスタちゃんだが、気が付くと俺の膝の上を占領していた。

 あれ、いつの間に!?

 こっちはこっちで、普段通り過ぎて何のために水着に着替えて海に来たんだか分からんな……。

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