不死身対不動の戦い
「不死身対不動……? なんだ、それは」
ログアウト後。
自室のベッドでごろ寝をしていると……秀平から連絡がきた。
PC越しの通話を要求されたので、今は机の前に座っている。
あんな長期戦の後だっていうのに、元気なやつだな。
もちろん話の内容はゲームに関すること。
ゲームに対するスタミナだけは無尽蔵、そんな秀平である。
『これを見ればわかるさ! 見るんだ! 見ろぉぉぉ!』
叫ぶな。ヘッドセット越しでも耳にキンキンくる。
未祐もそうなのだが、人の鼓膜をなんだと思っているんだ。
耐久テストでもされている気分になる。
ヘッドセットを外して音声出力をスピーカーに、入力はマイクに切り替える。
そうしている間に、画面には謎のURLが表示された。
なんか見覚えあるな……。
おそらく掲示板のアドレスだと思うのだが。
一応スキャンとか詳細チェックとかしてから接続しよう。
『ほら、はよ! はよぉぉぉ!』
「うるさいな……」
こいつ前にホラー画像を間違えて送りつけてきやがったからな。
大昔のブラクラかと。
チキンハートな人間になんてものを送りつけるんだ! と、キレた記憶がある。
……。
よし、このリンクは大丈夫そうだ。接続してみる。
686:名無しの魔導士 ID:E5rGxkg
もう終わりだねこの試合
687:名無しの騎士 ID:yA2YdFt
ねこの試合?
688:名無しの騎士 ID:E96zMj7
にゃーん
689:名無しの弓術士 ID:umitUKh
ずいぶんでけえ猫だな
690:名無しの魔導士 ID:E5rGxkg
もう終わりだね、この試合
691:名無しの重戦士 ID:593F3PR
律儀
692:名無しの神官 ID:Ve2VM7U
わざわざ訂正して再カキコするのか
693:名無しの軽戦士 ID:Wmhpz9B
まあ、普通は残りふたりなら負けだわね
694:名無しの重戦士 ID:EswmscF
フィリアちゃんつえええええ!!
一瞬で2撃破!
695:名無しの重戦士 ID:rntYsw9
三半規管弱いから羨ましいわ
あの扇風機
696:名無しの武闘家 ID:eZemn93
扇風機っていうか独楽だと思うけど、
言わんとしていることはわかる
あれは人によっては酔う
697:名無しの騎士 ID:3dCYYc2
あんま使ってる人いないのよな、トルネードスイング
698:名無しの重戦士 ID:uCedzjN
当たらんしなぁ、普通はあんなに
699:名無しの武闘家 ID:AmVjcy6
程々の使用MPに対してフルヒット火力がロマン
なお
701:名無しの重戦士 ID:VYWhaNB
(敵の目前で空転する音)
702:名無しの騎士 ID:MdgsGXD
ぶおんぶおん
703:名無しの弓術士 ID:aF7aiRh
大剣とか槍だと見た目もびみょい
斧とかハンマーが似合う技
704:名無しの魔導士 ID:egfU6WV
ありゃ、降参せんのかな?
このまま続けちゃう?
705:名無しの魔導士 ID:Pnpyrz8
いやー、こっから粘っちゃうのが不死身マンだから
706:名無しの魔導士 ID:jf9wWgM
粘る(勝てるとは言っていない)
707:名無しの神官 ID:Zuuj48A
観客もそれを期待しているところあるし
最後までやるでしょ
708:名無しの軽戦士 ID:Cn6hdMk
身内戦も甚だしいな、この試合
傭兵混ざっているとはいえ
ほとんどサーラの内紛
709:名無しの重戦士 ID:rntYsw9
割と試合中に喋っているもんな
中継だとほとんど聞き取れないけど
710:名無しの神官 ID:daBFKAg
あ
711:名無しの武闘家 ID:cGDCWsd
あっ
712:名無しの騎士 ID:W9dNmad
なんか、スピーナがなんかすごい動きした
なんかめっちゃ速かった、手足もなんか長い
713:名無しの魔導士 ID:zwg7FSk
語彙力ぅ!
714:名無しの軽戦士 ID:UNffTyg
そしてドMの蘇生が通っていくのであった
715:名無しの重戦士 ID:SGMFN2Q
あぁ泥仕合
716:名無しの騎士 ID:HCuYEy6
ハインドの全体回復も通ってる
これは長い試合になりそう
717:名無しの神官 ID:ejzDt8L
あの継承スキル俺もほしい
718:名無しの神官 ID:py6ezy6
わかる、すごい回復量
でも次のレベル開放で、
あのくらいの回復スキルは出る気がするんだよな
719:名無しの魔導士 ID:2VFRg6e
しかしハインド全く動じないな
フィリアが助けに来るってわかってた?
720:名無しの武闘家 ID:cGDCWsd
スピーナの攻撃にぴくりともせんかったね
中々できることじゃないよ
721:名無しの弓術士 ID:NgLJxcD
不死身に対抗して不動の称号を勝手に授けよう
722:名無しの弓術士 ID:WiBeayK
勝手に戦え!
723:名無しの魔導士 ID:nhar9Fj
いや、あのこれ……
動かなかったんじゃなくて動けなかっただけでは?
724:名無しの重戦士 ID:pMUGrfF
まさかぁ
ここまでトナメ三冠の男が?
この土壇場で?
725:名無しの騎士 ID:pn8dD3e
あえて動かなかったに決まってらぁ!
726:名無しの武闘家 ID:cGDCWsd
あえてならめちゃカッコイイ
フィリアを信じてたってことじゃん
727:名無しの神官 ID:jyRxcZ8
これまでのハインドを考えると
五分五分な気がする……
728:名無しの神官 ID:jYjNguH
俺はハインドを信じるぜ!
これはあえての静止! 間違いない!
『さあ! このスレを読んだ時の俺の状態を推察せよ!』
秀平はある程度こちらが読むのを待つと、問題を出してきた。
音声のみでカメラは接続していないが、秀平のにやけ面が見えるようだ。
「……実態とかけ離れた称号に大笑い」
『ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃぁっ! あっひゃあ!』
「再現せんでよろしい」
『はい』
正解だったようだが、ちっともうれしくない。
大笑いの尾を引いたまま、秀平が連絡を寄越してきたのは想像に難くない。
うるさかったし。うざかったし。
『数人だけ真実に到達しているのもポイント高いよね。めっちゃ笑ったわ』
「この野郎」
どうせなら笑いすぎて、お母さんなりお姉さんなりに叱られればいいのに。
そうだよ、本当は動けなかっただけだよ。
悪いか? ……悪いな。
まるで反応できていなかったのは問題だ。
さっきの試合、フィリアちゃんに守ってもらえなかったら普通に戦闘不能になっていたと思う。
『でもさ、わっち。実際この状態ってあんまよくないよ』
「そうだな。それが本題か?」
その意見自体には否やはないが。
秀平はなにを伝えたいのだろう?
俺の反応が正直、鋭くない――はっきりいうなら、鈍いのは今にはじまったことではない。
『未祐っちとか小春ちゃんの状態ばっか気にしていたけどさ。肝心要のわっちが一番不調と見たねー、俺は。やっぱ――』
「ちょっと待ってくれ」
『ん?』
廊下から、ふらつくような足音が聞こえてくる。
酔っ払いの足音みたいだが、これは……電池切れ寸前の未祐だな。
あいつは体力ギリギリまで活動する子どものような生態をしているため、あんな感じになるのも珍しくない。
そして廊下に出ると、案の定。
いつも泊まっている部屋で扉を開けたまま寝ていたので、入って布団をしっかりかけてやり、ドアを静かに閉めてからPCの前に戻ってくる。
「で、なんだっけ?」
『だからぁ』
「っと、タイム」
ささやかなノックの音がしたので、時計を確認。
返事をしつつ椅子から立つ。
そうか、いつもの……理世の就寝の時間だな。
ドアを開けて二、三、言葉を交わし、顔色が悪くないのを確認してから部屋まで送り届ける。
同じ家の同じ階なので、当然ながら数歩の距離なわけだが……。
これをやると理世が喜ぶので、よほど時間が合わないときや普段と違う行動を取っているとき以外では、習慣になっている。
「すまんすまん。それで?」
『はぁぁぁー……それだよ、それ!』
「どれだよ?」
二度の中座を経たせいで、話の筋を忘れてしまいそうである。
俺の状態がよくないとかなんとかって話だったか?
『周りばっかり気遣いすぎ! 未祐っちと理世っちでしょ、今の! 絶対疲れているって、わっち!』
「そうか?」
『もっと自分を優先して!』
いくら元から鈍くたって、あそこで一切動けないのは、らしくない。
そのように秀平は続けた。
しかし、そう言われてもな……疲労の自覚症状なんてないし。
「具体的には、どう――」
『知らない!』
「おい」
具体策なしかい。
呆れつつ、デスク上に置いてあるカップの水を一口。
ついつい溜息、そしてデスクチェアに身を沈め……うぅむ。
言われてみれば、少し体が重いか?
さっきも秀平から連絡がくるまで、ベッドの上で横になっていたし。
『わっちなら、自分で自分の調子を上向かせられんじゃない? 調子よくない自覚さえあればさ。気遣いの鬼であると同時に、自己管理の鬼なんだし!』
「……」
気遣いは――まあ、置くとして。
自己管理の良し悪しはわからないが。
確かに、同年代の平均よりも気持ちの立て直しは上手いほうだと思う。
中学時代に色々試した経験を持っているので。
落ち込んだり自棄になりかけたり、なんやかんやあったものの。
今はこうして元気に過ごしている。
それを思い出しつつ、秀平に返事をする。
「……わかった。なんとかしてみる」
『おっ!』
秀平から明るい声が返ってきた。
パンと手を叩く音も聞こえてくる。
それから欠伸と、うーんだの、うおーだのと体を伸ばすような声が。
『――おー、安心した! これで安眠できるわ! ってことで、おやすみー』
「お前、言うだけ言って……あっ、切りやがった」
そっちこそ、このところ勝ちにこだわりすぎて視野狭窄に陥っているぞ。
そんな趣旨のことを伝えるつもりだったのだが……。
なんだか最後のほうの声色を聞く限り、もう大丈夫そうな気がする。
いつもの「楽しさ」最優先でゲームをする秀平に戻っていた。
「……」
俺も寝るとするか。
今から具体案を考えても、それこそ疲労で、いいものが浮かぶ気がしない。
細かいことは起きてから考えよう。
一階の火の元・消灯を確認に向かい、家全体の戸締りも再確認してから布団に入る。
明日からはグループ戦・トーナメントの中盤戦がはじまる。
秀平に倣い、楽しみ七割、不安は三割程度に抑え、すぐ眠りに就くことができた。




