初日の攻防 その7
そうやって育てたスキルを、恩人たちにぶつける俺。
うーん……我ながら、実にエキセントリック。
恩を仇で返す行い。
……後からスキルの効果が下がらないか? これって。
「ば、バフ差が……うおっ!」
「コヨーテェェェ!」
と、ともかく。
勢いに乗ったウチの騎士コンビは強い。
そして『ルクス・オブ・サーラ』の防御バフだが……。
効果時間が長い。べらぼうに長い。今からなら試合終了まで持つほどだ。
バフの効果時間が長いということは、更新の必要がなくなる。
MPの余裕ができる。
回復に専念できると、いいことづくめだ。
それを裏付けるように、戦況は一気に好転。
アヌビストリオは騎士コンビの攻撃に対し、カバーし合いながら三人でどうにか捌いている状況。
誰も俺を狙いに来られない。決着の時は近そうだ。
「はっはっはぁ! 無限のHPを得たぞぉ!」
「無限ではない」
「我に敵なし! ですっ!」
「無敵でもないってば」
俺の声が聞こえているのかいないのか。
勢いにというより調子に乗りまくっている。
ふたりの様子は、無敵状態で穴に落ちていくアクションゲームのキャラクターを想起させた。
普通、ここから負けることは考えられないのだが……。
なにかをやらかしそうな怖さがある。
「まだだ、まだ……」
相手側、アヌビスチームはHPを減らしながらも後退。
特にコヨーテさんのHPは0に限りなく近いが、それでも戦闘不能者を出さずに堪えている。
HP上では大差がついていても、勝負を投げている様子はない。
そして――。
「ここぉ!」
「!!」
攻めに必要なMPを溜めさせてしまった? それとも最後の特攻?
わからないが、不利な状況からの反転攻勢。
軽戦士としての機動性を最大限に活かし、分散して襲いかかってきた。
単純に速度が出ているのか、それとも走り抜けている角度が巧みなのか。
全員を目で追うのが大変になっている。
「ふんっ!」
ユーミルの『バーストエッジ』が発動。
外したらどうしようという気負いなし、これから大技を出すという予備動作もなしの一撃。
後先考えていないとも言えるが、結果的に回避が難しい高度な攻撃へと化けた。
だが……。
「おおああっ!」
「馬鹿なっ!?」
魔力爆発によるダメージを負いながらも、直撃は避けつつリカオンさんが食らいつく。
犬面が一部破損して、下から人間の目が覗いている。
俺が横目で認識できたのはそこまでで、ほとんど同時にリコリスちゃんのところへ……。
「――」
「ひええっ!」
瀕死とは思えない動きでコヨーテさんが迫る。
三人の中で最も口数の多い彼が、一切の声を漏らさず、一息の呼吸も入れないような怒涛の攻めを生み出している。
攻撃間隔が短すぎて、リコリスちゃんはカウンターを満足に発動できない。
カウンターなしでも触れさえすれば倒せるHPだが、それすらできない激しいラッシュだ。
継承スキルによる自己回復を捨て、MPを全て攻撃に回している。
そして俺のところには……。
「悪いなハインド。最低限の意地は通させてもらうぜ」
他の状況に気を取られていたせい、というのもきっとあるのだろう。
しかしそれ以上に、視認できないほどの速度で背後を取られた俺は。
そんな声が耳に届いた直後、一撃で意識を刈り取られたのだった。
視界が傾ぎ、観衆の声が遠のき、目の前が暗くなっていく。
…………。
……。
「反省」
フィリアちゃんに反省を促され、正座させられるユーミルとリコリスちゃん。
というか、促されるまでもなく体育座りをしてうつむいていたが。
改めて正座して、反省の態度を示す。
「ハインドを戦闘不能にしてしまった……」
「コヨコヨさんの気迫に押されました……HPミリだったのに……早く倒せばハインド先輩のところに行けたのに……」
めっちゃへこんでいる。
なんなら自分たちが負けた2対2のときよりも落ち込んでいる。
……一応、試合自体には勝ったのだから、もっと喜んでもいいと思うのだが。
「俺は?」
戦闘不能になった俺は反省しなくていいのかとフィリアちゃんに問いかけるが。
フィリアちゃんは首を横に振る。
「あれはハインドの反応速度を超えていたと思う。それにユーミル、リコリスの視界には入っていたはずだから……前衛の責任」
おお、フィリアちゃんが長文を……。
ちなみにあの後の試合展開は、残ったふたりがHPを大きく減らしつつも眼前の敵を撃破。
残ったリーダーのジャッカルさんを協力して倒し、無事勝利となった。
蘇生可能なスキルを持つプレイヤーが場にいなかったので、受付時間なしに舞台外に追い出された後は、俺も試合を観ることができたのだが。
ジャッカルさんは単独になってから、割と長い時間粘っていた。
ユーミルが集中力を欠いたままだったら、逆転負けも有り得たかもしれない。
ここにきてようやく上り調子になってきた感じだ。
リコリスちゃんは成長した分の定着を早く、といったところ。
以前よりはずっと頼もしくなったものの、まだ少し不安定さが残る。
「フィリア殿……! なんて頼もしい……!」
そしてすっかり勝ちたいマンになっているトビにとって、自分と近い視点で苦言を呈するフィリアちゃんは救いの神に見えたらしい。
らしいのだが、拝むな。平伏するな。
やるならせめて魔王ちゃん相手だけにしとけ。
アルベルトさんがなんとも言えない顔になっているぞ。
「次は私が出る」
と、フィリアちゃん。
そりゃ、別に構わないが。
先程出番を譲られたユーミル、フィリアちゃんも納得している。
なにより強いし、安定している。
彼女に自分から「出る」と言われれば、反対理由を探すほうが難しい。
「ハインドも出る」
「俺も!?」
「トビも出る」
「ウェイ!?」
しかしながら、彼女の要求はそこで終わらなかった。
なぜか野郎ふたりをご指名である。
「最後のひとりは挙手制。だめ?」
そして不意に編成権が俺に委ねられていることを思い出したのか、最後だけ疑問形になる。
この時点で前衛二、後衛一なので、誰を入れても問題はない。
他の面々に視線を流すと……。
「……では、私が」
未出場組の中からリィズが手を挙げる。
最初から手を挙げる気のないシエスタちゃん、それからセレーネさん、サイネリアちゃんが消極的だったのもあるだろうが……。
妙にリィズのフィリアちゃんを見る視線が鋭い。
胸元をぶつけるように接近していく。
スカッ、スカッ。
……うん。
「ハインドさんは渡しません」
「?」
……リィズ。
今回ばかりは言動がズレているような気がするぞ。
フィリアちゃんのほうも、意図がわからず首を傾げるばかりである。
そして舞台上へ。
今回の対戦相手は――
「俺らだぜ!」
――己を親指で示すスピーナさんと、女王様の信奉者たち。
すなわち、よく見るいつものカクタケアメンバーである。
パーティ構成は武闘家・気功型、重戦士・均等型、神官・支援型、弓術士・連射型だ。
弓術士のみ女性で、あとは男性といった構成。
「不死身の人」
フィリアちゃんのポツリとしたつぶやき。
それがしっかりと耳に届いたのか、スピーナさんが荒ぶりだす。
「違う! 違うぜぃ、そこ! 俺自身は、その二つ名認めてねえじゃんよ!」
またか。
スピーナさんは中二感あふれる呼び名が気に入らないらしく、不死身と言われる度に否定している。
しかしながら、いつもと違い口元には笑みが浮かんでいた。
これはもしかして……。
「またまたぁ。親分ってば、フィリアちゃんに認知されているのがわかって嬉しいくせに」
「そうそう」
「あれ照れ隠しよねぇ、絶対」
あ、やっぱり?
同じギルドの面々がそう言うなら、間違いないだろうなぁ。
「うっさいんだよぉ、お前ら! 少しは緊張感ってものをだなぁ――」
そうスピーナさんが言いかけた時だった。
当たり前だが、両チームが舞台上に揃えばスタートの合図が鳴る。
スムーズな大会進行のため、空気を読んで待ってくれるなんてことはない。
「斬る」
合図と同時、フィリアちゃんが敵チームに肉薄する。
こちらも空気など読まない。勝つために即行動。
狙いは定石通りに後衛メンバー……ではなく。
仲間にツッコミを入れるべく、こちらに背を向けているスピーナさんだ。
振りかぶった斧が無防備な背を無慈悲に斬りつける。
入った――そう思ったのは俺だけじゃないはず。
「いきなりきたぁ!? ――ぐへっ!」
しかし、スピーナさんは背を向けた状態から超反応。
身を投げ出すような動きで回避した。
苦悶の声は舞台の石畳にぶつかった際の声である。
「てか、来てるなら来てるって言えよ!」
「そのまま斬られたら面白いかなって」
「面白くねえ!」
「俺は親分のこと、信じていたからよ!」
「嘘つけ!」
「なんで無事なのよ。当たればいいのに」
「おぉい!?」
カクタケアの面々は今日も賑やかだ。
そして喋りながらも、さっさと迎撃態勢を整えている。
フィリアちゃんも追撃を控え、俺たちの前までバックステップで戻ってきた。
「……手強い」
「相変わらず変態的な回避力でござるな……」
回避が本職のトビにそう言われる時点でなにかがおかしい。
決して華麗とは言い難い内容だったが、ノーダメージには違いない。
これは長期戦になる予感……。




