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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

アイテムコンテストとギルドの発展

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熱暴走とオークション

「ちわー……あれ? セレーネさんだけですか?」
「――あっ、は、ハインド君! ここ、こんばんは!」
「こんばんは」

 談話室に入ると、セレーネさんがメニュー画面を開いてオークションの商品を眺めていた。
 こちらを見るなり、今度は落ち着かない様子で視線を彷徨わせているが。
 俺はそれを見て定番となったハーブティーを二人分淹れると、テーブルに置きつつセレーネさんの向かいに座る。
 セレーネさんは俺が目の前に座ると、ビクッと肩を震わせて下を向く。
 これ、後になって自分がしたことが恥ずかしくなっているパターン……か?

「あ、あり、ありがとう!」
「セレーネさん、固いですよ。原因になってる俺が言うのもなんですけど――」
「う、うん」
「身が持ちませんから、もうちょっとリラックスしましょう。深呼吸深呼吸」

 すーはー、すーはーと、俺の言葉に素直に従うセレーネさん。
 それからハーブティーを一口飲んだら少しは落ち着いたようだったのだが、今度は少し拗ねたような悲しそうな目で俺を見てくる。
 不覚にも、そのふくれっ面が可愛らしくてときめいた。ただし顔には出さない。

「……ハインド君の方は、あまり態度が変わらないんだね」
「はい? ……ああ、そういう」

 つまり彼女はこう言いたいわけだ。
 自分はこんなにも動揺しているのに、貴方にとっては一昨日のことは取るに足らない出来事だったのか? という……。
 言わなきゃ駄目かな? 恥ずかしいんだけどな。
 しかしセレーネさんは、こうして痛く傷ついたような悲しそうな顔をしているし……仕方ない。

「ええとですね、これは照れ隠しです。俺なりの」
「……どういうこと?」
「表面上、平静を装っているだけです。内心はセレーネさんとそう変わらないと思います。顔は熱いですし、今にも心臓が飛び出そうですよ」
「……そうは見えないけど……」

 嘘は一切言っていないのだが。
 もっと内心を晒していかないと信じてもらえそうもないな……。
 俺は頭を掻くと、昨夜の自分の恥ずかしい状態を打ち明けることにした。

「本当です。一昨日はログアウトした後はにやけっぱなしでしたし、好きだって言われたあの場面が何度も繰り返し脳内で再生されて、目が冴えて中々眠れませんでした。前に頬に、その……された時と同じです。お陰様で昨日はバイトに遅刻しそうになりました」
「えっ? そ、それって――」
「――だって、こんなに美人で知的なお姉さんに告白されたんですよ!? 恋人同士になったわけじゃないとはいえ、嬉しくない男が居るわけがないでしょう! そんなもん、男の形をした案山子か何かですって!」
「あ、うぅぅ……」

 もはや中途からは半ばヤケである。
 言わなくても良いことまで言っている気がしたが、熱を伴って勢いのついた思考は止まらない止まれない。

「大体なんですか!? 野暮ったい眼鏡とボサボサ髪なんかじゃ隠しきれてないんですよ! 目はクリッとしているし小顔だし、肌は綺麗だし近付くと良い香りがするし! 知識も広いし、つまんない話でもちゃんと聞いてくれるし優しいし! 今日のログイン前にもですね、かなりの時間を心の準備に費やして――」
「は、ハインド君、分かった……分かったから、もう……ぐすっ……」
「――はっ!?」

 気が付くとセレーネさんは全身から湯気が出そうなほど赤くなり、潤んだ目でこちらを見つめていた。
 かっ……完全にやらかした……。



「疑ってごめんなさい……嬉しかったけど、びっくりしちゃって涙が」
「出来れば俺の痩せ我慢に関しても、もっと早い段階で気付いて欲しかったです」
「うん、ごめん……」

 不幸な行き違いがあったが、どうにか納得してもらえた。
 決してセレーネさんの告白を軽く受け止めていたのではなく、極力普段通りにふるまった方が今後のために良いかと思っただけなのだ。
 結果、このような事態を招いてしまったわけだが。
 何を言ったかほとんど覚えていないが、今さっきの自分、かなり気色悪いことになっていたのでは……?

「とにかく、俺が言いたいのはですね――」
「大丈夫……今はもう、ちゃんと分かってる。相手の想いに応えられないから……ううん、違うね。応えることを私達が封じてるから、なるべく表面に出さないのはハインド君なりの誠意なんだね」
「……」

 俺はその言葉に対して、肯定も否定もしなかった。
 これに関しては、とても誠意と呼んでいい行為とは思えなかったから。
 だがセレーネさんは何かに納得したような微笑みを浮かべ、俺に向かって頷いてみせた。
 その後は以前までと同じような――しかし少しだけ近付いた距離感で、他のメンバーが来るまでオークションに関する雑談を行った。



 それから10分ほど経ったころ、扉が無遠慮かつ勢いよく開かれる。

「私、参上!」
「おー、来たか。これで今日は全員かな」
「こんばんは、ユーミルさん」

 不可解なポーズを決めつつ、ユーミルが部屋に入った位置で静止していた。
 これでこの場にはセレーネさんと俺、今来たユーミルの三人だ。

「む? ヒナ鳥どもは?」
「明日遠足なんだってよ。朝早いから今日は来ないって」
「リィズは?」
「この前の模試の結果が戻ってきて、一問だけ外してたらしくてさ……おっかない顔で部屋にこもって復習中」
「復讐……ではなく復習か、なるほど。一問だけということは、他の部分は?」
「満点」
「けっ」

 訊くのではなかった、と言わんばかりのユーミルの態度である。
 そしてキョロキョロと部屋を見回すと、まだ訊いていない最後の一人について口にした。

「では、トビは?」
「ああ、あいつなら……」

 ユーミルの言葉に、俺は天井に向かって拳を構えて飛び上がった。
 すると拳が当たった天井部分がめくれ上がり、そのままクルリと一回転して黒い物体を吐き出して元に戻る。
 俺が着地した直ぐ後に、殺虫剤をかけられた虫のような姿勢でそいつは「ぐえっ!」と呻きつつ床に落ちた。

「ここに居るぞ!」
「気付いてたんなら普通に呼びかけてよ!」
「天井からアイコンが飛び出してたもんね……あれは駄目だよ」
「セレーネ殿も気付いてたの!? そして意外な欠点!」
「そんなもの、オプションで非表示にすればいいではないか。馬鹿め」
「ユーミル殿にまで!? ぐおお……」

 自分と同レベルの知能だと思っていたユーミルの言葉に、トビは撃沈した。
 こいつが天井で待機し始めたのは、大体ユーミルが来る3分ほど前だろうか?
 気付いたのは直ぐだったのだが、余りにもお粗末な隠れ方に意図を読み切れずに放っておいた。
 まさか真面目に隠れているつもりだったとは。
 こんなんじゃ、とても忍者とは呼べないな……。

 そしていよいよオークション入札締め切り間近。
 苦無セットに関しては開始価格1万G、即決価格を70万Gに設定していたのだが……。
 昨日の内に即決価格で売れていたらしく、落札者は驚くことに『マサムネ』となっていた。
 コンテスト武器部門で2位になった和風鍛冶師である。

「トビ、良い機会だから連絡取れそうなら取ってみろよ。もしかしたら反応があるかもしれないぜ」
「メールの受付設定次第でござろうが……やってみるでござるよ」
「やっぱり、和風の物には目がないんだね」
「あの刀も大層な業物だったし、どんなプレイヤーなのだろうな?」

 セレーネさんは和風の物はやや苦手だそうなので、トビの装備は未だに取引掲示板から買っている形だ。
 俺も交えて練習中ではあるが、セレーネさん作の他の装備に比べればやはり劣る。
 ギルドの戦力アップのことを考えると、トビの装備をマサムネに依頼することができれば最高だろう。

 それからは各々自分が興味のある物に適当に入札。
 今居るメンバーで出品しているのは唯一、俺の『エイシカドレス』だけだったのだが……。
 オークション終了直前、俺達はその入札画面に釘付けになっていた。

「け、桁がおかしくないか? ハインド……」
「七桁だな。入札者数も三桁……マジかよ」
「魔導士と神官に大人気でござるな。確か強力な魔力上昇効果があるのでござるよな?」
「10%だったよね? 防具の補助効果としては破格だもんね」
「どっちかっていうと生地が凄いんだけどな。エイシカクロスが。その素材が高いらしいんで、即決無しの開始価格50万にしたんだけど……」

 既に10倍の500万を超え、尚も上昇中である。
 ちなみにプレイヤーの平均所持金額だが、噂では100万~200万の間だと言われている。
 つまりここで落札を争っている魔導士・神官連中は、少しでも高い魔力を求める上位プレイヤーということになるだろう。
 そして終了の10秒前……2000万Gという目玉が飛び出しそうになる価格でドレスに入札した猛者が出現。
 慌てて名前を確認するとそこには『ヘルシャフト』と表示されており――

「「「お前が買うんかい!?」」」

 セレーネさんを除いた俺達三人が叫ぶのだった。
 当然ながら、直前まで600万付近で繰り返されていた入札は止まり……そのままヘルシャが圧倒的な財力をもってエイシカドレスを落札していった。
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