初日の攻防 その9
武闘家・気功型という職業だが。
スキルビルドの傾向として、大きくふたつのパターンがある。
ひとつはワルターのような防御貫通スキルを主軸に、ベーシックな前衛アタッカーとなるスキル構成。
特に物理防御力が高い重戦士に刺さるが、基礎攻撃力も一定水準以上にあるので、他の職業相手も苦手としていない。
弱点は軽戦士に次ぐ、打たれ弱さくらいだろうか?
自己回復スキルはツリーの根元にあるので、どの方向に枝を伸ばそうと無理なく習得できるものの。
そもそも武闘家は装備可能な防具の制限が多く、高いHPを活かすことが難しい。
しかしながら、それを覆すのがもう一方のスキルビルド。
「鋼体!」
眼前に立ち塞がるスピーナさんのような、耐久スキルを中心に習得するルートが存在している。
スキル『鋼体』は超短時間だが、爆発的に物理・魔法防御両方を上昇させる効果を持つ。
ただし騎士・防御型のカウンタースキルほどシビアではないものの、有効に働かせるのは難しめ。
相手が見てからスキル発動をやめれば、『鋼体』を使った側だけMPを損することになる。
引きつけてから使用しなければならない点は変わらない。
現に、対峙するフィリアちゃんはスキル発動をやめて通常攻撃に転じている。
腕で斧を受けたとは思えない、硬質な音が舞台上に大きく響く。
「鋼体!」
二度目の発動。『鋼体』は再発動までの時間が短いので、連発可能だ。
続けての発動はないだろうと読んだ、フィリアちゃんの『ヘビースラッシュ』が極小ダメージに終わる。
今度はスピーナさん、斧を肩で受けた。またも先程と似たような衝突音が聞こえる。
『鋼体』『ヘビースラッシュ』どちらも初級スキルだが、消費MPには実に四倍の開きがある。
もちろん消費が多いのはフィリアちゃんのほう。
「鋼体ぃぃぃ!」
「しつこい……!」
そして三度目に放った『スラッシュ』も小ダメージに終わる。
この辺りは前衛上級者同士の読み合いで、俺の理解が及ばない部分も多いのだが。
スピーナさんの読みが恐ろしく鋭い、ということだけは伝わってくる。
ポーカーフェイスなフィリアちゃんの動きを予測するのは難しいだろうに。
どうしてああも的確に攻撃を防げるのだろうか?
額で斧を受けるのはどうかと思うが。
現実だったら確実に頭が割れている。
「……」
一連の攻防でMPを失ったフィリアちゃんに『エントラスト』を送るかどうか迷う。
彼女なら、潤沢なMPがあればスピーナさんを倒せてしまいそうな気もするが……どうだろう。
今、回復役である自分のMPを空にするのはハイリスクだろうか?
というのも、レブチアを倒しに向かったふたり。
トビとリィズのほうの戦況が芳しくない。
「はいっ! はいっ! はいぃぃぃぃ!」
独特の掛け声と共に逃げながら、魔法を詠唱するレブチア。
意外なすばしっこさとこちら側のMP切れが相まって、中々捉まえきれない。
リィズがMPチャージをして『グラビティ』なり『ダークネスボール』なり撃てばいいかと思いきや、チャージに入るとしっかり『シャイニング』と継承スキル『セイクリッド・スピア』という攻撃魔法で妨害してくる。
――右下にあるバトルログで名前が判明したこのスキル。
光の槍を生成するというもので。
こいつが設置・射出・遅延発動に滞空まで可能と随分な高性能。
敵に向けて飛ばすに留まらず地面から生やしたり、手に持って投げてきたりとやりたい放題である。
どうも、カクタケアが総力を挙げて取得したスキルがこれな気がする。
スキルの使用間隔も短い。多分だがMP消費量も低い。
おそらくかなりレアな等級の継承スキルだろう。
「は、ハインド殿ぉ! やばいかも!」
ついでに攻撃力もそれなりにある。
TB全体で見ると並程度の威力だが、支援型の神官が持つスキルとしては最上級の攻撃力。
そしてそのくらい攻撃力があれば、トビのような軽戦士は普通につらい。
初見の技なので全てを見切って躱すのも難しい。
蘇生・回復阻止に追いかけ回しているうちに、HPがじりじりと減ってしまったようだ。
「ぜぇ、ぜぇ……」
そしてまずい、リィズの息が上がっている。
MPチャージ中断、即座に詠唱に入る。
判断が遅かった気もするが、敵は残りふたり。
ここは落ち着いて――
「うらっしゃらあああああっ!!」
――目の前に拳が!?
杖で防ぐ、一歩下がる、味方に助けを求める。
どれかをしてもよかったはずなのに、反応が遅れてなにもできない。
詠唱が止まる、そう覚悟したときだった。
「っ」
今度は鉄の壁だ。
鉄の壁が目の前にある。
――フィリアちゃんの斧が拳を防いでくれた、と認識するまでに数秒を要した。
以前もこんなことがあったような気がするが……それだけフィリアちゃんの護衛が優秀なのだろう。
ともかく。
結果として詠唱は止まらずダメージは受けず。
尻もちをつくような情けないことにもならずに済んだ。
フィリアちゃんがそのまま、スピーナさんともつれあうような乱戦に入り……俺は十分な猶予をもらう。
そして発動するのは『ルクス・オブ・サーラ』。
味方全員の傷が癒え、長時間の防御系バフが付与される。
数的有利を保ったまま、再び万全の状態へ。
「やっぱずるいじゃん! そのスキル!」
「いえいえ、あの光の槍も大概……って、なに蘇生成功させてんですか!」
「おっ?」
おっ? じゃないよ。
なんとこの人、フィリアちゃんを振り切り、トビとリィズを転倒・大ノックバックさせてから俺のほうへ向かってきていた。
スピーナさん……大した無双っぷりである。
当然、レブチアはフリーだ。
フリーで悠々蘇生を成功させている。
蘇生対象は前衛・重戦士のマツカナくんを選択した模様。
「すみません、ハインドさん」
「面目ないでござる……」
「謝らないでくれ。俺の指揮が悪い」
トビ、リィズがこちらに合流。
指揮がというか、有効な指示をひとつも出せなかったというか。
完全に状況とスピーナさんに翻弄されていた。
四対二にできた時点で勝ちを確信してしまったからな……これは大いに反省すべきところだろう。
もちろんスピーナさん相手でなければ、普通は勝敗が決まってくる人数差なのだが。
「こりゃ、急戦は無理だ。腰を据えてしっかり叩くぞ」
――ほどよく両チームの距離が空いたので、素早く指示を出す。
今度はなるべく上手くやらねば。勝たないと。
ここから逆転負けして五対五まで進む事態は避けたい。
きっちり最後まで詰めて勝つ。
「スピーナさんたちの持久戦に付き合ってやろうじゃないか。ただし」
「……四人目の蘇生は絶対阻止?」
俺の言葉を引き取るようにフィリアちゃんが続ける。
平坦な声色ながら、若干の疲労が窺えた。
少し呼吸を整える時間が必要かもしれない。
「もちろん。ピコさんにはあのまま寝ていてもらう」
一応の確認だが、神官・支援型以外の職業が味方を蘇生させることはできない。
基本的には。
継承スキルになら存在する可能性はあるが、ノーリスクやノータイムということはないはず。
つまりなんらかの予兆か多大なデメリットがあるはずなので、ひとまずレブチアの動向に目を光らせておけばいい。
蘇生猶予時間もそろそろ切れるし、『リヴァイブ』の再使用時間を考えると、ピコさんの蘇生は無理筋ではあるが。
……それでも油断せずに、トビを相性よさげなスピーナさんに。
フィリアちゃんを復活したマツカナくんに当たらせつつ。
リィズがレブチアさんを妨害で、俺は全体のフォロー。
そして最悪、タイムアップでの勝ちも視野に入れる。
小声での相談を終えると、全員から了承の声が上がった。
「おー、すげえすげえ。そうやってペースの切り替えができるチームって、高ランク帯でも稀じゃんね。やっぱお前ら、トップクラスだよ」
なにを相談しているかわからずとも、ペースダウンは明白。
それを読み取ってのスピーナさんの発言。
彼の後ろでは、起き上がったマツカナくんがふらふらとした歩みで合流している。
そう、普通は蘇生直後ってああなんだ。ユーミルとか一部の前衛が異常なだけ。
「そのまま焦って向かってきてくれれば、こっちも楽だったのによぅ」
「言っている場合っすか、親分……うおぉ、くらくらする。またフィリアちゃんとタイマンにされたら負けるからね、俺。次はフォローしてよね」
「あとでピコさんに叱られそうですね、この展開」
ニコニコと、レブチアさんもマツカナくんに続いてスピーナさんの後ろへ。
頼りにしているようにも、盾にしているようにも見えるのが不思議だ。
ピコさんのギリギリを狙う遠慮なしな弓捌きもそうだったが、普通のギルドとは違う変わった仲間意識だ。
しかしながら、仲良し度でいえば俺たちのチームのほうが……。
「ハインド殿、さっき固まっていなかった? ダメじゃん! もっと動いて逃げてくれないと!」
「それを言うなら、トビさんのレブチアさんに対する追い込み方も最悪でしたよ。雑で」
「リィズはもっと体力をつけたほうがいいと思う。そもそもふたりに追いつけていなかった」
「……」
俺たちのチームのほうが……うん、なんでもない。
とにかく頑張ろう!




